42 / 160
第2章 森林炎上編
第40話 グリフォン VS "炎神"朱雀
しおりを挟む
ーー数分前。
カタリナ達は先行して朱雀の根城の最深部である朱雀の間へと向かっていた。
「何よやっぱり大したことないじゃない! SS級ダンジョン言うけど殆どS級ダンジョンと変わりないし、四神とかたいしたこと無いんじゃないかしら」
サラシエルは杖に乗り、浮遊しながら緊張感無く道を進んでいた。そんな様子にカタリナは一喝する。
「油断するな。後に何が起こるのか分からないのだぞ!」
「はいはーーい。頭のお堅い隊長様だこと」
サラシエルはカタリナに叱られ、つまらなそうな顔をした。カタリナはサラシエルにそれ以上言うことは無かった。
「まぁまぁサラシエルさん、カタリナさんは私たちの危険を心配して言ってくださっているのですから素直に聞きましょう」
セインがそう言うと、ライナが鼻で笑った。
「ふん! 頭が堅いってところはあたいも同感だぜ。だけどよぉ、カタリナ……どうしててめぇはそこまでして口酸っぱく言いやがる。あたいらはガキじゃねぇんだ。何か舐められてる気がすんだよ」
ライナの言葉を聞いて、カタリナは歩みをピタリと止める。それに合わせて3人も歩みを止めた。
「お、おいなんだよ……」
そして、カタリナはライナの首を掴みダンジョンの壁に押さえた。
「カタリナ!? 何しやがる!?」
「良いか……これだけは覚えておけ。私はお前達のことを下になど見てもおらず、舐めもしていない。私はただ……このパーティのリーダーとして指揮をとっているだけだ」
カタリナはライナの瞳を覗くように顔を近づけた。
「私は……もう、誰も死なせたくないんだ」
その言葉を告げたときのカタリナの目はいつも以上に真剣でライナが見たカタリナの目の奥には何か執念に満ちた炎がまるで燃えているかのようだった。
そうしてカタリナはライナの首を離すと、ライナは掴まれていた首をさすりながら咳き込む。
「ゲホッ! ゴホッ! はぁ……何なんだよ……あたいが死ぬとでも思ってるのか!?」
「人は……簡単に死ぬの。お前達は……運が良いだけなのだから」
「……」
カタリナはそれだけを告げるとまた先へと進み始めた。
「くそっ!」
ライナは壁に向かって右手をたたきつけた。いつもなら言い返していた。しかし、カタリナの目を見た時、どこかその言葉に説得力があって自然と納得をせざるを得なかった。あの時のカタリナの目をライナは脳裏に強く刻まれた。
「私たちが死ぬ訳ないじゃない……何よ怖いこと言っちゃって。ほら、行くわよデカ乳ウルフ」
サラシエルがライナに向かっていつものように馬鹿にした口調で先に進むことを促した。しかし、いつもなら反発してくるライナだったが今はおとなしくなり、何も言ってこない。
「ねぇセイン……ライナ、本気で気にしちゃってる?」
「分からないよ。でも、カタリナさんの言うとおりだと思う。私たちは強くともただの人間です。こうして生きていられていることが奇跡なのだと理解して欲しいからカタリナさんは口酸っぱく、注意するように仰っているのでしょう。きっと……過去に仲間を無くしているのかも知れません……」
2人はひそひそとカタリナにもライナにも聞かれないように会話をする。
そして、重い空気感の中とうとうカタリナ達は朱雀の間の入り口へとやってくることが出来た。
「へぇーー魔物のくせにドアが赤色とかかなり洒落てるじゃない」
大抵のダンジョンのボス部屋の扉は雑に作られた木や石造りなので色が付いている扉はかなり珍しい。
「……みんな、この先には我々が倒せるかどうか定かではないものがいる。それを覚悟して今から挑む。準備は良いか?」
