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5.はじめての、致す部屋
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結局、部屋を決めろと言われても、ラブホテルが初めてだった真夜はよくわからず、全てを望月に任せる形になってしまった。
彼は馴れたようにタッチパネルを操作して、エレベーターに乗って部屋に赴く。
「普通のホテルみたいに、鍵をもらったりしないんですね」
「そうだねえ、古いホテルはそういうシステムも残ってるみたいだけど、このあたりのホテルは新しめだから。さっきのパネルで操作すると、鍵が勝手に開くんだよ。使用者は、入室したあと鍵を掛けるんだ」
「へえ~……なるほど。さすが、詳しいですねえ」
部屋に入って、ビジネスバッグをソファに置きながら、真夜は感心した。さすが社内でも有名な遊び人。ラブホテルの利用方法など、お茶の子さいさいで知っているのだろう。
「しかし、平日はすいてて良いね~」
「そうなのですか? こういう所もやはり、週末休日にお客さんが集中するのでしょうか」
「金曜日とかね、土曜日も多いな。逆に日曜の夜はそうでもないかも。クリスマスみたいなイベントデーは酷いものだよー。夕方までには入らないと、どこも満杯だね」
望月がスーツの上着を脱ぎ、ハンガーにかけながらう。真夜は「勉強になります」と相槌を打ちながら、物珍しく部屋の内装を見渡した。
床はフローリング。キングサイズのベッドの周りにはラグマットが敷かれていて、その横には二人用のソファとテレビ、カラオケ機材などがある。
更に逆方向を見れば何故かスロットマシーンと、壁部分がガラス貼りになっている小さな屋内プールがあった。
「プール、ありますよ。この部屋」
「本当だね~」
「滑り台まである……。アレ、入れるんですかね」
「入れると思うけど、今は秋だし。そろそろ水は冷たいと思うよ? それにこういうホテルのプールって、いつ水替えたかもわからないから、入るのはおすすめしないね」
「うっ、そ、それは嫌ですね」
ラブホテルの主な利用目的を思い出した真夜は、渋顔を浮かべた。しかしプールつき部屋というのはラブホテル業界では普通なのだろうか? こんな変な内装は初めて見る。
「ちなみに、あのスロットは遊ぶためにあるんでしょうか?」
「置いてあるんだし、そうなんじゃない?」
「……なんで……?」
「俺に聞かれてもな~。でもラブホって、意味不明なの置いてるトコ多いかも、そういえば」
軽く笑いながら、望月はスタスタと歩いて手前のドアをガチャリと開ける。
「シャワー、先に使う?」
「あ!は、はい。………ってそうだ! 私、替えの下着がないんですけど」
「ブラはないけど、下の下着なら洗面所のアメニティグッズに入っているかも。確認してみたら? もし無くても、エレベータの角のところに自販機があったし、下着はそこで買えると思うよ」
望月は、やたらラブホテルの仕様に詳しい。きっと日常のように使っているのだろう。
人によっては、遊び人として非難するのだろうか。しかし真夜は心から感謝した。ラブホテルに慣れている人で、本当に良かったと思ったのだ。
これなら、安心してコトに及ぶことができそうだ。
真夜はビジネスバッグから化粧道具のポーチだけ持って脱衣所に入る。すると、望月は玄関に行き、ゴソゴソと靴を履き始めた。
「ちょっと買ってくるね」
「え、何をですか?」
「ゴム。さすがに用意してなかったから」
ああ~、と納得したように拳をポンと打った後、真夜はみるみると顔を青ざめさせた。そして勢いよく頭を下げる。
「そうですよね! ごめんなさい! めちゃくちゃ必需品なのにすっかり忘れてて、私ったらっ! 考えが足りなくて本当にすみません。あの、お金払いますから。こんどーむって幾ら位するんでしょう? せんえんで足りますか?」
慌ててソファまで戻り、ビジネスバッグから財布を取り出す。そんな真夜に望月がキョトンとした。
そして突然おかしそうに笑う。
「あはははっ」
「……え? 今の、笑うところですか?」
財布片手に戸惑った顔をすると、望月は茶目っ気のある目で、スラックスのポケットから長財布を出した。
「それくらい俺が買うよ。君から言って来たこととはいえ、俺はそれに頷いたんだから。その時点でこれは共同責任の行為でしょ?」
「で、でも、それなら余計に払わせてしまうのは申し訳ないです。ホテル代だってワリカンですし」
「んー? じゃあ、今日は俺が買うからさ。ソレが無くなったら次は真夜ちゃんが買ってよ。それでいいよね?」
それなら納得できる。真夜が素直に頷くと望月はニッコリと笑い、部屋を後にした。
