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王国騎士団潜入捜査(上)

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変態、王国騎士団

表沙汰にはできない依頼を請け負う店、ダンプ・サイト。
怪しさ満点のその雰囲気の前には、誘いをすぐに受けることは躊躇ってしまう。
しかし、職に就きたい、さらに言えば金が欲しい。
と言うわけで、試用期間と言う事にしてもらい、お試しで依頼を受けることに。
右にいるのは、ダンプサイトに所属しているハゲでマッチョのマルコリーさん。
そして、左に居るのが大人なおねぇさんのダニエリーさん。

その二人の真ん中に居るのが絶賛、試用期間中の俺--ジェスターだ。
"王国騎士団内の不穏分子の調査と捕縛"という見ただけで胃が痛くなる字ずらの依頼を受けることになったんだが...。

「あのぉ、なんでこんな格好してるんすか?」
調査に必要だからとこの衣装を渡された時からもしやと思っていたが、この衣装はどっからどう見ても王国騎士団の制服。
白いスーツのような衣装に騎士団員が所持している剣がセットだ。
勿論、マルコニーさんは俺と同じ制服、ダニエリーさんは女性用の制服だ。
男性用と女性用では制服の形状に差はないようだ。

「そんなの決まってるだろう、調査するためだ」
「いやいや、調査って言ってもこんな制服を着て調査って言うと"潜入"って言葉が付きそうじゃないすっか?」
あれ?
てっきり"そんな訳ないよ"と言葉が来るかと思ったけど、二人はにこやかな笑顔を俺に向けてくる。
マジかよ。
てっきり聞き込みとか張り込みをするのかと思ってたけど、無言の笑みってことはそういうこと?

「潜入するの?」
同意の言葉は帰ってこない。
代わりに、目の前の大きな施設を指さす二人。

「いざ、騎士団っ!」
「いえーい!」
さっきまでは、怪しさ満点集団の一員かと思っていたけど、今や唯のバカな大人にしか見えない。

「と言うか、潜入のスキルとか知識とかないんすけど大丈夫っすかね? 見つかったらヤバいっすよね?」
「あぁ、見つかったらヤバいだろうな。特に、女隊長に見つかったら何されるか分からんだろうな...」
その女隊長とやらに嫌な思い出でもあるのか、顔を青くするマルコリーさん。

「騎士団って人数がかなり多いから、個人の顔や性格って把握しきれていないのよね。しかも、これから潜入するのは数十人規模の全体訓練の時間だからバレる心配はないと思うわよ」
まぁ、そんなに多いなら把握するのは難しいよなぁ。
取り敢えずは、その全体訓練とやらに潜入して、怪しい奴がいないのか探ればってとこかな。

「そんじゃ、騎士団様の訓練に潜入しますか」
俺達は目の前の建物--騎士団本部から全体訓練のため、敷地にぞろぞろと出てきた一団に紛れ込む。
と言っても、通路いっぱいに広がって移動していた為、脇道からひょいと流れに加わっただけだ。


「ジェスター、訓練では周りの奴に動きを合わせて居れば問題ない。俺達はバラけて全体を監視するぞ。撤退タイミングについてはこっちから合図を出す。とにかく、隊長クラスの奴には気付かれないようにな」
マルコリーさんが小声で注意点を教えてくれた。
「ジェスター君、頑張ってね!」
「うっす、先輩達も気を付けて」
打ち合わせもそこそこに、騎士団員の流れに沿って本部前に広がる訓練場に到着。
剣を振り回しても問題ない程度に距離を開けつつ、敷地全体に広がっていく。

マルコリーさん達を何とか視界内に捉えられる位置に立つ。
暫くすると、数人の男女が敷地内に姿を現す。

先陣を切るのが長い金髪を後ろで止めているのか馬の尻尾のように揺らしながら歩く女性。
年齢的に、ダニエリーさんの少し年下のような幼さが僅かに残る顔立ち。
しかし、キリっと釣りあがった目は彼女の意志の強さを表している。
腰に差す剣も、団員たちの物とは違い、細かな装飾が施された一見、芸術品のようにも見える物であり、彼女の地位の高さが伺える。もしかして、あの人がマルコリーさんが言っていた"女隊長"か?
確かにあの人は冗談が通じなさそうだ、気を付けなけなければ。

彼女の後ろには寝起きなのかあくびを噛み締めながら、ゆっくりと歩いている。
如何にもやる気がなさそうな彼だが、その腰に差す剣は女隊長らしき人と同じ物。
つまりは、相応の地位にいることになる。
あぁいう人が一番の曲者だったりするからなぁ。
それに、もう一人のイケメンも同じ地位なのだろう。
要注意人物が3人か...。

俺が思考を巡らせていると、団員達に向けての挨拶が始まった。
「これより、鍛錬を開始する。決して手を抜くな、気を抜くな。すべての力を一振りに込めろ」
「はいっ!」
綺麗にそろえられた声が目も覚めるような轟音となって辺りに響いていく。
その渦中にいた俺の体全体に音と言うより、体内部に衝撃が走ったような錯覚を覚えた。
マジで、近所迷惑じゃねぇのかな、これ。

「素振り10000回...はじめっ!」
始まった。
取り敢えずは、隣の奴を参考に腰の剣を抜いて適当に素振りしていく。
女隊長が言ったように、一振り一振りを全力で行っているようで、空気を切り裂く音が周りからうるさい位に聞こえてくる。
というか、かなりうるさい。
ぶんぶんぶんぶんとうるさすぎて集中できなくないか?
と思って、隣の男を見ると、必死の形相で一心不乱に振っていた。
騎士団員ぱねぇー。

と言うかヤバイ。
俺だけ、ぶんぶんしてないから浮きまくっている。
その証拠に、例の女隊長が鋭い目つきで俺を睨んできた。

「はぁっ! でりゃぁっ! ふりゃぁっ!」
ワザとらしい位に声を上げて素振りをする。
お願い、こっち見ないで隊長さぁん!

どうやら俺のお願いは聞き届けてくれなかったようで、ゆっくりと歩きながらこっちに近づいてくる。
ダニエリーさん! 助けて!
俺の視線に気づいたのか、こっちを振り向きウインクを一つ。
違うっそうじゃない!

助けてマルコリーさん!
俺の視線に気づいたのか、こっちを振り向きウインクを一つ。
気持ち悪いわっ!

まぁ、どうやっても助けが来ることはないだろうなぁ。
となると、ここは俺の手腕を見せつけて上げようではありませんか。

と言ってもやることは簡単、一心不乱に素振りをするだけ。
流石に遠ざかったかなと思い、視線を女隊長さんにチラッと向けると目が合った。
と言うか、かなり近い。

あ、ダメだこれ。
完全に俺がロックオンされてるわ。
だって、視線を俺に向けたままスタスタと歩いてきてるもん。
獲物を捕らえてタイミングを見定めている最中だもんアレ!

「ねぇ、アナタ」
聞こえない。
聞きたくない。

「ねぇ、アナタ。聞こえてるでしょ?」
俺は騎士団員。

「次、無視したら刺します」
「はい、何か御用でありますか?」
刺されるのは勘弁。
直ぐに素振りを中止し、素早く敬礼。
勿論、女隊長をいや待っているとかではなく、顔を隠すため。
流石に、団員全員の顔は把握していないと思うけど、念には念を入れておく。
序盤の素振りをサボっていたから注意に来たのか?

「貴方、見ない顔ね」
早速、バレそうなんですけどぉぉぉぉ!
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