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幸せな二人
恋愛の秋…やり直しのキス
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「お疲れ様です」
「岡本くんお疲れ様、明日からお休みだっけ、また、文化祭開けにね」
「はい、お疲れ様でした」
バイト終わりの、夕方季節は秋に差し掛かり、日も落ちるのが早くなってきた。11月になり、肌寒くなって秋をより感じる季節。
文化祭があるためバイトを一週間程休みにしてもらうことを話し、香奈美先輩から了承してもらった。
佐藤先輩はあれから俺達に関わろうとしなくなった。香奈美先輩にカメラを見て欲しいと頼んでいた俺の作戦が通じて、お客様の前での大失態が佐藤先輩によるものだと香奈美先輩に理解してもらい、佐藤先輩は店長からもきついお叱りを受けた様だ。
慌てて着替えを済まして、バイト先を出ると、
俺を待つ小さいシルエットがすぐに目に入った。
「おそーい!」
「ごめん、ごめん!」
「チューしてくれるまで許さないんだから」
俺に対して怒っている小さな可愛い声の主は頬を膨らませ俺にキスをせがんでくる。
誰もいないか確認だけして、小さな可愛い唇にキスをする。
「しょうがないから、許してあげましょう」
「ありがとうございます」
可愛い小悪魔の碧はご機嫌を直してくれたようだ。
夏休み明けから数ヶ月経ち、小林元気君の頑張りがあり、碧への虐めはなくなった。虐めがなくなったからといって、今更、クラスに馴染めるわけもなく、教室では未だに独りぼっちで過ごしているらしい。
小林君は碧を虐めてる二人に会いに行き、碧に告白したのは罰ゲームで、本気じゃないから虐めないで欲しいと頼み込んだらしい。
二人は小林君の連絡先を交換するという条件で虐めをやめたらしい。
小林君様様だ。
昼食は、大輔と俺と碧の三人で今は食べている。
最初は警戒モード全開だった大輔への態度も段々と柔らかいものに変わりつつあった。大輔も碧の事を今では、梅さんと呼んでいる。
体育祭も終わり、
10月24日の誕生日には、
碧から手作りのプレゼントを貰った。
お揃いのミサンガだった。
お互い願いごとを込めて、今は足首に巻きついている。色はもちろん、赤色だった。
理由は話さない方がいいだろう。
貰った時と色がだいぶ違う事が確信をついていた。
そんなこんなで文化祭の季節だ!
碧はクラスの出し物には参加しないらしく俺と行動する予約を入れていた。
大輔は早瀬先輩次第だろう。
文化祭も迫る中。
碧と俺は仲良く放課後を共に過ごしていた。
「栗、南瓜、栗、南瓜、たまには団栗」
碧が嬉しそうに何かを呟いている。
「なにその呪文?」
「秋といえばがテーマの俳句の季語を考えてるの!栗と南瓜と団栗しか思い浮かばない、あとお芋」
「ふうん、そういえばそんな宿題あったな…碧は食いしん坊だな」
「食いしん坊じゃないもん!食欲の秋だからいいの!明日までに考えないといけないからゆうちゃんも手伝って!ご褒美は弾むよ」
「ご褒美楽しみだな」
最近の碧は昔より明るくて、元気な気がする。
それがいい事なのは分かってるし、分からなきゃいけない。
だけど、心の何処かで碧が変わっていく事を拒んでる俺がいた。
『碧が俺を必要としなくなったら…』
その不安が最近は大きくなりつつあった。
碧に対する独占欲に飲み込まれそうになる。
俺は最低なのかもしれない…。
そんな事を考えながら歩いていると、
俺たちの思い出の公園の前に差し掛かった。
「あっ!ゆうちゃん、見て!団栗落ちてた!」
団栗を見つけて子供みたいにはしゃぐ碧を見ると、
今の俺の好きが偽りの好きじゃない事を強く感じて今すぐ碧を独り占めしたくなる。
自転車を止めて、しばらく碧に付き合う。
「ゆうちゃん、団栗に顔描いて見た!碧いみたいでしょ」
いつの間にか、団栗にペンで顔を書いていた碧が俺の手に団栗を、落とす。
確かに、碧が団栗に与えた顔は碧みたいに可愛い顔をしていた。
「可愛い顔してるな」
俺は碧が喜ぶと思ってそう言ったのに、碧は何故だか怒り始める。
「ゆうちゃんの浮気者!!!碧以外に可愛いは禁止!!!」
そうくるか!さすが碧様どこで怒るか分からない…
俺は碧の怒りを鎮めるためなら手段は選ばない。
「碧!!!こっちに大きい団栗あったよ」
「どこっ?」
怒っていたのを忘れているかのように俺の元に走り寄ってくる碧、
わざわざ罠にはまりにくるなんて、俺は思わず不敵な笑みを浮かべる。
「ゆうちゃん、団栗どこ?」
俺の数センチ前まで走ってきて目の前に迫った碧を抱き寄せる。
「ゆうちゃん!?」
「団栗は嘘、団栗より俺を見て欲しいんだけど…団栗より、俺のことを考えてよ」
「ゆうちゃん、団栗に嫉妬してるの?」
「俺の事一人にした碧にお仕置きしないとな」
戸惑う碧の顔が可愛いくて意地悪したくなる。
「ゆうちゃん、恥ずかしいよ」
碧は恥ずかしがって身を捩る。
「誰かに見られちゃうよ…」
「昔ここでキスしたよな」
「ファーストキスだったね、歯が当たって痛かったよ、でもね、碧とっても嬉しかった」
「俺も、嬉しかった、じゃあファーストキスのやり直ししよう」
碧は俺に抱きしめられながら、ぽかんと口を開けていた。
頬はほんのり赤く染まり、俺はそんな碧が愛しくて仕方がない。あの時は偽物だったキス、今は本物のキスを届けたい。
碧はまだぽかんとしていたが、俺は構わず碧の可愛いらしい唇にキスをする。
「ん、っ…」
わずかに開いていた唇の間に舌を入れ、碧の可愛い舌を探す。
碧は俺にしがみ付いてただそれに応えていた。
俺はそれが嬉しかった。
二人が唇を離すと、離れたくないと言わんばかりに唾液が糸を引いた。
「やり直し完了」
「ゆうちゃんのえっち!」
そう言う碧は言葉と裏腹に抱きついたままだった。
そんな碧を見たからか俺は自分でもまだ言わないつもりだった言葉を口にしていた。
「碧?今は碧のこと本当に好き…だから、離れたくない」
「ゆうちゃん?」
しまった、なにを言ってるんだ。
取り返しがつかないこの状況に碧はなにを思ってるのか不安で、あの時みたいに碧の顔を見れずにいた。本当にファーストキスをした日みたいだ。
恐る恐る碧の顔を見ると、あの時と同じように頬を染めた碧がそこにいた。
あの日と違ったのは碧の目からは涙が溢れていた。
「ゆうちゃん、碧知ってたよ…」
「ん、?」
「ゆうちゃんが碧のためにキスしたんじゃない事も好きじゃない事も全部分かってたよ」
俺は驚く、
わたしは驚く
『お互いの初めて知る気持ちに、あの日のことを』
「ゆうちゃんに無理矢理愛を押し付けたの、嘘でも愛して欲しくて…っ…」
『全部分かってたよ…最初からお互い嘘だって、気づいてた、あの日から始まった恋愛ごっこ』
「そんな、碧にゆうちゃんは嘘でも愛をくれたっ…お願いすればいくらでも…」
『碧の涙は今までの偽りの愛の分流れていくみたいだった。』
「碧が無理してるのも知ってた…でも知らず知らずに碧の事を好きになってた、言うつもりはなかったんだ…でも、抑えきれなくなった。」
「碧だって、気付いたんだ、ゆうちゃんに縋ってただけの愛が、だんだん本物になっていくのに気づいて、もしこの事をゆうちゃんに言ったら嫌わたらなんて…怖かったんだ」
「俺も、最近の碧は俺なんか要らないくらい活き活きしてて、俺の事必要じゃなくなったら…って」
『いつの間にか同じ気持ちだったんだ』
「やり直ししよもう一回!」
「うん」
『最初からやり直そう本当の愛を伝え合うんだ』
『ごっこじゃない本物の恋愛を』
「祐一郎くん、碧と付き合ってください」
「 碧ちゃん俺と付き合ってください」
『よろしくお願いします』
俺たちは、本物ファーストキスをした。
これからは本物の恋愛を碧とするんだ。
公園だと言う事を忘れてキスに没頭していると、
通りかかった人の声を聞き慌てて唇を離した。
「ゆうちゃんのえっち!」
いつもみたいに碧が笑った。
「碧、が可愛いから」
俺もいつも通りの返しをする。
これからはこうやって愛し合える。
団栗をいくつかポケットに入れて、公園をでる。
「ゆうちゃんそれ、どうするの?」
「たまに団栗から虫が出てくるから、大輔の机に入れて虫が出てくるか観察する」
「柏崎くん、ゆうちゃんから団栗プレゼントして貰えるのはずるい」
悪意のこもったプレゼントなんだけどな、
碧いには嫉妬の対象なのだろう。
碧は顔付きの団栗を持ち帰ろうとポケットに入れていた。愛着が湧いたのだろうか。
「ゆうちゃん、碧団栗あげる!虫が出てくるか一緒に観察しよ、柏崎くんだけ楽しむのはずるい!」
碧さん、プレゼント交換じゃないんだよ。
まあ碧が喜ぶならいいやと、思い直し碧の案に賛成した。
碧の髪を撫でる。サラサラしてて気持ちいい。
そんな俺を急に心配そうに見上げ碧が可愛い唇を動かした。
「ゆうちゃん、ゆうちゃんのお部屋に盗聴器とカメラ付けてあるから、浮気はできないよ…」
「えっ?」
なんでそんなものまで
俺は愛されてるな…本当に
今更驚くこともないから浮気はしないと宣言した。
盗聴とか盗撮は今更されてない方がおかしいと思った方が早い。
「ゆうちゃんのお部屋の二段目のタンスにある赤い靴下穴があいてるよ、昨日言わなきゃいけなかったのに忘れててごめんね」
もうどうにでもして下さい。
可愛いとしか思えない俺も壊れてるのかもしれない。
「それとさ、その靴下なんだけど碧にくれない?」
穴が空いた靴下に魅力があるのか、それとも俺が履いた後の靴下が魅力的なのか、もちろん後者なのは聞かなくても分かっているから聞かない。
「あげてもいいけど、何に使うの?」
「付き合った記念日プレゼントに欲しい、あの靴下ねゆうちゃんと再会した日にゆうちゃんが履いてたから運命を感じてるの、それに欲しいものがゆうちゃん以外浮かばないからせっかくだから貰おうかなって」
「わかった!明日持って行くから」
「わぁい、あっ今日電話していい?ネタバラシしたいから」
靴下を貰える喜びと何かを企んでにやついている碧と学校近くまで歩いて別れる。
碧と離れるのは寂しい。
いつからこんなに好きになってたのか、不思議だ。
自転車に跨り、家まで走る。
家に着き自転車をしまうと珍しい車が車庫を占領していた。
「ただいま」
玄関には、珍しい靴が二足。
男性用の革靴と女性用のピンクのパンプス。
父さんはまだ帰らないはずだし母さんが履くにはお洒落すぎるし、だとしたら答えは一つだ。
リビングに入ると。答え合わせは済んだ。
「おかえり、祐一郎」
「ただいま兄さん、久しぶりだね、あっこんばんわ、梨花さん」
「祐一郎くん大きくなったね、お邪魔してます」
兄さんが奥さんを連れて帰ってきていた。
二人は去年結婚したばかり、世間的には結婚する年齢には早いが、反対していた父さんも兄さんの熱意に負け結婚を許し、梨花さんは今妊娠している。
「祐一郎、おかえり、お父さんも今日は二人に会いたいから早く戻ってくるって、夕飯は豪華にしなきゃね」
何やら母さんは嬉しそうだ。
「お義母さんわたしも手伝います」
梨花さんは母さんと台所に消えて言った。
昔から気の利く良い子だと俺の両親は言っていた。
兄さんは一見冷たいけど梨花さんのことは大切にしているのが伝わってくる。
梨花さんを見守る目は温かいものだった。
「去年のお盆以来だな、正月は仕事で帰れなかったし、今年もお盆は忙しくて時期ずらしたからさ、元気そうで良かったよ」
「兄さんも元気そうだね」
「高校楽しいか?」
「うん」
リビングの椅子に座り、着替えもせずに
兄さんと久しぶりの会話を楽しむ。
「祐一郎、お前彼女いるのか?」
兄さんが冗談交じりに聞いてきた。
「いるよ、それで今日付き合い直してきた」
「何だよ、それ」
「今日改めて付き合うことになった」
「意味わかんねーし、お前奥手そうに見えてそうじゃねーのな」
「兄さんも奥手に見える」
「俺は奥手じゃねーよ、狼だ」
「なんだよそれ、」
「まあ、梨花専門になっちまったけどな」
兄さんは昔からすごく女の子達から人気があった。
顔立ちもいいし、性格もいい、運動や勉強もできた。そんな兄さんは高校にあがり、友達との喧嘩で、友達に怪我を負わせたことがきっかけで、今までの兄さんとは別人のようになった、高校の時は話しかけるのが怖いくらいだった。