「ええ、私も精一杯サポートしますよ」
「SS級倒して、私も英雄よ! にゃあーーーーはっはっは!!」
「……早く殺らせろよ。私の身体がうずうずしてやがる!!」
カタリナは全員の声を聞いてから、その重々しい扉をゆっくりと開いた。部屋に入った途端、空間内の温度が急に上昇し、まるで真夏の暑さのようだった。
そして、その部屋の奥でメラメラと身体を燃やしている羽を休めている大きな鳥が一羽いた。
「いたか……とうとう見つけたぞ、朱雀……」
朱雀はグリフォンのメンバーに気がつくと、立ち上がって耳に響く奇声のような雄叫びを上げた。そして、羽を羽ばたかせ飛び上がった。その羽根の先端が虹色に輝いており、その虹の粉が散るとそこから激しい炎が生まれる。
「構えろ!!」
カタリナの掛け声で、全員が一斉に戦闘態勢に入った。カタリナはバスタードソードと騎士の盾を構え前に出る。セインとサラシエルは後方に下がり、魔力を込めて魔法の準備をしていた。そしてライナは手足を獣の形へと変えると真っ先に朱雀に対して攻撃を仕掛けに行く。
「ははっ!! 先手必勝!!」
「待てライナ!!」
カタリナの指示を無視して、ライナはその鋭い爪を朱雀に向かって振るう。その爪は見事、朱雀の胴体へと命中し、切り裂いた。手応え有りだとライナは思った。しかし、ライナが与えた胴体の傷跡が消えるように癒えていく。いや、癒えていったのではなく、もともとダメージが入っていなかったのだ。そして、ライナの右手に違和感を覚える。
「……なっ!? う……腕が……溶けてやがる!?」
そう、直接朱雀に触れたことによってダメージを喰らったのは朱雀ではなくライナ自身の方だった。高温の身体である朱雀は触れたライナの腕をドロドロに溶かし、ライナの右腕が無くなったのである。そこから血が大量にあふれ出て来ていた。
「こいつ……精霊種か!? ライナ!! 下がれ!! 私がやる!! セイン、援護を!」
精霊種とは身体の約九割が属性によって生み出された特殊な身体をしている種族で、普通の攻撃は愚か、属性攻撃でなければダメージどころか傷一つも付けることが出来ないのだ。
「了解です! 正攻法ならば……"属性付与"!」
セインが魔法を詠唱するとカタリナの立つ下に水色の魔法陣が生まれる。そして、カタリナのバスタードソードの刃に冷気が宿る。
「氷属性を付与させました! 恐らく、水・氷属性が弱点だと思われます!」
「助かる! うおぉーー‼︎」
カタリナは左手で盾を構えながら朱雀に向かって駆け出していく。朱雀はカタリナに対して、羽を羽ばたかせると火の粉が辺りに舞い散る。そして、その火の粉が地面に付いた時、激しい爆発が起きた。
しかし、カタリナは恐れずに走り続けると攻撃範囲の間合いに入った。
「"氷結斬"‼︎」
カタリナが振り下ろした刃が朱雀の肩に命中すると傷口が纏われた冷気によって少しずつ凍っていく。
手応えありか……
そう思った時、その凍ったその肩の氷が一瞬にして溶け、傷口もくっついて、元に戻ってしまった。
「何⁉︎ くそっ! もう一度……」
カタリナが剣をまた朱雀に向けて振った。先程切った、朱雀の肩に剣が命中した。しかし、剣の刃が朱雀の体に入った時、バスタードソードの刀身が朱雀の熱によってドロドロに溶けてしまったのだ。
「ば……馬鹿な……氷属性が付与されている筈だぞ⁉︎」
武器が無くなったカタリナに対して、朱雀がその燃え盛る羽を使い、カタリナの体に強く打ち込んだ。
ギリギリのところでカタリナは騎士の盾を使い攻撃を防ぐ事には成功したが、朱雀の力は凄まじく、この部屋の壁に吹き飛ばされた。
「ぐはぁ‼︎」
「カタリナさん! 大丈夫ですか⁉︎」
「ああ……大丈夫だ」
