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最終章 奈落ノ深淵編

第130話 日ノ出

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「調子に乗るな!!」

 ノンナはライナの身体へ向けて何度も挙を叩きこむ。
 しかし、ノンナの激しい連撃を受けるライナ身体に傷は1つも付かず、余裕な表情を浮かべながら欠伸をしていた。

「私の攻撃が、効いてない?」

「生ぬりぃパンチだなぁ。バンチってのはこうやるんだよ!!」

 ライナはノンナの腹へ挙を叩きこむ。

「かはっ!?」

 腹筋に挙がめり込み、そのまま後ろの壁に吹き飛ばされ、身体が壁にめり込む。
 ノンナは血を吐きながら、ゆっくりと立ち上がった。

「き、貴様ぁ、一体何を……」

 その時、ノンナは俺の事を見てはっとする。ノンナは俺の力によってライナが強化されていることに気づいたのだ。
 俺の EX 治癒の魔法によってノンナには俺の注いだ魔力分の攻撃力と防御力が上がっており、更に回復能力までついている。

 ノンナの攻撃など今のライナにとってハエが止まる程度に過ぎず、ライナの攻撃カはノンナを超えているのだ。
 ノンナは血を吐き捨て、拳を握りしめると氷の鉤爪を生み出し、俺へ向けて突っ込んでくる。しかし、その間にライナが入る。
 防御力が上がっているにも関わらずライナの身体に鉤爪が刺さった。ノンナにはそれほどの攻撃力を持っているということだ。しかし、その傷は空しくも一瞬で傷が癒えてしまう。

「ば、化け物か!?」

「だから、てめぇの相手はあたいだろうが!!」

 ライナはノンナの顔面に向けて右ストレートを叩きこむ。
 大きな衝突音と共にライナは吹き飛び、地へ転がり落ちる。
 これまで、不利な状況だった俺たちは正に一転攻勢の展開になったのだ。
 大きなダメージを受けたノンナはまたしても、ゆっくりと立ち上がる。
 眼が腫れ、口から血を吐き出し、ボロボロな体でも歯を食いしばって立ち上がる。
 彼女には回復能力はない。己の根性によって立ち上がっているのだ。
 しかし、ノンナは苦しい表情から急に笑い始める。

「久しぶりだ……ここまで追い詰められたのは、これほどまでとはな、魔力無限め。ならば、こっちも全ての力を出させてもらう」

 そう言いながらノンナは身体に力を入れる。

「はぁあああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 叫びと共にノンナの身体から黒いオーラが生み出され始める。
 一気にそのオーラが解放されると俺たちの周りが黒い間で包まれた。
 さっきまで城のエントランスだった場所は一気にこの空間に暗闇へと変わった。皆がその闇の中で見たものは、ノンナの頭上に現れた青い月である。それを見た瞬間、仲間たちが一気に力が抜けたようにその場に座り込む。

「何これ、力が、抜けてく」

「た、立てません!」

 ルミナやソレーヌが弱々しい声で呟く。気が付くと俺も身体が脱力していく。それは立っていられない程に身体に力が入らない。

「おい! フールどうした!?」

「すまないライナ、力が、うまく入らないんだ」

 俺の魔法は辛うじて持続できているものの、先ほどよりも注ぐ魔力量が減っている。つまり、EX治癒の効果も弱まってしまっているということになる。

「私が指定した空間内に居る者全ての能力を低下させる。範囲に制限など無い。これが私の力、【影駭響震ザ・ムーン】だ。まさか、お前たちに使わされるとはな」

 ライナは俺の魔法によって、ノンナの能力と相殺されている。しかし、実質ノンナの攻撃力、防御力は共に元に戻ってしまったのだ。さらに、俺もいつまで魔法を持続させることができるかもわからない。もし、俺がここで魔法行使を止めればライナもお終いだ。

「くっ! フール! あたいがこいつを倒すまで魔法の持続続けろ!! 気合だ気合!!」

「なんとか、やってやるさ!」

「ふん、能力上昇で粋がってた三流が、舐めるな!!」

 ボロボロの身体を奮い立たせてライナへと襲い掛かる。身体にダメージを受けていてもノンナの動きは全く衰えていない。寧ろ殺意が膨らみ、更に動きが機敏になっていた。
 ライナはノンナの攻撃をガードするが、守りの甘い部位を殴られると防御力がほぼ元に戻った状態なのでダメージを受ける。
 体勢が崩れたライナの隙を逃さずにノンナは拳の連撃を叩き込む。ライナの傷は癒えてはいるが、回復速度は明らかに遅くなっている。

「くそっ!! フール!! これじゃあ魔法の意味が無ぇじゃねぇか!!」

 俺も何とか杖にしがみ付き、ライナへの魔法の詠唱は止めまいと奮闘はしているが、能力低下がどんどん俺の身体を蝕んでくる。杖を持つ握力さえも段々と衰え、俺は杖を身体で支えていた。

「これで、終わりだ!」

 ノンナは両手を獣が口を開いているようにライナへと向ける。

氷狼ノ牙フェンリルバイト!!」

 掌の中で瞬時に冷気が凝固し、ライナへと向けて解き放たれる。その氷塊は巨大な狼の頭部へと変わり、鋭い牙を見せつけながら、大きく口を開いて飛んでくる。
 あの攻撃が当たれば、俺の回復が追いつけない程のダメージを受けてしまうだろう。このままではライナがやられてしまう。
 しかし、ライナが避けてしまえば後ろの動けない仲間達が被害を受けてしまう。

「ライナ! 不味い!」

「ああ! 分かってる! だけど、やるしかねぇだろ!!」

 ライナは躊躇う事なく、ノンナの攻撃を受け止めようとしている。
 氷狼ノ牙はもう直ぐそこまで近づいてきている。

 最早これまでか……そう思った時だった。

 ライナと俺の前に飛んで割り込んできたものがいた。
 金属鎧を身につけた綺麗な金髪をした女性はここに1人しか居ない。

「カタリナ!」

「お前!?」

 カタリナは身体が衰弱しても尚、力を振り絞ってここまで来たのだ。俺たちを守る為に。

聖盾ノ守護パラディンガード!!」

 カタリナの持つ聖騎士のスキルによっての盾が光のオーラに包まれ、防御範囲が拡張され、俺達を囲う結界となった。
 そして、カタリナの盾とノンナの氷狼ノ牙がぶつかり合う。
 氷狼はカタリナの結界を壊さんと、牙を立てて齧り付く。カタリナは俺達を守る為に必死になって守り続ける。

「私は、守る。必ず、仲間を守ってみせる!!」

「無駄だぁ!!」

 ノンナはもう一度スキルを発動し、もう一度氷狼ノ牙を解き放つ。氷狼が2体になったことによって、2同時にカタリナのバリアを痛みつける。氷狼の威力はやはり強力である。
 カタリナの結界にひびが入り始めた。それでもカタリナは最後まで諦めなかった。

「私は、騎士だ!! うぉおおおおおお!!!!」

 残っている気力全てを使い、最早根性だけで俺たちの事を守るカタリナ。しかし、その後思いはもう少しで打ち砕かれようとしている。

「死ねええええ!!!!」

 2匹の渾身の噛みつきによって、カタリナの結界は等々粉々に砕かれた。防御力がほぼ底をついた絶望的な状況でもカタリナは盾を構える事をやめない。
 そんなカタリナに対して、慈悲もない2匹の狼はカタリナへと牙を向けた……その時だった。


 ライナが額に血管を浮き上がらせ激怒し、身体を震え上がらせ、獅子の吠えるが如く叫んだ。

「全員気合いで起きろぉおおおおおおおおお!!!!!!」

 ライナの叫びと共にライナの身体から光が生まれる。身体に集まった光はライナの頭上へと集まっていくと、大きな光の玉が造られた。グツグツと紅く沸っているその光球はノンナの作った闇の空間を太陽の様に照らしていた。

「あれは何だ?」

 ノンナが驚いたように光球をを見ていると、その光球の真下では動きがあった。
 ノンナが生み出した氷狼達がもがき苦しんでいるのだ。そして狼達は力無く地面へ落ちると、溶けて消えてしまったのである。

「馬鹿な……」

 更に、動きはこれだけではない。

「あれ? あの光を見てると、力が出てきます! 身体が軽いです!!」

 さっきまでぐったりとしていたソレーヌが元気よく立ち上がる。

「わ!? 何これーー!? 身体が軽すぎ!!」

 ルミナも顔色が良くなり、盾を持って身体の軽さを感じていた。

「え? ほ、本当ね」
「な、何なんですかこれは……」

 サラシエルもセインも困惑しながら立ち上がってくる。
 俺もその光の温かさ、そして光を浴びていると力が湧き上がってきた。少し前は骨抜きだったはずが、今では身体の底から力が溢れてくるのだ。
 ライナの生み出した光の玉によって衰弱していた仲間達全員が元気になったのである。

