上 下
155 / 160
最終章 奈落ノ深淵編

第150話 禁忌の儀式

しおりを挟む
 グギャアアアアアアアアァァ!!!!

 白銀プラチナ色の蛇皮を身に纏ったバジリスクの首が断末魔と共に跳ね上がった。
 力なく倒れたバジリスクの目の前には剣を鞘に収めるバルベリッドが居た。

「終わりました、バルバドス様」

「では進め」

 奈落ノ深淵に入ってからバルバドス達も最奥地へと向かうために進んでいる。
 バルバドスは入ってから沢山の魔物達と戦ってきた。それもあり、最初に入ってきた兵士達は誰1人残っている者はおらず、バルバドスとウィーンドール、そしてバルベリッドのみとなってしまった。
 バルバドスは地面に置いていたセシリアを再び抱え、歩みを始める。
 あれからかなりの時間が掛かっているが一向に目的地へと近づいている様子が無い。
 まるで、奈落ノ深淵がバルバドス達の進行を拒むかのようにだ。
 バルバドスも少々苛立ちすら見せており、バルベリットが率先して先を歩き、進行を早めていた。

「しかしまぁ、ここまで時間が掛かったことがこれまでにあったのでしょうか?」

「このダンジョン自体がランダムで生成されるのだ。時間が掛かるのは想定の範囲内だ。それに、どんなに時間が掛かろうと我々は進むだけだ。ふっふっふ」

 バルバドスは不敵に笑いながら歩みを進める。ウィーンドールは複数の腕をバルバドスの腕に絡みついて一緒に歩いた。


 ☆☆☆☆☆


 歩みを再開してから数分が経った時、目の前に光が差し込む部屋が見えた。
 3人は光の中へと入るようにその部屋へと入る。
 その部屋は巨大な場所だった。壁の回りには松明によって照らされた極彩色に輝く魔結晶の塊が着いている。外から見た光はこの魔結晶の光の反射によって生まれた物だった。
 道をまっすぐ進んでいくと4つの柱と中央に大きな台座が置かれた神聖な場所に辿り着く。
 4つの柱には赤、緑、白、そして青の炎のような物が浮遊している。バルベリッドがその柱に近づくと、柱にはそれぞれ、鳥、亀、虎、龍の絵が刻印されている。
 恐らく、これが四神の封印されし魂だろう。この魂から出る膨大な魔力によって壁に魔結晶が大量に生まれているのだ。
 こここそ正しく探し求めていた奈落ノ深淵最奥の部屋、【世界ノ中心アースコア】である。

「ふっふっふ、到頭ここまで来たか。ここにさえ来れれば私は世界を取ったのも同然だ」

「うふふ。ええ、やっとなのですねバルバドス様」

「……」

 3人は台座の方へと向かう。バルベリットはその2人の後を追うようについていく。
 台座の前へとやってくるとバルベリットは台座の上にセシリアを寝かせた。石作で出来た台座は少し触れただけでも冷たい。

「ここまでご苦労だったなバルベリット」

「いえ、何も問題はございません」

「ふむ、では早速始めようか。禁忌の儀式を!」

「はっ!」
「承知いたしました」

 バルベリットとウィーンドールは一歩下がって、台座の前へと祈りを捧げる体勢を取り、跪く。
 バルバドスは大きく両手を挙げる。

「ああ、世界よ……四神よ、我が名はバルバドス。竜の魔人にして世界の中心に立つ者である。今、目の前に我が身体と融合する才のある贄を用意した。さぁ世界よ我が元に力を授けたまえ!」