「これはまずいですね……サラシエルさん、私たちも魔法で応戦しますよ!」
「そ、そんな事分かってるわよ!」
セインとサラシエルがその場で魔力を溜めると、魔法の詠唱を始めた。
「地獄の業火よ……あの鳥を焼き殺せ!"紅蓮大炸裂"!」
「"魔法球"!」
サラシエルの詠唱によって、朱雀の目の前で大きな爆発が起こる。その威力は朱雀の大きな体を取り込むほど大きな爆破だった。そして、その爆発によってできた黒煙の中に更にセインが複数個の魔力を固めて作った球を飛ばして攻撃を畳み掛けた。
そして、黒煙によって包まれた事で2人からは朱雀の姿は見えず、朱雀が今どうなってるのか2人には分からなかった。
「や……やったわよね? 何だって……私の爆炎魔法はさいきょ……え?」
「まだだ!」
一瞬、黒煙の中で黄色い目がこちらを睨んだのが見えた。朱雀はまだ生きている。それを2人は悟ることができた。
煙の中で朱雀がけたたましい鳴き声を上げた時、サラシエルが生み出した爆発以上の爆風が火花と共に襲いかかってくる。
「サラシエルさん!」
セインがそれを庇おうとするが間に合わず2人ともその爆風が命中し、盛大に転がり飛ばされた。
「うっ……うぅ……まさか……あたしの爆炎魔法を……跳ね返すなんて……聞いてないわよ……」
「こ……これ程とは……私たちの考えていた以上に……敵の力は強大みたいです……ね……」
セインとサラシエルは立ち上がろうとするが力が入らない。
「て……てめぇらおい! 大丈夫か⁉︎」
様子を見ていたライナがその場で腕を庇いながら2人の元へ向かおうとする。そこへ、朱雀が炎を纏った爪をライナに向けて振り下ろしてきた。
「く、クソがあぁああああ‼︎‼︎」
ライナは覚悟を決めて目を閉じる。しかし、攻撃される痛みが無かった。ゆっくりとライナが目を開けると、そこには騎士の盾で必死にライナを庇うカタリナの姿があった。
「カ、カタリナ‼︎」
「私は‼︎ 誰も死なせはしない‼︎」
「っ⁉︎」
カタリナは騎士の盾を使い、朱雀を追い払うかのように盾を薙ぎ払う。
朱雀は傷一つつかないものの、冷静に後方へと下がり羽を休め始めた。
「はぁ……はぁ……ライナ……早く……止血しろ! これを使え」
そう言って取り出したのは青色の液体が入った瓶、ヒールポーションだった。
「悪いが手元にはこれしかない……止血程度にはなる……」
「……ちぃ‼︎‼︎」
ライナは雑にカタリナからポーションを取ると蓋を外し、自分の腕にかける。淡い青い光が腕を包み、止血は止まったが腕は治らなかった。それでも出血性ショックによる死亡は免れた。
しかし、このパーティで立っているの私含めて2人……肝心の後方支援の2人が倒れ、私に武器はもう無い。
ライナも戦えない事はないが肉弾戦……肉を溶かす体を持った朱雀には相性が悪い……
その時、カタリナはフール達の事を思い出す。
少しだけでも加勢して欲しいという思いが芽生えそうになった時、カタリナは自分の手で自分の頬を殴った。
私よりも格下の者に助けを求めるなど聖騎士として失格だ……はぁ……昔の職業病が治らんな……
もはや、カタリナの精神維持もギリギリの状態だった。本当に勝てるのか? 死ぬのだろうか? また……仲間を失うのだろうか?
そう脳裏にネガティヴな思考が広がってくる。
落ち着け、落ち着くんだ……ゆっくりと深呼吸をしろ……昔そういわれただろう……
カタリナはゆっくりと深呼吸を始めた。気持ちが落ち着いてくると、頭に言葉が浮かんでくる。
(カタリナ……希望を持つんだ……)
それは男の声だった。その言葉を聞いた時、カタリナは堂々と構え、盾を構えた。そうだ……希望だ……あの人の言葉を忘れてはいけない……希望を持て!
