上 下
38 / 160
第2章 森林炎上編

第36話 S級モンスター ファフニール戦①

しおりを挟む
 初手、俺はセシリアに向けて”EX治癒”の持続詠唱を始めた。それに合わせてセシリアがファフニールの方へと駆けていく。

「セシリア、奴の身体は硬い! 気を付けろ!」

「OK! やってやるわ!」

 そう言ってセシリアは『雷光』、『烈風』を鞘から抜き、勢いに合わせてファフニールへ向けて剣を振るう。刃がファフニールに当たると金属を切ったかのように甲高い音が鳴る。セシリアの攻撃は硬い鱗によって防がれてしまう。しかし、セシリアは切れない刀剣に力を込め、切るのではなくファフニールの体を浮かせるように持ち上げた。こんな巨体は男の戦士でもできるものはそうそういない。なぜなら、俺のエクストラヒールによる攻撃力上昇効果によってできる力技だからだ。
 セシリアがファフニールを切り上げ、胴体が宙に浮くそこに駆け込んできたのはルミナだった。

「ルミナ!」

「了解です! フールさんお願いします!」

「分かってるさ!」

 俺はエクストラヒールの対象をセシリアからルミナへと変える。そして、セシリアが後方へ下がり、ルミナが入れ替わるように前に出る。

「行きます! ”盾打撃シールドバッシュ”!!」

 ルミナの盾がファフニールの胴体を叩く。その追撃によって、見事その巨体であるファフニールの全身が宙へと浮かんだ。そのタイミングを見ていたのは勿論、後方でずっと魔導弓を構えていたソレーヌである。

「ソレーヌさん!! お願いです!」

「分かりました!」

 ルミナの声と共にソレーヌは弓を引く。光の矢が現れ、ソレーヌが見たファフニールの体全体に魔法陣が浮かび上がっていく。

「我が光の矢よ、強固なその鱗を貫きたまえ! ”拡散追魔弾スプレッドアロウ”!!」

 ソレーヌは矢を放つ。その矢は空中でファフニールの目の前で拡散し、ファフニールの体中に付いた六芒星の魔方陣に向かって飛んで行くとその硬い鱗を無視して貫通する。無数の光の矢がファフニールの体を貫き、ファフニールはそのまま血だらけのまま地面へと落下する。ソレーヌの光の矢のおかげで硬い鱗が割れて、その亀裂の間から血が流れていた。

「何よ、S級も大したことないわね! せっかくだから素材剥ぎ取りましょ?」

 そう言って悠々とセシリアは剣を納刀し、ファフニールの方へと歩んでいく。確かに、手ごたえがなかった……そのことがどこか胸に引っかかる……ここまで弱い魔物だったか?
 そう思って様子を見ていると、セシリアが倒れたファフニールの体へ近づいたその時、一瞬だけファフニールの前足の指が少しだけ動いた気がした。

「……!! セシリア離れろ!!」

「へ?」

 セシリアが俺の方を向いた時、その死角を突いてファフニールが自身の尻尾を薙ぎ払う。

「セシリ―危ない!!」

 ルミナがぎりぎりセシリアの間に入り、盾でその尻尾を防ごうとしたがそんなこと関係ないと言わんばかりに盾はルミナごと吹き飛ばされ、後ろにいたセシリアの身体もルミナの体に巻き込まれて、2人は壁際まで吹き飛ばされた。

「ルミナ‼ セシリア!! 大丈夫か⁉」

「ふ……防いだはずなのに……」

「ええ……ルミナのおかげでダメージは低いわ……」

 2人は何とか無事なようだが、問題はファフニールの方だ。俺はすぐにファフニールの様子を確認した。ファフニールは起き上がると損傷した部位がくっついてどんどん回復していく。割れた鱗も治り、ファフニールの流血が収まり、傷が元通りになった。ファフニールは特殊能力である”自己再生”を持っていたのである。すると、ソレーヌが俺たちの前に出る。

