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2.真夜の事情
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言ってから冷静になってみれば、とんでもない発言をしてしまった……。
望月はファストフード店で頼んだハンバーガーを食べている。同じくまだ夕飯を口にしていなかった真夜もエビアボカドバーガーを食べてから、ゆっくりとオレンジジュースを飲んだ。
「とにかくさ、改めて自己紹介しない? 君は俺の名前知ってるようだったけどさ。俺は望月巽。同じ会社ってことは俺の所属も知ってるの?」
「はい。繊維資材営業部二課に在籍ですよね」
「そそ。って、本当によく知ってるね? あんなに大きな会社なのに。もしかして年とかスリーサイズなんかも知ってたりするの?」
それだと本当にストーカーだねぇと言って笑う望月に、真夜は「はぁ」と相槌を打ち、困った顔をした。
「すみません。さすがに年齢やスリーサイズはわからないです」
「冗談だよ。そもそも君はストーカーじゃないんでしょ? まぁ、スリーサイズはともかく、俺は27歳です」
「あ、じゃあ同い年ですね。私も27なので」
「ふぅん? じゃあ次、君の番。はい自己紹介」
「……山吹真夜です。人事部秘書課に所属してます」
真夜は黒いレザーの名刺入れから一枚名刺を取り出し、おずおずと出す。望月は「へえ~」と感心したような声で受け取り、まじまじと真夜と名刺を交互に見た。
恐らく、秘書にしては顔が平凡とか、華やかさが足りないとか、そんな風に思っているのだろう。
ふぅ、と小さく溜息をつく。秘書室は確かにきれいどころが揃っているが、色々と事情があるのだ。
「秘書って倍率高いんしょ? 優秀なんだねぇ」
「どうでしょう。たまたま適任者として人事の目に留まっただけだと思います。それより、えっと……」
「ああ、そうだね。会社の立場とかどうでもいいよね、ゴメン。んーと、セフレ、だっけ」
セフレ、の部分だけ少し声を潜める。場所がファストフード店だからだろう。確かにあまりおおっぴらに言って良い単語ではない。世間体を鑑みても、あまりに聞こえが悪い。
「率直に聞くけど。なんで?」
「なんで? って……」
「なんで彼女じゃなくてセフレなの? 俺が今フリーって事も知ってるんでしょ?」
「あ、はい。さすがに恋人がいる人にこんな事言いません。――そうですね。どうして彼女じゃないのかというと、彼女という立場になると面倒臭いからです」
ざっくりした答えに望月が「面倒?」と首を傾げる。真夜はこくりと頷いてポテトを一本摘んだ。
「彼女になると色々あるじゃないですか。ご飯つくったり彼氏の部屋掃除したり。買い物の度に一緒にでかけたり。後、メールやラインの返信もすぐしなくちゃいけないし、電話にはすぐ出ないといけないし、休みの度にあっちこっちと連れて行かれるし、行きたくないのにドコ行きたいか答えなきゃいけないし……」
「はぁ、それは。なんというか面白い理由だね。真夜ちゃんって呼んでいいのかな?」
どこか会話を楽しむように、望月がコーラを飲みながら聞いてくる。真夜は「好きなように呼んで下さい」と答えて、ハンバーガーの残りを食べた。
望月も同じタイミングで食べ終わったらしく、ポテトにケチャップを付けて、フリフリと振った。
「普通そういうのって、彼氏側が思いそうな事だけどねぇ。真夜ちゃんは苦手なんだ。恋人のお付き合い」
「そうですね。あの、正直申しまして私、極度の面倒臭がりなんです。出不精ですし、料理もできる事ならしたくありませんし、メールやラインも、必要ならすぐに返しますけど、世間話みたいなのはそのまま放置してしまう事も多くて」
「なるほど。でも……えっちはしたい?」
ズバッと核心を突く。真夜は無言で頷いた。
「ふぅん、それでセフレね。ちなみに、なんでその相手に俺を選んだの? 初対面だよね、俺達。飲み会や合コンでも会った記憶がないし」
「はい。お正月の合同祝賀会くらいはご一緒したかもしれませんが、お話したこともないです」
「そうだよねぇ。じゃあどうして?」
「……あの、望月さんは……あとくされがなくて、長続きしなくて、出入りが激しくて……そう! 時には女性をヤリ捨てる、最低最悪な男だと言われながらも大人気からです!」
です!――です!―――です!
