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12歳《中等部》

28 ラージャ(獣人)side

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いつも暇つぶしのように俺の主人は呼び出してくる。そんで適当な世間話とか獣人の生活の話とか言わされて終わり。何が楽しいんだか。

今日も執事長のアルフレートからクラウスの部屋に行くように言われた。またしょうもない話をしろと言われるんだろうな。はぁ。めんどくさい。

「クラウス様、ラージャが参りました。」

「入って。」

落ち着いたいつもの声。パッとみは優しそうな微笑み。ずっとなんか笑ってるから仮面でも貼り付けてそう。気色悪い。
執務室のソファには真逆の顔をした男はクラウスの弟。テオ。獣人の俺が大っ嫌いなやつだ。俺も嫌い。

「座って。」

クラウスは執務室の机に資料を置いてテオの隣に座った。俺はその向かいに座る。

なんのようなんだろう。昔約束した、獣人おれが役に立つ人材だと認識すれば獣人おれたちを虐げる国を止めてあげる。その話なんだろうか。やっとか。この数年でどれだけの同胞がやられたんだろう。売られたんだろう。考えたくない。

アルフレートから紅茶を置かれてやっと話が始まった。

「明日、この家の主人が帰ってくるのは知ってるかい?」

「…はい。」


優雅に見せつけるように紅茶を口に運ぶクラウス。
少なくとも俺のことは嫌っていないらしい。隣の弟の方がよほど俺を嫌ってる。


「うん。連れてくるのは子供らしい。大方僕たちの弟だ。」

「はい。」

知らない。そうなのか?またテオみたいなのが増えると思うと嫌になる。

「ラージャ。お前その子の護衛兼従者に任命する。ちゃんとこなすんだよ。」

「兄上、その子供。いくら部外者と言えどもシルヴェスターの子供です。獣人なんぞを従者にすればシルヴェスターの威厳が落ちます。」

獣人じゃなくて名前はあるし、なんぞでもない。
こいつを見てるとクラウスの対応がだいぶマシに見える。
こいつは俺をゴミだと思ってクラウスはコマと思ってるくらいの違いしかないだろうが。

「テオが来た時はテオの乳母もいたし、テオ自身が強くなろうとしてくれたから僕の保護魔法くらいで事足りたんだよ。テオはマナーも教養も100点だったからね。」

褒められたテオのほうは嬉しそうに茶菓子を口に運んで食ってる。お前はリスか。
クラウスは紅茶で喉を湿して微笑んだ。

「次の子はそうとも限らない。今は昔よりシルヴェスターの力が強いし皇位継承権の争いにも参加する。力のない子に護衛は必要だよ。」

「先生たちはどうでしょうか。」

「忠誠という点で信用してないから却下。ラージャ、この件で弟を守りきれたらおまえの話前向きに聞いてあげよう。どう?やる?」

「本当に…叶えてくれるのか。」

信用ならねぇ。確かにいい暮らしさせてくれたしマナーも言語も武術も教えてくれた。それでも機会は与えられなかった。信じていいのか?

「ラージャが南の国の利益よりも魅力がある人物だと思えたならいいよ。そのための第1歩。」

俺にこの手を取らない理由がなかった。
他に方法も思いつかないしここで追い出されたらどうしょうもない。復讐も仲間を守ることもできなくなる。

「…やる。」

「じゃあ第1に僕らの新しい弟を命に変えても守ること。次に信用されること。この2つから頑張ってみようか。」

「わかった。」

「分かりましただろう。獣人。」

「…分かりました。」

「うん。いい子。それじゃあ道具あげるよ。」

ほんっとうにこの弟の方はいけ好かない。
やっとカップを下ろして代わりに黒々とした空間を作り出した。そこに手を入れて小さい黒いピアスを取りだした。


「少ない魔力で人に見える幻影を施したものだよ。」

「穴空いてないんですけど…。」

「開けてあげるよ。」

そう言って細い針を魔法で作りだした。
怖い。こいつが持ったら首掻っ切られるか心臓貫かれて殺されそう。

相当嫌な顔していたのかその針を消してくれたがテオの方が舌打ちしてきた。

「それともテオに耳斬らせてあげようか?そのまま治して埋め込めばいいもんね。どっちがいい?」

絶対に嫌だ。
普通のやつならやらないだろうけどこいつならやりかねない。

「クラウス様に開けてもらう方がいいです。」

「ラージャはいい子だね。」

ふわっと頭を撫でられた。久しぶりに撫でられた。母たちは元気だろうか。
クラウスの手にすり寄った時、耳からブチッという音が聞こえて頭を動かしそうになる。それを無理矢理止められてカチャカチャと耳から響く金属音。

「似合ってる。」

ジンジンとする耳。触れてみると固いものが着いていた。

「クリーンと外せないように固定魔法も使ってる。頑張ってね。」

ほら。こいつは誰も信用してないんだよ。

俺のため息とテオの舌打ちだけが部屋に響いた。






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