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最終章 奈落ノ深淵編

第114話 B級モンスター マーフォーク戦

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 マーフォークは本来海や川などの水沿いを好み、ダンジョンならば必ず水が関係する場所に現れる魔物だ。この地下水道の管理が長い間なされてないせいでマーフォークが住み着いてしまったのだろう。
 飛び出してきたマーフォークは3体。B 級の魔物だが、人間と同じ知性を持ち、武器を扱う。それに、水中は彼らの独壇場だ。水中に引き込まれたら最後、どんな歴戦の戦士でも生きて沖に上がることは不可能である。
 マーフォークは俺たちパーティを挟むように囲み、ゆっくりとにじり寄ってくる。
 俺の方向にはマーフォークが1体、ルミナは盾を構えて俺の前に出ているので2人、後ろにはマーフォーク2体に対してソレースとシュリン、そしてアルとイルの4人だ。
 後ろはどうにかなりそうだが、問題は俺たちだ。俺の力でルミナを支援することはできるが、ルミナは盾士である為、攻撃系のスキルが少ない。ここは耐えて、後ろからの応援を待つしかない。

「ルミナ、無理をするな!俺が支援する。後ろの援護が来るまで攻撃を耐え続けてくれ! シュリン! 後ろの指示は任せた!」

「ええ、了解」

 シュリンは腕を広げると宙に複数の炎の球が浮かび上がる。

「エルフさんは右のを。私は左をやるから。こいつらは飛び掛かってくる癖があるから落ち着いて頭を狙いなさい。射撃職業(シュータージョブ)ならできるわよね?」

「任せてください!」

「あと、アルちゃんとイルちゃんは私の後ろに居なさい」

「で、でも」
「.....私たちは?」

「良いの、安心して、一瞬で片づけるから」

 戦間態勢が整うとマーフォーク達が一斉に攻撃を仕掛けてきた。
 シュリンの言った通り、マーフォークは小劇の際に槍を持って飛び掛かってきた。
 だが、飛び掛かるということは対象に届くまでに隙が生まれる。
 その隙をシュリンは逃さない。

「行くわよ?」

「わたしも、行きます!」

 2人はタイミングを合わせて飛び掛かってくる相手に攻撃を始めた。

「【火炎槍フレイムスピア】!!」

「【火炎光魔弾フレイムアロウ】!!」

 シュリンは火球を炎の橋に変えて投擲し、ソレーヌは魔導号から炎の矢を生み出して撃った。2人の攻撃は2体のマーフォークの頭に直撃し、頭部が吹き飛ぶ。
 そのまま、マーフォークの身体も飛ばされ、そのまま地下水の中へと落ちた。

「腕を上げたんだぞソレーヌ!」

「えへへ、ありがとうございます」

「2人ともすごーーい!!」
「……強い!」

「まぁ、元S級だからね」

 クールな言葉を選んだようだったがシュリンの口元が報んでいるのは皆にバレバレであった。
 一方同じ時、俺はルミナに【EX治癒】をかけて防御力を底上げさせ、ルミナは結界大盾を展開させる。こちらの防御力は最高値なのでマーフォークの攻撃など生ぬるいものだった。
 これなら、後方からの応援が来るまで余裕だと思っていた。

「フールさん! ちょっと試したいことがあるんですけど良いですか?」

「試したいこと?」

「はい! 私も色々と戦いの経験を横んできてスキルも覚えたんです! 行きますよ!」

 ルミナがそう言うと盾に黄色いオーラのようなものが纏い始める。

「さあさあ、かかってきなさい!」

 盾士のスキル【挑発】を使い、マーフォークを煽る。案の定、頭に血が昇ったマーフォークはルミナに槍で襲い掛かる。
 それに合わせて、ルミナが店で攻撃を防いだ時だった。攻撃が直撃した瞬間、黄色いオーラが反応し、盾から衝撃波が生まれた。
 その衝撃波を食らったマーフォークの身体は壁まで吹き飛び、打ち付けられ再起不能となった。

