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1 迎えに来たオヤジ
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「はじめまして、大嶋#わたる#渉君。迎えに来ました」
学校の校門を出た所でフルネームで呼び止められた。見たこともないオヤジがニコニコ笑って俺を見ている。誰だろう。
俺がそう思っている端から、黒塗りの大型車がスッと横に止まり、ドアが開いてスーツをきちっと着た男が三人ばかりゾロゾロッと出て来て、俺の腕を捕まえた。無理矢理止まっている車の中に引きずり込もうとする。
「大嶋!!」
「何するんだよ、あんた!」
一緒に校門から出て来た部活の仲間が引き止めてくれた。
「この子は私の許婚なんですよ」
えええ──!!?? 本気で言ってんのか? このオヤジ。
部活の仲間が目を丸くしている。
「大嶋、そういう趣味だったのか?」
「ちがーう!!!」
と部活の連中に喚いた。そしてオヤジの方に向き直る。
一見紳士然としたオヤジだ。二学期が始まったばかりで、まだくそ暑いのに、きちっと背広を着てネクタイを締めている。暑さで頭がいかれたんだろうか。
「ちょっと待てっ! よく見ろよ、俺は男だっつうの」
大体、よく見なくても俺が通っているのは男子校だし、俺は白い開襟シャツに濃紺のスラックス姿だ。何処からどう見ても男の子だよな。
「私も男ですよ。別に問題ありません」
オヤジはニコニコと笑って言った。
何処が問題ないんだよ!?
男は側で控えていたスーツ姿の男たちに手を振る。男達がもう一度俺の腕を取った。部活の連中は今度は様子を見ている。
お前ら──!!
心中で喚いている俺にお構い無しに、男達はさっさと車の中に押し込んだ。
「じゃあ、そういう事ですので」
オヤジは部活の連中に優雅に挨拶をして、俺の後から車に乗り込んだ。車はスーっと音もなく滑り出す。呆然と車を見送る部活の仲間達。
「嘘だろ、オイ!! 何すんだよ、ひとさらい!!」
車のリアウィンドウから遠ざかる友人たちを見て喚くと、隣に乗ったオヤジが俺に言い聞かせるように話す。
「実は君のお父さんの会社が潰れそうになっていて援助を申し出ました」
その言葉に俺は愕然とした。
「な、何だって」
「君を引き取って育てるという事を条件にして」
「親父とお袋は俺を売ったのか!?」
「三人兄弟の真ん中ですね。一人位変わったのがいてもいいそうです。涙を浮かべて喜んでおられました」
「そんな──!!! 俺はまだ子供だ!!」
「だから許婚という事で許してあげます。ヤクザにお嫁に行かれた方もおありの昨今、私のような者の所に来るくらいで音を上げられては困ります」
誰だ、そんなはた迷惑な奴は──。
「稚児趣味なら、もっと可愛いっぽい奴にしたらいいじゃないか」
「大丈夫。私が腕によりをかけて美人に磨いて上げます」
どういう頭をしているんだこのオヤジは。俺が何を喚いてもニコニコ笑って、暖簾に腕押し、糠に釘じゃないか。オヤジと押し問答している内に屋敷に着いてしまった。大きな鉄製の門を入ってしばらく行くと広い屋敷が見えてきた。
* * *
俺の親父は材木屋でホームセンターなんかに手を出して、暫らく羽振りは良かったが今では店は左前だった。儲けのない店を切っても二束三文、借金は雪だるま。自己破産も遠い先ではなかったらしい。
オヤジの屋敷のリビングに案内されて詳しい話を聞かされた。親父とお袋に電話も掛けさせてもらえた。