そう思った時、朱雀の間の入り口のドアが開かれる。
カタリナがドアの方向を見るとそこには見知った顔が現れたのだ。
「カタリナ!」
私の名を呼んだその男はカタリナが一度追い返した、F級冒険者と名乗る謎の男……フールだった。
カタリナ達は先行して朱雀の根城の最深部である朱雀の間へと向かっていた。
「何よやっぱり大したことないじゃない! SS級ダンジョン言うけど殆どS級ダンジョンと変わりないし、四神とかたいしたこと無いんじゃないかしら」
サラシエルは杖に乗り、浮遊しながら緊張感無く道を進んでいた。そんな様子にカタリナは一喝する。
「油断するな。後に何が起こるのか分からないのだぞ!」
「はいはーーい。頭のお堅い隊長様だこと」
サラシエルはカタリナに叱られ、つまらなそうな顔をした。カタリナはサラシエルにそれ以上言うことは無かった。
「まぁまぁサラシエルさん、カタリナさんは私たちの危険を心配して言ってくださっているのですから素直に聞きましょう」
セインがそう言うと、ライナが鼻で笑った。
「ふん! 頭が堅いってところはあたいも同感だぜ。だけどよぉ、カタリナ……どうしててめぇはそこまでして口酸っぱく言いやがる。あたいらはガキじゃねぇんだ。何か舐められてる気がすんだよ」
ライナの言葉を聞いて、カタリナは歩みをピタリと止める。それに合わせて3人も歩みを止めた。
「お、おいなんだよ……」
そして、カタリナはライナの首を掴みダンジョンの壁に押さえた。
「カタリナ!? 何しやがる!?」
「良いか……これだけは覚えておけ。私はお前達のことを下になど見てもおらず、舐めもしていない。私はただ……このパーティのリーダーとして指揮をとっているだけだ」
カタリナはライナの瞳を覗くように顔を近づけた。
「私は……もう、誰も死なせたくないんだ」
その言葉を告げたときのカタリナの目はいつも以上に真剣でライナが見たカタリナの目の奥には何か執念に満ちた炎がまるで燃えているかのようだった。
そうしてカタリナはライナの首を離すと、ライナは掴まれていた首をさすりながら咳き込む。
「ゲホッ! ゴホッ! はぁ……何なんだよ……あたいが死ぬとでも思ってるのか!?」
「人は……簡単に死ぬの。お前達は……運が良いだけなのだから」
「……」
カタリナはそれだけを告げるとまた先へと進み始めた。
「くそっ!」
ライナは壁に向かって右手をたたきつけた。いつもなら言い返していた。しかし、カタリナの目を見た時、どこかその言葉に説得力があって自然と納得をせざるを得なかった。あの時のカタリナの目をライナは脳裏に強く刻まれた。
「私たちが死ぬ訳ないじゃない……何よ怖いこと言っちゃって。ほら、行くわよデカ乳ウルフ」
サラシエルがライナに向かっていつものように馬鹿にした口調で先に進むことを促した。しかし、いつもなら反発してくるライナだったが今はおとなしくなり、何も言ってこない。
「ねぇセイン……ライナ、本気で気にしちゃってる?」
「分からないよ。でも、カタリナさんの言うとおりだと思う。私たちは強くともただの人間です。こうして生きていられていることが奇跡なのだと理解して欲しいからカタリナさんは口酸っぱく、注意するように仰っているのでしょう。きっと……過去に仲間を無くしているのかも知れません……」
2人はひそひそとカタリナにもライナにも聞かれないように会話をする。
そして、重い空気感の中とうとうカタリナ達は朱雀の間の入り口へとやってくることが出来た。
「へぇーー魔物のくせにドアが赤色とかかなり洒落てるじゃない」
大抵のダンジョンのボス部屋の扉は雑に作られた木や石造りなので色が付いている扉はかなり珍しい。
「……みんな、この先には我々が倒せるかどうか定かではないものがいる。それを覚悟して今から挑む。準備は良いか?」
「ええ、私も精一杯サポートしますよ」
「SS級倒して、私も英雄よ! にゃあーーーーはっはっは!!」
「……早く殺らせろよ。私の身体がうずうずしてやがる!!」
カタリナは全員の声を聞いてから、その重々しい扉をゆっくりと開いた。部屋に入った途端、空間内の温度が急に上昇し、まるで真夏の暑さのようだった。
そして、その部屋の奥でメラメラと身体を燃やしている羽を休めている大きな鳥が一羽いた。
「いたか……とうとう見つけたぞ、朱雀……」