兄さんはいわゆる不良になった。
校則違反なんて当たり前だった。
思い返すとあの頃の兄さんは、
日本人とは思えない髪の毛の色をしていた。
家でも毎日親子喧嘩の範囲に収まらないような暴れっぷりで、俺はそんな兄さんみたいにはなりたくないと思っていた。
高校二年の三学期、退学の話が上がっていた兄さんを変えたのが、兄さんのクラス委員をしていた。梨花さんだった。
梨花さんは兄さんとは住む世界の違う、大人しくて、はっきり言ってしまえば地味な生徒だった。
兄さんは梨花さんを疎ましく思
っていたが、自分のために尽くしてくれる梨花さんに惹かれ付き合い始めた。梨花さんのために黒髪に戻し、たくさん着けていたピアスも着けなくなった。
短大に通い、資格を得た兄さんは、機械を扱う工場で働き始め、梨花さんと結婚を決意し、今に至る。
梨花さんがいなければ、兄さんは変わらなかったかもしれない…。
たった一人の女性がここまで一人の人生を変えるなんてすごいことのように感じる。
僕の目の前の兄さんは今、幸せを手にして幸せそうだった。
梨花さんも幸せそうだ。
俺もいつか、碧を幸せにしてやりたい。
本当の幸せを、教えてあげたいんだ。
「健二くんちょっと手伝って!」
梨花さんの声に兄さんは立ち上がり台所に向かって行った。
「祐一郎、着替えてきたら?そろそろ夕飯になるから、早く来いよ」
「うん」
俺は二階にあがり着替え始めた。
制服を脱いでパンツ一枚になった時。
床にあるズボンのポケットの携帯が振動した。
メッセージ受信一件
碧からだった。
『ゆうちゃんのパンツ、今日は青のチェック可愛いね』
あっそうだった、盗撮されてるんだった。
一体、いつから盗撮なんてしかも盗聴も…。
毎日俺は碧にパンツを見せつけてたのか、知らなかったとはいえ露出狂に近い。
慌ててズボンを履き、碧にメッセージを返そうと携帯を握った時、
ブーっ
また震度した携帯を見る。
『ゆうちゃん大丈夫、パンツの中身も見たことあるから!安心してね!』
……。
言葉を失い、思わず携帯を落とした。
一体、いつから見られてたんだ…俺の全てを。
大丈夫、安心してねの意味がわからない。
だが、碧を責める気は全くない。
気を取り直し、携帯を握り返信を送る。
「碧さんのエッチ!」
女の子みたいな言葉に俺の感情の全てを託して送った。
ブーっブーっブーっ
今度は何だよ、裸を見られた事がこんなにも喪失感があるなんて思わなかった。
まるで女の子になったみたいだ。
今度はエッチな碧さんからの着信だった。
「もしもし」
「あ、ゆうちゃん、今日もパンツ姿ありがとうございます!エッチな碧さんです!今日は誰か来てるの?いつもならもっと早くゆうちゃんの生着替えを見れるのに」
* わたしはゆうちゃんをからかった。
ゆうちゃんはまだ気づいてないが、ゆうちゃんが探している盗撮カメラは勉強机の上にあるロボットのフィギュアの足の上に一体化して、わたしにし分からない。ゆうちゃんは、視力があんまり良くないから多分気づかないはず。
学校では、コンタクトだけどお風呂上りはわたししか知らない眼鏡姿だ。
眼鏡姿もまたまたかっこいいのがゆうちゃんのずるいところだ。
「碧、俺の着替え見て徳はあるのかよ、今日は兄さんと兄さんの奥さんが来てる」
ゆうちゃんと同じ空間で血の繋がりのない女が息を吸い合うのは嫌だった。
学校でさえ嫌なのに家でなんてもっと嫌だ。
それに、その奥様とやらは毎年来ている。
ゆうちゃんが吐いた息を吸うのはわたしだけがいいのに…。
「ゆうちゃん、今日は一人の時以外あんまり息しないでね…」
「わかった」
ゆうちゃんは理由も聞かずに納得してくれる。
少しだけわたしにも安心感がやってくる。
携帯越しにゆうちゃんの柔らかい声が耳に届く。
しばらく他愛も無い会話を楽しんだ。
「碧?愛してるよ」
「うん、愛してるよ」
ピッと電話を切り左腕に目をやる。
最近はカッターで腕を切る回数も減って来た。
時々あの人たちを思い出した時に切るくらいだ。
ゆうちゃんが、わたしに安心感をくれている。
あの人達を忘れられるくらいの…。
たまに友愛の夢を見る。
可愛がられ、沢山の愛を注がれる友愛。
今思えば、新しい父親の事はよく知らない。
何をしてる人かも、何歳かも…。
経済的には裕福だから、家の外では良い人なのかもしれない…。
まあ今はそんな事はどうでもいい、
ゆうちゃんがくれる愛が一番だ。
鞄の中から、虐めの後が酷く残る教科書に混じった小さいノートを取り出す。これは、祐一郎にもまだ見せていないものだ。
『ゆうちゃんノート』
これは、ゆうちゃんの一日を簡易的に記録してるものだった。
『今日は、岡本家に兄夫婦が帰省している』
特別に付け足した。
さて、明日のゆうちゃんはどんな愛をくれるのだろう。楽しみで?が緩む。
**私は探していた。彼を愛していた彼を
ある日突然終わりを迎えた愛を私は諦めきれなかった。
あんなに愛してくれたのに、最後はまるで使い古した玩具に飽きたようにに私を棄てて…。
あの人が、変わったのは、八年程前…
付き合って十年も経った私達はいよいよ結婚の話も浮かび愛に満ちた未来を描いていた。
あの人はIT企業に勤めていて、いつかは田舎に引っ越して、本社とパソコンでやり取りする自宅ワークに切り替えたいと話していた。
とある日から彼は帰りが遅くなると連絡をするようになった。付き合って同棲を始めてから初めてのことだった。
私の中で何か嫌な予感がしていた。
その予感が確信に変わったのはそんな生活が半年程した時だった。
シャツに付いた口紅、ほんのり香ると香水、
私の知らない誰と会ってるの…?
私はもう必要ないの…?
そんな事が立て続けにあり、耐えられなくなった私は問いただしたこともあった。
そんな私にあの人は最初は誤魔化すように優しくキスをし、抱いてくれた。
でも、私に注がれていた愛が私の知らない誰かに移り始めると、誤魔化しもなくなり、だんだん冷たい瞳を向けるようなった。
私への愛が無くなったその時、あの人は今までの何もかもが無かったというように、私の前から姿を消した。
私は待っていた、それでもあの人を…。
あれから八年、彼をやっと見つけた…
今度こそは逃がさない…
私の愛は歪み始めていた。
手段は選ばない、あの人を取り戻す為に…。
きごうピピッピピっ …カチっ!
「ふぁああ」
時刻は7時、目覚ましを止め着替え始める。
普段から寝癖のつきやすい髪は今日も絶好調の乱れ具合だった。
何処にあるか分からないカメラを気にしつつ、着替える。
長袖一枚では寒く感じる季節だけど、重ね着はあまり好きじゃないからカーディガンは着ない、ネクタイを締めて、一階に降りる。
「おはよう」
一階には兄さん夫婦も合わせ五人が勢ぞろいした。
今日の朝ご飯は豪華だった。
ご飯、味噌汁、お漬物、目玉焼き、ポテトサラダ、
まだまだちょっとした惣菜が並んでいた。
「母さん、お茶欲しいな、」
「はい、お父さんどうぞっ」
いつも通り朝ご飯を食べて歯磨きをして
学校に向かう。
これが俺の一日の始まりだ、
俺はまだこの生活を毎日記録されてる事は知らなかった。
学校に着くといつも通り大輔と話をして昼は碧も加わり三人になる。
今日は普段と違い、昨日収穫した団栗を大輔の机に忍ばせた。
虫が出てくるか実験スタート。
リアクションが楽しみで、不敵な笑みを浮かべてしまう。
今日も昼になり、珍しく三人とも焼きそばパンを手に話を始めた。
三人が同じものを食べるのは新鮮だった。
「梅さんのクラスは準備進んでる?俺達のクラスは展示だけだから、紙に写真をただ貼るだけで面白くないんだよな、なっ祐一郎?」
「ん」
「わたし、準備手伝ってないから知らない!」
「そうきましたか」
大輔は文化祭が楽しみで毎日この話をしている。
碧も俺も、あまり学校行事に興味はないから大輔ほど盛り上がらない。
文化祭の準備と偽りバイトを休んでいる俺の方が大輔より盛り上がらないといけないのはわかってるけれど、そんな事より碧と二人でいた方が楽しいからしょうがないだろう。
「あっ、柏崎君は彼女さんと文化祭回れるの?」
「そうだった!言ってなかったな、なんと!一緒に回れることになりました!」
「よかったじゃん」
大輔のテンションの上がりように驚いていたのは俺だけじゃなかったようだ。
碧も大輔をぽかんと見つめていた。
「二人が背中を押してくれたからだよ、ありがとな!俺がいないからってあんまりイチャイチャすんなよな!俺達だってお前らよりラブラブしてやるんだからな!」
「がんばれ」「頑張ってね」
俺と碧が大輔の恋を応援したのは同時だった。
俺たちの顔を見比べ大輔の眉間に皺が寄る。
「お前らなんかいつもに増して仲良くねーか?なんか悔しいんだけど」
「いつも通りだけど…ね!」
碧が俺を見て微笑む。
可愛い…。
なんて思いながらも、大輔にも分かるくらい俺たちの心が通じ合ってる気がして嬉しくて頬が緩んだ。
「なんだよ、祐一郎!にやにやしやがって、梅さんも幸せそうだしよ、なんかあったなお前ら!」
「何にもないよね、祐一郎くん」
「おう」
「いや、絶対なんかあったな!…もしかしてお前ら…!!!一線を…」
「柏崎くんの想像以上かもね!」
勝手なことを想像して顔を赤くする大輔に碧がとどめを刺す。
何故、純粋な大輔をそこまで痛めつけるのか…。
大輔はきっと本気にするだろう。
キーンコーンカーン…
大輔が、言葉を失い口をパクパクさせていると、チャイムが鳴り、俺達は解散した。
まあ面倒臭いからいちいち訂正はしないけど…。
五時限目国語の授業中も後ろの席の大輔から怪しい視線が送られていた。
そんなに純粋な大輔の心に深く刺さったのだろうか。大輔は何やら考え込んでいるようだった。
「皆、昨日配った古文のプリントだせよ」
国語の斎藤先生の声で生徒達は机の中からプリントを出したり、優秀な生徒はすでに準備していたプリントを広げたり、あちこちで物音がし始める。
ガサガサという音に混じり、俺の後ろの席からはカラカラカラッという可愛らしい音が聞こえた。
「柏崎!お前なんで机に団栗入れてるんだ、集めてるのか?」
「いや、先生マジで俺知らないっす!誰だよ団栗俺んとこ入れたの…もしかして俺のファンか!?」
「お前のファンなんているわけねーだろ、早く拾えよ」
先生と大輔のやり取りで教室には笑い声が響く。
ファンではなく、俺が入れたんだけど…。
虫が出てくるか観察するより面白い結果になってよかった。
授業が終わると、大輔に団栗を入れたファンの正体を告げた。
「大輔…お前の机に団栗を入れたのは俺だ!お前のファン一号として認めてくれ」
「やっぱり祐一郎かよ!マジでびっくりしたんだからな!」
「本当は、団栗から虫が出てきたら大輔どんな反応するかなと思って入れてみた!」
「ひでーな!」
「碧も共犯だからな」
「梅さんもかよ、じゃあ競争しよーぜ!誰の団栗から一番に虫が出てくるか、一番最初に出たら勝ちな!」
「やってみるか」
団栗、虫というワードだけではしゃぐ大輔は馬鹿だなと思っていると大輔が急に真剣な顔になり、
俺に話があると言ってきた。
「話っつうよりもさ、相談かな、お前と梅さんものこと聞いたらさちょっとな」
「なんだよ急に」
「今じゃ時間足りないから放課後話そーぜ!」
俺と碧のことってなんだろ…。
碧を好きになったとかじゃないだろうな…。
大輔は早瀬さんしか見てないからそれはないか…。
なんだろ…。
六限目の数学は全然頭に入ってこなかった。
放課後は文化祭準備に向けて皆一心に仕事に打ち込んでいた。と言っても俺たちのクラスはほとんどやる事ないから半数以上の生徒は教室から姿を消していた。
俺は大輔と校舎裏に来て話をしていた。
碧はここには居ないが図書室で借りたい本があるから話が終わったら連絡して待ち合わせする約束をしている。
大輔は校舎裏に着いてから五分程黙っていたが、重たい口を開いた。
「あのさ…こんな事恥ずかしいから言いにくいんだけど、梅さんとどうだったんだよ…」
「は?」
「だから、梅さんとの初めてはどんなだったんだよ!」
「ん???!!!」
初めてって何の事だろうと考えていたら、昼に碧が大輔に言ったことを思い出した。
まさか、本気にしてるのか…
だけどそれを聞いてどうするんだ?