「フールさん、2人の回復をお願いします! 私はその間、あいつの注意を向かせます!」

 そう言ってソレーヌがファフニールの方へと駆け出していく。

「ソレーヌ待て!」

「私は大丈夫です! それよりも2人の回復を!!」

 ソレーヌが囮になろうとファフニールの目の前に駆け込み、それを見たファフニールはソレーヌを追いかけ始めた。

「すまないソレーヌ!」

 俺はすぐに2人の元へと近づいて”完全治癒パーフェクトヒール”の呪文をかけた。パーフェクトヒールの効果は絶大で、普通のヒールよりも早い回復速度に加えて、大魔道のローブの能力によってさらに回復速度が向上しているので二人の傷は一瞬にして完治した。

 一方で、ソレーヌはファフニールの攻撃に耐えていた。ファフニールが硬く鋭い爪を振り下ろすがソレーヌの身軽な動きによって華麗にアクロバッティックに避けていく。
 ファフニールは怒り、セシリアに仕掛けたように長い尻尾で周囲を薙ぎ払う。ソレーヌはそれを見て、高く飛び上がり、空中で魔道弓を構えた。


「……これならどう⁉︎」

 ソレーヌの光の弓が生み出された時、ファフニールの周囲の地面に魔法陣が浮かび上がる。

「動きを止めよ! "拘束封魔弾バインドアロウ"!」

 ソレーヌが矢を離すとその矢は光の糸となり、ファフニールに絡みつく。そして、魔法陣によって糸が固定され、ファフニールは身動きが取れなくなってしまった。その大きな口も光の糸によって巻きつかれて口が開かなくなっている様子だった。
 そしてソレーヌは華麗に着地を決めると俺たちの方に後退してくる。

「皆さん今です!」

「任せなさい! 良くもやってくれたわね‼︎」

「私がサポートします!」

 ソレーヌと交代するように2人が前へと飛び出す。
 俺はセシリアに"EX治療エクストラヒール"を、ルミナには"完全治療"をそれぞれ持続詠唱する。
 セシリアは二刀の刀を一度鞘に収めて、『雷光』にだけ柄を握る。

「ルミナ! 行くよ!」

「セシリー! 来て!」

 ルミナが一歩前に出て、盾を構えた。セシリアはルミナの盾に向かって走り、その盾を踏む。

「"盾打撃シールドバッシュ"‼︎」

 ルミナが盾を押し、セシリアを空中へ飛ばした。高く飛び上がったセシリアは握っていた雷光を一気に抜くと、雷光の刀身にはバチバチと音を鳴らしながら神々しく光る雷が纏わり付いている。雷光の装備能力である"雷属性攻撃"だった。
 セシリアは雷光を上から下へと落下と同時に振り下ろした。

「"落雷切断剣サンダーボルト"‼︎」

 セシリアの刀から雷が放出されると大きな落雷が落ちる。その攻撃によって糸と一緒に拘束されていたファフニールの体が真っ二つに斬られていた。

「やった! こいつ雷に弱いのね!!」

 しかし、セシリアの喜んでいる間に切り裂かれたファフニールの肉がぐちゅぐちゅと動き出すと、分離された肉が一人で結合しようしている。

「なんて再生速度なんだ……くそっ!!」

 やはり、ファイアボールを使うか……

 そう思ったその時、ファフニールの体が突然爆発した。それは1発ではなく2回、3回と爆発し、身体の鱗がはがれて肉が飛び散る。目の前で起こっていることに困惑している俺たちの後方から何人かの人の気配があった。

「なーーによ、これくらいのS級モンスターに手こずるなんて!! 私の爆炎魔法にかかればこんな奴、自己再生もへったくれもないわ!! にゃーーはっはっは!!」

 甲高い声を聴いて、俺たちが後ろを向くとそこには3人の人間がいた。一人は片眼鏡をかけてニコニコと笑顔の男、もう一人はドヤ顔と赤い宝玉が先端に付いた杖を俺たちに向けたピンク髪のツインテールの少女、そしてもう一人は鎧を身にまとった美女カタリナだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。 ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。 身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。 そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。 フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。 一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行
ファンタジー
 ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

奥様は聖女♡

メカ喜楽直人
ファンタジー
聖女を裏切った国は崩壊した。そうして国は魔獣が跋扈する魔境と化したのだ。 ある地方都市を襲ったスタンピードから人々を救ったのは一人の冒険者だった。彼女は夫婦者の冒険者であるが、戦うのはいつも彼女だけ。周囲は揶揄い夫を嘲るが、それを追い払うのは妻の役目だった。

処理中です...