朱雀はグリフォンのメンバーに気がつくと、立ち上がって耳に響く奇声のような雄叫びを上げた。そして、羽を羽ばたかせ飛び上がった。その羽根の先端が虹色に輝いており、その虹の粉が散るとそこから激しい炎が生まれる。
「構えろ!!」
カタリナの掛け声で、全員が一斉に戦闘態勢に入った。カタリナはバスタードソードと騎士の盾を構え前に出る。セインとサラシエルは後方に下がり、魔力を込めて魔法の準備をしていた。そしてライナは手足を獣の形へと変えると真っ先に朱雀に対して攻撃を仕掛けに行く。
「ははっ!! 先手必勝!!」
「待てライナ!!」
カタリナの指示を無視して、ライナはその鋭い爪を朱雀に向かって振るう。その爪は見事、朱雀の胴体へと命中し、切り裂いた。手応え有りだとライナは思った。しかし、ライナが与えた胴体の傷跡が消えるように癒えていく。いや、癒えていったのではなく、もともとダメージが入っていなかったのだ。そして、ライナの右手に違和感を覚える。
「……なっ!? う……腕が……溶けてやがる!?」
そう、直接朱雀に触れたことによってダメージを喰らったのは朱雀ではなくライナ自身の方だった。高温の身体である朱雀は触れたライナの腕をドロドロに溶かし、ライナの右腕が無くなったのである。そこから血が大量にあふれ出て来ていた。
「こいつ……精霊種か!? ライナ!! 下がれ!! 私がやる!! セイン、援護を!」
精霊種とは身体の約九割が属性によって生み出された特殊な身体をしている種族で、普通の攻撃は愚か、属性攻撃でなければダメージどころか傷一つも付けることが出来ないのだ。
「了解です! 正攻法ならば……"属性付与"!」
セインが魔法を詠唱するとカタリナの立つ下に水色の魔法陣が生まれる。そして、カタリナのバスタードソードの刃に冷気が宿る。
「氷属性を付与させました! 恐らく、水・氷属性が弱点だと思われます!」
「助かる! うおぉーー‼︎」
カタリナは左手で盾を構えながら朱雀に向かって駆け出していく。朱雀はカタリナに対して、羽を羽ばたかせると火の粉が辺りに舞い散る。そして、その火の粉が地面に付いた時、激しい爆発が起きた。
しかし、カタリナは恐れずに走り続けると攻撃範囲の間合いに入った。
「"氷結斬"‼︎」
カタリナが振り下ろした刃が朱雀の肩に命中すると傷口が纏われた冷気によって少しずつ凍っていく。
手応えありか……
そう思った時、その凍ったその肩の氷が一瞬にして溶け、傷口もくっついて、元に戻ってしまった。
「何⁉︎ くそっ! もう一度……」
カタリナが剣をまた朱雀に向けて振った。先程切った、朱雀の肩に剣が命中した。しかし、剣の刃が朱雀の体に入った時、バスタードソードの刀身が朱雀の熱によってドロドロに溶けてしまったのだ。
「ば……馬鹿な……氷属性が付与されている筈だぞ⁉︎」
武器が無くなったカタリナに対して、朱雀がその燃え盛る羽を使い、カタリナの体に強く打ち込んだ。
ギリギリのところでカタリナは騎士の盾を使い攻撃を防ぐ事には成功したが、朱雀の力は凄まじく、この部屋の壁に吹き飛ばされた。
「ぐはぁ‼︎」
「カタリナさん! 大丈夫ですか⁉︎」
「ああ……大丈夫だ」
「これはまずいですね……サラシエルさん、私たちも魔法で応戦しますよ!」
「そ、そんな事分かってるわよ!」
セインとサラシエルがその場で魔力を溜めると、魔法の詠唱を始めた。
「地獄の業火よ……あの鳥を焼き殺せ!"紅蓮大炸裂"!」
「"魔法球"!」
サラシエルの詠唱によって、朱雀の目の前で大きな爆発が起こる。その威力は朱雀の大きな体を取り込むほど大きな爆破だった。そして、その爆発によってできた黒煙の中に更にセインが複数個の魔力を固めて作った球を飛ばして攻撃を畳み掛けた。
そして、黒煙によって包まれた事で2人からは朱雀の姿は見えず、朱雀が今どうなってるのか2人には分からなかった。
「や……やったわよね? 何だって……私の爆炎魔法はさいきょ……え?」
「まだだ!」
一瞬、黒煙の中で黄色い目がこちらを睨んだのが見えた。朱雀はまだ生きている。それを2人は悟ることができた。
煙の中で朱雀がけたたましい鳴き声を上げた時、サラシエルが生み出した爆発以上の爆風が火花と共に襲いかかってくる。
「サラシエルさん!」
セインがそれを庇おうとするが間に合わず2人ともその爆風が命中し、盛大に転がり飛ばされた。
「うっ……うぅ……まさか……あたしの爆炎魔法を……跳ね返すなんて……聞いてないわよ……」