たまたま二人の後ろを通りかかった学生風の女性達が、ゴキブリでも見るかのように望月を眺めていった。
「……真夜ちゃん。もうちょっと声のトーン、抑えてね」
「ハッ! すみません」
「あと、単純に疑問なんだけど。最低最悪と大人気ってどう繋がるのかよくわかんない」
「それは、望月さんが社内で有名なイケメンで、隣を歩かせたい男ナンバーワンだからです。ちなみに庶務課調べです!」
しょむか……。と望月が小さく唸る。何か嫌な思い出でもあるのだろうか。もしかすると庶務課にヤリ捨てた女性がいるのかもしれない。
そう思うと本当にこの男は最低最悪だが、それこそが真夜にとって願ったり叶ったりなのである。心境はドンと来いヤリ捨て野郎! だ。
「まぁ、隣を歩かせたい男、っていうのは何となくわかるよ。なんかこう、アクセサリー感覚なんでしょ? 顔の良い男を隣で歩かせて周りに自慢したいみたいな」
「そうそう! まさにそんな感じです!」
「……ものすごーく失礼な話だけど、わかるよ。そしてそんな失礼な話を本人の、それも初対面の男に臆面も無く言える真夜ちゃんは、むしろ俺の中で好感度が高くなってます」
「なんと! それは困ります! どうか私の事は電話一本でタダ乗りできる便利女程度に思って頂きたいです!」
焦るあまり、とんでもない事を懇願する。
男からしてみればなんて性に緩い女だと、ともすれば軽蔑さえされそうな事を言っているのに、何故か望月はムッとした顔をしてコーラドリンクのストローに口をつけた。
「なんでそんなに自分を卑下するの。俺は便利女なんかいらないよ。大体、俺の事最低最悪だって知ってるんだったら、どうしてそんな最低最悪にセフレを頼んだりするの? 俺がヤリ捨てたり、真夜ちゃんの事本当に便利女扱いして酷い事したらどうするつもりなの?」
「酷い、事……ってなんでしょう」
「……。別に冗談だから、分からないなら流して。それより質問に答えて」
ジッと睨む望月。明らかに気分を害している。いや、最低最悪とか言っているのだから怒って当然なのだが、どうも彼は違う所で怒ってる感じがする。
おたおたと真夜は慌て、質問に答えた。
「あのっ、私、やっ、やりすて、でもいいんです。セフレが嫌でしたら、いっかいだけでも、いいんです」
やり捨ての部分は小声で言ってみたりする。
望月が無言で「続きを」と急かしている気がして、真夜はそのままボソボソと話を続けた。
「その。せ、せっくすを、知ってみたくて。どんなものなのか……。きもちいいのかな、とか」
「……え?」
「もう27だし! いい加減知ってみたいんです! でも、でも、今までつきあった男の人は……と言っても2人しかつきあったことないですけど、2人とも、してくれなかったんです。なんか処女は面倒とか重いとか言う人もいて、結局どっちも自然消滅っていいますか……」
段々と呆れたような表情に変わる巽。どう説明したらいいものかと焦りつつ、真夜は乾いた口の中を潤す為にジュースを飲み、溜息をついた。
「何? えっと、真夜ちゃんは経験がないって事?」
「そうです……」
「俺が言うことじゃないかもしれないけど、そういうのって大事にしたほうがいいんじゃないの? 少なくとも俺みたいな最低最悪にあげていいものじゃないと思うけど」
「そっそういうのは、20台前半に言ってあげてください! 27にもなると頑なに守っても仕方ないんです。あと最低最悪はごめんなさい。えっと、評判が著しく芳しくない、に訂正します」
それ訂正しても意味は変わらないから、と望月がつっこみを入れると、真夜はスミマセンとしょんぼり謝る。態度は大人しいのに、言葉はずばずばと容赦ないのが真夜という人間だった。色々な意味において嘘がつけない、ごまかすのも下手である。
「あの、自分でも凄く失礼で変な事を言ってるのは分かっているんです。でももう、望月さんしか頼れそうな人思いつかなくて。秘書課の先輩方も、望月さんほどドライな男はいない、やらせてって言ったらやらせてくれて、関係を盾に取るようなこともしないって噂してたから……」
「そんな風に噂されてるんだね俺。まぁ身に覚えがないわけじゃないから否定もできないけど。でも一つだけ言わせて貰うと、俺自身はそこまで適当に女の子とつきあってたつもりはないよ? ただうまくいかなくてすぐ別れちゃうだけ。その中には一回こっきりだった人もいたかもしれないけどね」
真夜は驚きに目を丸くする。