「大輔、言っておくが俺そういう事してないからな!第一そんな事聞いてどうすんだよ」
俺の言葉を聞き恥ずかしそうに顔を赤らめている大輔は思いきって口を開いた。
「夏美先輩に言われたんだ、キッキスしようって、だけど俺緊張し過ぎて出来なくてさ、夏美先輩は笑ってたけどさ男として情けなくてさ、だから祐一郎は初めてのキスはどうだったのか聞きたかったんだよ、恥ずかしいぜ」
聞いてるこっちも恥ずかしくなってくる。
だけど、大輔の表情は真剣だった。
「俺の初めてのキスは怒り任せだったからさ、つい昨日やり直ししたんだ」
「何だよそれ」
「んー、話すのは難しい、まああれだ、そんなに考えずにすればいいんじゃないか」
「出来るかな…」
「早瀬さんから持ち出した話ならいつでもオッケイって事だろ」
冴えない表情の大輔だったが、俺の言葉を聞き段々いつもの大輔に戻ってきた。
「悪いな祐一郎付き合わせて、何だか自身出て来たわ!俺の中の狼が疼くぜ!俺部活行くわ」
「なんだよ、それ おう、じゃあな」
昨日兄さんも狼とか言ってたな、まあ大輔がいいならそれでいいか。
大輔と別れた俺は図書室に急いだ。
新しいシューズに書かれた『梅原』の文字を見つけ入室する。
碧のシューズは二学期になくなってから見つからなくて、新しいのをバイト代で買ったと話していた。
「ゆうちゃん、こっちだよ」
図書室を見回して碧を探していると可愛らしい声に呼ばれて振り向く。
図書室に備え付けてあるパソコンの前に声の主の碧はいた。
今日は髪を二つに結んでいてそれはまた可愛いさが際立つ。
碧の隣に腰を下ろすと碧は俺に真っ白な封筒を見せて来た。
『梅原碧様』
と書かれた封筒の裏には
『赤羽 頼子』と差出人が書かれていた。
「碧にお手紙来たんだけど、知らない人なんだよね…内容も碧には関係ないし」
碧は不思議そうに首を傾げて俺に手紙を渡してきた。読んでみてと催促され書かれた文字に目を向ける。二枚に渡る手紙は確かに碧のことはよく知らない人だという事が伺えた。
『はじめまして、赤羽頼子と申します
こうして、手紙を書いていると沢山の思い出が溢れて来て涙が溢れます。
私の幸せが崩れ落ちたあの日、碧さんはどんな気持ちで過ごされていたのでしょうか?
碧さんにとって新しいお父さんは、どんな存在でしょうか?
私にはあの人が必要です、私はあなたの母親を憎んでいます。
あなたの母親さえ居なければ私はあの人と結婚して、今頃あの人の隣で幸せに微笑んで居たかもしれません…。
私はあの人を探して居ます、八年間も、そして貴方に辿り着きました。
そして、あの人にも…。
私はあの人を尋ねようとしました。
あの人を知れば知る程胸が締め付けられて苦しくなりました。
私は知りました。あの人が結婚したことを…。
赤ちゃんが産まれたことを。
夏休みで貴方が帰省したことも知っています。
私は驚きました。優しかったあの人が貴方に暴力を振るう様を見て…。
貴方の母親が貴方に暴力を振るう度にあの人も同じ様に暴力を振るっていた。
貴方の母親があの人を変えたのです。
あの女さえ居なければ…。
あの女さえ居なければ、赤ちゃんを抱いていたのは私だったかも知れない。
私は許せないのです。貴方の母親を…。
貴方はいずれあの女を殺すでしょう…。
貴方があの女を殺さないのなら私が殺します。
貴方と私は似ている気がする』
最後に…私は今とっても幸せです。
貴方は今幸せですか?
赤羽頼子
と書かれていた。
手紙から顔を上げると碧は不思議そうな顔で俺を見つめていた。
「碧に何か関係あるのかな…?」
「んー、どうだろうね」
普通からしたら、脅迫の様な手紙に慌てるところだが、碧は平然としていた。
「あの人達の事なんて碧には関係ないのに…この人は新しいお父さんの事そんなに好きなんだね」
「そうかもな」
「碧は友愛が一番嫌い…」
突然碧の口から零れた言葉に戸惑う。
碧は何を今考えてるのだろう…。
碧の表情はどこか寂しげで
近くにいるのに遠く感じてしまう。
手を伸ばしても届かない様な気がした。
「碧にはゆうちゃんがいればいいから…」
この日の碧が俺に呟いた言葉の意味を
俺は気付かないふりをした
『ゆうちゃんがいればいいから…』
『あの人たちが消えても構わない』
そう聞こえていた。
わたしを見るゆうちゃんの目は明らかに心配していた。
あの手紙を読んでわたしが不安になってないか気にしてるんだろう。
わたしは何故この手紙をわたしに贈ったのかは分からないが、この人は本気で母親を殺すつもりなのだろうか…。
わたしには関係ない。
『ゆうちゃんがいればいいから…』
ゆうちゃんがいればあの人達は必要なかった。
だから、母親がどうなろうが知らない。
今のわたしは幸せだ
それだけでいい
心配そうにこちらを見つめる祐一郎が愛おしい。
私は徐に、手紙を破き近くのゴミ箱に入れた。
祐一郎は何も言わずにそれを見ていた。
ゴミ箱に入ったそれがを見ると気持ちがスッキリする。
わたしにあの人達は必要ない。
ゆうちゃんとわたしは図書室を出ると手を繋いで歩き出した。ゆうちゃんの手から伝わる体温が愛おしい。
「ねえ、ゆうちゃん?柏崎君とは何話してきたの?結構長かったよね」
「恋愛相談だった」
「ふうん、彼女と上手くいってないの?」
「んー、好きすぎて空回してる感じ」
「柏崎君一生懸命だよね」
「まあな」
碧から大輔の名前が出る度に小さな嫉妬が生まれていった。
靴箱で革靴に履き替えると我慢しきれなくなった嫉妬を碧にぶつける。
誰もいない靴箱で碧の手首を掴み引き寄せキスをする。
「ゆうちゃん?怒ってるの?」
「うん…」
「どして…?」
「碧が大輔の話ばっかりするから嫉妬してる…」
自分でも馬鹿らしい事を言っているのは分かってるし恥ずかしいけど碧は俺のことを馬鹿にしたりはしない。
むしろ、嬉しそうに目を細めていた。
「ゆうちゃんもっと嫉妬して…もっとキスしてよ」
碧のおねだりに応えるようにキスを繰り返した。
甘いキスの余韻に浸りながら顔を離す。
頬を染め俺を見つめる碧を見てると理性がなくなりそうになる。
「碧が可愛いからいけないんだからな」
「ゆうちゃん大好き…」
うっとりして抱きついてくる碧の頭を撫で、
駐輪場に歩く碧はいつも付いてきてくれる。
駐輪場に行くまでには大輔と話をした校舎裏を通る。駐輪場に着き自転車を探していると碧が制服の裾を摘んで引っ張ってきた。
「ん?」
「ゆうちゃんあの人早瀬さんだよね、隣の人は柏崎君じゃないよね…」
「は?」
碧が指差す方向には、バイクの駐輪場があり、そこには男女が二人何やら話をしているようだ。
二人は体を寄せ合い誰が見ても恋人だと錯覚するだろう。
碧と俺は二人に見えないように屈み、様子を見ていた。
「夏美、最近彼氏君とはどうなんだよ?」
「別に、普通かな顔がいいからデートするには丁度いいよね…でもお子様だからそういう事にはならないんだよね」
最低だ。大輔のことを話してるのかも知れないて思うと胸がざわついた。
二人はしばらく、大輔の事を話していた。
早瀬さんと男子生徒は離れる気配はないそれどころか…
「ねー、キスしてよ…いいでしょ」
という早瀬さんの一言で二人の距離は更に短くなり、唇は、触れ合った。
唇はなかなか離れず段々に激しいものに変わり、遂には…。
見ているのが辛い状況になり、碧と俺はこそこそと音を立てないようにその場を離れた。
「ゆうちゃん、柏崎君は知らないんだよね…」
「多分な…」
「あの人達最低だよ…」
俺にはどうするべきか分からなかった…。
大輔に伝えるには残酷すぎる…。
大輔が、どんな思いをして付き合ってるか知っているから余計に…。
「俺、大輔にはこの事黙っとくよ」
「碧も…知らない方が事がいいこともあるし、それに悪いことはすぐにばれるからね」
碧と俺はさっきの光景を忘れようと心に決め学校を出た。
人間って残酷な生き物だな
恋愛って怖いな
そう感じた一日が今日も過ぎていった。
「ゆうちゃん、碧あそこ行って見たい!!!」
今日は文化祭当日、一日目は舞台発表がメインで今日は二日目で屋台やバザーなど一般の人も入れるようになっていてとても賑やかだった。
碧が興味を示したのは、美術部の作品の万華鏡の展示コーナーだった。
「行くか」
俺達はあの日見たことを大輔にはまだ話していなかった。大輔は今日早瀬先輩と行動している。
何も知らない大輔の事を考えると気の毒に思えてくる。
美術室につき扉を開くと。
美術室の中は美術部の生徒の描いた絵や粘土の作品などで飾られていた。
碧に手を引かれ歩いていると、
『美術部政策の万華鏡』コーナー
と書かれた一角に着く。
「たくさんあるね!販売もしてるんだって!」
子供みたいにはしゃぐ碧は可愛い。
飾られている万華鏡を手に取り手の中で回す。
「懐かしいな…」
碧は万華鏡を覗きながら何かを思い出すように言葉を零した。
俺も一つ手に取り中を覗く。
カラフルな模様が回すたびに姿を変えて履かない気持ちになる。
「碧、昔おねだりしたことあるの、これが欲しくてさ、そしたら怒られちゃった」
懐かしいと零れた言葉の意味はあまりいい思い出ではないようだった。
「ゆうちゃん、万華鏡って綺麗だよね…回すたびに違う形になって…」
「うん、?」
碧の言葉に続きがありそうだったから語尾が疑問形になる。
「人間みたいだよね…見られている時には綺麗に振舞って、関わる人によって姿や性格も変わって…綺麗に見えるように偽って…でも、人間と違うのは、綺麗に見え続けられるところ…人間は綺麗を装えない。…いつか本当の姿がばれてしまう…」
「ん?」
「碧はそうなりたくないな…」
何かを思い出して寂しそうな顔をする碧の頭を撫でる。
「大丈夫だよ」
俺は碧にそれしかかけられる言葉が見つからなかった…。
万華鏡に夢中になっている碧からそっと離れて販売コーナーにある万華鏡を一つ手に取り美術部員の生徒にお金を払った。
小さな手で万華鏡を回している碧の肩を叩く。
「なあに、ゆうちゃん」
「碧、プレゼント」
万華鏡から俺に視線を変えた碧に万華鏡を渡す。
「買ってくれたの?!碧にくれるの?」
「碧のおねだりは今叶えられました、だから昔のことは忘れろよ」
俺が渡した万華鏡を握りしめた碧が俺の言葉を聞き、涙を流し始めた。
* あの日、母に貰えなかった愛を貰えた気がした。
幼い頃母に買い与えて貰えなかったものを祐一郎はこうしてわたしに与えてくれる。
それに…ゆうちゃんは忘れていいと言ってくれるんだ。あの日見た人間の多面性…。
早瀬先輩の性に乱れる様を思い出すと恐ろしくなる。愛の無い人間にも自分を愛してもらう事を楽しんでいる様を…。
きっと大輔にも、あの日の男子にも…きっかけがあれば誰にでも愛を振りまくのだろう…