「こ……これ程とは……私たちの考えていた以上に……敵の力は強大みたいです……ね……」
セインとサラシエルは立ち上がろうとするが力が入らない。
「て……てめぇらおい! 大丈夫か⁉︎」
様子を見ていたライナがその場で腕を庇いながら2人の元へ向かおうとする。そこへ、朱雀が炎を纏った爪をライナに向けて振り下ろしてきた。
「く、クソがあぁああああ‼︎‼︎」
ライナは覚悟を決めて目を閉じる。しかし、攻撃される痛みが無かった。ゆっくりとライナが目を開けると、そこには騎士の盾で必死にライナを庇うカタリナの姿があった。
「カ、カタリナ‼︎」
「私は‼︎ 誰も死なせはしない‼︎」
「っ⁉︎」
カタリナは騎士の盾を使い、朱雀を追い払うかのように盾を薙ぎ払う。
朱雀は傷一つつかないものの、冷静に後方へと下がり羽を休め始めた。
「はぁ……はぁ……ライナ……早く……止血しろ! これを使え」
そう言って取り出したのは青色の液体が入った瓶、ヒールポーションだった。
「悪いが手元にはこれしかない……止血程度にはなる……」
「……ちぃ‼︎‼︎」
ライナは雑にカタリナからポーションを取ると蓋を外し、自分の腕にかける。淡い青い光が腕を包み、止血は止まったが腕は治らなかった。それでも出血性ショックによる死亡は免れた。
しかし、このパーティで立っているの私含めて2人……肝心の後方支援の2人が倒れ、私に武器はもう無い。
ライナも戦えない事はないが肉弾戦……肉を溶かす体を持った朱雀には相性が悪い……
その時、カタリナはフール達の事を思い出す。
少しだけでも加勢して欲しいという思いが芽生えそうになった時、カタリナは自分の手で自分の頬を殴った。
私よりも格下の者に助けを求めるなど聖騎士として失格だ……はぁ……昔の職業病が治らんな……
もはや、カタリナの精神維持もギリギリの状態だった。本当に勝てるのか? 死ぬのだろうか? また……仲間を失うのだろうか?
そう脳裏にネガティヴな思考が広がってくる。
落ち着け、落ち着くんだ……ゆっくりと深呼吸をしろ……昔そういわれただろう……
カタリナはゆっくりと深呼吸を始めた。気持ちが落ち着いてくると、頭に言葉が浮かんでくる。
(カタリナ……希望を持つんだ……)
それは男の声だった。その言葉を聞いた時、カタリナは堂々と構え、盾を構えた。そうだ……希望だ……あの人の言葉を忘れてはいけない……希望を持て!
そう思った時、朱雀の間の入り口のドアが開かれる。
カタリナがドアの方向を見るとそこには見知った顔が現れたのだ。
「カタリナ!」
私の名を呼んだその男はカタリナが一度追い返した、F級冒険者と名乗る謎の男……フールだった。
1
お気に入りに追加
1,396
あなたにおすすめの小説
「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~
平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。
ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。
身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。
そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。
フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。
一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
------
この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。
晴行
ファンタジー
ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
奥様は聖女♡
メカ喜楽直人
ファンタジー
聖女を裏切った国は崩壊した。そうして国は魔獣が跋扈する魔境と化したのだ。
ある地方都市を襲ったスタンピードから人々を救ったのは一人の冒険者だった。彼女は夫婦者の冒険者であるが、戦うのはいつも彼女だけ。周囲は揶揄い夫を嘲るが、それを追い払うのは妻の役目だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる