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第一部 再興編
震える絆(3)
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「いい月夜だな」
声をかけてくる兄の気配はわかっていた。
「疾風兄者」
疾風。
年は草太より、一つ下くらいか。
草太を本当の兄と慕っている少年。
赤茶けた髪をうしろでまとめている。
背丈は草太と同じくらいだが、幅と厚みは倍くらいはありそうだ。
かといって鈍重そうな様子は全くない。
名のとおり疾風のように動く、敏捷な大型獣のようだ。
草太とほぼ互角に戦えるのは、この兄だけだった。
左目はなかった。
まだ疾風が10になった位の頃だ。
時苧の留守中、瘤瀬に紛れ込んできた野盗と草太と共に戦い、失ったのだ。
しかし右目は思慮深く、人を思いやれる優しい光に満ちていた。
「こはととはな」
疾風は静かに嘆息した。
菜をの躯がびくん、と震える。
「オレ達は忍ぶ者だよ、菜を。そして『見る』者だ」
疾風が静かに言う。
「こはとは嫉妬していた。そこを付け込まれたのかもしれないが」
流石に拾われることを想定した、仕込まれた間者とは見抜けなかったらしいが。
「嫉妬……?」
菜をがぼんやりと聞き返す。
「……おまえと、兄者に」
疾風が口籠り、意を決したように小さく言った。
「?」
「おまえと、小鷲兄者は。頭領の、いや、じい様の。本当の孫、に近い存在だろう?」
「!」
菜をが瞬間、疾風の瞳をみつめ、また眼を逸らした。
(そうだと、どんなにいいか)
俯いている菜をの反応をどう思っているのか。
「まあ、この際、血がつながっているかどうかはおいておこう。
オレとしては大問題だが。
血がつながってようが、ぶっちぎれてようが関係ないことだ。
オレ達はそんなもの無しに兄姉弟妹なんだから。
だが、兄者はお前には絶対手加減しない。
お前達には他の兄姉弟妹にはない、特別な絆がある。それは見ていてわかる」
「疾風兄者。どうして、わたし達に特別な絆があると……?」
菜をが、涙に濡れた双眸で兄を見上げる。
自分と、時苧や草太との間には。確かに他の兄姉弟妹との間とは違う絆があると信じていた。そう、菜を自身が思っていた。
だが。
特別な絆があるとすれば。それは、諏和賀を再興する為の絆であった。
声をかけてくる兄の気配はわかっていた。
「疾風兄者」
疾風。
年は草太より、一つ下くらいか。
草太を本当の兄と慕っている少年。
赤茶けた髪をうしろでまとめている。
背丈は草太と同じくらいだが、幅と厚みは倍くらいはありそうだ。
かといって鈍重そうな様子は全くない。
名のとおり疾風のように動く、敏捷な大型獣のようだ。
草太とほぼ互角に戦えるのは、この兄だけだった。
左目はなかった。
まだ疾風が10になった位の頃だ。
時苧の留守中、瘤瀬に紛れ込んできた野盗と草太と共に戦い、失ったのだ。
しかし右目は思慮深く、人を思いやれる優しい光に満ちていた。
「こはととはな」
疾風は静かに嘆息した。
菜をの躯がびくん、と震える。
「オレ達は忍ぶ者だよ、菜を。そして『見る』者だ」
疾風が静かに言う。
「こはとは嫉妬していた。そこを付け込まれたのかもしれないが」
流石に拾われることを想定した、仕込まれた間者とは見抜けなかったらしいが。
「嫉妬……?」
菜をがぼんやりと聞き返す。
「……おまえと、兄者に」
疾風が口籠り、意を決したように小さく言った。
「?」
「おまえと、小鷲兄者は。頭領の、いや、じい様の。本当の孫、に近い存在だろう?」
「!」
菜をが瞬間、疾風の瞳をみつめ、また眼を逸らした。
(そうだと、どんなにいいか)
俯いている菜をの反応をどう思っているのか。
「まあ、この際、血がつながっているかどうかはおいておこう。
オレとしては大問題だが。
血がつながってようが、ぶっちぎれてようが関係ないことだ。
オレ達はそんなもの無しに兄姉弟妹なんだから。
だが、兄者はお前には絶対手加減しない。
お前達には他の兄姉弟妹にはない、特別な絆がある。それは見ていてわかる」
「疾風兄者。どうして、わたし達に特別な絆があると……?」
菜をが、涙に濡れた双眸で兄を見上げる。
自分と、時苧や草太との間には。確かに他の兄姉弟妹との間とは違う絆があると信じていた。そう、菜を自身が思っていた。
だが。
特別な絆があるとすれば。それは、諏和賀を再興する為の絆であった。
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