黄昏一番星

更科二八

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2章 終末を呼ぶ狼

274話 旅の初日

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突然のデイバーまでの旅が決まり、ギルダナの西街区から街の外に出て街道を歩くこと7時間。
最初の2時間ほどは走って移動した。
普通なら午前中に出ないと最初の宿場町まで着かないからその分だ。
ガグはそれだけ走るとくたびれてしまっていた。

「はーぼちぼち最初の宿場町のバスコレが見えてくるぞ」

街道にある看板をガグが指差した。
看板にはバスコレまで2キロと書かれている。
ここまでの道中はずっと森の中だったが一直線で綺麗な道だった。
馬車2台すれ違えるだけの道幅もあり、急ぐ馬車もないので馬車を避ける事もなく、ひたすら歩き続けるだけの道のりだった。
素直な感想だと退屈だ。
森の中だと景色がずっと変わらない。
なので残り2キロの看板を見たら期待が膨らむ。
すぐにでも走って行きたいが、ガグは走りたくなさそうなので落ち着いていこう。

看板の場所から10分少々歩くと森が開けて農地が見え出し、そしてその向こうに木造の家屋が並ぶ集落が見えた。
塀などはなく町の外側は簡単な柵で囲われているだけだ。

「あそこがバスコレ?」
「そうだぞ、ギルダナと比べると寂しいもんだろ」

言われてみるとそうなのだが、他の町のことなど全く想像できていなかったからこれはこれで新鮮だ。

「バスコレは宿屋は多いんだがそこそこ高めだしこの時間にななればほぼ埋まってる。
宿場町をこのまま抜けると、反対側に野営地があるからそこまで行こう」
「わかった!」

時間はもう夕方で日も沈み出しているしそんなものなんだな。
初めてきた別の町に興味はあるのでキョロキョロしながら通りを進んだ。
基本的には街道に面したところは宿屋ばかりが立っている。
それと少しの飲食店などだ。
建物の印象的にはギルダナよりも古く感じる。
まだ日のあるこの時間でも人通りは少なく、ガグに言われた通り寂しい印象だ。

「辺境伯領だからなーギルダナはそれなりに栄えてはいるけどなんだかんだ田舎なんだ」
「へーじゃあ王都の方面になると宿場町も豪華なのか?」
「古い建物は多いが活気はかなりあるな。
ぼちぼち麦の収穫が始まって商人も活発に動き出す頃だ。そうなれば王都までの護衛も増えてくる。秋ぐらいには一度王都まで行ってみるか」
「俺のランクで受けれるの?」
「俺の補佐で連れてけば大丈夫。一度は長距離護衛も経験しとかないとだしな」
「たしかに、それじゃ秋になったらよろしくな!」

長距離の護衛の前には短距離区間の護衛の仕事も経験しとかないとだよな。
夏になると討伐の依頼も増えるのだと聞いたしこれからは傭兵の仕事が忙しくなりそうだ。

「あそこの店に寄るぞ、肉とスープが買えるんだ」
「今日の晩飯か」
「俺がここくるといつも食ってる大した事ない飯だ」
「それでも楽しみだぜ!」

ガグが手早く店で買い物をしてから野営地に移動した。
野営地はほんとただの広場だ。
数台の馬車がとまって魔法の灯りを灯して飯の支度をしたりしている。
俺とガグは人気の少ない場所に陣取りまずは天幕を設置した。
初めてのことなのでガグに全部教えてもらいながらやった。

「おおー!」

苦戦しながらも設置できた天幕を遠くから眺めていたら嬉しさが込み上げてきた。

「ははは!初々しくていいな!」
「ガグはいくつからワーカー始めたんだ?」
「俺は14の頃からだな。不作の年で三男だから家を追い出されてな。どのみち傭兵にはなるつもりだったから別によかったんだけどな。
さて、もう日没も過ぎてしまったし飯の支度を急ぐぞ」
「おう、そうだな!」

ガグの話には興味があるけど言われた通り飯だな。
ただ俺がやる事は特になくガグは荷物から小さな折り畳みの机と魔道具のコンロなどなど取り出して設置して準備完了した。

「ガグ料理出来るのか?」
「肉を焼く事だけならな!このハーブソルトかけて焼けばだいたい美味い!」
「へー手軽でいいな!」

かくいう俺も料理なんてしたことがないし肉を焼いた事もないからそれができるだけでも凄いと思う。
タイガって料理できるのかな?
そいや鬼たちの村での仕事全般やってたって言ってたし出来るんだろうな。

「エドガーは魔力ある方か?」
「かなりあるって言われてるぞ」
「なら魔法コンロの火と明かりの魔道具を頼めるか。俺はそれ使うだけでも疲れてしまうからな」
「おう!まかせろ!」