一人になった真夜はとりあえずシャワーをしようと脱衣所に入る。アメニティグッズを確認すると、サテン生地のつやつやした紫色のショーツが入っていた。
「……趣味わるっ。なんかチョット透けてるし。まぁ、仕方ないか、ラブホだもんね」
むしろこんなホテルで普通の綿ショーツが入っていたらそれはそれで嫌だったかもしれない。
ゴソゴソとスーツを脱いで備え付けのハンガーにかけ、アメニティグッズからシャンプーやらボディソープやらを取り出して浴室に入った。
中は思ったより広い。二人くらいならゆうに入れそうな浴槽に、洗い場も大きい。こういうところで、普通のビジネスホテルと全然違んだなあと真夜は思った。
改めてこのホテルの使用目的を思い出す。恐らくは、風呂場で触れあう恋人同士もいるのだろう。
ごしごし、ごしごし。
いつもより丁寧に体を洗いながら、何となく真夜は物思いにふけた。
今の状況。どこか現実感に欠けている気がする。
自分は本当にこれからセックスをするのだろうか。……望月巽と。
経験していない事だから仕方が無いのかもしれないが、全く想像できない。
でも、一つだけ考えを改めるところがある。
「望月さんは、想像していたより優しい人だった」
初対面なのに、何故か彼に対する恐怖感がないのだ。勿論嫌悪感もない。妙に気さくだからだろうか。それともセックスという行為に対してがっついた感じがしないからだろうか。
じゃあ飲みに行こう。そんなノリでホテルに行こうと言われた。
『セフレになって下さい』なんて、普通にドン引きされてもおかしくない事を告白したのに、彼は驚きはしたものの、態度は至って普通だった。
それだけ慣れてる人なのかと思いきや、しかしセフレは作った事がないのだという。
「ふしぎな……人」
シャワーで泡を流し、ぽつりと呟く。
考えが読めない。一体望月は何を思って真夜の頼みを受け入れたのだろう。遊び? 暇つぶし? ……それとも、全く違う思惑?
わからない。でも確実に言えることは、彼は決して自分を愛しているわけではないと言う事だ。初対面だから当然なのだが、望月はどこか、この状況を楽しんでいる感じがする。
……やはり、遊び半分なのだろうか。
でも、それを真夜は望んでいる。
恋をしたら皆、我侭になってしまうのだ。たくさんの事を求めてしまうのだ。
だから、遊びでいい。スポーツ感覚で遊んでもらって、飽きたら捨ててくれたらいい。
そうすれば自分は、顔の良い男に抱いてもらったという過去を宝物にして生きていける。独りでいるのは好きだから、やっていける。
彼は馴れたようにタッチパネルを操作して、エレベーターに乗って部屋に赴く。
「普通のホテルみたいに、鍵をもらったりしないんですね」
「そうだねえ、古いホテルはそういうシステムも残ってるみたいだけど、このあたりのホテルは新しめだから。さっきのパネルで操作すると、鍵が勝手に開くんだよ。使用者は、入室したあと鍵を掛けるんだ」
「へえ~……なるほど。さすが、詳しいですねえ」
部屋に入って、ビジネスバッグをソファに置きながら、真夜は感心した。さすが社内でも有名な遊び人。ラブホテルの利用方法など、お茶の子さいさいで知っているのだろう。
「しかし、平日はすいてて良いね~」
「そうなのですか? こういう所もやはり、週末休日にお客さんが集中するのでしょうか」
「金曜日とかね、土曜日も多いな。逆に日曜の夜はそうでもないかも。クリスマスみたいなイベントデーは酷いものだよー。夕方までには入らないと、どこも満杯だね」
望月がスーツの上着を脱ぎ、ハンガーにかけながらう。真夜は「勉強になります」と相槌を打ちながら、物珍しく部屋の内装を見渡した。
床はフローリング。キングサイズのベッドの周りにはラグマットが敷かれていて、その横には二人用のソファとテレビ、カラオケ機材などがある。
更に逆方向を見れば何故かスロットマシーンと、壁部分がガラス貼りになっている小さな屋内プールがあった。
「プール、ありますよ。この部屋」
「本当だね~」
「滑り台まである……。アレ、入れるんですかね」
「入れると思うけど、今は秋だし。そろそろ水は冷たいと思うよ? それにこういうホテルのプールって、いつ水替えたかもわからないから、入るのはおすすめしないね」
「うっ、そ、それは嫌ですね」
ラブホテルの主な利用目的を思い出した真夜は、渋顔を浮かべた。しかしプールつき部屋というのはラブホテル業界では普通なのだろうか? こんな変な内装は初めて見る。
「ちなみに、あのスロットは遊ぶためにあるんでしょうか?」
「置いてあるんだし、そうなんじゃない?」
「……なんで……?」
「俺に聞かれてもな~。でもラブホって、意味不明なの置いてるトコ多いかも、そういえば」