どうしよう。もっと遊んでる人だと思っていた。セフレになってとお願いしたら軽くいいよと言ってくれて、何度かセックスをしたら飽きておしまいというような、そんなつきあいで行けると目論んでいた。
少なくともこんな、ファストフード店に連れて行かれて事情説明、なんて状況になるとは想定もしていなくて、もしかすると望月を頼ったのは間違いだったのかもしれないと、そんな思いが頭に端によぎる。しかし物思いにふける真夜をよそに望月が「ま、いいか」と肯定するような言葉を口にした。
「え?」
「いいよ、セフレ。なってあげるよ」
「ほ、本当、ですか?」
「うん。……実は俺も最近、少しだけ人付き合いに疲れててさ。だから彼女も暫く作ってなくて。セフレを提案されたのは初めてだけど、たまにはそういうのもいいかもって思えてきた」
ふふ、と軽く笑ってストローを咥える。しかし中のコーラがなくなっているのに気付いたのか、彼はドリンクのフタを開けると氷をざらざらと口に入れた。
そのままガリガリと氷を食べる巽に、真夜は自分が提案したにも関わらず驚く。
心のどこかでは、やはり断られるだろうと思っていたのかもしれない。
「ようするに、恋人みたいなつきあい抜きでセックスだけしましょうって事でしょ? ついでに真夜ちゃんが捨てたがってる処女も貰ってあげる。それが望みなんでしょ?」
「その通りです。でもあの、いいんですか?自分で言っておいて何なんですけど」
「いいよ。便利女、とは思わないけどえっちできる女友達、という位置付けにしておく。考えてみたら面白そうだよね? 恋人相手には頼みにくい事でも、君相手なら提案してもいいって事だし」
軽く笑う望月に、真夜は「はぁ」と曖昧な表情を浮かべた。
……よくわからないが、これは自分の目論み通りになったという事なのだろうか。
喜んでいい所だよね? と真夜は自分自身に確認する。
「そうだ。最後に質問。うちの会社には他にも遊んでいそうな男は何人かいると思うけど、どうしてその中から俺を選んだの? 一番軽薄そうだから?」
「えっ、いえ。確かに先輩が色々噂してる男の人は他にもいましたけど……望月さんが一番……」
そう口にして言葉を濁し、ごにょごにょと呟く。
何? と訊ねる望月に、真夜は顔を赤くした。
「かっ、かっこよかったので……。どうせ、す、するんだったら、望月さんがいいなって思ったんです」
それはまるで、告白の言葉。
しかしあくまで真夜は、セフレを望むのだ。
望月は「それは光栄だね」と目を細めて笑った。
望月はファストフード店で頼んだハンバーガーを食べている。同じくまだ夕飯を口にしていなかった真夜もエビアボカドバーガーを食べてから、ゆっくりとオレンジジュースを飲んだ。
「とにかくさ、改めて自己紹介しない? 君は俺の名前知ってるようだったけどさ。俺は望月巽。同じ会社ってことは俺の所属も知ってるの?」
「はい。繊維資材営業部二課に在籍ですよね」
「そそ。って、本当によく知ってるね? あんなに大きな会社なのに。もしかして年とかスリーサイズなんかも知ってたりするの?」
それだと本当にストーカーだねぇと言って笑う望月に、真夜は「はぁ」と相槌を打ち、困った顔をした。
「すみません。さすがに年齢やスリーサイズはわからないです」
「冗談だよ。そもそも君はストーカーじゃないんでしょ? まぁ、スリーサイズはともかく、俺は27歳です」
「あ、じゃあ同い年ですね。私も27なので」
「ふぅん? じゃあ次、君の番。はい自己紹介」
「……山吹真夜です。人事部秘書課に所属してます」
真夜は黒いレザーの名刺入れから一枚名刺を取り出し、おずおずと出す。望月は「へえ~」と感心したような声で受け取り、まじまじと真夜と名刺を交互に見た。
恐らく、秘書にしては顔が平凡とか、華やかさが足りないとか、そんな風に思っているのだろう。
ふぅ、と小さく溜息をつく。秘書室は確かにきれいどころが揃っているが、色々と事情があるのだ。
「秘書って倍率高いんしょ? 優秀なんだねぇ」
「どうでしょう。たまたま適任者として人事の目に留まっただけだと思います。それより、えっと……」
「ああ、そうだね。会社の立場とかどうでもいいよね、ゴメン。んーと、セフレ、だっけ」
セフレ、の部分だけ少し声を潜める。場所がファストフード店だからだろう。確かにあまりおおっぴらに言って良い単語ではない。世間体を鑑みても、あまりに聞こえが悪い。
「率直に聞くけど。なんで?」
「なんで? って……」
「なんで彼女じゃなくてセフレなの? 俺が今フリーって事も知ってるんでしょ?」
「あ、はい。さすがに恋人がいる人にこんな事言いません。――そうですね。どうして彼女じゃないのかというと、彼女という立場になると面倒臭いからです」
ざっくりした答えに望月が「面倒?」と首を傾げる。真夜はこくりと頷いてポテトを一本摘んだ。
「彼女になると色々あるじゃないですか。ご飯つくったり彼氏の部屋掃除したり。買い物の度に一緒にでかけたり。後、メールやラインの返信もすぐしなくちゃいけないし、電話にはすぐ出ないといけないし、休みの度にあっちこっちと連れて行かれるし、行きたくないのにドコ行きたいか答えなきゃいけないし……」
「はぁ、それは。なんというか面白い理由だね。真夜ちゃんって呼んでいいのかな?」
どこか会話を楽しむように、望月がコーラを飲みながら聞いてくる。真夜は「好きなように呼んで下さい」と答えて、ハンバーガーの残りを食べた。
望月も同じタイミングで食べ終わったらしく、ポテトにケチャップを付けて、フリフリと振った。
「普通そういうのって、彼氏側が思いそうな事だけどねぇ。真夜ちゃんは苦手なんだ。恋人のお付き合い」
「そうですね。あの、正直申しまして私、極度の面倒臭がりなんです。出不精ですし、料理もできる事ならしたくありませんし、メールやラインも、必要ならすぐに返しますけど、世間話みたいなのはそのまま放置してしまう事も多くて」
「なるほど。でも……えっちはしたい?」
ズバッと核心を突く。真夜は無言で頷いた。
「ふぅん、それでセフレね。ちなみに、なんでその相手に俺を選んだの? 初対面だよね、俺達。飲み会や合コンでも会った記憶がないし」
「はい。お正月の合同祝賀会くらいはご一緒したかもしれませんが、お話したこともないです」
「そうだよねぇ。じゃあどうして?」
「……あの、望月さんは……あとくされがなくて、長続きしなくて、出入りが激しくて……そう! 時には女性をヤリ捨てる、最低最悪な男だと言われながらも大人気からです!」
です!――です!―――です!
たまたま二人の後ろを通りかかった学生風の女性達が、ゴキブリでも見るかのように望月を眺めていった。
「……真夜ちゃん。もうちょっと声のトーン、抑えてね」
「ハッ! すみません」
「あと、単純に疑問なんだけど。最低最悪と大人気ってどう繋がるのかよくわかんない」
「それは、望月さんが社内で有名なイケメンで、隣を歩かせたい男ナンバーワンだからです。ちなみに庶務課調べです!」
しょむか……。と望月が小さく唸る。何か嫌な思い出でもあるのだろうか。もしかすると庶務課にヤリ捨てた女性がいるのかもしれない。
そう思うと本当にこの男は最低最悪だが、それこそが真夜にとって願ったり叶ったりなのである。心境はドンと来いヤリ捨て野郎! だ。
「まぁ、隣を歩かせたい男、っていうのは何となくわかるよ。なんかこう、アクセサリー感覚なんでしょ? 顔の良い男を隣で歩かせて周りに自慢したいみたいな」
「そうそう! まさにそんな感じです!」
「……ものすごーく失礼な話だけど、わかるよ。そしてそんな失礼な話を本人の、それも初対面の男に臆面も無く言える真夜ちゃんは、むしろ俺の中で好感度が高くなってます」
「なんと! それは困ります! どうか私の事は電話一本でタダ乗りできる便利女程度に思って頂きたいです!」
焦るあまり、とんでもない事を懇願する。
男からしてみればなんて性に緩い女だと、ともすれば軽蔑さえされそうな事を言っているのに、何故か望月はムッとした顔をしてコーラドリンクのストローに口をつけた。
「なんでそんなに自分を卑下するの。俺は便利女なんかいらないよ。大体、俺の事最低最悪だって知ってるんだったら、どうしてそんな最低最悪にセフレを頼んだりするの? 俺がヤリ捨てたり、真夜ちゃんの事本当に便利女扱いして酷い事したらどうするつもりなの?」
「酷い、事……ってなんでしょう」
「……。別に冗談だから、分からないなら流して。それより質問に答えて」
ジッと睨む望月。明らかに気分を害している。いや、最低最悪とか言っているのだから怒って当然なのだが、どうも彼は違う所で怒ってる感じがする。
おたおたと真夜は慌て、質問に答えた。
「あのっ、私、やっ、やりすて、でもいいんです。セフレが嫌でしたら、いっかいだけでも、いいんです」
やり捨ての部分は小声で言ってみたりする。
望月が無言で「続きを」と急かしている気がして、真夜はそのままボソボソと話を続けた。
「その。せ、せっくすを、知ってみたくて。どんなものなのか……。きもちいいのかな、とか」