「そちらでちゃんと修行して、立派な跡継ぎになれるよう頑張りなさい」と、なにやら勘違いな激励をされた。
「許婚って言ってないじゃん」
「もちろん、世間に対してそんな事を大っぴらで言えはしません」
俺の友人の前で言ったじゃんよー!! 俺、明日からどういう顔して学校に通えばいいんだよ。
むくれて睨み上げる俺を、オヤジは嬉しそうに見て昔話を始めた。
「随分むかし、私の会社がもう二進も三進も行かなくなって失意のどん底にいたとき、君が花を持って慰めてくれました」
「花って…、どんな花だっけ?」
「赤い花でした」
「……、もしかして、彼岸花」
思い出した──。
まだ、幼稚園に行っていた頃だ。
裏山で遊んでいたらドサッと音がして、見に行くと男の人が木の下に倒れていた。大丈夫?と聞くと、頷いたけれど元気がなさそうだったので、持っていたお菓子を上げた。
その後、赤い綺麗なお花を見つけたんで、まだそこに居た男に持って行った。
「綺麗だからって、たくさんくれました」
「あんな花を。後で、お袋にこっぴどく叱られた」
「そう発想の転換ですよ。君はいつも私に発想の転換を教えてくれます。あの時は神の啓示かと思いました」
オヤジはそう言うと立ち上がる。中年の男が何処からともなく現れた。
「彼は伊東といってこの家の執事です。分からないことは、私かこの伊東に何でも聞いて下さい。伊東さん、渉君を部屋に案内してください」
伊東という男に連れられて、広い屋敷の中を自分の部屋へと案内された。
随分と広い部屋だった。二部屋あるし、バストイレ付である。俺の荷物はすでに家から運び込まれていた。
「お食事の時間になりましたら、お呼びに参ります」
執事は恭しくお辞儀をして部屋を出て行った。
真新しい家具の据付けられた馴染めない部屋だ。俺は広い部屋の真ん中で突っ立ったまま、自分の環境の激変を頭の中で整理した。
俺は借金の形にここに引き取られたのか。ここで花嫁修業をして、養子という形であのオヤジと結婚するのか。
一体あのオヤジは何者なんだ!? そういえば、俺はまだオヤジの名前を聞いていなかった。
学校の校門を出た所でフルネームで呼び止められた。見たこともないオヤジがニコニコ笑って俺を見ている。誰だろう。
俺がそう思っている端から、黒塗りの大型車がスッと横に止まり、ドアが開いてスーツをきちっと着た男が三人ばかりゾロゾロッと出て来て、俺の腕を捕まえた。無理矢理止まっている車の中に引きずり込もうとする。
「大嶋!!」
「何するんだよ、あんた!」
一緒に校門から出て来た部活の仲間が引き止めてくれた。
「この子は私の許婚なんですよ」
えええ──!!?? 本気で言ってんのか? このオヤジ。
部活の仲間が目を丸くしている。
「大嶋、そういう趣味だったのか?」
「ちがーう!!!」
と部活の連中に喚いた。そしてオヤジの方に向き直る。
一見紳士然としたオヤジだ。二学期が始まったばかりで、まだくそ暑いのに、きちっと背広を着てネクタイを締めている。暑さで頭がいかれたんだろうか。
「ちょっと待てっ! よく見ろよ、俺は男だっつうの」
大体、よく見なくても俺が通っているのは男子校だし、俺は白い開襟シャツに濃紺のスラックス姿だ。何処からどう見ても男の子だよな。
「私も男ですよ。別に問題ありません」
オヤジはニコニコと笑って言った。
何処が問題ないんだよ!?
男は側で控えていたスーツ姿の男たちに手を振る。男達がもう一度俺の腕を取った。部活の連中は今度は様子を見ている。
お前ら──!!
