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第3章 商都地変編

第71話 ヒーラー式、時短&収納術

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 一方で俺たちは次なる目的地、ビフロンス湿地へと向かうべく荷物をまとめていた。とりあえず、いつも通りの装備を整えて外へと出る。外にはすでに一緒に向かう騎士たちが準備を済ませて待機してた。移動用の荷馬車が複数用意されており、どうやらこれで移動するのだと思われる。俺が周りの様子を伺っていると1人の騎士が俺に近づいてきた。

「フール殿、あなたのパーティが乗る荷馬車はあちらになります」

「ああ、ありがとう」

 騎士の先導の元、連れられて向かったのは1つの質素な荷馬車だった。他の騎士たちが乗る荷馬車は馬にも装飾がかかり、手入れがなされている一方で俺たちが乗る荷馬車は食料などを運ぶ為に使われる様な小さくてボロボロだった。

「す、すいません。実はこれには訳がございまして……フール様はお尋ね者である故、あまり表には顔を出せない状況であります。もしかしたら移動の際、私共の他の部隊とも会うかもしれません。その時、フール殿の存在を知られては面倒であるとパウロ教官が仰っておりました。申し訳ないが今回はこの荷馬車の利用をお願いします」

 まぁ、そう言う事なら確かに理にかなっているので話は分からんでもないが、あのパウロとかいうスキンヘッドの名前を聞くと妙にイラっとしてしまう。だが、何度も言うが俺はあくまで絡まれている側の人間だ。俺から色々口出しできる立場ではないのでここは従うしかないのだ。

「いや、大丈夫だ。寧ろ俺たちの為に色々考えてくれてることが嬉しいから。じゃあ、今回はよろしく」

「はっ!」

 騎士は敬礼をすると、駆け足で持ち場へと戻って行った。俺はボロボロの荷馬車の中へと入ろうとした時、ごそごそと音が聞こえてくる。
 何だろうと思いながら中へと入ると、そこには自分よりも大きなリュックサックの中を漁っているパトラが居た。パトラは俺が入って来たことに気が付くと、ポンッとリュックサックの口から頭を抜き出して顔を俺に見せた。

「お! フール! お先乗ってるぞ!」

「パトラ、早いな」

「いや~~実はみんなが色々やってる間にオイラも街で色々掘り出し物見つけてきたから渡したかったんだぞ!」

 パトラは俺たちが調査をしている間、行商人として商都で色々売買をしてきたらしい。

「待ってるんだぞ、えっと確かここら辺に……」

 そう言って、パトラはまたリュックの中へと頭を突っ込んだ。その間に俺は読みかけだった『回復術士ノ魔導書・大全』を読み始める。
 そう言えば、今俺は杖を3種類持っているのだがこれを毎回持ち運んで、装備を入れ替えるのが面倒だと。何か良い魔法は無いかと探していると汎用魔法の項目に丁度良い魔法を見つけた。それは”物体転移”と”空間収納”の魔法だ。”物体転移”の魔法があれば魔力を消費した分、より長い距離を一瞬にして移動することができるという魔法だ。それは生物以外の物を移動させることができる。”空間収納”の魔法は媒体となる鞄などの入れ物に付与する魔法で、付与されたものは魔力を込めた分の収納空間を持つようになる。即ち、俺の場合この魔法を組み合わせるとあらゆるアイテムを自在に入れ替えることができるようになるのだ。”空間収納”を使用している物は腕に魔法陣が現れ、いつでも収納している物を言語で確認できるようになっているから便利だ。
 試しに俺の腰につけている鞄に空間収納の魔法をかけてみる。一見何も変わってないように見えるが鞄を開けてみると鞄の口に魔法陣が浮き出ていた。俺はそれに自分の杖を2本入れると、その小さな鞄の中に吸い込まれていく。そして腕を確認すると、火球ノ杖と祝福ノ杖、そして妖精ノ杖が表示されている。空間収納の魔法は成功のようだ、あとは物体転移がうまくいくかどうかだ。
 俺は右手に妖精ノ杖を引き寄せることに集中すると白い魔方陣が手のひらに生まれ、一瞬にして俺の手に妖精ノ杖がやってきたのだ。腕の魔方陣を確認すると空間収納の中には杖の存在は無くなっていた。今度は逆に妖精ノ杖を戻し、火球ノ杖を取り出すイメージをする。すると一瞬にして妖精ノ杖が消え、火球ノ杖が現れた。これで2つの魔法を応用した時短&収納術ができるようになった。
 割と有用な使い方がうまくいったので少々テンションが高くなる。これを上手く使えば、どんなアイテムも瞬時に取り出して使用することができそうだ。
 俺の魔法がうまくできた頃合いに荷馬車に入ってくる影が見えた。セシリアとルミナ、そしてソレーヌ、さらにアルとイルが入って来た。

「みんな揃ったわね。全員入ると結構狭いわね……」

 確かにこの狭くてボロボロの荷馬車に7人は流石に狭く感じる。そんな時、アルとイルが俺の両膝にそれぞれ座りだした。

「私ここでいい!!」

「私も……」

「え! いいなぁ!! 私もそこが良いーー!!」

「セシリーはもう大人でしょーー普通に座りなさーーい? そこが嫌なら私の膝の上なら空いてるけど?」

「うぅうう……」

「あはは……(いいなぁ……)」

「やれやれ……」

 セシリアは俺の隣にちょこんと座り、その前にルミナとソレーヌも座った。

「パトラちゃんは何してるのーー?」

 セシリアが声をかけた時、パトラはリュックから顔をあげた。

「あったんだぞーー!!」

 その大量の荷物の中から見つけてきたのはちょっとした装飾が施された派手さを抑えた腕輪だった。パトラはこれを俺に向けて差し出した。

「これは?」

「これはだな、状態異常の魔法から守ってくれるという多分珍しいアクセサリーなんだぞ!! オイラが見習い時代だった時の知り合いから貰ったんだ! ほい、みんなの分もあるんだぞ」

 そう言って、パトラは全員に俺と同じ腕輪を渡した。

「ありがとうパトラ!(フールとおそろい……えへへ♡)」
「結構好きかもこのデザイン……(セシリーと一緒だ……ふふふ♪)」
「大切にします!(フールと一緒……♡)」

「2人には腕輪は大きいから代わりに指輪をあげるんだぞ」

「「わーーい!」」

 パトラがみんなに装飾品を渡していると、荷馬車の入り口の布が開かれる。

「そろそろ出発だ。気合い入れろ」

 スキンへッドだったからすぐにパウロだと分かった。俺は一言だけ返事をすると入り口を閉め、前の方へと歩いていく音が聞こえた。いよいよ出発の時である。

「騎士団ウッサゴ第1、第2、第3、第4部隊出動する!!」

 前の方でウォルターが声を挙げているのが聞こえると、馬車が一斉に動き出した。
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