自分を綺麗に偽って…いつか割れて壊れる日まで…
沢山の愛は必要ない。
わたしは綺麗に飾る必要はない。
祐一郎が愛を教えてくれる限りは…。
わたしは割れたりしない…。
涙を拭いながら祐一郎に向き合った。
「ありがとう、ゆうちゃん…大事にする」
泣くなよと言ってゆうちゃんはわたしの頭を優しく撫でた。周りには人が何人かいて、不思議そうにわたしたちを見ていた。
手を繋いで歩き出す。
ゆうちゃんといると学校行事も悪くないなと思う。
わたしのクラスの前を通るとメイド服を着て喫茶店の様な事をしていた。
馬鹿らしい…。わたしには関係ないけど。
ゆうちゃんが足を止めて中を見ているから少し不機嫌になる。
ゆうちゃんの視線の先にはクラスの名前も知らない女子がいた。
あの子のこと好きなのかな…?
胸のあたりがチクチクする。
ついに我慢出来なくなり口を開く。
「ゆうちゃん、なんであの子の事見てるの…?」
ついつい声に隠しきれない怒りが篭ってしまった。
ゆうちゃんはこっちを見ると何も言わずに歩き出した。
…なんで何も言ってくれないの…?
…胸が苦しいよ…
祐一郎に手を引かれて誰もいない屋上に到着した。
繋いでいる手すら胸を苦しめた。
屋上に着いて扉を閉めると祐一郎にいきなり抱き寄せられ唇が重なる。
「…?」
わたしは何が起きてるのか分からずただされるがままに唇を預けていた。
「っはぁ」
唇が離れるとゆうちゃんはさっき聞きたかった答えをわたしにくれる。
「俺考えてたんだ、見てたのは人じゃなくて服でさ、碧が着なくてよかったなって…着てるのも見たかったし、着てる姿想像してた」
「服ってメイド服のこと?」
「そう、もし碧が着てたら可愛いだろうなって…でも着てなくてよかったなって…他の男には見られたくないからさ…」
恥ずかしそうに俯くゆうちゃんは可愛かった。
屋上からは文化祭ではしゃぐ人々の姿が小さく見えた。
「碧?俺碧のこと好きだよ」
「碧もゆうちゃんのこと好きだよ」
眼を閉じた。わたしなりのゆうちゃんに対するおねだりだった。
今まで貰い損なった分の愛を祐一郎から受け取りたい。
祐一郎は何も言わずにそれに応える。
祐一郎にしがみつき、愛を受け取る。
キスをする度に祐一郎のことを好きになっていく自分を感じる。
祐一郎もそうなのだろうか?
夢中で祐一郎と唇を重ねていると、階段の方から足音が聞こえ身を離した。
まだ唇には、祐一郎の温もりが感じられて胸がドキドキする。
わたしはさっき言いそびれた事を祐一郎に話した。
きっと喜んでくれるかな
「ゆうちゃん、碧持ってるよ」
「ん?なにを?」
「ゆうちゃんが見たがってる服」
「え?!」
「学級費で買ったらしいから全員分あるんだよ」
祐一郎は、驚いてるのか黙り込んでいる。
そんなに、着て欲しかったのかな
ゆうちゃんが喜ぶなら今日来てくればよかった…
「ゆうちゃんが着て欲しいなら今度デートに着てこようか?」
祐一郎は何やら口元に手を置き顔を赤くしている。
「ゆうちゃん?」
「碧、俺」
「ん?なあに?」
どうしたんだろ?祐一郎の言葉を待った。
「碧…俺多分碧があんな服着てデートに来たら理性なくすと思う…」
ゆうちゃんったら…本当にわたしの事好きなんだな
「ゆうちゃん、大好き」
「いっ行こう、この話はもうおしまい!」
恥ずかしそうにうつむきながら歩きゆうちゃんについてわたしは歩き出す。
楽しまなきゃね、二人だけの時間を。
握った手は二人の体温が溶け合っていた。
俺達は、屋上から出て階段を降りると先程の足音の正体に出会い。気まずくなった。
「おっ祐一郎たちじゃん!」
そこにいたのは階段に座って焼きそばを食べている大輔と早瀬先輩だった。
「おう、大輔偶然だな」
「運命の出会いじゃね」
「……」
「なんか言えよ!」
俺達はいつも通り会話をしてそれを聞いている碧も笑っていた。
「大輔のお友達?」
一人つまらなさそうに話を聞いていたのは早瀬先輩だった。耐えきれなかったのか話の間に言葉を挟んで来た。
「そうっすよ、岡本くんと梅原さん」
大輔が俺たちを紹介すると早瀬先輩はこちらに言葉をかけてきた。
「はじめまして、早瀬夏美です!よろしくね」
「はじめまして、岡本です」
「はじめまして、梅原です」
俺たちも名前だけを簡易的に彼女に伝える挨拶をした。俺たちの表情は決して愛想のいいものではなかった。
早瀬先輩は大輔に寄り添っていたが、その表情はあまり楽しそうではなかった。
偽りの自分を演じているのだろうか…。
そんな事には全く気付いていない大輔はとても幸せそうだった。
大輔…はやく気づけよな
「お邪魔しちゃったな、またな大輔」
「またな、祐一郎」
嬉しそうに手を振る大輔の横の早瀬先輩は退屈そうに大輔を眺めていた。
高校生一年目の文化祭は大輔の事を考えなければ、
楽しめた気がした。
碧も楽しめただろうか?
碧といると学校行事も悪くないなって思えた。
来年の俺は今何をしてるのかは知らないが、
きっと隣には碧がいてくれる気がする。
今日も碧と俺の一日は終わろうとしていた。
俺が風呂から上がりまだしっかり乾いていない髪のままベッドに横になると、
携帯がブーっ、ブーっと震えた。
メッセージ一件 画像受信
碧からだった。
『ゆうちゃん、今日はいろいろありがとう!似合うかな…感想聞かせてほしいな』
「ん?なんだ」
碧からのメッセージを開くと、碧から送られてきた画像を携帯が読み込み初めて、それがなんなのかはっきりと映し出された。
「っん!!!…ごほんっごほんっ!!」
俺は映し出された画像の脳への大ダメージに思わず声を漏らし、噎せ始めた。
可愛い…可愛いすぎる…
それに尽きるとしか言いようがない。
携帯の画面に映し出されたのは碧が、文化祭で着るはずだったメイド服の様な衣装で、俺は昼間これを着た碧がどれだけ可愛いか、頭の中で想像していた。それと同時にただでさえ可愛い彼女のメイド服姿なんてほかの男に見せたくはなかったから。
本当に良かった。
俺だけの碧で…。
画像の中の碧は内股に座り、手を伸ばし全体が映る様にぎこちない笑顔で、こちらに向いていた。
昼間頭で想像していたより何倍も何十倍も、言葉で言い表せないくらいに可愛いかった。
ブーっブーっブーっ
碧の可愛さに悶絶していると、碧から電話がかかってきた。
「もしもし」
『ゆうちゃん、噎せてたけど大丈夫?』
「碧、可愛すぎ…可愛いすぎて噎せた」
『ゆうちゃんから言われる可愛いはいつ聞いてもにやけちゃう』
「碧が側に居たら俺、手出してたかも…」
何言ってんだろ俺。自分の言ったことを頭で理解し始めると顔が赤くなった。
『ねえ、ゆうちゃん…碧だってゆうちゃんに触って欲しい時あるよ…』
っ!!!何で今そんなこと言うんだ。
「でも、俺碧が大事だから、ちゃんと責任取れる様になってからその…」
『ゆうちゃんの真面目なところすごく好きだよ…』
「碧…それまでだれにも触らせないで…」
「うん、ゆうちゃんだけ…」
側に居たら抱きしめてたんだろうな、なんて思いながら碧の声を聞いていた。
『ゆうちゃん、メイド服なんて初めて着たけど髪の毛ツインテールが良かった?ポニーテール?勢いでそのまま撮ったから今度は髪型もちゃんとしなきゃね!』
碧さん俺をどうする気だ…
只でさえ、その…自分が男子だと感じて、眠れそうにないのに…
「碧、これ以上可愛くなったら俺、死んじゃう…」
『だって、前にゆうちゃん本屋さんでツインテールした女の子のエッチな本買ってたのしってるもん!あれを見て何したの…?』
俺は動じなかった、じゃんけんで負けた俺が大輔が変態紳士への第一歩を踏み出すために代理で買ったものだ。
俺は、ああ言うのを見て下半身が男子だと主張することはなかった。
碧しか…俺はもう碧しか抱けないと確信した。
「あれは大輔からの頼まれごとだからな…」
『確かにゆうちゃんが、部屋に入ってきたときにはもう持ってなかった』
『おやすみ』「おやすみ」
しばらく碧の可愛い声を耳から味わい、余韻に浸った。
どうしよう、本当にこのままじゃ寝れそうにない。
困ったお姫様だな…可愛すぎなんだよ…
どうにか落ち着こうとした俺が携帯のアラームをセットしようとした時、たまたまコミュニケーションアプリに手が触れ、再び目から脳に碧が入ってくる
もう、どうしてくれんだよ。
俺だって男だからどうにもならない時だってある…
結局俺は、よく眠れる夜になる様に落ち着いてから眠った。
碧以外目に入らないくらい、好きになるなんて…
そのことをよく実感した一日だった。
「岡本くんお疲れ様、明日からお休みだっけ、また、文化祭開けにね」
「はい、お疲れ様でした」
バイト終わりの、夕方季節は秋に差し掛かり、日も落ちるのが早くなってきた。11月になり、肌寒くなって秋をより感じる季節。
文化祭があるためバイトを一週間程休みにしてもらうことを話し、香奈美先輩から了承してもらった。
佐藤先輩はあれから俺達に関わろうとしなくなった。香奈美先輩にカメラを見て欲しいと頼んでいた俺の作戦が通じて、お客様の前での大失態が佐藤先輩によるものだと香奈美先輩に理解してもらい、佐藤先輩は店長からもきついお叱りを受けた様だ。
慌てて着替えを済まして、バイト先を出ると、
俺を待つ小さいシルエットがすぐに目に入った。
「おそーい!」
「ごめん、ごめん!」
「チューしてくれるまで許さないんだから」
俺に対して怒っている小さな可愛い声の主は頬を膨らませ俺にキスをせがんでくる。
誰もいないか確認だけして、小さな可愛い唇にキスをする。
「しょうがないから、許してあげましょう」
「ありがとうございます」
可愛い小悪魔の碧はご機嫌を直してくれたようだ。
夏休み明けから数ヶ月経ち、小林元気君の頑張りがあり、碧への虐めはなくなった。虐めがなくなったからといって、今更、クラスに馴染めるわけもなく、教室では未だに独りぼっちで過ごしているらしい。
小林君は碧を虐めてる二人に会いに行き、碧に告白したのは罰ゲームで、本気じゃないから虐めないで欲しいと頼み込んだらしい。
二人は小林君の連絡先を交換するという条件で虐めをやめたらしい。
小林君様様だ。
昼食は、大輔と俺と碧の三人で今は食べている。
最初は警戒モード全開だった大輔への態度も段々と柔らかいものに変わりつつあった。大輔も碧の事を今では、梅さんと呼んでいる。
体育祭も終わり、
10月24日の誕生日には、
碧から手作りのプレゼントを貰った。
お揃いのミサンガだった。
お互い願いごとを込めて、今は足首に巻きついている。色はもちろん、赤色だった。
理由は話さない方がいいだろう。
貰った時と色がだいぶ違う事が確信をついていた。
そんなこんなで文化祭の季節だ!