心中で喚いている俺にお構い無しに、男達はさっさと車の中に押し込んだ。
「じゃあ、そういう事ですので」
オヤジは部活の連中に優雅に挨拶をして、俺の後から車に乗り込んだ。車はスーっと音もなく滑り出す。呆然と車を見送る部活の仲間達。
「嘘だろ、オイ!! 何すんだよ、ひとさらい!!」
車のリアウィンドウから遠ざかる友人たちを見て喚くと、隣に乗ったオヤジが俺に言い聞かせるように話す。
「実は君のお父さんの会社が潰れそうになっていて援助を申し出ました」
その言葉に俺は愕然とした。
「な、何だって」
「君を引き取って育てるという事を条件にして」
「親父とお袋は俺を売ったのか!?」
「三人兄弟の真ん中ですね。一人位変わったのがいてもいいそうです。涙を浮かべて喜んでおられました」
「そんな──!!! 俺はまだ子供だ!!」
「だから許婚という事で許してあげます。ヤクザにお嫁に行かれた方もおありの昨今、私のような者の所に来るくらいで音を上げられては困ります」
誰だ、そんなはた迷惑な奴は──。
「稚児趣味なら、もっと可愛いっぽい奴にしたらいいじゃないか」
「大丈夫。私が腕によりをかけて美人に磨いて上げます」
どういう頭をしているんだこのオヤジは。俺が何を喚いてもニコニコ笑って、暖簾に腕押し、糠に釘じゃないか。オヤジと押し問答している内に屋敷に着いてしまった。大きな鉄製の門を入ってしばらく行くと広い屋敷が見えてきた。
* * *
俺の親父は材木屋でホームセンターなんかに手を出して、暫らく羽振りは良かったが今では店は左前だった。儲けのない店を切っても二束三文、借金は雪だるま。自己破産も遠い先ではなかったらしい。
オヤジの屋敷のリビングに案内されて詳しい話を聞かされた。親父とお袋に電話も掛けさせてもらえた。
「そちらでちゃんと修行して、立派な跡継ぎになれるよう頑張りなさい」と、なにやら勘違いな激励をされた。
「許婚って言ってないじゃん」
「もちろん、世間に対してそんな事を大っぴらで言えはしません」
俺の友人の前で言ったじゃんよー!! 俺、明日からどういう顔して学校に通えばいいんだよ。
むくれて睨み上げる俺を、オヤジは嬉しそうに見て昔話を始めた。
「随分むかし、私の会社がもう二進も三進も行かなくなって失意のどん底にいたとき、君が花を持って慰めてくれました」
「花って…、どんな花だっけ?」
「赤い花でした」
「……、もしかして、彼岸花」
思い出した──。
まだ、幼稚園に行っていた頃だ。
裏山で遊んでいたらドサッと音がして、見に行くと男の人が木の下に倒れていた。大丈夫?と聞くと、頷いたけれど元気がなさそうだったので、持っていたお菓子を上げた。
その後、赤い綺麗なお花を見つけたんで、まだそこに居た男に持って行った。
「綺麗だからって、たくさんくれました」
「あんな花を。後で、お袋にこっぴどく叱られた」
「そう発想の転換ですよ。君はいつも私に発想の転換を教えてくれます。あの時は神の啓示かと思いました」
オヤジはそう言うと立ち上がる。中年の男が何処からともなく現れた。
「彼は伊東といってこの家の執事です。分からないことは、私かこの伊東に何でも聞いて下さい。伊東さん、渉君を部屋に案内してください」
伊東という男に連れられて、広い屋敷の中を自分の部屋へと案内された。
随分と広い部屋だった。二部屋あるし、バストイレ付である。俺の荷物はすでに家から運び込まれていた。
「お食事の時間になりましたら、お呼びに参ります」
執事は恭しくお辞儀をして部屋を出て行った。
真新しい家具の据付けられた馴染めない部屋だ。俺は広い部屋の真ん中で突っ立ったまま、自分の環境の激変を頭の中で整理した。
俺は借金の形にここに引き取られたのか。ここで花嫁修業をして、養子という形であのオヤジと結婚するのか。
一体あのオヤジは何者なんだ!? そういえば、俺はまだオヤジの名前を聞いていなかった。
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