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勇者の国 番外編
番外編-ミラ-私(筆者)がそこに居たらぶん殴ってた
しおりを挟むレオがこの世界にやってくる前のこと。
ミラは花束を持って街を1人で歩いていた。
しかし街に用はなく、通り過ぎる。
だんだん人気が少なくなり、治安も悪くなっていく。
そのまま奥へ進むとミラの故郷がある。
華やかな勇者の国に潜む闇、スラム街だ。
目的の場所に着くと、ミラは驚いた。
なぜなら目の前にリアンの後ろ姿があったからだ。
白銀の美しく長い髪をなびかせ、目の前のお墓に花を置いて紅い目を瞑る。
風が吹いた。
彼女は依然と祈っている。
「おい」
「え!?びっくりしたぁ、ミラも来たんだ」
ミラは「むしろどうしてお前がいるんだ」と言おうとしたが、やめた。
乱暴に持っていた花束を墓に放る。
────あれから1年か……
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
物心ついた時には、自分より大きな男たちと喧嘩する毎日に慣れていた。
自分のものは自分で守る️。
今日食べれるものが得られるかも怪しいスラム街では当たり前のことだった。
そのためには、喧嘩に強くなくてはならない。
その点には心配なかった。
ミラは壁を蹴って角度を変え、大男の背後から頭に回し蹴りを食らわせた。
男が白目を向いて倒れる。
ミラは頬についた血を拭う。
「ふぅ…。子どもを狙うとか最低だな」
ミラは男を放置して自身の集落へ戻る。
集落…と言っても想像しているようなものでは無い。
スラム街の中で、固まって生活しているコミュニティのことだ。
ここはスラム街で上位に君臨している。
そんなコミュニティを支えているのが────
「おお!ミラお帰り。遅かったじゃないか」
────この無精髭の男、Karudoだ。
40代半ば程で、体格がいい。
彼はスラムで生き残れないような幼い子どもを集め、守るためにこの集落を作った。
彼はミラの頭をわしゃわしゃと撫でる。
ミラは嫌そうな顔で手を払い除ける。
「やめろっての!」
「なんだ?反抗期か~?パパ悲しい」
「誰がパパだ。気色わりぃ」
そう言い捨てると、自分の部屋(汚い布で仕切っただけの場所)へ入っていった。
残されたカルドは寂しそうにその部屋を見る。
「うう、ミラ~。くすん」
「ボス…そのガタイと歳で『くすん』はキツイぜ?」
カルドの隣にいた男性────Rahumaが呆れ顔で言った。
彼はカルドに対して細身で高身長である。
カルドはミラの部屋を見つめる。
するとその瞬間、彼は大きく咳をした。
抑えた手に血が付いている。
「!?おい、ボス!それ…」
「静かにしろ。誰にも言うんじゃねえぞ」
「……」
カルドは15年前を思い出す。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
その日は雨だった。
カルドは迷いの森で食料を採取していたが、急に大雨が降ってきたためスラム街へ戻っていた。
そんな時。
スラム街の入口に、何やら箱が置いてあった。
彼はゆっくり中を覗いた。
すると、そこには瀕死の赤ん坊がいた。
珍しい金色の髪と目をしている。
彼はその目に見つめられた瞬間、赤ん坊を抱え上げていた。
急いで自身のテリトリーへ戻る。
雨のかからない場所で、持っている限りの毛布で赤ん坊をくるんであげた。
一晩中介抱し、ようやく赤ん坊の顔色が良くなった。
「良かった……」
すると、赤ん坊が彼に笑いかけた。
彼は赤ん坊を抱き上げる。
「運命の神から名前をとって、お前の名前はミラにしよう!」
雨上がりの光が差し込むその部屋で、ミラはきょとんとした顔でカルドを見ていた。
カルド曰く、ミラが笑ったのは(喧嘩以外で)この時だけな気がする…、らしい。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
部屋に戻ったミラは、本を整理していた。
これは彼の趣味。