まずは明かりの魔道具だが、ここは一つ日頃の成果を試したい。
自分の手のひらに集中して魔力を集めて、明かりをイメージする。

「光よ灯れ!」
「うわ!」
「あああ!」

野営地全体を真っ白に照らし出すほどの魔法の明かりが生まれて俺とガグの目がやられてしまった。
焦ったせいで魔法はすぐに解けてしまったが逆によかった。

「うわぁぁ目が!」
「すまん!ほんとすまん!つい気合入れすぎて加減を間違えた!」

思えば全力で魔力集めていた。
加減間違えるとこんなことになるなんて思わなかった。
とりあえず気持ちを落ち着かせつつ目を閉じて真っ白になった視界が元に戻るのをまった。
数分を要してようやく元に戻った。
ガグも無事なようだ。

「ほんとごめん、明かりの魔道具つかうよ・・」
「ちゃんと出来るようになるまではそうしてくれると助かる。
しかし明かりの魔法でこんなになるのは初めて見たな」
「俺もこんなになるなんて思ってなかった」
「いい経験になったんじゃないか。もしも火おこしの魔法でやってたら大爆発起こしてたかもしれんから助かったな」
「うわー怖!確かにな。タイガに明かりの魔法しか使うなって言われてたのはこれを見越してたのかもしれん」
「用心深さに救われたな」

本当にそうだ。
ちゃんと魔力量のコントロール覚えよう。
タイガに調子を整えてもらっていた時は魔法もうまく行く事が多かったが、いまはこの通りボロボロ。
それでも最近ちょっとうまく行く事が増えてきたからといって過信は禁物だ。
そして全力は危険!覚えた!

その後はちゃんと魔道具に少しずつ魔力を注ぎ適度な明かりと適度な火力を提供して夕食となった。

「んー!鶏肉ジューシーで美味い!」
「ははは!だろ、ハーブソルトかけただけだけどな!」
「このスープも美味い!」
「これはいろんな肉の骨からとったスープなんだと」
「へー骨ってスープになるのか!」

いつも食ってる料理がなんなのかとかあまり気にしたことがなかったがちょっと興味が湧いた。
こうやって野営することも今後はあるのだから何かしら作れるようになりたいな。

「なあガグ、さっきの話しなんだけどワーカーなった後はどうしてたんだ?」

飯時に聞いてみたいと思っていたガグの昔話を質問してみた。

「俺は東の隣国のガドス帝国の北東あたりの小さな農村の出身なんだけどな。結構オーガ族が密集してる地域。だけどかなりど田舎でなー。ほかの追い出された奴らと一緒にまずは1番近いギルドのある街に行ったんだ。そこで同じオーガ族の先輩傭兵たちに面倒見てもらいながら依頼こなして基本的なことを教わったぞ」
「へーいい先輩に会えたんだな!」
「オーガ族は荒くれも多いが面倒見もいいやつも多いな」
「ガグもだな!」
「困ってる後輩は助けろって教えだからな。あまり頼られたことないけどな」

ガグは別に強面でもないしデカいだけでそんなに怖くないし凄いいいやつなのに人気がない。
なんでなんだろうな。

「最初いた街では3年でランクをDまで上げてから、別の街や国にも行ってみたいと思うようになってな、そこから長距離護衛なんかやりながら数年ふらふら旅してたんだ。
そんで3年前にギルダナにきて娼館でカイルに会ってから今に至る感じだな」
「急に凄いざっくりだな」
「ほんとフラフラしてただけだからな!明確な目標持ったのがカイルに惚れてからだ。
でもまあエドガーの知っての通りあまり稼げてないけどな」
「こないだの魔物の侵攻があった以外はギルダナってずっと平和だしな」
「そうなんだよな、いい事なんだが傭兵的にはなー。でも切り裂き魔が出たとか教皇捕まったりとか最近はちょっと物騒だったな」
「それもタイガと兵士団が解決したことだけどな」
「タイガのやつはそれにも関わりがあるのか・・」
「タイガって故郷はもうなくなってるけど、元は国の護りを担う家の生まれなんだって。この国に来たのはたまたまだって言ってたけど、国を護ような役割を持ってるのかもしれないな」
「役割か、なんだか大変そうだが、かっこいいな」
「だよな、俺もいつか肩を並べられるようになれるといいんだけどな。冒険者になりたいって目標もあるんだけど、これが俺の本当の目標」
「魔族を倒すようなやつに追いつくのは相当な努力が要りそうだな。頑張れよ」
「おう!」

話もひと段落して飯を食べ終わるとさっと片付けて天幕にはいって毛布にくるまった。
初野宿でワクワクするが気持ちを落ち着かせて寝ることに集中する。
寝坊は厳禁だ。
変に緊張しないうちに寝よう。
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