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最終章 奈落ノ深淵編

第129話 真なる騎士道

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「貴様、何の真似だ?」

「相手は、まだ子供だぜ?」

「関係ない。それに貴様は自分が何をしているのか分かっているのか?」

 ライナはノンナの拳を掴んだまま睨みつけ、にやりと笑う。

「そこの誇り高き騎士様がてめぇにブルってるからよぉ。代わりあたいが出てきてやったんだよ!!」

 ライナは流れるような動きでノンナの腕を掴むと背負い投げをかける。しかし、ノンナは身体が地面に打ち付けられる前に足で踏ん張り、ブリッジの態勢で攻撃を防いだ。
 ノンナは間接を器用に曲げ、拘束から抜け出し、ライナへ挙を振る。
 肉弾戦が得意なライナの脅威の動体視力によって、ノンナの拳は空を切る。隙を見てライナも挙をノンナへ振るうが同様に避けられてしまう。
 数秒お互いの攻防が続いたが、ガードが甘かったライナの横腹にノンナの拳が入り、体勢が崩れた。

「ぐぅ!」

「どうした? 私に逆らったでかい態度の割には大したことないな」

 ライナは脇腹を抑え、呼吸を整えながらゆっくりと立ち上がる。

「おい! フールてめぇ!! 寝てねぇで早くてめぇの仲間を治療しやがれ!! 何の為にあたいが出てきたと思ってんだ!!」

「悪いな……ライナ」

「謝罪よりも早く加勢しろ!!」

 俺は、自分の治療を終わらせ、倒れている仲間の元へと向かう。それを見たノンナが俺の方向を向くが、そこへノンナが割込む。

「てめぇの相手はあたいだ」

「邪魔をするな、このゴミ」

「ゴミなら直ぐ処分してみな!!」

 ライナは回転職りをノンナへ何度も畳みかける。ノンナは足を器用に使い、バックステップでわざと攻撃を紙一重で避ける。ライナの隙を読み、ノンナも足を突き出した。
 ノンナの攻撃がライナに直撃し、壁へと叩きつけられ、そのまま倒れ込む。
 戦い馴れした無駄のない動きによって翻弄されているライナは実力差を感じていた。
 しかし、ライナは歯を食いしばって立ち上がる。

「貴様は私に勝てない」

「はぁはぁ……」

 ライナは横目でグリフォンの仲間を見る。サラシエルは怯え切っており、セインは目を伏せて動かない。そして、リーダーとして肝心なカタリナは突っ立って下を向いていた。
 そんなパーティの状況にライナは大きく溜息を吐いた。

「どいつもこいつも……」

 ライナは頭を犬のようにブルブルと振る。

「“身体獣化ワイルドグロース ”『狂暴変異アタックモード』!」

 ライナは自身の特殊能力を発動させ、四肢が戦の釣爪と変わっていく。

「“凍結挙”『氷爪撃』」

 ノンナも能力を発動させると、周囲に霜が立ち込み始め、両手に氷の爪が生える。

「いくぜぇえええええ!!!!」

 咆哮と共に床を蹴ってのライナが飛び出す。それに合わせてノンナも飛び出し、お互いの拳がぶつかり合う。獣の爪と氷の爪がぶつかり合い、火花が飛び散る。
 お互い、拳を畳みかけるような連撃を振るい合った。

「おい! 聞いてるか!? 駄目リーダー!!」

 戦っているライナから声を変えられ、カタリナは思わず顔を挙げる。

「朱雀倒した後、お前と飯行った時、俺に言ったよな!! 騎士道がどうだとか、助けた理由はあーーだこーだとかよぉ!! 憧れてた奴がいるって言ったのはてめぇだろうが!! 自分で言ったことも忘れちまったのか!?」

 ライナがカタリナを帰る。カタリナの身体が小刻みに震える。

「それに! てめぇ 1人で抱え込んで、何も言わねぇで突然、命の恩人捕まえるって納得いくわけねぇだろうが!!」

 話しながら戦っているライナの動きには粗がある。それをノンナは見逃さない。

「話す暇があるのか?」

 ノンナの右ストレートがライナの顔面に入る。ふらついて、倒れそうになるがライナは気合で踏ん張った。

「くぅ……カタリナ、怖いんだろ? 殺されるのが」

「……」

 カタリナの額から汗がこぼれる。強がるところすら見せられない様子に、ライナは唾を吐き捨てる。

「あたいは怖くないぜリーダー。なんせ、あたいは生まれた時からとっくに死んでるからだ。差別を受け、誰からも愛されず、必要とされず、冒険者になっても必要とされねぇからあたいは一人でのしあがったのさ。でも、あんたは違った。こんなあたいでも助けてくれただろ。
 仲間だからとか騎士道だからとか御託並べて、命を落としかけてたくせに。でも、あたいは素直に嬉しかったんだ。
 その日、誰かに初めて守られたんだ……それも2人。騎士道を掲げる女とインチキ回復術士にな。リーダー……てめぇの騎士道ってのはその程度かよ」

 カタリナは目を見開く。

「てめぇの恩師の意志は死で揺らぐもんなのか!? 恩師は死を恐れたか!? てめぇの掲げる騎士道はそんなに脆いのかよ!! 目を覚ませよカタリナァアアアア!!!!」

 ライナはカタリナに向けて激を飛ばした。
 その時、激情したライナは胸の中で何かがはじけたような気がした

 そうだ……私は恐怖によって塗り隠されていた。私には絶対にぶれてはならない意志があった。それは、受け継がれた意志、必ず果たさなくてはいけない役目。それを私は掲げていたはずなのに……どうして、忘れてしまっていたのだろう。

『カタリナ! 希望を持つんだ!』

 恩師、オルベリスクが残した言葉が頭の中に響く。
 彼の……誇り高き騎士としてのあるべき姿を私は受け継ぐと替ったのだ。
 真なる騎士道ノブレスオブリージュを……


 ライナの体力は限界だった。しかし、ふらつきながらもノンナに向けて挙を構えるライナ。
 それを見て、ノンナは果れた様子だった。

「馬鹿かお前は。勝てないのは分かっているだろ」

「へへ、あたいは勝つために踏ん張ってんじゃねぇよ……」

 意識が朦朧とし、霞む瞳をノンナへ向けてニヤリと笑った。

「守るために戦ってんだよ」

「戦士としての意地は認めてやる。ならば、本気で相手をしてやろう」

 ノンナの身体から黒いオーラがにじみ出る。ライナの視点ではノンナから出るオーラの中に不気味で実に冷淡な月が見えたのだ。

「“影駭響震ザ・ムーン ”」

 その月を見た瞬間、一気に身体が重くなる。力が抜け、脱力感が一気に駆け上がってくる。
 すると、今までよりもノンナのスピードが強化されているように見えた。その時、既にライナに近づいており、ノンナは顔面~氷の爪を突き付けていた。
 しかし、ノンナのスピードよりも速くライナの目の前に何かが割って入ると、氷の爪を細い長剣の刃が受け止める。

「……おせぇよ、リーダー」

 黄色に輝くその長い金髪がライナの類に掠れる。
 目の前にはさっきまでとは打って変わり、騎士の輝きを取り戻し、他者を守る顔つきをしたカタリナの姿があった。

「カタリナ、貴様!」

「すまないライナ、私が間違っていた」

 カタリナとノンナの鍔迫り合いの横でノンナの横で爆発が起こる。
 爆発はノンナに直撃し、身体が大きく吹き飛ぶが、器用に受け身を取った。

「あーーもぅ!! わ、私たちだって!! もう怖くないんだから!!」

「カタリナさん! ライナ! 遅れてすいません! 僕たちも怖がってました……でも、ライナのおかげで目が覚めました!! 援護します!!」

 横から、サラシエルとセインも立ち直り、支援をしてくれたのだ。これで、グリフォンはまた一つになったのである。

「貴様ら……私がバルバドス様に報告したらどうなるか分かっているのか」

「心配無用だ。お前はここで敗れるのだからな」

 セシリアはノンナに向けて剣を向ける。

「もう、私は恐れない」

 セシリアは剣を地面に突き刺し、胸を張って騎士の敬礼をとる。

「我が騎士としての信念は今蘇った!! 例え、この身が滅びようとも私は皆を守る!! それが、我が騎士道だ!!!!」

 叫んだ瞬間、決意によって熱くなったカタリナの胸の中で何かがはじけるような気がした。
 高らかに声を上げたカタリナは騎士としての心が蘇ったのである。

 そして、俺たちも復活する。

「カタリナ!! 俺たちもいけるぞ!!」
 ライナのおかげで、全員が命に別状はなく、完全治療によって回復が完了していた。

「あ痛たた……お花畑が見えたんだぞ……」

 パトラも命に別状はなかった。
 仲間たちは態勢を立て直し、ノンナへ向けて構えを取る。
 俺はライナに駆け寄った。

「ライナ! 本当にありがとう!!」

「……へっ、そんなことより、あたいにも掛けろよ」

「ああ、勿論だ」

 俺はライナに完全治療を掛ける。傷はすぐに治りライナの身体は元通りになった。

「流石だな」

 ライナは治療を完了すると、立ち上がってノンナの前へと出た。

「ここはあたいに、けりつけさせろ。仕返しがしてぇんだ。良いだろ? リーダー」

 カタリナは少し考えた後に答える。

「無理はするなよ」

「あんたに言われたくないが大丈夫だ。考えがある」

 ライナは俺の方を見るとにかっと笑う。

「なあなあ。あたいにもやってくれよ、お前がセシリアにみたいによ」

 ライナの言葉で何を言っているのかがすぐに分かった。
 勿論、心して受けるつもりだ。

「ああ、やろう」

「よし」

 俺はライナの後ろへ駆け寄る。

「私も舐められたもんだな」

「よくもやってくれたな。さて、ここからが本番だ」

 ノンナ、ライナ共に再び戦間の構えを取る。俺もそれに合わせて杖を取り出し、ノンナに魔法をかけた。

「行くぞ! “EX治癒”!!」

「おお、すげぇ……カが入ってくるぜ」

 ノンナは俺の魔法に感心しているうちに、ノンナはライナの懐に入り、顔面へ向けて回し蹴りを行った。鋭い速さの蹴りがライナの頭に入る。

「やっぱりな、すげぇよ全然痛くねぇのな」

「なっ!?」

 しかし、ライナはダメージを受けることは無く、ノンナの前で首のストレッチを始めた。

「さて……反撃開始だぁ!!」

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