スラム街で捨てられた本を見つける度に持って帰ってきては繰り返し読んでいる。
ここスラムでは恐らく彼だけが字を読める。
ミラは1番のお気に入りを取り出して眺める。
それは、他の古びた本と違って綺麗に装飾されている。
彼はページをめくった。
この本には勇者の国のあらゆる歴史や文化が事細かに記載されている。
これは、カルドに貰ったものだった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
まだミラが10才程の時。
彼は既に喧嘩が強かった。
自分の倍以上ある大人を軽々と倒し、スラム街で強く生きていた。
この頃にはカルドの計画に口出ししたりしていた。
その時、カルドがミラに本を渡したのだ。
「あ?んだコレ」
「勇者の国の情報がたくさん載っている。お前、本好きだろ。やる」
「は!?いやいや、そんなスゲェもんあるなら売っちまえよ。本より今日の食料が優先だろうが」
「ミラ」
カルドの表情が真剣になり、ミラは口をつぐむ。
「おれぁバカだが、お前はおれと違って賢い。これでもっと知識をつけろ」
「ここじゃ力が全てだろ」
「知識こそが力だ。お前の将来の選択肢が広がる」
「将来って…」
どうせここじゃいつ死ぬか分からない、と言いかけたが飲み込む。
ミラは本を渋々受け取った。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
受け取ったあと「売っちまうからな」と言い放ったものの、現在まで大切に保管している。
何度も読みこみ、内容は全て頭に入っている。
しかしその本にはスラム街の一切が書かれておらず、ミラを苛立たせた。
本を読んでいると、部屋を仕切る布がめくられた。
ミラは慌てて本を全て隠す。
入ってきたのはAmikku、彼は(自称)ミラの親友だ。
「ミラ~♪缶蹴りしよーぜ」
「勝手に入ってくんな」
「めんごめんご。それより缶蹴りしよ。みんなミラに入って欲しいってさ」
❁
アミックは周囲を見渡す。
彼は鬼。あとはミラだけだ。
「どっこかな~♪早く蹴らないと時間が無いぜ~?」
すると、石が跳ねる音がした。
アミックは即座に振り返る。
しかしそこには転がる石ころだけがあった。
「そっちね!」
アミックの目がミラを捉えた。
彼は既に、あと5mの所にいる。
「(残念だけど、言う方が早い!)ミラ────
ミラはゴミ箱を踏み台にする。
────見ぃつけ────
そしてバク宙し、その勢いのまま缶を吹っ飛ばした。
────た」
カランカランと缶が音を立てて落ちる。
「オレらの勝ち、だな」
「嘘だろぉ!?」
捕まった子ども達が集まってきて喜ぶ。
「さすが“キング”!」
「かっけぇぇ」
「おいそのキングってやつやめろ」
「え~似合ってるぜ♪」
ミラがこのあだ名で呼ばれているのは、王族でしか見られないような美しい金色の髪に加え、王という名にふさわしい喧嘩強さを備えているからだ。
ちなみにアミックが呼び始めた。
不機嫌なミラを横目に、彼は笑っていた。
そして日が暮れた。
❁
「おい!!!起きろミラ!!!」
「んだよ…」
ミラは重い体を起こす。周囲はまだ暗い。
目の前には、焦燥に駆られるラフマがいた。
その表情で事態の深刻さに気づき、目が覚める。
「ボスが…カルドが死にそうなんだよ!!!」
「!?」
ミラは慌てて布をひったくるようにして部屋を出て、カルドの元へ向かう。
彼は顔を白くし、弱々しく息をしていた。
さらに、彼が咳をする度に血が吐き出される。
「……ッ!!おい!どうしたんだよ!?」
カルドはゆっくり目を開く。
「ああ…ミラか…。なんの問題も無い…」
「はあ!?何言ってんだよ!!」
こういう事は、スラムでは珍しくない。
スラム街は衛生状態が劣悪で、長生きする人はいない。
免疫の弱い子どもなどは特に。いつ死ぬか分からない。
しかし、ミラは今までで1番焦っていた。
冷静になれない自分がいることに気づく。
「……とにかく、医者を呼んでくる!!!」
「おい待て!ミラ!」
ラフマの声はミラの耳に届かなかった。
彼は無我夢中で走り、王都に向かう。
