59 / 60
59 サーペント
しおりを挟む『人が増えたのう』
マガリとクルトはサーペントの長に何か要望はないか聞きに行った。港が整備されて貨物船だけでなく、いよいよ客船が就航するのだ。
『私の孫サーペントと貴族の少女がキャッキャウフフになっておるが』
「お話しできるのですか。怖がらないの?」
『仲が良すぎて困る。離れると辛いことになるだろうに』
それを聞いたマガリが前公爵夫人に話して物語が生まれる。
人とサーペントの悲恋物語、ここに開幕。
「仲が良いのはいい事ではありませんの? 見守っていればいいのでは。クルトとマガリも私達を見守ってくれていたわね」
アストリが思い出すように呟く。
「さようでございますね、なかなか楽しゅうございましたよ」
「じゃあ、その方向で私達も見守ることに──」
「単なるデバガメではないか」
「ニヨニヨは楽しいものですわね」
美しくて優美なサーペントの王子様とお貴族のお姫様の恋物語。前公爵夫人はどういう物語にしようかとウキウキしながら色々案を練るのだった。
そして素晴らしい話が出来たのだ。
「廉価本がよく売れております。これは立派な装丁の本にいたしまして発売いたしましょう。末永く読まれる本になると思いますわ」
この世界の少年少女の心を掴んだ物語は、やがて湖の畔にサーペントと少女の像という形になって語り継がれたのであった。
「クラウゼを私の手元に呼びたいのだ。レオミュール侯爵にシェジェル領を頼んでもいいだろうか」
ミハウは執務室で侯爵に頼んだ。というか、押し付けた。侯爵は後宮の近くに屋敷を買って、ミハウに押し付けられた仕事をこなしつつ、アストリと過ごしている。
「他に誰かいらっしゃらないのか、エドガール殿は」
「彼は辺境伯として、公国と戦場の村の領地を一纏めにしてみて貰っている。シェジェルは元々私の領地だからアストリの化粧領のような感じで」
「それは違うと思うが──」
「まあ似たようなものだし」
「何処が……」
侯爵はブツブツと文句を言いながら、シェジェルを押し付けられた。しかし、今やシェジェルは石灰だけではなく、希少なワインや魔石の産地であった。これは交渉の武器になると改めて考える。
マリーはボロウスキ公爵にせっつかれて、とうとう同居することになった。
「結婚式をするぞ」
「え、あなたって四回目じゃなかった? 私も二回目だし、ドレスでもないし」
「俺はマリーのウェディングドレス姿が見たい。帝国産のレースをふんだんに使ったドレスを特注しておるのだ」
「はあ? そんな散財をしないで、もっと他にお金を使う所はないの」
「最近は十分に働いておった。今、散財せずに、いつ金を使うというのだ。何ならお前を蔑ろにしたネウストリア王国の王侯貴族も呼んで、派手に晩餐会を催して、贅の限りを尽くしてもてなし──」
「待って、蔑ろにされていない、むしろ好きなだけ遊んで散財したし」
「む、気にくわん。俺の天女に金をかけるのは、俺だけの楽しみであるべきだ。ここはドーンと惜しみなく──」
「いやいやいや……」
「マリー様って、そういう質なのですね」
黙っていても男性が寄って来て貢いでくれる。
「いや、どういう質だ。人が折角まともな式をやろうと言っておるのに」
「だってこの人に任せたら、どこに走っていくか──」
「人を馬車馬のように……」
相変わらずアツアツであった。
「マリー様が公爵家にいらっしゃるなら、私も行きたいです」
ユスチナはマリーと離れることに恐怖感でもあるのか、どこまでもついて行くという。俺らもとバーテンダーと女給も一緒を望む。
「なんか嬉しいわね」
「おお、別に構わないが、俺が可愛がっているのは嬉しくないのか?」
「あら、嬉しいわよ」
「もっと、嬉しそうに言ってくれ」注文を出しつつも、嬉しそうに手をすりすりする。大型犬に懐かれている。
「なんだか凄い事になっているようだが、私もアストリをもっと派手に贅沢に着飾らせて、もっと夜会を開いて──」
「お止しになって」
一言で断られてしまった。
あれだけ空っぽに近かった国庫は段々潤ってきているし、私財も潤沢だ。
「あらかた片付いたようだな。私も領地をじっくり見て回って──」
「いや、まだ大詰めがあるのだ、レオミュール侯爵」
「貴様その為に呼んだな」侯爵の目が細くなる。
「まあまあ、本当に生き返られてよかった」
ミハウの最後の大詰めこと、バクスト辺境伯と共に蛮族や遊牧民と話すことになる。黒土の草地を農地に変えるのだ。土地はノヴァーク国に割譲し、出来た作物の優先権を決め、入植する者には租税減免措置を取り、広く内外に募集をかける。
「応募して来る農家がいるか」
「次男三男の中には来る者もいると思うが」
「蛮族とか遊牧民の中にも、農業を志す者はいるかな」
「教えると言えばやる者も出て来るだろう。農業は天候に左右され、毎日地道で気の遠くなるような作業の繰り返しだとか、長い目で見なければならない。それでもやるという人間を立ち行くように、こまめにサポートして──」
「いやあ、外務卿がいると凄いな。楽だ」
ひと段落ついてミハウとレオミュール侯爵は王都に戻った。今回はバクスト辺境伯という土着の強力な貴族がいて、蛮族や遊牧民との橋渡しをしてくれた。
「外務卿はいたと思うのだが」