「うはーー! うまくいきました!! これが新しいスキル【攻撃反射奥拉アタックリフレクター】! これで攻撃手段も確保です!」

【攻撃反射奥拉】は盾士の上位スキルに位置する。それを覚えたということはルミナもおおきく成長しているのだ。

「ルミナも強くなったな」

「セシリーばかり強くなってもだめだからね!」

 ルミナは得意げに胸を張る。

「フールさん! 今助けに……てあれ? 終わっちゃったんですか?」

「ああ、ルミナがやってくれたよ。ソレーヌもありがとう」

「ふふん♪」

「そ、そうなんですね! 良かったです!(ああーー、私のアピールポイントがぁ……)」

 ソレーヌは笑顔で肩を落とす。

 B級すらも短時間であっさり倒せるパーティになっているのは、成長を感じる。S級パーティに所属していたシュリンもいるのだからなおさら強力なパーティに出来上がったのだろう。
 これならば、次敵が来ても大丈夫そうだな。そう慢心してしまった時、足に違和感がした。
 俺が視界を下げるとマーフォークが地下水の中から這い出て、俺の足を掴んでいたのだ。
 誤算だった。マーフォークは実は4体おり、もう1体は水の中に引きずり込むために隠れていたのだ。

「しまっ!」

『しまった』という前に俺はマーフォークによって水の中へと引きずり込まれた。

「フールさん!!」

 ソレースが声を挙げた頃には俺の姿はなく、水面がうねっているだけだった。

「フール!?くっ!?不味い!!』

 シュリンが火球を作り、水面を見るが敵の影が見えず魔法をつことができない。
 そして、俺はというと水中で足を掴まれどんどん潤め池の底へと引きずり込まれていた。
 足をばたつかせ、マーフォークの手から足を剥がしたとしても即座に俺を捉え、そこへと再び沈み込ませる。
 魔法も詠唱できないため、成す術がなく絶望的な状況だ。
 そろそろ、息も続かなってきている。
 このままではマジで死ぬ。
 B級と舐めてかかり、慢心なんかするものではなかった。そう後悔しても、今は後の祭りである。意識が薄れ、視界が暗くなってくる。
 何か無いかと周りを見ると、溜め池の壁に赤い石の付いたペンダントが引っ掛かっているのを見つけた。
 あれは……もしかして。
 フールは最後の望みとして、最後の力を振り絞り、マーフォークの手を振り払って、その赤い石を掴む。
 頼む! 何でも良い! 助けてくれ!!

 そう強く願うと、赤い石は輝き出した。
 そして、その光が天井まで伸びると、その光に導かれるかのように女性が現れる。
 突然現れた女性の勢いによって俺は水ごと押し上げられ、激しい水しぶきと共に元居た地下水道の道へと投げ飛ばされた。

「げほっ! げほっ!」
「「フールさん!」」
「「「フール!!」」」
 俺は下水の水を吐き出し、よろめきながら立ち上がる。

「フールさん大丈夫ですか!?」

 ソレーヌがひどく心配した様子で近づいてくる。

「……ああ、何とか」

 とりあえず命は助かった。しかし、さっき出てきたのはいったい何だったのだろうか。
 すると、胸の緑のペンダントが輝きだす。

(マスター、この気配……精霊です)

 シルフが実態となって現れると、その赤い光に向かってそう言った。

「精霊? てことはシルフさんと同じ?」

(あまり一緒にしてほしくないのですが……)

 俺の手にはさっきの石が赤く輝いていた。
 すると、シルフとは違う声が地下水道内に響く。

(マスター!! やっと見つけてくれた!! あーこしの事を水中に落としてくなんて、なくされたら本気まじぴえん.……て、ん?)

 声と共に現れたのは燃え盛るような赤い髪に、シルフとは正反対に網タイツにひらひらした丈の短いスカート、服は着崩されて胸の部分で服の裾が結ばれている。耳やへそにはピアスがついて痛々しい。そんな優しい雰囲気のシルフとは違う目つきの悪く柄の悪そうな褐色の美女が現れた。

(あれ? マスターじゃないじゃん? てか、あんたら誰?)

 シルフは横目でその女を見る。

(はぁ……久しぶりね、サラマンダー)
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