「……え?」
「もう27だし! いい加減知ってみたいんです! でも、でも、今までつきあった男の人は……と言っても2人しかつきあったことないですけど、2人とも、してくれなかったんです。なんか処女は面倒とか重いとか言う人もいて、結局どっちも自然消滅っていいますか……」
段々と呆れたような表情に変わる巽。どう説明したらいいものかと焦りつつ、真夜は乾いた口の中を潤す為にジュースを飲み、溜息をついた。
「何? えっと、真夜ちゃんは経験がないって事?」
「そうです……」
「俺が言うことじゃないかもしれないけど、そういうのって大事にしたほうがいいんじゃないの? 少なくとも俺みたいな最低最悪にあげていいものじゃないと思うけど」
「そっそういうのは、20台前半に言ってあげてください! 27にもなると頑なに守っても仕方ないんです。あと最低最悪はごめんなさい。えっと、評判が著しく芳しくない、に訂正します」
それ訂正しても意味は変わらないから、と望月がつっこみを入れると、真夜はスミマセンとしょんぼり謝る。態度は大人しいのに、言葉はずばずばと容赦ないのが真夜という人間だった。色々な意味において嘘がつけない、ごまかすのも下手である。
「あの、自分でも凄く失礼で変な事を言ってるのは分かっているんです。でももう、望月さんしか頼れそうな人思いつかなくて。秘書課の先輩方も、望月さんほどドライな男はいない、やらせてって言ったらやらせてくれて、関係を盾に取るようなこともしないって噂してたから……」
「そんな風に噂されてるんだね俺。まぁ身に覚えがないわけじゃないから否定もできないけど。でも一つだけ言わせて貰うと、俺自身はそこまで適当に女の子とつきあってたつもりはないよ? ただうまくいかなくてすぐ別れちゃうだけ。その中には一回こっきりだった人もいたかもしれないけどね」
真夜は驚きに目を丸くする。
どうしよう。もっと遊んでる人だと思っていた。セフレになってとお願いしたら軽くいいよと言ってくれて、何度かセックスをしたら飽きておしまいというような、そんなつきあいで行けると目論んでいた。
少なくともこんな、ファストフード店に連れて行かれて事情説明、なんて状況になるとは想定もしていなくて、もしかすると望月を頼ったのは間違いだったのかもしれないと、そんな思いが頭に端によぎる。しかし物思いにふける真夜をよそに望月が「ま、いいか」と肯定するような言葉を口にした。
「え?」
「いいよ、セフレ。なってあげるよ」
「ほ、本当、ですか?」
「うん。……実は俺も最近、少しだけ人付き合いに疲れててさ。だから彼女も暫く作ってなくて。セフレを提案されたのは初めてだけど、たまにはそういうのもいいかもって思えてきた」
ふふ、と軽く笑ってストローを咥える。しかし中のコーラがなくなっているのに気付いたのか、彼はドリンクのフタを開けると氷をざらざらと口に入れた。
そのままガリガリと氷を食べる巽に、真夜は自分が提案したにも関わらず驚く。
心のどこかでは、やはり断られるだろうと思っていたのかもしれない。
「ようするに、恋人みたいなつきあい抜きでセックスだけしましょうって事でしょ? ついでに真夜ちゃんが捨てたがってる処女も貰ってあげる。それが望みなんでしょ?」
「その通りです。でもあの、いいんですか?自分で言っておいて何なんですけど」
「いいよ。便利女、とは思わないけどえっちできる女友達、という位置付けにしておく。考えてみたら面白そうだよね? 恋人相手には頼みにくい事でも、君相手なら提案してもいいって事だし」
軽く笑う望月に、真夜は「はぁ」と曖昧な表情を浮かべた。
……よくわからないが、これは自分の目論み通りになったという事なのだろうか。
喜んでいい所だよね? と真夜は自分自身に確認する。
「そうだ。最後に質問。うちの会社には他にも遊んでいそうな男は何人かいると思うけど、どうしてその中から俺を選んだの? 一番軽薄そうだから?」
「えっ、いえ。確かに先輩が色々噂してる男の人は他にもいましたけど……望月さんが一番……」
そう口にして言葉を濁し、ごにょごにょと呟く。
何? と訊ねる望月に、真夜は顔を赤くした。
「かっ、かっこよかったので……。どうせ、す、するんだったら、望月さんがいいなって思ったんです」
それはまるで、告白の言葉。
しかしあくまで真夜は、セフレを望むのだ。
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