スラム街には医者がいないからだ。
「クソ!遠い!!」
早く戻らねば。
そう思いながら、1番近かった診療所の扉を叩く。
夜中なのでもう開いていない。
男が迷惑そうに扉を開けた。
「なんだ…こんな夜中に…」
「瀕死のやつがいるんです!助けてください」
「……うわ、お前スラムの住人か。帰ってくれ。金も払えないやつに用はないし、スラムの住人を受け入れて周囲に変な目で見られても困る」
ミラは言葉が出なかった。
目の前で扉が閉じられる。
すると、少し遠くに人影が見えた。
近づくと白竜団の団員だと分かった。
幸運だ、と思った。
白竜団なら助けてくれる。
「あの!助けてください!瀕死のヤツがいて…」
「は?あー、」
男性団員はミラの服装をじーっと見た。
「お前スラムの奴か。汚ねぇから近づくな」
ミラは耳を疑った。
男性団員は眉をひそめてこちらを見ている。
人間ではないようなものを見る目で。
怒りを覚えたが、耐えた。それどころでは無いからだ。
「…すいません。お願いします、助けてください。医者を呼んでくれませんか」
「だからぁ、頭沸いてんのか?スラムの奴を助けるワケねーだろ。お前らが生きててもなんの意味もねぇんだから」
「……!」
団員は嘲笑う。
怒りを通り越して、呆然とした。
────そうか、世界ではオレたちの価値はゼロどころかマイナスなんだ
男性団員は、固まってしまったミラを侮蔑する目で見つつ、去っていった。
ミラは固まったままだった。
そんな時、後ろから追いかけていたラフマの声が聞こえた。
「おい!ミラ!」
息を整えると、ミラの肩に手を置いた。
「お前が…そばに居てやらなくてどうすんだ…!」
ミラは一言も発さず、即座に元来た道を駆けていく。
❁
戻ると、カルドの周りに全員集まっていた。
必死に声をかけている。
ミラが来たのを見て、全員道を開ける。
彼はまっすぐカルドの元へ向かう。
「おい…いつもの調子はどうしたんだよ」
「…ミラ…お前の、人生は…お前のモンだ。…“いきたい”道を…選べ」
「はあ!?もう喋んな、体力が……」
「・・・・・」
「……絶対に死ぬなよ、親父…」
「はは…久しぶりに、呼んでくれた…な…」
カルドが段々と衰弱していく様子は誰の目にも明らかだった。
既に涙を流している者もいる。
カルドは震える手をミラの頬に当てる。
彼は必死に何かを堪えるような表情だった。
「なんつー顔してんだ……。最期くらい笑った顔を見せてくれ…」
カルドは力なく笑う。
ミラは、無理やり口角を上げる。
堪えていたものがこぼれ落ちた。
カルドはそんなミラを優しい目で見つめる。
「はは…おれァ、お前らのお陰で幸せだった…」
カルドは、それ以降何も話さなかった。
ゆっくりと顔色が薄くなる。
優しい微笑みを浮かべたカルドは、もう、目覚めることはなかった。
❁
夜が明け、カルドの葬式が行われた。
葬式といっても想像するようなものではなく、ただ荒れた土に埋葬し、雑草とも言えそうな花を飾るだけだ。
集落の子どもたちは、みんな泣いていた。
普段笑顔を絶やさないアミックも堪えきれず涙を流す。
ラフマ含む数人しかいない大人たちも、空を見上げて泣く。
どれほどカルドが愛されていたのかが分かる。
しかし、ミラだけは一滴も涙を流さない
「……」
ただ花を見つめ、拳を握り締める。
その手からは血が流れていた。
ミラは力強く1歩を踏み出し、全員の前に出た。
「ミラ…?」
「どうしたんだ?」
ミラは顔を上げ、その鋭い目で見渡す。
ゆっくり口を開く。
「────今日からはオレがここを仕切る。異論がある奴はかかってこい」
場が静まり返る。
そして次の瞬間、全員が歓迎の雄叫びを上げた。
「お前しかいねえよ!」
「ボス…いや、キング最高!」
全員涙を拭い、新たな王の出現を祝った。
アミックがミラに近づき肩を組む。
「お前に勝てるヤツがいるわけね~だろ!最高だぜ俺の親友♪」
「誰が親友だ」
「ひで~!」
その夜、ミラは眠れなかった。
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