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第3章 商都地変編

第107話 仲間の失踪

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 群衆の心を掴んだウォルターの演説は綺麗に終わった。
 これからの方針としては宣戦布告を行った以上、ウォルター率いる新生ウッサゴは来たるべき日の戦いの為にこの国で志願兵を募集し、戦争の準備をするという話となった。
 それにウッサゴの国民は一丸となって賛成することとなり、今回の演説は解散となった。
 結局、会場内にもセシリアの姿は無く。騎士達に聞いても全員が見かけていないらしい。セシリアは一体どこへ行ったのだろうか。

「フールフール! 少しだけセシリアの匂いを感じたよ!」

 突然、アルがそう言った。

「本当か!? アルも匂いが分かるのか?」

「うん、獣人は人よりも鼻がきくから。それよりもこっちこっち!」

 アルが俺の腕を強く引っ張り、匂いをたどり始めた。
 アルの行く先は人気があまりない草木が生い茂る整備があまりされていない場所だった。
 ウッサゴの整備された道から外れたその場所へとアルに導かれていく。

「アル、本当にこっちであってるのか?」

「大丈夫……私も感じてるから」

 どうやら、イルもセシリアの匂いを感じているらしい。匂いに対して二重チェックが施されているため、この2人を信じざるを得ない。しかし、どう道草を食えばこんな道へと向かうことがあるのだろうか?
 そう思っているとアルが叫んだ。

「あれ! あそこからセシリアの匂いがする!!」

 アルが指さした場所には場違いのように刀が1本刺さっていた。俺は近づいてその刀を見る。
 この刀には見覚えがあった。

「これはセシリアが使ってた雷光じゃないか! どうしてここに?」

 俺は刀を引き抜く。周りを見渡すがこの刀を納める鞘が見当たらない。刀一本だけがここにあるのは明らかに不自然だった。俺の脳裏に嫌な予感が巡ってくる。
 そう考えていると、今度はイルが匂いに反応した。

「フール、あっちにセシリアの匂いが微かにする。それと、セシリアじゃ無い嗅いだことの無い匂いも微かに感じる」

「イル、案内してくれ」

「うん」

 今度はイルが匂いをたどり、匂いの元へと向かう。今度は町中の広場に着いた。そして、イルはある地点とどまった。

「ここ、ここから匂い感じる。セシリアと知らない匂い」

 イルが止まった場所には円形の魔方陣の後が残っていた。魔法を行使する際に生み出された魔方陣で床に焦げが出来るのは
 珍しくない。しかし、ここで魔法を使う理由などあるのだろうか。
 状況を整理しよう。昨日の夜から朝に駆けてセシリアの行方は不明、残された一本の刀、魔方陣の後にセシリアと知らない者の匂い……これはつまり。

「……攫われた?」

 恐らくこの魔方陣はセシリアを連れ去るための転移魔法によるものだと考えた。
 セシリアが攫われたと感じた瞬間、俺はアルとイルを担ぎ一目散に聖騎士協会の建物へと戻った。
 俺は、今までなんて呑気に居たのだ。仲間が危険にさらされているのも知らず、直ぐに対応できなかった事が情けなかった。しかし、それを悔やんでももう遅い。戻ったら、直ぐに皆に状況を説明してセシリアを探さなくては。
 探すと言っても大体想像はついている。しかし、これがもしの仕業ならばセシリアを連れ去る理由が分からない。なんだ? どうしてた?
 俺はウッサゴを駆け走りながら頭の中はいっぱいいっぱいだった。そんな危機迫る状況を感じたのか、アルとイルは大人しくなってしまった。
 そして、協会の建物へと飛び入り、皆がいた部屋へと駆け込む。戻ってくるとルミナとソレーヌは既に起きており、逆立った寝癖を直してた。

「あ、フールお帰りなんだぞ。どうしたんだぞ? 怖い顔して?」

「フールさん、すいません寝坊してしまいました!」

「フールさん、おはようございます! ところでセシリー見てません?」

「……セシリアが、攫われた」

「「「……ええ!?」」」

 3人は俺の言葉に驚き居た様子を見せた後、俺を囲って質問攻めが始まった。

「どどどどういうことなんだぞ!? 攫われたってどういうことなんだぞ!!」

「セシリアさんはどこへ言ってしまったんですか!? 誰に攫われたんですか!!」

「そんなそんな!? それなら早く助けに行かないと!! 場所は!? 早めに出ないと間に合わないかも!!」

 3人は半パニック状態になっていた。この様子を見て、更に俺も焦り始める。
 パーティ全員がこのような様子では危ない。俺はゆっくりと深呼吸をして、身体を落ち着かせる。

「みんな、一度落ち着こう。さきに状況を説明する。俺とアルとイルで外に出ていたんだ。そしたら、アルとイルの嗅覚のおかげでこれを見つけたんだ」

 そう言って俺は布で包んだ刀を皆に見せた。

「これ、いつもセシリーが使ってる雷光じゃない……」

「ああ、そしてさらに広場にもセシリアの匂いがついた魔方陣の後が残っていて、セシリア以外の匂いも感じたらしい。俺の推理だが、恐らくセシリアは夜、何者かに襲われて転移魔法で連れて行かれた。そして、セシリアはそれに気づいて貰うために雷光を投げたのだろう」

 俺の推理が100%当たっているとはいえ無いが、そう考えざるを得ない状況が今起こっているのだ。
 そして、これも憶測だが犯人は恐らくバルバドスの使者だろう。何の為にセシリアを攫ったのかは分からないが、今すぐにでも行動しなくてならない。

「みんな、いつでも旅立てる準備をしておいてくれ。俺はこの2人をメリンダさんの所へ連れて行く。それと、ウォルターにこのことを相談してくる」

 その言葉にあわせて、俺は早場に行動を始める。アルとイルの手を引いてメリンダのいる救護室へと回廊を歩む。
 2人の方を見ると、さっきまでの張り詰めた状況を見ていたからだろう、2人が心配そうに俺のことを見ていた。

「フール、大丈夫? セシリアは大丈夫かな?」

「ああ、すまないな、心配させて。俺は大丈夫。セシリアもきっと大丈夫、あいつは強いから」

 そう、自分自身にも言い聞かせるように2人に告げる。セシリアが攫われたとなってから、なぜか俺の胸の鼓動が激しくなっていた。ここまで焦るのは自分でも驚いている。それでも、平常心を保つために何度も呼吸を整える。

「2人とも、良く聞いてくれ。俺たちは直ぐにここからまた旅立たなきゃいけない。本当はしっかりお別れしたかったけど、こんな形でお別れになる事を許してくれ。俺は2人と冒険が出来て楽しかった。お母さんも救えて良かった。けど、これ以上2人を危ない場所に連れて行く訳にはいかないんだ。だから、今度はお母さんと3人で平穏に暮らすんだ」

「「……」」

 俺が2人に優しくそう告げると、2人は何も言わず、俯いてしまった。
 本当にこんな軽い言葉での別れは俺も辛いがタイミングが悪すぎた。この2人には平穏に暮らして欲しい。
 それが2人にとって一番良いことだろう。

 俺は再び2人の手を握り、回廊を歩み始めた。
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