碧はクラスの出し物には参加しないらしく俺と行動する予約を入れていた。
大輔は早瀬先輩次第だろう。
文化祭も迫る中。
碧と俺は仲良く放課後を共に過ごしていた。
「栗、南瓜、栗、南瓜、たまには団栗」
碧が嬉しそうに何かを呟いている。
「なにその呪文?」
「秋といえばがテーマの俳句の季語を考えてるの!栗と南瓜と団栗しか思い浮かばない、あとお芋」
「ふうん、そういえばそんな宿題あったな…碧は食いしん坊だな」
「食いしん坊じゃないもん!食欲の秋だからいいの!明日までに考えないといけないからゆうちゃんも手伝って!ご褒美は弾むよ」
「ご褒美楽しみだな」
最近の碧は昔より明るくて、元気な気がする。
それがいい事なのは分かってるし、分からなきゃいけない。
だけど、心の何処かで碧が変わっていく事を拒んでる俺がいた。
『碧が俺を必要としなくなったら…』
その不安が最近は大きくなりつつあった。
碧に対する独占欲に飲み込まれそうになる。
俺は最低なのかもしれない…。
そんな事を考えながら歩いていると、
俺たちの思い出の公園の前に差し掛かった。
「あっ!ゆうちゃん、見て!団栗落ちてた!」
団栗を見つけて子供みたいにはしゃぐ碧を見ると、
今の俺の好きが偽りの好きじゃない事を強く感じて今すぐ碧を独り占めしたくなる。
自転車を止めて、しばらく碧に付き合う。
「ゆうちゃん、団栗に顔描いて見た!碧いみたいでしょ」
いつの間にか、団栗にペンで顔を書いていた碧が俺の手に団栗を、落とす。
確かに、碧が団栗に与えた顔は碧みたいに可愛い顔をしていた。
「可愛い顔してるな」
俺は碧が喜ぶと思ってそう言ったのに、碧は何故だか怒り始める。
「ゆうちゃんの浮気者!!!碧以外に可愛いは禁止!!!」
そうくるか!さすが碧様どこで怒るか分からない…
俺は碧の怒りを鎮めるためなら手段は選ばない。
「碧!!!こっちに大きい団栗あったよ」
「どこっ?」
怒っていたのを忘れているかのように俺の元に走り寄ってくる碧、
わざわざ罠にはまりにくるなんて、俺は思わず不敵な笑みを浮かべる。
「ゆうちゃん、団栗どこ?」
俺の数センチ前まで走ってきて目の前に迫った碧を抱き寄せる。
「ゆうちゃん!?」
「団栗は嘘、団栗より俺を見て欲しいんだけど…団栗より、俺のことを考えてよ」
「ゆうちゃん、団栗に嫉妬してるの?」
「俺の事一人にした碧にお仕置きしないとな」
戸惑う碧の顔が可愛いくて意地悪したくなる。
「ゆうちゃん、恥ずかしいよ」
碧は恥ずかしがって身を捩る。
「誰かに見られちゃうよ…」
「昔ここでキスしたよな」
「ファーストキスだったね、歯が当たって痛かったよ、でもね、碧とっても嬉しかった」
「俺も、嬉しかった、じゃあファーストキスのやり直ししよう」
碧は俺に抱きしめられながら、ぽかんと口を開けていた。
頬はほんのり赤く染まり、俺はそんな碧が愛しくて仕方がない。あの時は偽物だったキス、今は本物のキスを届けたい。
碧はまだぽかんとしていたが、俺は構わず碧の可愛いらしい唇にキスをする。
「ん、っ…」
わずかに開いていた唇の間に舌を入れ、碧の可愛い舌を探す。
碧は俺にしがみ付いてただそれに応えていた。
俺はそれが嬉しかった。
二人が唇を離すと、離れたくないと言わんばかりに唾液が糸を引いた。
「やり直し完了」
「ゆうちゃんのえっち!」
そう言う碧は言葉と裏腹に抱きついたままだった。
そんな碧を見たからか俺は自分でもまだ言わないつもりだった言葉を口にしていた。
「碧?今は碧のこと本当に好き…だから、離れたくない」
「ゆうちゃん?」
しまった、なにを言ってるんだ。
取り返しがつかないこの状況に碧はなにを思ってるのか不安で、あの時みたいに碧の顔を見れずにいた。本当にファーストキスをした日みたいだ。
恐る恐る碧の顔を見ると、あの時と同じように頬を染めた碧がそこにいた。
あの日と違ったのは碧の目からは涙が溢れていた。
「ゆうちゃん、碧知ってたよ…」
「ん、?」
「ゆうちゃんが碧のためにキスしたんじゃない事も好きじゃない事も全部分かってたよ」
俺は驚く、
わたしは驚く
『お互いの初めて知る気持ちに、あの日のことを』
「ゆうちゃんに無理矢理愛を押し付けたの、嘘でも愛して欲しくて…っ…」
『全部分かってたよ…最初からお互い嘘だって、気づいてた、あの日から始まった恋愛ごっこ』
「そんな、碧にゆうちゃんは嘘でも愛をくれたっ…お願いすればいくらでも…」
『碧の涙は今までの偽りの愛の分流れていくみたいだった。』
「碧が無理してるのも知ってた…でも知らず知らずに碧の事を好きになってた、言うつもりはなかったんだ…でも、抑えきれなくなった。」
「碧だって、気付いたんだ、ゆうちゃんに縋ってただけの愛が、だんだん本物になっていくのに気づいて、もしこの事をゆうちゃんに言ったら嫌わたらなんて…怖かったんだ」
「俺も、最近の碧は俺なんか要らないくらい活き活きしてて、俺の事必要じゃなくなったら…って」
『いつの間にか同じ気持ちだったんだ』
「やり直ししよもう一回!」
「うん」
『最初からやり直そう本当の愛を伝え合うんだ』
『ごっこじゃない本物の恋愛を』
「祐一郎くん、碧と付き合ってください」
「 碧ちゃん俺と付き合ってください」
『よろしくお願いします』
俺たちは、本物ファーストキスをした。
これからは本物の恋愛を碧とするんだ。
公園だと言う事を忘れてキスに没頭していると、
通りかかった人の声を聞き慌てて唇を離した。
「ゆうちゃんのえっち!」
いつもみたいに碧が笑った。
「碧、が可愛いから」
俺もいつも通りの返しをする。
これからはこうやって愛し合える。
団栗をいくつかポケットに入れて、公園をでる。
「ゆうちゃんそれ、どうするの?」
「たまに団栗から虫が出てくるから、大輔の机に入れて虫が出てくるか観察する」
「柏崎くん、ゆうちゃんから団栗プレゼントして貰えるのはずるい」
悪意のこもったプレゼントなんだけどな、
碧いには嫉妬の対象なのだろう。
碧は顔付きの団栗を持ち帰ろうとポケットに入れていた。愛着が湧いたのだろうか。
「ゆうちゃん、碧団栗あげる!虫が出てくるか一緒に観察しよ、柏崎くんだけ楽しむのはずるい!」
碧さん、プレゼント交換じゃないんだよ。
まあ碧が喜ぶならいいやと、思い直し碧の案に賛成した。
碧の髪を撫でる。サラサラしてて気持ちいい。
そんな俺を急に心配そうに見上げ碧が可愛い唇を動かした。
「ゆうちゃん、ゆうちゃんのお部屋に盗聴器とカメラ付けてあるから、浮気はできないよ…」
「えっ?」
なんでそんなものまで
俺は愛されてるな…本当に
今更驚くこともないから浮気はしないと宣言した。
盗聴とか盗撮は今更されてない方がおかしいと思った方が早い。
「ゆうちゃんのお部屋の二段目のタンスにある赤い靴下穴があいてるよ、昨日言わなきゃいけなかったのに忘れててごめんね」
もうどうにでもして下さい。
可愛いとしか思えない俺も壊れてるのかもしれない。
「それとさ、その靴下なんだけど碧にくれない?」
穴が空いた靴下に魅力があるのか、それとも俺が履いた後の靴下が魅力的なのか、もちろん後者なのは聞かなくても分かっているから聞かない。
「あげてもいいけど、何に使うの?」
「付き合った記念日プレゼントに欲しい、あの靴下ねゆうちゃんと再会した日にゆうちゃんが履いてたから運命を感じてるの、それに欲しいものがゆうちゃん以外浮かばないからせっかくだから貰おうかなって」
「わかった!明日持って行くから」
「わぁい、あっ今日電話していい?ネタバラシしたいから」
靴下を貰える喜びと何かを企んでにやついている碧と学校近くまで歩いて別れる。
碧と離れるのは寂しい。
いつからこんなに好きになってたのか、不思議だ。
自転車に跨り、家まで走る。
家に着き自転車をしまうと珍しい車が車庫を占領していた。
「ただいま」
玄関には、珍しい靴が二足。
男性用の革靴と女性用のピンクのパンプス。
父さんはまだ帰らないはずだし母さんが履くにはお洒落すぎるし、だとしたら答えは一つだ。
リビングに入ると。答え合わせは済んだ。
「おかえり、祐一郎」