軽く笑いながら、望月はスタスタと歩いて手前のドアをガチャリと開ける。
「シャワー、先に使う?」
「あ!は、はい。………ってそうだ! 私、替えの下着がないんですけど」
「ブラはないけど、下の下着なら洗面所のアメニティグッズに入っているかも。確認してみたら? もし無くても、エレベータの角のところに自販機があったし、下着はそこで買えると思うよ」
望月は、やたらラブホテルの仕様に詳しい。きっと日常のように使っているのだろう。
人によっては、遊び人として非難するのだろうか。しかし真夜は心から感謝した。ラブホテルに慣れている人で、本当に良かったと思ったのだ。
これなら、安心してコトに及ぶことができそうだ。
真夜はビジネスバッグから化粧道具のポーチだけ持って脱衣所に入る。すると、望月は玄関に行き、ゴソゴソと靴を履き始めた。
「ちょっと買ってくるね」
「え、何をですか?」
「ゴム。さすがに用意してなかったから」
ああ~、と納得したように拳をポンと打った後、真夜はみるみると顔を青ざめさせた。そして勢いよく頭を下げる。
「そうですよね! ごめんなさい! めちゃくちゃ必需品なのにすっかり忘れてて、私ったらっ! 考えが足りなくて本当にすみません。あの、お金払いますから。こんどーむって幾ら位するんでしょう? せんえんで足りますか?」
慌ててソファまで戻り、ビジネスバッグから財布を取り出す。そんな真夜に望月がキョトンとした。
そして突然おかしそうに笑う。
「あはははっ」
「……え? 今の、笑うところですか?」
財布片手に戸惑った顔をすると、望月は茶目っ気のある目で、スラックスのポケットから長財布を出した。
「それくらい俺が買うよ。君から言って来たこととはいえ、俺はそれに頷いたんだから。その時点でこれは共同責任の行為でしょ?」
「で、でも、それなら余計に払わせてしまうのは申し訳ないです。ホテル代だってワリカンですし」
「んー? じゃあ、今日は俺が買うからさ。ソレが無くなったら次は真夜ちゃんが買ってよ。それでいいよね?」
それなら納得できる。真夜が素直に頷くと望月はニッコリと笑い、部屋を後にした。
一人になった真夜はとりあえずシャワーをしようと脱衣所に入る。アメニティグッズを確認すると、サテン生地のつやつやした紫色のショーツが入っていた。
「……趣味わるっ。なんかチョット透けてるし。まぁ、仕方ないか、ラブホだもんね」
むしろこんなホテルで普通の綿ショーツが入っていたらそれはそれで嫌だったかもしれない。
ゴソゴソとスーツを脱いで備え付けのハンガーにかけ、アメニティグッズからシャンプーやらボディソープやらを取り出して浴室に入った。
中は思ったより広い。二人くらいならゆうに入れそうな浴槽に、洗い場も大きい。こういうところで、普通のビジネスホテルと全然違んだなあと真夜は思った。
改めてこのホテルの使用目的を思い出す。恐らくは、風呂場で触れあう恋人同士もいるのだろう。
ごしごし、ごしごし。
いつもより丁寧に体を洗いながら、何となく真夜は物思いにふけた。
今の状況。どこか現実感に欠けている気がする。
自分は本当にこれからセックスをするのだろうか。……望月巽と。
経験していない事だから仕方が無いのかもしれないが、全く想像できない。
でも、一つだけ考えを改めるところがある。
「望月さんは、想像していたより優しい人だった」
初対面なのに、何故か彼に対する恐怖感がないのだ。勿論嫌悪感もない。妙に気さくだからだろうか。それともセックスという行為に対してがっついた感じがしないからだろうか。
じゃあ飲みに行こう。そんなノリでホテルに行こうと言われた。
『セフレになって下さい』なんて、普通にドン引きされてもおかしくない事を告白したのに、彼は驚きはしたものの、態度は至って普通だった。
それだけ慣れてる人なのかと思いきや、しかしセフレは作った事がないのだという。
「ふしぎな……人」
シャワーで泡を流し、ぽつりと呟く。
考えが読めない。一体望月は何を思って真夜の頼みを受け入れたのだろう。遊び? 暇つぶし? ……それとも、全く違う思惑?
わからない。でも確実に言えることは、彼は決して自分を愛しているわけではないと言う事だ。初対面だから当然なのだが、望月はどこか、この状況を楽しんでいる感じがする。
……やはり、遊び半分なのだろうか。
でも、それを真夜は望んでいる。
恋をしたら皆、我侭になってしまうのだ。たくさんの事を求めてしまうのだ。
だから、遊びでいい。スポーツ感覚で遊んでもらって、飽きたら捨ててくれたらいい。
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