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第1章
こんばんは、レディ。
しおりを挟む決して1人になっては駄目だと奥様に言われていたのにもかかわらず、不可抗力で1人になってしまった私。
どうしようかと考えるも、諦めの早い私が出した答えは、“どうしようもない”という実に中身のないものだった。
ウィンストン公爵家の養女として顔を覚えてもらう必要があるのなら、他の貴族達ともっと交流するべきなのかもしれないが、自ら『アイヴィ・ウィンストンです』と自己紹介をしに行くのもなんだか違う気がする。
とりあえず、ヒューゴ達が戻ってくるまでの間は、公爵様に言われた通り、食事だけを楽しむことにしよう。
そう決めた私は、並べられた美味しそうな料理を、丁寧にお皿へと盛り付けていった。
口に入れる料理は、見た目通りどれも美味しく、フォークが進む。
「こんばんは、レディ。」
はしたなく見えないよう気をつけながら食事を楽しんでいた私の元に、1人の令息が話し掛けて来た。
“レディ”なんてキザなことを言われ、どう対応していいのか分からなかった私は、とりあえず、彼と同じ挨拶を返す。
「食べている姿が美し過ぎて、つい声を掛けてしまったよ。お名前を伺っても?」
「…アイヴィ・ウィンストンと申します。」
「ウィンストン?ウィンストンって、あのウィンストン公爵家のことかい?」
「はい。」
「確か、ウィンストン公爵家に娘は居なかった筈だけど…。」
「新しく加わったんだよ。」
「わっ。」
養女になった趣旨を伝えようとすれば、ぐい、と首に腕を引っ掛けられ、後ろへと引っ張られた私。
まるで愛玩動物を引き取ったかのような言い方だ。それよりも気になるのは、首に掛けられたこの腕なのだけれど。エイダンは私を窒息させるつもりなのだろうか。
突然のエイダンの登場に驚く令息。
彼の方が爵位が下なのか、先程までフランクだった話し方が、改まった話し方へと変わる。
「ウィンストン公爵家のご令嬢とは知らずに、気安く話しかけてしまい申し訳ありません。アイヴィ様。」
「いえ…。」
「行くぞ。」
「あ、え。」
私は、エイダンに引っ張られながらその場から離れる。
中途半端に話を終わらせて来てしまったけど、良かったのだろうか。
「1人になるなって言われただろ。」
「好きで1人になったわけじゃない。エイダン達が離れていったの。」
「…悪かったな。」
私が1人になってしまった理由を話せば、確かにそうだと思ったエイダンが、バツの悪そうな顔をする。
ヒューゴとカーシーなんて、未だ令嬢達に囲まれている。
もはやここまで粘る令嬢の姿を見ると、減るものでもないのだから、1曲ぐらい踊ってあげればいいのにと思えて来てしまう。
先程までエイダンの周りに居たであろう令嬢達も、諦められない様子で、私の隣に立つ彼のことをジーッと見ていた。
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