「ただいま兄さん、久しぶりだね、あっこんばんわ、梨花さん」
「祐一郎くん大きくなったね、お邪魔してます」
兄さんが奥さんを連れて帰ってきていた。
二人は去年結婚したばかり、世間的には結婚する年齢には早いが、反対していた父さんも兄さんの熱意に負け結婚を許し、梨花さんは今妊娠している。
「祐一郎、おかえり、お父さんも今日は二人に会いたいから早く戻ってくるって、夕飯は豪華にしなきゃね」
何やら母さんは嬉しそうだ。
「お義母さんわたしも手伝います」
梨花さんは母さんと台所に消えて言った。
昔から気の利く良い子だと俺の両親は言っていた。
兄さんは一見冷たいけど梨花さんのことは大切にしているのが伝わってくる。
梨花さんを見守る目は温かいものだった。
「去年のお盆以来だな、正月は仕事で帰れなかったし、今年もお盆は忙しくて時期ずらしたからさ、元気そうで良かったよ」
「兄さんも元気そうだね」
「高校楽しいか?」
「うん」
リビングの椅子に座り、着替えもせずに
兄さんと久しぶりの会話を楽しむ。
「祐一郎、お前彼女いるのか?」
兄さんが冗談交じりに聞いてきた。
「いるよ、それで今日付き合い直してきた」
「何だよ、それ」
「今日改めて付き合うことになった」
「意味わかんねーし、お前奥手そうに見えてそうじゃねーのな」
「兄さんも奥手に見える」
「俺は奥手じゃねーよ、狼だ」
「なんだよそれ、」
「まあ、梨花専門になっちまったけどな」
兄さんは昔からすごく女の子達から人気があった。
顔立ちもいいし、性格もいい、運動や勉強もできた。そんな兄さんは高校にあがり、友達との喧嘩で、友達に怪我を負わせたことがきっかけで、今までの兄さんとは別人のようになった、高校の時は話しかけるのが怖いくらいだった。
兄さんはいわゆる不良になった。
校則違反なんて当たり前だった。
思い返すとあの頃の兄さんは、
日本人とは思えない髪の毛の色をしていた。
家でも毎日親子喧嘩の範囲に収まらないような暴れっぷりで、俺はそんな兄さんみたいにはなりたくないと思っていた。
高校二年の三学期、退学の話が上がっていた兄さんを変えたのが、兄さんのクラス委員をしていた。梨花さんだった。
梨花さんは兄さんとは住む世界の違う、大人しくて、はっきり言ってしまえば地味な生徒だった。
兄さんは梨花さんを疎ましく思
っていたが、自分のために尽くしてくれる梨花さんに惹かれ付き合い始めた。梨花さんのために黒髪に戻し、たくさん着けていたピアスも着けなくなった。
短大に通い、資格を得た兄さんは、機械を扱う工場で働き始め、梨花さんと結婚を決意し、今に至る。
梨花さんがいなければ、兄さんは変わらなかったかもしれない…。
たった一人の女性がここまで一人の人生を変えるなんてすごいことのように感じる。
僕の目の前の兄さんは今、幸せを手にして幸せそうだった。
梨花さんも幸せそうだ。
俺もいつか、碧を幸せにしてやりたい。
本当の幸せを、教えてあげたいんだ。
「健二くんちょっと手伝って!」
梨花さんの声に兄さんは立ち上がり台所に向かって行った。
「祐一郎、着替えてきたら?そろそろ夕飯になるから、早く来いよ」
「うん」
俺は二階にあがり着替え始めた。
制服を脱いでパンツ一枚になった時。
床にあるズボンのポケットの携帯が振動した。
メッセージ受信一件
碧からだった。
『ゆうちゃんのパンツ、今日は青のチェック可愛いね』
あっそうだった、盗撮されてるんだった。
一体、いつから盗撮なんてしかも盗聴も…。
毎日俺は碧にパンツを見せつけてたのか、知らなかったとはいえ露出狂に近い。
慌ててズボンを履き、碧にメッセージを返そうと携帯を握った時、
ブーっ
また震度した携帯を見る。
『ゆうちゃん大丈夫、パンツの中身も見たことあるから!安心してね!』
……。
言葉を失い、思わず携帯を落とした。
一体、いつから見られてたんだ…俺の全てを。
大丈夫、安心してねの意味がわからない。
だが、碧を責める気は全くない。
気を取り直し、携帯を握り返信を送る。
「碧さんのエッチ!」
女の子みたいな言葉に俺の感情の全てを託して送った。
ブーっブーっブーっ
今度は何だよ、裸を見られた事がこんなにも喪失感があるなんて思わなかった。
まるで女の子になったみたいだ。
今度はエッチな碧さんからの着信だった。
「もしもし」
「あ、ゆうちゃん、今日もパンツ姿ありがとうございます!エッチな碧さんです!今日は誰か来てるの?いつもならもっと早くゆうちゃんの生着替えを見れるのに」
* わたしはゆうちゃんをからかった。
ゆうちゃんはまだ気づいてないが、ゆうちゃんが探している盗撮カメラは勉強机の上にあるロボットのフィギュアの足の上に一体化して、わたしにし分からない。ゆうちゃんは、視力があんまり良くないから多分気づかないはず。
学校では、コンタクトだけどお風呂上りはわたししか知らない眼鏡姿だ。
眼鏡姿もまたまたかっこいいのがゆうちゃんのずるいところだ。
「碧、俺の着替え見て徳はあるのかよ、今日は兄さんと兄さんの奥さんが来てる」
ゆうちゃんと同じ空間で血の繋がりのない女が息を吸い合うのは嫌だった。
学校でさえ嫌なのに家でなんてもっと嫌だ。
それに、その奥様とやらは毎年来ている。
ゆうちゃんが吐いた息を吸うのはわたしだけがいいのに…。
「ゆうちゃん、今日は一人の時以外あんまり息しないでね…」
「わかった」
ゆうちゃんは理由も聞かずに納得してくれる。
少しだけわたしにも安心感がやってくる。
携帯越しにゆうちゃんの柔らかい声が耳に届く。
しばらく他愛も無い会話を楽しんだ。
「碧?愛してるよ」
「うん、愛してるよ」
ピッと電話を切り左腕に目をやる。
最近はカッターで腕を切る回数も減って来た。
時々あの人たちを思い出した時に切るくらいだ。
ゆうちゃんが、わたしに安心感をくれている。
あの人達を忘れられるくらいの…。
たまに友愛の夢を見る。
可愛がられ、沢山の愛を注がれる友愛。
今思えば、新しい父親の事はよく知らない。
何をしてる人かも、何歳かも…。
経済的には裕福だから、家の外では良い人なのかもしれない…。
まあ今はそんな事はどうでもいい、
ゆうちゃんがくれる愛が一番だ。
鞄の中から、虐めの後が酷く残る教科書に混じった小さいノートを取り出す。これは、祐一郎にもまだ見せていないものだ。
『ゆうちゃんノート』
これは、ゆうちゃんの一日を簡易的に記録してるものだった。
『今日は、岡本家に兄夫婦が帰省している』
特別に付け足した。
さて、明日のゆうちゃんはどんな愛をくれるのだろう。楽しみで?が緩む。
**私は探していた。彼を愛していた彼を
ある日突然終わりを迎えた愛を私は諦めきれなかった。
あんなに愛してくれたのに、最後はまるで使い古した玩具に飽きたようにに私を棄てて…。
あの人が、変わったのは、八年程前…
付き合って十年も経った私達はいよいよ結婚の話も浮かび愛に満ちた未来を描いていた。
あの人はIT企業に勤めていて、いつかは田舎に引っ越して、本社とパソコンでやり取りする自宅ワークに切り替えたいと話していた。
とある日から彼は帰りが遅くなると連絡をするようになった。付き合って同棲を始めてから初めてのことだった。
私の中で何か嫌な予感がしていた。
その予感が確信に変わったのはそんな生活が半年程した時だった。
シャツに付いた口紅、ほんのり香ると香水、
私の知らない誰と会ってるの…?
私はもう必要ないの…?
そんな事が立て続けにあり、耐えられなくなった私は問いただしたこともあった。
そんな私にあの人は最初は誤魔化すように優しくキスをし、抱いてくれた。
でも、私に注がれていた愛が私の知らない誰かに移り始めると、誤魔化しもなくなり、だんだん冷たい瞳を向けるようなった。
私への愛が無くなったその時、あの人は今までの何もかもが無かったというように、私の前から姿を消した。
私は待っていた、それでもあの人を…。
あれから八年、彼をやっと見つけた…
今度こそは逃がさない…
私の愛は歪み始めていた。
手段は選ばない、あの人を取り戻す為に…。
きごうピピッピピっ …カチっ!