 バルバドスが呪文を唱え儀式を行おうとしたときだった。

「そこまでだ!! バルバドス!!」

 バルバドスには聞き覚えのある声が部屋の後ろから聞こえてきた。
 バルベリットとウィーンドールが振り向くとそこにはフール達が居た。

「馬鹿な……私達よりも早くここに辿り着いたと言うのか?」

「はっはっは、なるほどな。最後の最後までやってくれたなケルディア女王……これこれはフールよ。よくぞここまで辿り着いたな」

 バルバドスも振り向き、フールへ顔を見せた。

「だが、一足遅かったな。後少しで儀式が終わる。そうすればお前達は私に手がつけられなくなるのだからな」

 バルバドスはゆっくりセシリアの頭を撫で、その手が首へと運ばれる。

「何をする気だ!!」

「決まっている。この女には素晴らしい潜在能力がある。この身体と私、そして四神の力を融合させ、真の神をこの世界に降り立たせるのだ!!」

「そんな事は絶対にさせない!」

 フール達が駆け出そうとした時、バルベリットが剣を抜いて目にも止まらなぬ速さでフールへと距離を詰めた。

「フールさん危ない!」

 そこへ間一髪、ルミナが割って入り、盾で身を守ってくれた。

「ここから近づけるとでも思っているのか?」

「くっ! セシリーが起きてくれれば……」

「ルミナ手伝うぞ! 頼むぞ大名医ノ杖アスクレピオス! "EX治癒"!!」

 大名医ノ杖を通してEX治癒がルミナにかかる。
 ルミナが力を入れ、盾を薙ぎ払うと強大な怪力によってバルベリットを引き離した。
 大名医ノ杖の魔力伝導が今までの杖よりも性能が良く、直ぐに効果が発揮されているのが目に見えてわかった。

「凄いぞこの杖……」

「ほう、これが魔力無限の力か。流石は原初ノ能力だ。私も面白いものを見せてやろう」

 バルべリットは剣で自身の腕に切り傷を付けた。切り傷から剣に付着した血が一気に剣を包み込み、暗黒の闇の様に黒くなる。

能力除去ハイエロファント

 バルべリットは瞬く間にルミナへと近づいて剣を振り下ろす。
 ルミナは盾を構えるが、バルべリットの巧みな剣術によって、身体の軸がぶれて隙が生まれた。

「素人が」

 バルべリットの剣がルミナの脇腹を貫いた。

「きゃあ!!」

 ルミナは盾を離し、そのまま力なく倒れる。

「ルミナ!」

 ルミナの金属鎧を貫通しており、脇腹に深く傷を負っていた。
 俺はEX治癒を持続詠唱していたので防御力も上昇していた筈なのに攻撃が通じてしまった。更に傷がすぐ回復する筈だと思われたが傷口が塞がらない。

「ルミナ! 大丈夫か!?」

「い、痛い……」

「くそ! 応急手当てだ! パトラ! 傷口を頼む!」

「わ、分かったぞ!」

 どうしてだ? EX治癒を掛けていたのにルミナは攻撃を受けた。それに1番驚いたのは傷が癒えないと言う事だ。まさか、これが奴の力なのか?

「緩いな、この程度の実力でよくここまで来れたものだ」

 くそ、ルミナが負傷してしまった。これで前衛に立てるものは誰もいなくなってしまった。

「フールさん、このままだと」

 心配そうにソレーヌが俺に近づく。

「ああ、まずい状況だ」

 この時、いつも前に立って果敢に闘ってくれていたのはいつもセシリアだった。セシリアの存在がこのパーティでどれほど大きい存在だったかを改めて知る。

「もうこれで終わりだな。フール」

 セシリア、聞こえているなら起きてくれよ。

 いつもの様に俺の元で一緒に戦ってほしい。

 なぁ、頼むよ。

「聞こえるか!! セシリアァアアアアーー!! 聞こえるなら早く起きろぉおおおーー!! 俺達をたすけてくれぇぇ!!!!」

 俺はこの中に響き渡るほど大声を上げた。
 頼む、起きろ! 起きてくれ! 俺たちはお前が必要なんだ。

「ふっ、無駄だ。お前の叫びなど意味がない。さぁバルべリット、奴らを殺せ」

「承知した」

 剣を構えてこちらを睨んだ。バルべリットは殺気をこちらに向け、踏み込もうとしたその時だった。

「お母さん!?」

「何だと!?」

 バルバドスが後ろを向くと突然現れた熱波に襲われる。
 その熱波は部屋全体に向けて放たれる。

「ちぃっ!?」

 バルべリットはギリギリのところで熱波を回避した。
 熱波は俺達に直撃する直前で消えた。
 何が起こったのかと思ったが、それはすぐにわかった。

「あれ? ここ、どこ?」

 台座で起き上がったセシリアの姿があった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。 ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。 身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。 そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。 フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。 一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行
ファンタジー
 ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

処理中です...