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42 跡目2(1)

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 春まだ浅い三月。甚五郎さんの次男が引き取られることになった。甚五郎さんの家では葵も居て何かと不都合だというので、義純の家にしばらく預かって教育するという事に話が決まった。教育係は甚五郎さんが選んだ男が一緒に来るという。

 暖斗がその日終業式を終えて家に帰ると、聞いていた子供が来ていた。中学三年で春から暖斗のいる高校に入学することになったと聞いている。

(どんな子だろう。どっちにしてもこんな所に引き取られて怯えているかもな。可愛がって、仲良くしてやろう)
 暖斗があれこれ考えながら客間に行くと、義純がおう帰ったかと振り向いた。ただいまと部屋に入って義純の前に座っている少年を見る。

(……え? 義さんが二人?)

 暖斗は少年を見て目を丸くした。何と甚五郎さんの次男は義純によく似ていたのだ。雰囲気が。中学三年で暖斗より二つ下の筈なのに、暖斗より背が高くて、ガタイもよくて、何よりその顔が整ってはいるがどことなく目つきが鋭い。

(ま・さ・か──?)
 暖斗は、思わずコイツは義純の隠し子なんじゃないだろうかと疑った。
(中学三年ということは……)
 心の中で指を折って、ありえない事ではないともう一度義純を疑いの目で見る。義純は暖斗の内心の疑いも知らぬげに紹介を始めた。

「コイツが昴だ。お前の弟分になる。可愛がってやれよ」
「うん、義さん。俺は暖斗。よろしく」
 暖斗が少年に笑いかけると、中学三年の弟分の少年は座布団から滑り降り両手を付いてきっちりと挨拶をした。
「はじめまして。この度縁あってこちらにご厄介になることになりました。昴と申します。以後お見知りおきを」

(ヤクザ映画の見すぎと違うか。今どきそんな堅苦しい挨拶をするなんて)
 暖斗は昴の隣に座っている教育係という男を見た。いかにも頑固で固くて実直そうなオヤジが岩のようにどっしりと少年の側に座っている。

「コイツは昴の教育係で神藤というんだ」
 甚五郎さんがオヤジを紹介した。葵で躓いた甚五郎さんの意気込みが感じられるような男だ。脩二とどっちが怖いだろうか。
「堅苦しくしなくていいよ。ねえ、義さん」
「そうだ。遠慮はするねぃ。うちはまっとうな商売をしている。ヤクザだったのは遠い昔の話だ」
 義純も肯定した。
 しかし中学生は目を伏せたまま、隣の頑固そうなオヤジがゴホンと空咳をして、ではお疲れのご様子ですのでと部屋への案内を請うた。

 二人を部屋に案内して、甚五郎さんも帰ってから、暖斗はお茶を持って義純の書斎に出向いた。早速、先程の少年のことを聞く。
「何か、ませた奴だね、義さん」
「そうだな。中学生にしては大人びているが」
「もっとビビっているかと思った。仲良くなれたらいいんだけど」
「むう」

 義純の顔を見ながら暖斗は気になったことを聞いた。
「あいつ、義さんに似てた」
「そうか?」
「本当に甚五郎さんの子なの? まさか義さんの──」
 暖斗の疑問に義純はあんぐりと口を開ける。
「ああ? バカヤロウ。あんな大きなガキがいるかよ。俺はまだ三十前だぞ。大体頭領に対して失礼だ」
「出来ないこともないじゃん。あんな子見てるとさ」
「ああ、大人びた奴だよな。早熟でませていそうだ」
 義純はそう言って溜め息を吐いた。

 義純は義純で心配なのだ。甚五郎さんの子供だから葵によく似た少年を想像していたが、これはとんでもない者を引き取ったのではないだろうか。何より自分に似ているという暖斗の言葉が余計な不安を生み出した。
「義さんもそうだったんじゃないの?」
 義純の憂慮も知らぬげに、暖斗はあくまでも疑いの目で見ている。

 * * *

 その日から昴は義純の家で生活を始めた。暖斗はもともと義純の嫁としてこの屋敷に来たので、料理から掃除から追い使われたが、昴は跡目の候補なのでそんな事はやらされない。神藤というオヤジが付きっ切りで世話をする。
 食事はもちろん一緒だが、座る席順は暖斗より上座だし、食事が終わるとさっさと挨拶して自分の部屋に戻ってゆく。暖斗みたいに後を片付けるということもない。
 少年は武道を習い、帝王学を習っているという。暖斗の身内に焦りにも似た気持ちが湧き上がる。

「俺って、義さんの嫁だったんだ」
 布団の中で抱き合って丁寧に身体を解されて、さあこれからという時になって暖斗が言い出した。腕は義純の首に絡められていて、頬はピンクに染まり何度も重ねた唇が紅い。
「何を今更……」
 義純が暖斗の身体を折り曲げて挿入を開始する。
「くっ……ん……」
 暖斗の身体をこじ開けて容積のあるモノが侵入してくる。喉を反らせて身体の力を抜き義純の剛直を受け入れる。この行為に慣れた。決して優しくはないけれど、力強くて頼もしくて何もかも委ねることが出来た。

 でも今、まるで違う立場の少年が来ている。暖斗はこれをどう捉えたらいいのだろうか。そして暖斗の立場とは──。

「あっふ……、俺は……、女じゃない……」
「女だったら俺の跡継ぎを産むだろうさ」
 義純が耳の側で無情な言葉を吐く。キッと睨むと大きな手が髪を揉みくちゃにした。
「お前は俺の嫁だ。余計なことは考えるな」
「……ん、義さん」
 義純はもう一度暖斗の唇を啄ばんで体勢を整え攻め始める。身体が熱い。もっともっとと際限なく男を欲しがる自分がいる。

 愛というのが絆ならそれはとっても弱いものだろう。人はとても移り気だから。大きな波が押し寄せてくる。一つ家で一緒に暮らす男は自分にとって一体なんだろう。波に攫われながら自分の立場を思う。男にしがみ付いて宿り木のような、それが今の自分かと──。

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