「ふぁああ」
時刻は7時、目覚ましを止め着替え始める。
普段から寝癖のつきやすい髪は今日も絶好調の乱れ具合だった。
何処にあるか分からないカメラを気にしつつ、着替える。
長袖一枚では寒く感じる季節だけど、重ね着はあまり好きじゃないからカーディガンは着ない、ネクタイを締めて、一階に降りる。
「おはよう」
一階には兄さん夫婦も合わせ五人が勢ぞろいした。
今日の朝ご飯は豪華だった。
ご飯、味噌汁、お漬物、目玉焼き、ポテトサラダ、
まだまだちょっとした惣菜が並んでいた。
「母さん、お茶欲しいな、」
「はい、お父さんどうぞっ」
いつも通り朝ご飯を食べて歯磨きをして
学校に向かう。
これが俺の一日の始まりだ、
俺はまだこの生活を毎日記録されてる事は知らなかった。
学校に着くといつも通り大輔と話をして昼は碧も加わり三人になる。
今日は普段と違い、昨日収穫した団栗を大輔の机に忍ばせた。
虫が出てくるか実験スタート。
リアクションが楽しみで、不敵な笑みを浮かべてしまう。
今日も昼になり、珍しく三人とも焼きそばパンを手に話を始めた。
三人が同じものを食べるのは新鮮だった。
「梅さんのクラスは準備進んでる?俺達のクラスは展示だけだから、紙に写真をただ貼るだけで面白くないんだよな、なっ祐一郎?」
「ん」
「わたし、準備手伝ってないから知らない!」
「そうきましたか」
大輔は文化祭が楽しみで毎日この話をしている。
碧も俺も、あまり学校行事に興味はないから大輔ほど盛り上がらない。
文化祭の準備と偽りバイトを休んでいる俺の方が大輔より盛り上がらないといけないのはわかってるけれど、そんな事より碧と二人でいた方が楽しいからしょうがないだろう。
「あっ、柏崎君は彼女さんと文化祭回れるの?」
「そうだった!言ってなかったな、なんと!一緒に回れることになりました!」
「よかったじゃん」
大輔のテンションの上がりように驚いていたのは俺だけじゃなかったようだ。
碧も大輔をぽかんと見つめていた。
「二人が背中を押してくれたからだよ、ありがとな!俺がいないからってあんまりイチャイチャすんなよな!俺達だってお前らよりラブラブしてやるんだからな!」
「がんばれ」「頑張ってね」
俺と碧が大輔の恋を応援したのは同時だった。
俺たちの顔を見比べ大輔の眉間に皺が寄る。
「お前らなんかいつもに増して仲良くねーか?なんか悔しいんだけど」
「いつも通りだけど…ね!」
碧が俺を見て微笑む。
可愛い…。
なんて思いながらも、大輔にも分かるくらい俺たちの心が通じ合ってる気がして嬉しくて頬が緩んだ。
「なんだよ、祐一郎!にやにやしやがって、梅さんも幸せそうだしよ、なんかあったなお前ら!」
「何にもないよね、祐一郎くん」
「おう」
「いや、絶対なんかあったな!…もしかしてお前ら…!!!一線を…」
「柏崎くんの想像以上かもね!」
勝手なことを想像して顔を赤くする大輔に碧がとどめを刺す。
何故、純粋な大輔をそこまで痛めつけるのか…。
大輔はきっと本気にするだろう。
キーンコーンカーン…
大輔が、言葉を失い口をパクパクさせていると、チャイムが鳴り、俺達は解散した。
まあ面倒臭いからいちいち訂正はしないけど…。
五時限目国語の授業中も後ろの席の大輔から怪しい視線が送られていた。
そんなに純粋な大輔の心に深く刺さったのだろうか。大輔は何やら考え込んでいるようだった。
「皆、昨日配った古文のプリントだせよ」
国語の斎藤先生の声で生徒達は机の中からプリントを出したり、優秀な生徒はすでに準備していたプリントを広げたり、あちこちで物音がし始める。
ガサガサという音に混じり、俺の後ろの席からはカラカラカラッという可愛らしい音が聞こえた。
「柏崎!お前なんで机に団栗入れてるんだ、集めてるのか?」
「いや、先生マジで俺知らないっす!誰だよ団栗俺んとこ入れたの…もしかして俺のファンか!?」
「お前のファンなんているわけねーだろ、早く拾えよ」
先生と大輔のやり取りで教室には笑い声が響く。
ファンではなく、俺が入れたんだけど…。
虫が出てくるか観察するより面白い結果になってよかった。
授業が終わると、大輔に団栗を入れたファンの正体を告げた。
「大輔…お前の机に団栗を入れたのは俺だ!お前のファン一号として認めてくれ」
「やっぱり祐一郎かよ!マジでびっくりしたんだからな!」
「本当は、団栗から虫が出てきたら大輔どんな反応するかなと思って入れてみた!」
「ひでーな!」
「碧も共犯だからな」
「梅さんもかよ、じゃあ競争しよーぜ!誰の団栗から一番に虫が出てくるか、一番最初に出たら勝ちな!」
「やってみるか」
団栗、虫というワードだけではしゃぐ大輔は馬鹿だなと思っていると大輔が急に真剣な顔になり、
俺に話があると言ってきた。
「話っつうよりもさ、相談かな、お前と梅さんものこと聞いたらさちょっとな」
「なんだよ急に」
「今じゃ時間足りないから放課後話そーぜ!」
俺と碧のことってなんだろ…。
碧を好きになったとかじゃないだろうな…。
大輔は早瀬さんしか見てないからそれはないか…。
なんだろ…。
六限目の数学は全然頭に入ってこなかった。
放課後は文化祭準備に向けて皆一心に仕事に打ち込んでいた。と言っても俺たちのクラスはほとんどやる事ないから半数以上の生徒は教室から姿を消していた。
俺は大輔と校舎裏に来て話をしていた。
碧はここには居ないが図書室で借りたい本があるから話が終わったら連絡して待ち合わせする約束をしている。
大輔は校舎裏に着いてから五分程黙っていたが、重たい口を開いた。
「あのさ…こんな事恥ずかしいから言いにくいんだけど、梅さんとどうだったんだよ…」
「は?」
「だから、梅さんとの初めてはどんなだったんだよ!」
「ん???!!!」
初めてって何の事だろうと考えていたら、昼に碧が大輔に言ったことを思い出した。
まさか、本気にしてるのか…
だけどそれを聞いてどうするんだ?
「大輔、言っておくが俺そういう事してないからな!第一そんな事聞いてどうすんだよ」
俺の言葉を聞き恥ずかしそうに顔を赤らめている大輔は思いきって口を開いた。
「夏美先輩に言われたんだ、キッキスしようって、だけど俺緊張し過ぎて出来なくてさ、夏美先輩は笑ってたけどさ男として情けなくてさ、だから祐一郎は初めてのキスはどうだったのか聞きたかったんだよ、恥ずかしいぜ」
聞いてるこっちも恥ずかしくなってくる。
だけど、大輔の表情は真剣だった。
「俺の初めてのキスは怒り任せだったからさ、つい昨日やり直ししたんだ」
「何だよそれ」
「んー、話すのは難しい、まああれだ、そんなに考えずにすればいいんじゃないか」
「出来るかな…」
「早瀬さんから持ち出した話ならいつでもオッケイって事だろ」
冴えない表情の大輔だったが、俺の言葉を聞き段々いつもの大輔に戻ってきた。
「悪いな祐一郎付き合わせて、何だか自身出て来たわ!俺の中の狼が疼くぜ!俺部活行くわ」
「なんだよ、それ おう、じゃあな」
昨日兄さんも狼とか言ってたな、まあ大輔がいいならそれでいいか。
大輔と別れた俺は図書室に急いだ。
新しいシューズに書かれた『梅原』の文字を見つけ入室する。
碧のシューズは二学期になくなってから見つからなくて、新しいのをバイト代で買ったと話していた。
「ゆうちゃん、こっちだよ」
図書室を見回して碧を探していると可愛らしい声に呼ばれて振り向く。
図書室に備え付けてあるパソコンの前に声の主の碧はいた。
今日は髪を二つに結んでいてそれはまた可愛いさが際立つ。
碧の隣に腰を下ろすと碧は俺に真っ白な封筒を見せて来た。
『梅原碧様』
と書かれた封筒の裏には
『赤羽 頼子』と差出人が書かれていた。
「碧にお手紙来たんだけど、知らない人なんだよね…内容も碧には関係ないし」
碧は不思議そうに首を傾げて俺に手紙を渡してきた。読んでみてと催促され書かれた文字に目を向ける。二枚に渡る手紙は確かに碧のことはよく知らない人だという事が伺えた。
『はじめまして、赤羽頼子と申します
こうして、手紙を書いていると沢山の思い出が溢れて来て涙が溢れます。
私の幸せが崩れ落ちたあの日、碧さんはどんな気持ちで過ごされていたのでしょうか?
碧さんにとって新しいお父さんは、どんな存在でしょうか?
私にはあの人が必要です、私はあなたの母親を憎んでいます。
あなたの母親さえ居なければ私はあの人と結婚して、今頃あの人の隣で幸せに微笑んで居たかもしれません…。
私はあの人を探して居ます、八年間も、そして貴方に辿り着きました。
そして、あの人にも…。
私はあの人を尋ねようとしました。
あの人を知れば知る程胸が締め付けられて苦しくなりました。
私は知りました。あの人が結婚したことを…。
赤ちゃんが産まれたことを。
夏休みで貴方が帰省したことも知っています。
私は驚きました。優しかったあの人が貴方に暴力を振るう様を見て…。
貴方の母親が貴方に暴力を振るう度にあの人も同じ様に暴力を振るっていた。
貴方の母親があの人を変えたのです。
あの女さえ居なければ…。
あの女さえ居なければ、赤ちゃんを抱いていたのは私だったかも知れない。
私は許せないのです。貴方の母親を…。
貴方はいずれあの女を殺すでしょう…。
貴方があの女を殺さないのなら私が殺します。
貴方と私は似ている気がする』
最後に…私は今とっても幸せです。
貴方は今幸せですか?
赤羽頼子
と書かれていた。
手紙から顔を上げると碧は不思議そうな顔で俺を見つめていた。
「碧に何か関係あるのかな…?」
「んー、どうだろうね」
普通からしたら、脅迫の様な手紙に慌てるところだが、碧は平然としていた。
「あの人達の事なんて碧には関係ないのに…この人は新しいお父さんの事そんなに好きなんだね」
「そうかもな」
「碧は友愛が一番嫌い…」
突然碧の口から零れた言葉に戸惑う。
碧は何を今考えてるのだろう…。
碧の表情はどこか寂しげで
近くにいるのに遠く感じてしまう。
手を伸ばしても届かない様な気がした。
「碧にはゆうちゃんがいればいいから…」
この日の碧が俺に呟いた言葉の意味を
俺は気付かないふりをした
『ゆうちゃんがいればいいから…』
『あの人たちが消えても構わない』
そう聞こえていた。
わたしを見るゆうちゃんの目は明らかに心配していた。
あの手紙を読んでわたしが不安になってないか気にしてるんだろう。
わたしは何故この手紙をわたしに贈ったのかは分からないが、この人は本気で母親を殺すつもりなのだろうか…。
わたしには関係ない。
『ゆうちゃんがいればいいから…』
ゆうちゃんがいればあの人達は必要なかった。
だから、母親がどうなろうが知らない。
今のわたしは幸せだ
それだけでいい
心配そうにこちらを見つめる祐一郎が愛おしい。
私は徐に、手紙を破き近くのゴミ箱に入れた。
祐一郎は何も言わずにそれを見ていた。
ゴミ箱に入ったそれがを見ると気持ちがスッキリする。
わたしにあの人達は必要ない。
ゆうちゃんとわたしは図書室を出ると手を繋いで歩き出した。ゆうちゃんの手から伝わる体温が愛おしい。
「ねえ、ゆうちゃん?柏崎君とは何話してきたの?結構長かったよね」
「恋愛相談だった」
「ふうん、彼女と上手くいってないの?」
「んー、好きすぎて空回してる感じ」
「柏崎君一生懸命だよね」
「まあな」
碧から大輔の名前が出る度に小さな嫉妬が生まれていった。
靴箱で革靴に履き替えると我慢しきれなくなった嫉妬を碧にぶつける。
誰もいない靴箱で碧の手首を掴み引き寄せキスをする。
「ゆうちゃん?怒ってるの?」
「うん…」
「どして…?」
「碧が大輔の話ばっかりするから嫉妬してる…」
自分でも馬鹿らしい事を言っているのは分かってるし恥ずかしいけど碧は俺のことを馬鹿にしたりはしない。
むしろ、嬉しそうに目を細めていた。
「ゆうちゃんもっと嫉妬して…もっとキスしてよ」
碧のおねだりに応えるようにキスを繰り返した。
甘いキスの余韻に浸りながら顔を離す。
頬を染め俺を見つめる碧を見てると理性がなくなりそうになる。
「碧が可愛いからいけないんだからな」
「ゆうちゃん大好き…」
うっとりして抱きついてくる碧の頭を撫で、
駐輪場に歩く碧はいつも付いてきてくれる。
駐輪場に行くまでには大輔と話をした校舎裏を通る。駐輪場に着き自転車を探していると碧が制服の裾を摘んで引っ張ってきた。
「ん?」