侯爵は外務担当アドバイザーという立場で外務省に行った筈だが、いつの間にか外務卿がいなくなって、代わりに仕事を押し付けられている。
「希望する部署に回してやったぞ。蛮族の相手をしなければいけないから先に出張して見て来いと言ったら尻込みしたんでな」
「そんな所に! お祖父様を大事になさっていただきたいわ」
話を聞いていたアストリが苦情を申し立てる。祖父の事になると何事にも囚われないアストリが身を乗り出す。肉親というものを知らずに育った所為かとても懐いている。
「彼は根っからの仕事人だよ」
「あなたもそうですわよね。やり過ぎて逃げ出すくらいに」
「そうかな。アストリもほどほどにね」
「そうですわね、農薬とか肥料とか作ってみますわ」
「私たちの子供は出来ないのかい」
「あ、一度モンタニエ教授に見て貰って──」
「いや、いい」
ミハウは慌てて取り消した。
0
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
娘の命を救うために生贄として殺されました・・・でも、娘が蔑ろにされたら地獄からでも参上します
古里@10/25シーモア発売『王子に婚約
ファンタジー
第11回ネット小説大賞一次選考通過作品。
「愛するアデラの代わりに生贄になってくれ」愛した婚約者の皇太子の口からは思いもしなかった言葉が飛び出してクローディアは絶望の淵に叩き落された。
元々18年前クローディアの義母コニーが祖国ダレル王国に侵攻してきた蛮族を倒すために魔導爆弾の生贄になるのを、クローディアの実の母シャラがその対価に病気のクローディアに高価な薬を与えて命に代えても大切に育てるとの申し出を、信用して自ら生贄となって蛮族を消滅させていたのだ。しかし、その伯爵夫妻には実の娘アデラも生まれてクローディアは肩身の狭い思いで生活していた。唯一の救いは婚約者となった皇太子がクローディアに優しくしてくれたことだった。そんな時に隣国の大国マーマ王国が大軍をもって攻めてきて・・・・
しかし地獄に落とされていたシャラがそのような事を許す訳はなく、「おのれ、コニー!ヘボ国王!もう許さん!」怒り狂ったシャラは・・・
怒涛の逆襲が始まります!史上最強の「ざまー」が展開。
そして、第二章 幸せに暮らしていたシャラとクローディアを新たな敵が襲います。「娘の幸せを邪魔するやつは許さん❢」
シャラの怒りが爆発して国が次々と制圧されます。
下記の話の1000年前のシャラザール帝国建国記
皇太子に婚約破棄されましたーでもただでは済ませません!
https://www.alphapolis.co.jp/novel/237012270/129494952
小説家になろう カクヨムでも記載中です
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活
高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。
黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、
接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。
中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。
無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。
猫耳獣人なんでもござれ……。
ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。
R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。
そして『ほの暗いです』
【完結】帝国滅亡の『大災厄』、飼い始めました
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
大陸を制覇し、全盛を極めたアティン帝国を一夜にして滅ぼした『大災厄』―――正体のわからぬ大災害の話は、御伽噺として世に広まっていた。
うっかり『大災厄』の正体を知った魔術師――ルリアージェ――は、大陸9つの国のうち、3つの国から追われることになる。逃亡生活の邪魔にしかならない絶世の美形を連れた彼女は、徐々に覇権争いに巻き込まれていく。
まさか『大災厄』を飼うことになるなんて―――。
真面目なようで、不真面目なファンタジーが今始まる!
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
※2022/05/13 第10回ネット小説大賞、一次選考通過
※2019年春、エブリスタ長編ファンタジー特集に選ばれました(o´-ω-)o)ペコッ
【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…
三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった!
次の話(グレイ視点)にて完結になります。
お読みいただきありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる