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最終章 奈落ノ深淵編

第115話 "炎の精霊"サラマンダー

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(あれあれーー?? 誰かと思えば優等生ちゃんのシルちゃんじゃん!! 久しぶりすぎてまじウケるーー!! ぎゃははは!!)

 出てきてそうそうめちゃくちゃテンションが高く、この場にいる全員があっけにとられ、彼女に付いていけない様子だった。

「シルフさん……この精霊は?」

(私と同じ、4大精霊の1人、"炎の精霊"サラマンダーですわ。4大精霊の中でも問題児、いわば不良ですわ。最近見かけないと思ったら、突然現れるなんて)

(だーーってみんな全然イケてなくてつまらなかったんだもん。あーーしは強い奴に使われんのが大好きです的な? きゃーー!! 急なド M 発言であーしドスケベやーーん!!)

(やっぱり、いつ見てもやかましい人ですわ。品の欠片もございませんこと)

(シルちゃんは相変わらず、頭がお堅くて~~そんなんだからいつも契約破棄されるんだし!)

(なっ!?) 

(あ、図星でしたぁ~~?)

 シルフが珍しく押されていた。シルフの顔が赤くなってしまっている。過去に大変な思いをしたのだろう。

(んんっ? でも、ここにいるってことは契約したって感じ?そこにいるのが今の彼ぴっぴ?)

 そう言いながら長い爪で俺の方を指す。人に指さずな。あと、なんだ、彼ぴっぴって。

(彼ぴっぴでなく、私のマスターですわ)

(ふーーん、あの頭のお堅い処女拗らせシルちゃんの初めてを奪った男ってことね。それちょっと凄いことじゃない?)

(その発言は余計です!!)

(でも、あーーしのマスターの方がめちゃくちゃ魔力強いし! 今まで会って来た契約者元カレの中で一番なの。まじマスターしか勝たん!)

(私のマスターだって負けていません。寝ろ誰にも負けませんわ!!)

 シルフが珍しく向きになって、子供のように顔を赤くしながら言い返す。俺の頭上で精霊同士の主人自慢が起こっていた。

(でも、本当にあんたが認める契約者なんて、ちょっと気になるって感じ?)

 サラマンダーはまるで美味しそうなものを見つけたかのように、ピアスの付いた舌を舐めながら、俺の方を見た。
 すると、突然サラマンダーが指を鳴らすと指先から竜のような形の炎が現れ、俺へ喰らいつこうと襲い掛かってきた。

「うぉ!?」

(マスター!) 

 とっさにシルフが俺の目の前に旋風を生み出し、炎を絡みとってくれたおかげで攻撃を喰らわずに済んだ。

(サラマンダー!! いい加減にしなさい!! 一体何を考えているの!?)

(何って、あんたが認めたマスター彼ぴっぴがどれくらい強いか私が見極めてやるって感じ~~?だって誰にも負けないんだったよねぇ?)

 サラマンダーは不敵な笑みを浮かべながらシルフを睨みつける。

(マスター、申し訳ございません。サラマンダーは精霊の中でも気性が荒い故、手懐けるのが一苦労な精霊でございます。この気性の荒さ故、契約してもうまく命令を聞いてくれないのですわ)

(でも、うちのマスターは誰よりも魔力が強くて、あーし痺れちゃった★)

(本来なら、あなたを無視する状況でも……今は気が変わりました。気に入らない私ならまだしも、マスターに攻撃するとは言語道断ですわ!! それにあなたのマスターが誰であろうと私のマスターを汚すような真似をしたことが何より許せません!!)

(へぇ.....あーしとやるっての?因みに、今のあーしは今までとちょっと違うわよ。なぜなら、膨大な魔力をマスターからプレゼントしてもらったからねぇ。それに、魔法の威力はシルちゃんよりも私の方が強い。だから、準弱点属性のあーーしにいつも負けてた。そうでしょ? プライド高くて頭は堅い口だけ精霊が!)

 サラマンダーの煽り言葉によって俺の後ろに居るシルフからいつもとは違う視線、いや死線を感じた。

(分かりました。あなたとは口で喧嘩しても時間の無駄ですわ。ここはマスターの力を実際に見せた方が早いと思われますわ。マスター? よろしいですわよね? あなたの力であの能無しを分からせてあげましょうか)

 シルフが笑顔を向けながら話すが、明らかに笑顔が引きつっている。シルフの頭に怒りマークが無数についていそうな形相をしている。流石に俺も怖くて断ることができなかった。

「あ、ああでも、俺は何をすれば良いんだ?」

(簡単なことです。私にマスターの魔力を注ぎ続けてください。そうすればあちらも頂いているようですからこれでおあいこですわ。私にマスターの魔力を注ぐだけ注いでくださいませ)

「分かった」

(話が済んだなら、始めるわよ!!)

 サラマンダーは先ほどまでふざけた様子とは一変し、不敵な笑顔で指を鳴らす。
 すると、俺とシルフ、そしてサラマンダーの周りに炎の檻が生まれた。

(部外者が手出しできないようにしたけど意味ないわね。
 どーーせ勝負は一瞬で終わるんだし)

(あら? あなたが一瞬で負けて終わりってことでよろしいかしら)

(それまじムカつく。ぶっころす!!)

 先に攻撃を仕掛けたのはサラマンダーだ。サラマンダーは日に手を当て、激しい炎の息を吐き出してきた。電種が吐くような下手な火の息ではない。攻撃を受けたら最後、俺の身体は溶けてしまうだろう。

(来ますわ!!)

「精雲よ、優しき衣で我を守り給え!”息吹結界ブレスガード”!」

 俺が魔法を唱えると、俺とシルフに青い結界が張られる。サラマンダーの生み出した炎が結界に直撃し、攻撃を防いでくれる。

(ここからは魔力勝負よ! あーーしの激炎ノ息吹インフェルノブレス に酎えられる結界はマスター以外に居なかったわ!!)

 サラマンダーの攻撃は激しさを増す。しかし、俺にとっては痛手と思える力でもなかった。

(確かに、私が見てきた今までよりも、魔力が強くなっていますわ)

「でも、何とかなりそうだな」

(ふふ、そうですわね)

 俺たちが余裕そうな様子を見て、サラマンダーは酷く驚いていた。

(は!? ちょ!? なんで余裕そうなの!? それにまだ結界にひびが割れてないなんて!!)

 そして、だんだんとサラマンダーの攻撃は時間と共に勢いが落ち始める。
 そして、数分の攻撃に耐え、サラマンダーの攻撃が止んだ。

(ぜぇ、ぜぇ……ええ……なんでぇ?)

 魔力を一度に沢山消費したことによってサラマンダーは息を切らしていた。
 俺も結界の持続詠唱を解く。

(じゃあ、今度は私たちの番ですわね。マスターお願いします)
「シルフさん、行きますよ! "魔力譲渡マナシェード"」

 魔力譲渡の魔法によって、シルフの身体に俺の魔力が流れ込んでいく。サラマンダーは勝大な魔力を買っていたと言っていたが、俺たちとは決定的な違いがある。
 それは魔力が有限か無限かということだ。
 流れ込んでくるシルフの魔力を見て、サラマンダーは目を丸くする。

(……何この魔力?)

(随分、粋がってたわねぇ? さぁ、たっぷりお仕置きしてあげますわ)

 シルフは両手を上にあげると頭上に周囲の大気を圧縮させた渦巻く巨大な球が出来上がっていた。

(そんな。こんな力、あーーし、知らないぃ♡)

 サラマンダーは据えるどころか居直し、その場にへたり込んで両手を頬につけうっとりとした様子でその魔力に釘付けだった。

(反省なさい!!)

 シルフが腕を振り下ろすとその球は解き放たれ、サラマンダーを飲み込まんと向かっていく。

(はぁあああああ♡ 来るうううううう♡ 来ちゃううううう♡ 来てぇえええええ♡)

 サラマンダーは避けるどころか両手を大きく広げ、攻撃を受け入れる態勢をとるとそのままシルフの攻撃に飲み込まれる。
 そして、その球が消えるとサラマンダーの姿も消えていた。

「どうなったんだ?」

(精雲は死にません。その代わり、ペンダントの中に強制転送されるのです。ですが、一度精霊がペンダントに戻るとペンダントに魔力を注がなければなりません。そうしなければ永遠に出てこられないので死んでるのと同じなのです。まったくもう)

 俺が手に持っていたペンダントを見ると、さっきよりも輝きが失っていることに気づく。
 ペンダント内にある魔力が失われたと言うことだろう。

「これはまた魔力を入れることは可能なの?」

(はい、ペンダントに魔力を流してあげれば……)

「"魔力譲渡"」

(マスター!?)

 流石にあんな攻撃を喰らえば大体反省はするものだ。それと、一応命の恩人ということでまた復活できるほどの魔力を注いでやった。
 すると、有無も言わせぬ速さで赤い石は反応しサラマンダーが飛び出してくる。

(ちょちょちょ!! 何よ今の!! やばすぎなんだけど!! どういうこと!? 私久しぷりにぷっとんじゃったんだけど!!)

 出て早々に目を輝かせながら俺の顔に近づかせてくる。

(これで分かったかしら、マスターの力)

(うん、あーーし分かった!!) 

(こういうところだけ素直なのよね……)

(あーーしもシルちゃんのマスターと契約する!!)

(そうそう、分かればいいんですわ……え?)

(こんなすごい魔力の持ち主、あーーし始めてみた。マスター、名前は?)

「フ、フールだ」

(フーたんすごいよぉ! あーーしもう心奪われちゃって、フーちゃんにぞっこんしちゃった!!はいはーーい、今日でマスター書き換えしまーす)

(ちょっと!話を勝手に進めないでくださいまし!ダメに決まってますわ!!) 

(ええーーなんでダメなのーー? 複数の精霊と契約しちゃいけないって決まりもないしさ、それにさっきも見たけどあーーし強いからきっとフーたんの力になるよ? ねぇお願いフーたん?)

 サラマンダーは上目造いで潤んだ目で解って来た。確かに、さっきの息吹は強力だった。今後の戦いで心強い戦力になるかもしれない。

「分かった。ただし条件がある。シルフと仲良くすることだ」

「うん! しゅる♡あーーし、マスターの為に頑張るから、定期的に魔力くだしゃい! これはもう……フーたんしか待たん!!」

 そう言ってサラマンダーは俺の類にキスした後、赤い石の中へと戻っていく。
 まるで嵐が通り過ぎたような出来事だった。でも、何とかマーフォークも撃退できて、命も助かり、新しい戦力もできてよかった。

「シルフさんもありがとう、ひとまず落ち着きましたね」

 そう、後ろを向いた時、シルフは開いた口がふさがって居なかった。そして、顔を赤くして俺の目の前に来る。

(良いですか! 最初にあなたと契約したのは私ですわ!! マスターは私のマスターであることをお忘れにならないでくださいませ!!) 

 その言葉を残して緑の石へと戻っていく。

 嵐の後の静けさとはこのことを言うのだろう。少し距離をとって見ていた仲間達が駆け足で俺のもとに来る。

「いったい何が起きてたの!?」
「フールさん、精霊様に好かれすぎですぅ!!」
「無事でよかったんだぞ!」
「「フール凄い!」」
「あなたって本当に何者なのよ」

 仲間が一斉に押し寄せてくる。これが生きているって証拠か……
 とりあえず、興奮している仲間たちをなだめ、今起こったことを説明した後、俺たちは再び歩み始めた。
 地下水道に入って間もなく、色々ハプニングは起こったが何とか乗り越えることができた。
 この調子で上手くいってくれると良いのだが。
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