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第3章 商都地変編

第83話 その手の温もりに気づいて

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 一方でフール達は魔人を撃退したその後、行方知らずのアルとイルを見つける為に彷徨っていた。松明の明かりで足下を照らしながらゆっくりと歩みを進める。あれから魔物にも遭遇せず、ただただ道を歩いているだけだった。
 分かれ道に道中多く遭遇し、迷宮のようなこのダンジョンで迷子になってた。俺たちはスタート地点に向かってているのかゴール地点に向かっていのかすら分からないまま歩いている。
 ソレーヌの頭の上に乗っているパトラが大きく口を開けて欠伸をするとうたた寝をしていた。流石に何もなければ退屈にもなるだろう。
 俺は前を見つつ、後ろ2人の様子も見ながら歩いていた。ふと、ソレーヌの方を見ると少し俯きながら歩いており、顔も少しだけ赤かった。

「ソレーヌ大丈夫か? 疲れたなら遠慮せずに言うんだぞ?」

「へ!? あ、うん……」

 ソレーヌはそれでも気持ち下を向いたまま歩いているため、少し心配だった。俺の歩く速度が少し速かったのだろうかと考え、歩く速度を気持ち遅くする。遅くなったことに気がつかないソレーヌはいつもの速度のまま歩き続けてしまった為、俺の肩にソレーヌの顔がぶつかった。俺は驚いて咄嗟に振り向くとソレーヌはぶつけて少しだけ赤くなった鼻を恥ずかしそうに隠していた。

「わ、悪い! 大丈夫か!?」

「私は大丈夫……」

「そ、そうか……」

「うん……」

「……」

「……」

 お互いなぜか沈黙してしまい、間が持たない空気感が漂ってしまう。ソレーヌの態度にどこかモヤモヤするような、心に引っかかるような気持ちになった俺はソレーヌに聴いてみることにした。

「ソレーヌ、本当にどうした? 具合、やっぱり悪いのか?」

「ち、ちがうの! 本当に何でも無いから……」

「……そうか」

 俺の考えすぎだったのだろうか? そう思いながらまた前を向こうとした時、腕が引っ張られた。腕を見ると、ソレーヌが俺の服の袖を掴んでいる。そして、ソレーヌは輝いた瞳を俺に向けるとその口を開いた。

「……て……手をつないでも良いですか?」

 ソレーヌが声を裏返しながらそう言った。

「あ、ああ」

 なぜか俺はそれに自然と答えてしまっていた。彼女の……ソレーヌのその瞳に宿る『訴えていた何か』を俺は無意識的に受け取ったのかもしれない。俺が手を開くと、袖を掴んでいたソレーヌの手は優しくその手を掴む。気温が低いこの場所でソレーヌの手は暖かった。そして、そのまま俺はソレーヌの手を引いて再び歩き出した。ソレーヌの歩く速度に合わせて、呼吸を合わせて歩む。
 時々、ソレーヌの顔をちらっと見るとソレーヌは握っている手を見ながら柔らかな表情をしていた。そんな顔を見ている俺も感じていたさっきまでのモヤモヤが晴れたような気がした。ソレーヌの様子が元に戻って安心したからだろうか。それは自分でも分からなかった。

「フールさん」

「え、どうした?」

 突然ソレーヌが声をかけてきたので驚いてしまった。

「フールさんはセシリアの事どう思ってるんですか?」

「セシリアの事?」

 予想にもしない、突拍子もない質問を投げかけられ、俺は直ぐに答えることは出来なかった。思っているというのはどういう意味なのだろう。セシリアは俺がギルドを解雇されて直ぐに出会った仲間でとても良い奴だし、仲間としても助かっている。あいつも俺のことを信頼してくれてそうだし、俺もあいつのことを信頼している。それはセシリアに限らず、パトラやルミナ、そしてソレーヌを含めた俺たちのパーティ全員のことを俺は大切にしている。
 それは心の底から思っていることだ。
 ギルドで馬鹿にされて、雑用係を押しつけられて、挙げ句の果てには解雇された俺を必要としてくれて、仲間の1人にしてくれたお前達を心の底から信頼している。
 そのような事を恥ずかしがりながらも俺はソレーヌに話した。

「そうですか……」

 すると、ソレーヌの手を握る力が少しだけ強くなる。

「でも……一番にはなれないんだよね……私」

 ソレーヌはフールには聞こえない声でそう呟く。ソレーヌが何かを言ったような気がするが俺は上手く聞き取れなかった。

「私、フールさんの事……」

 ソレーヌが何かを俺に伝えようとしたその時だった。後ろから、こちらに何かが近づいてくる気配を感じる。それも速い速度で。
 俺はソレーヌの言葉を遮り、ソレーヌの前へと出る。近づいてくる影は徐々に距離が縮まると声が聞こえてくる。

「フゥーールゥーー!!!!」

 こちらに向かってくるその影から聞き覚えのある声が聞こえてくるとその影の正体が松明の光源内に入ったとき分かった。

「セシリアか! ぐふっ!?」

 俺が声をかけようとした頃には俺の腹へ思いっきり抱きつかれた。

「良かったーー! 無事で良かったーー!」

 尻尾を激しく振りながら俺の腹に顔を擦り付けてくるのを見て、やれやれと思いながら頭を撫でてやる。

「おおーーい! セシリーー!」

 セシリアがやってきた方向からルミナの声とともに松明の明かりが見えた。
 よかった、ひとまず仲間と無事に合流できたことに安心する。

「ソレーヌ、行こう」

「……はい」

 一瞬の間の後、ソレーヌは笑顔を確認し、俺達は向かってくる松明の明かりへ合流する事にした。
 ソレーヌはフールの上着を強く握りながらその後を追う。笑顔の裏にある寂しさを彼女以外が知ることなど無かった。
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