「うお!? 何だよこのデカくて眩しい玉は!?」

 上を見たライナがようやく玉の存在に気がつく。どうやら意識的に出した訳ではないようだ。

「この短時間で『気炎万丈ザ・サン』に貴様が選ばれたというのか!? この忌々しき能力が!!」

 どうやら、ライナが無意識に発動した能力は【気炎万丈ザ・サン】と言うらしい。ノンナの【影駭響震ザ・ムーン】とは対照的に擬似的な太陽を生み出し、周囲に光を照らす。その光に当たると力が湧き上がってくる、それが能力だろう。
 憶測だが、ノンナの影駭響震が【能力を低下させる能力】なら、ライナの気炎万丈は【能力を向上させる能力】だろう。

「へへっ、ちょっと喝を入れようと思ったけど、何だか面白い事になったな。おいフール!! これでお前も復活できんだろ?」

「あ、ああ。何とかな」

「よし、ならさっさとボコしちまおうぜ。ノンナあいつを」

 ライナは座っているカタリナの手を強く引き、身体を立たせてから前へと出た。

「良い盾だったぜ、流石は騎士様だな。次はあたい達が良いとこ見せなきゃな」

 ライナはにこやかに笑った後、真剣な目つきへと変えた。その後ろ姿をカタリナは暖かく見守る。
 俺もライナを支えるべくカタリナの横を通り、ライナの側に近づこうと歩み寄ろうとした。

「フール!」

 その時、カタリナに声をかけられた。俺は振り向く。

「ライナを頼む」

 俺に向けられたカタリナの目は心から信頼している気持ちが伝わってきた。本当の意味で、俺はカタリナに認められたのだ。そんな信頼を失うわけにはいかない。

「ああ! 任せろ!!」

 返事をした後、俺はライナの近くへと駆け寄り、改めて杖を構える。

「ライナいくぞ! 必ずあいつを倒してくれ!!」

「当然だ!!」

 ライナが構えをとり、鋭い眼光をノンナへと向ける。俺たちの頭上にある太陽が大きくなり、光が強くなったのを感じた。

「まだだ! 私は諦めん!!」

 ノンナも気合いを入れ直し、影駭響震の力を増大させる。
 しかし、太陽の光にノンナの月が照らされ効果範囲が縮小されていた。

「何故だ……何故だぁ!?」

 光と闇のぶつかり合い、闇は孤独に勇ましく抗うが、皆の想いが込められた希望の光に対しては無力なのだ。
 夜はいつか必ず終わり、日の出が訪れる。そして、その時は来た。
 フールの力、そして自分の力によって強化されたライナはノンナの戦闘力どころか全ての能力値が最大限に引き出されていた。
 ノンナの懐にライナが音速の速さで接近する。その速さはあのノンナでさえも追いつくことはできない。次の動作を行う頃にはライナの次の動作が入ってしまう。
 つまり、この戦いの終焉が見えたという事だ。

「終わらせる! このあたいが!!」

「糞がぁああああ!!!!」

 ライナは右手を獣の巨爪へと代え、身体の全てを使ってノンナへと一撃を叩き込む。

「"憤怒ノ爪牙ウィル・オブ・ダウン"!!」

 爪がノンナの腹筋に刺さり、そのまま力任せに壁へとたたき込む。ノンナの身体がエントランスの壁を突き破り、何枚もの壁を壊しながら吹き飛ばされていき、20枚目の壁が壊れたところで止まった。
 距離が遠いが明らかにノンナが地面に突っ伏し、少しも動きそうにない様子だった。
 俺は魔法の詠唱を解くとともに、頭上の太陽も消滅した。暖かな光が消え、身体の調子が元に戻ったのを感じる。

「ライナ……」

 俺が声をかけると、ライナは突然飛び上がり、両手を腕に挙げた。

「やったぜぇえええええええ!! ざまぁみあがれってんだ!! やったぜ! あたいやったぜ!!」

 大喜びしながら、ライナは俺の肩に腕をかけ俺の身体を引き寄せる。ライナの力が強すぎて首が閉まるほどに……

「サンキューーなフール!! お前が居なかったあたいらもお前らのこと助けられなかったぜ!!」

「わかった! 分かったから放せ! 苦しい!!」

「なんだよ良いじゃねぇか!! あたいらいいコンビだっただろぉ~~?」

 こうして、ライナは強敵ノンナを倒してくれた。これで少しは一段落……になることはない。浮かれているライナを後ろからカタリナが水を差した。

「喜ぶのはまだ早い、奴が残っている」

 そう、これまで俺たちの戦いをずっと傍観していた者……カタリナの目線の先にそいつはいる。

「えぇ……倒されちゃったんですか、お犬さん」

 溜息を吐きながらアスモディーが呟く。
 まだ、気を抜いてはいけない。気だるげそうに立つ包帯まみれの四大天の1人がまだ残っているのだから。
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