「ゆうちゃんあの人早瀬さんだよね、隣の人は柏崎君じゃないよね…」
「は?」
碧が指差す方向には、バイクの駐輪場があり、そこには男女が二人何やら話をしているようだ。
二人は体を寄せ合い誰が見ても恋人だと錯覚するだろう。
碧と俺は二人に見えないように屈み、様子を見ていた。
「夏美、最近彼氏君とはどうなんだよ?」
「別に、普通かな顔がいいからデートするには丁度いいよね…でもお子様だからそういう事にはならないんだよね」
最低だ。大輔のことを話してるのかも知れないて思うと胸がざわついた。
二人はしばらく、大輔の事を話していた。
早瀬さんと男子生徒は離れる気配はないそれどころか…
「ねー、キスしてよ…いいでしょ」
という早瀬さんの一言で二人の距離は更に短くなり、唇は、触れ合った。
唇はなかなか離れず段々に激しいものに変わり、遂には…。
見ているのが辛い状況になり、碧と俺はこそこそと音を立てないようにその場を離れた。
「ゆうちゃん、柏崎君は知らないんだよね…」
「多分な…」
「あの人達最低だよ…」
俺にはどうするべきか分からなかった…。
大輔に伝えるには残酷すぎる…。
大輔が、どんな思いをして付き合ってるか知っているから余計に…。
「俺、大輔にはこの事黙っとくよ」
「碧も…知らない方が事がいいこともあるし、それに悪いことはすぐにばれるからね」
碧と俺はさっきの光景を忘れようと心に決め学校を出た。
人間って残酷な生き物だな
恋愛って怖いな
そう感じた一日が今日も過ぎていった。
「ゆうちゃん、碧あそこ行って見たい!!!」
今日は文化祭当日、一日目は舞台発表がメインで今日は二日目で屋台やバザーなど一般の人も入れるようになっていてとても賑やかだった。
碧が興味を示したのは、美術部の作品の万華鏡の展示コーナーだった。
「行くか」
俺達はあの日見たことを大輔にはまだ話していなかった。大輔は今日早瀬先輩と行動している。
何も知らない大輔の事を考えると気の毒に思えてくる。
美術室につき扉を開くと。
美術室の中は美術部の生徒の描いた絵や粘土の作品などで飾られていた。
碧に手を引かれ歩いていると、
『美術部政策の万華鏡』コーナー
と書かれた一角に着く。
「たくさんあるね!販売もしてるんだって!」
子供みたいにはしゃぐ碧は可愛い。
飾られている万華鏡を手に取り手の中で回す。
「懐かしいな…」
碧は万華鏡を覗きながら何かを思い出すように言葉を零した。
俺も一つ手に取り中を覗く。
カラフルな模様が回すたびに姿を変えて履かない気持ちになる。
「碧、昔おねだりしたことあるの、これが欲しくてさ、そしたら怒られちゃった」
懐かしいと零れた言葉の意味はあまりいい思い出ではないようだった。
「ゆうちゃん、万華鏡って綺麗だよね…回すたびに違う形になって…」
「うん、?」
碧の言葉に続きがありそうだったから語尾が疑問形になる。
「人間みたいだよね…見られている時には綺麗に振舞って、関わる人によって姿や性格も変わって…綺麗に見えるように偽って…でも、人間と違うのは、綺麗に見え続けられるところ…人間は綺麗を装えない。…いつか本当の姿がばれてしまう…」
「ん?」
「碧はそうなりたくないな…」
何かを思い出して寂しそうな顔をする碧の頭を撫でる。
「大丈夫だよ」
俺は碧にそれしかかけられる言葉が見つからなかった…。
万華鏡に夢中になっている碧からそっと離れて販売コーナーにある万華鏡を一つ手に取り美術部員の生徒にお金を払った。
小さな手で万華鏡を回している碧の肩を叩く。
「なあに、ゆうちゃん」
「碧、プレゼント」
万華鏡から俺に視線を変えた碧に万華鏡を渡す。
「買ってくれたの?!碧にくれるの?」
「碧のおねだりは今叶えられました、だから昔のことは忘れろよ」
俺が渡した万華鏡を握りしめた碧が俺の言葉を聞き、涙を流し始めた。
* あの日、母に貰えなかった愛を貰えた気がした。
幼い頃母に買い与えて貰えなかったものを祐一郎はこうしてわたしに与えてくれる。
それに…ゆうちゃんは忘れていいと言ってくれるんだ。あの日見た人間の多面性…。
早瀬先輩の性に乱れる様を思い出すと恐ろしくなる。愛の無い人間にも自分を愛してもらう事を楽しんでいる様を…。
きっと大輔にも、あの日の男子にも…きっかけがあれば誰にでも愛を振りまくのだろう…
自分を綺麗に偽って…いつか割れて壊れる日まで…
沢山の愛は必要ない。
わたしは綺麗に飾る必要はない。
祐一郎が愛を教えてくれる限りは…。
わたしは割れたりしない…。
涙を拭いながら祐一郎に向き合った。
「ありがとう、ゆうちゃん…大事にする」
泣くなよと言ってゆうちゃんはわたしの頭を優しく撫でた。周りには人が何人かいて、不思議そうにわたしたちを見ていた。
手を繋いで歩き出す。
ゆうちゃんといると学校行事も悪くないなと思う。
わたしのクラスの前を通るとメイド服を着て喫茶店の様な事をしていた。
馬鹿らしい…。わたしには関係ないけど。
ゆうちゃんが足を止めて中を見ているから少し不機嫌になる。
ゆうちゃんの視線の先にはクラスの名前も知らない女子がいた。
あの子のこと好きなのかな…?
胸のあたりがチクチクする。
ついに我慢出来なくなり口を開く。
「ゆうちゃん、なんであの子の事見てるの…?」
ついつい声に隠しきれない怒りが篭ってしまった。
ゆうちゃんはこっちを見ると何も言わずに歩き出した。
…なんで何も言ってくれないの…?
…胸が苦しいよ…
祐一郎に手を引かれて誰もいない屋上に到着した。
繋いでいる手すら胸を苦しめた。
屋上に着いて扉を閉めると祐一郎にいきなり抱き寄せられ唇が重なる。
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眼を閉じた。わたしなりのゆうちゃんに対するおねだりだった。
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祐一郎は何も言わずにそれに応える。
祐一郎にしがみつき、愛を受け取る。
キスをする度に祐一郎のことを好きになっていく自分を感じる。
祐一郎もそうなのだろうか?
夢中で祐一郎と唇を重ねていると、階段の方から足音が聞こえ身を離した。
まだ唇には、祐一郎の温もりが感じられて胸がドキドキする。
わたしはさっき言いそびれた事を祐一郎に話した。
きっと喜んでくれるかな
「ゆうちゃん、碧持ってるよ」
「ん?なにを?」
「ゆうちゃんが見たがってる服」
「え?!」
「学級費で買ったらしいから全員分あるんだよ」
祐一郎は、驚いてるのか黙り込んでいる。
そんなに、着て欲しかったのかな
ゆうちゃんが喜ぶなら今日来てくればよかった…
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祐一郎は何やら口元に手を置き顔を赤くしている。
「ゆうちゃん?」
「碧、俺」
「ん?なあに?」
どうしたんだろ?祐一郎の言葉を待った。
「碧…俺多分碧があんな服着てデートに来たら理性なくすと思う…」
ゆうちゃんったら…本当にわたしの事好きなんだな
「ゆうちゃん、大好き」
「いっ行こう、この話はもうおしまい!」
恥ずかしそうにうつむきながら歩きゆうちゃんについてわたしは歩き出す。
楽しまなきゃね、二人だけの時間を。
握った手は二人の体温が溶け合っていた。
俺達は、屋上から出て階段を降りると先程の足音の正体に出会い。気まずくなった。
「おっ祐一郎たちじゃん!」
そこにいたのは階段に座って焼きそばを食べている大輔と早瀬先輩だった。
「おう、大輔偶然だな」
「運命の出会いじゃね」
「……」
「なんか言えよ!」
俺達はいつも通り会話をしてそれを聞いている碧も笑っていた。
「大輔のお友達?」
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「そうっすよ、岡本くんと梅原さん」
大輔が俺たちを紹介すると早瀬先輩はこちらに言葉をかけてきた。
「はじめまして、早瀬夏美です!よろしくね」
「はじめまして、岡本です」
「はじめまして、梅原です」
俺たちも名前だけを簡易的に彼女に伝える挨拶をした。俺たちの表情は決して愛想のいいものではなかった。
早瀬先輩は大輔に寄り添っていたが、その表情はあまり楽しそうではなかった。
偽りの自分を演じているのだろうか…。
そんな事には全く気付いていない大輔はとても幸せそうだった。
大輔…はやく気づけよな
「お邪魔しちゃったな、またな大輔」
「またな、祐一郎」
嬉しそうに手を振る大輔の横の早瀬先輩は退屈そうに大輔を眺めていた。
高校生一年目の文化祭は大輔の事を考えなければ、
楽しめた気がした。
碧も楽しめただろうか?
碧といると学校行事も悪くないなって思えた。
来年の俺は今何をしてるのかは知らないが、
きっと隣には碧がいてくれる気がする。
今日も碧と俺の一日は終わろうとしていた。
俺が風呂から上がりまだしっかり乾いていない髪のままベッドに横になると、
携帯がブーっ、ブーっと震えた。
メッセージ一件 画像受信
碧からだった。
『ゆうちゃん、今日はいろいろありがとう!似合うかな…感想聞かせてほしいな』
「ん?なんだ」
碧からのメッセージを開くと、碧から送られてきた画像を携帯が読み込み初めて、それがなんなのかはっきりと映し出された。
「っん!!!…ごほんっごほんっ!!」
俺は映し出された画像の脳への大ダメージに思わず声を漏らし、噎せ始めた。
可愛い…可愛いすぎる…
それに尽きるとしか言いようがない。
携帯の画面に映し出されたのは碧が、文化祭で着るはずだったメイド服の様な衣装で、俺は昼間これを着た碧がどれだけ可愛いか、頭の中で想像していた。それと同時にただでさえ可愛い彼女のメイド服姿なんてほかの男に見せたくはなかったから。
本当に良かった。
俺だけの碧で…。
画像の中の碧は内股に座り、手を伸ばし全体が映る様にぎこちない笑顔で、こちらに向いていた。
昼間頭で想像していたより何倍も何十倍も、言葉で言い表せないくらいに可愛いかった。
ブーっブーっブーっ
碧の可愛さに悶絶していると、碧から電話がかかってきた。
「もしもし」
『ゆうちゃん、噎せてたけど大丈夫?』
「碧、可愛すぎ…可愛いすぎて噎せた」
『ゆうちゃんから言われる可愛いはいつ聞いてもにやけちゃう』
「碧が側に居たら俺、手出してたかも…」
何言ってんだろ俺。自分の言ったことを頭で理解し始めると顔が赤くなった。
『ねえ、ゆうちゃん…碧だってゆうちゃんに触って欲しい時あるよ…』
っ!!!何で今そんなこと言うんだ。
「でも、俺碧が大事だから、ちゃんと責任取れる様になってからその…」
『ゆうちゃんの真面目なところすごく好きだよ…』
「碧…それまでだれにも触らせないで…」
「うん、ゆうちゃんだけ…」
側に居たら抱きしめてたんだろうな、なんて思いながら碧の声を聞いていた。
『ゆうちゃん、メイド服なんて初めて着たけど髪の毛ツインテールが良かった?ポニーテール?勢いでそのまま撮ったから今度は髪型もちゃんとしなきゃね!』
碧さん俺をどうする気だ…
只でさえ、その…自分が男子だと感じて、眠れそうにないのに…
「碧、これ以上可愛くなったら俺、死んじゃう…」
『だって、前にゆうちゃん本屋さんでツインテールした女の子のエッチな本買ってたのしってるもん!あれを見て何したの…?』
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「あれは大輔からの頼まれごとだからな…」
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どうしよう、本当にこのままじゃ寝れそうにない。
困ったお姫様だな…可愛すぎなんだよ…
どうにか落ち着こうとした俺が携帯のアラームをセットしようとした時、たまたまコミュニケーションアプリに手が触れ、再び目から脳に碧が入ってくる
もう、どうしてくれんだよ。
俺だって男だからどうにもならない時だってある…
結局俺は、よく眠れる夜になる様に落ち着いてから眠った。
碧以外目に入らないくらい、好きになるなんて…
そのことをよく実感した一日だった。
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