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それでも僕は魔道具を作る 二章
十三話 終幕
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ヴァンサン殿下と魔王様と一緒にその後すぐに、ブルグント帝国の帝都リッベンに飛んだ。カール君とニコラとジュールも一緒だ。
既に皇帝陛下には知らせてあって、魔王様がその子供たちと共に安全な場所に避難させた。しかし、アラクネを倒されたと悟ったルーチェ・ガルシア妃殿下はレオニー皇太子を人質にして大広間に逃げた。何故かそこには殿下モドキのホムンクルスも一緒にいた。
ルーチェ蜘蛛は糸を吐いて皇太子をぐるぐる巻きにして、タペストリーに括りつけたんだ。殿下モドキも一緒にぐるぐる巻きにした。諸悪の根源のアラクネのタペストリーを燃やしたい。しかし、レオニー殿下まで巻き込んでしまう。
「ほほほーー、おーほほほーーー!」
蜘蛛がタペストリーの上で嘲笑っている。
その時、ホムンクルスの殿下モドキがぐずぐずに解けだしたんだ。そして粘土とスライムの塊のようになった。殿下モドキの崩れた塊はレオニー殿下に覆い被さった。
『焼け、早く!』
大広間に殿下モドキの声が響く。レオニー殿下を庇うつもりなんだ。
「くそっ!」
僕はタペストリーを見上げて愛用のヘラを取り出した。
「ピコ!」
ピコが僕を掴まえてレオニー殿下と殿下モドキの側に落とす。二人に掴まって絡まった蜘蛛の糸をするする巻き取った。
「小癪な!」
ルーチェ蜘蛛が蜘蛛の糸を投げつけて巻き込もうと攻撃する。殿下モドキが僕の前に広がって蜘蛛の糸を遮る。
『ヒールレイン』
ジュールが回復魔法をかけて、ついでに僕達に結界を張ってくれた。
「剣よ、我が力を纏え」
ニコラが火炎剣にして蜘蛛の糸を切りつける。炎がゴウと長く伸びて蜘蛛の糸を切って行く。
タペストリーに絡まった蜘蛛の糸が切られて大分薄くなった。
しっかりとレオニー殿下と殿下モドキを抱え「脱出!」を起動するとシュタタタと僕達の身体はタペストリーの下まで落下する。が、そこで止まってしまった。
「えい!」
まだ絡まった蜘蛛の糸をニコラが切ると、ヴァンサン殿下の許まで避難した。
ニコラとジュールも避難する。
殿下は蜘蛛とタペストリーに結界を張って「地獄の火炎」で燃やし尽くした。
「ぎゃあああああぁぁぁーーー!!!!」
蜘蛛とタペストリーが燃え上がった。紡いだ物語が焼けて消えて行った。
「ちゃんと燃えるんだね」
「アラクネを倒したからな」
その後、帝国のお城は蜘蛛の巣だらけで掃除が大変だった。僕達も駆り出されて掃除したけどさ。
ウツボカズラ……、もといレオニー皇太子は今回の騒動で廃嫡された。
何と、カール君が皇太子になるという。
僕らの不敬の数々、許してくれるだろうか。
本人は「ボクは嫌なんだ。逃げるんだ」って喚いているけど、どうなるのかな。
「何だか可哀そうだね」ってヴァンサン殿下に言ったら、
「お前も可哀そうだぞ」とシレっと返された。
「何で?」
「私は王国に帰って跡を継がねばならん」
魔族は寿命が長いのでヴァンサン殿下が魔王になるまで、まだだいぶ時間があるそうなんだ。で、魔王様とバルテル国王とが話し合って、まだ小さい王子殿下が成人するまで中継ぎみたいな感じで治めて欲しいそうなんだ。
国王様は早く引退して、魔王様と第二の人生を送りたいというのは内緒らしい。
「えええ。何で、ルイは?」
「ルイはシャトレンヌ公爵を口説き落とすらしい」
「えええ、僕どうなるの?」
「もちろん卒業したら一緒に連れて帰る」
「えええ」
「その前に結婚式だな」
「もしかして……」
「任せろ、素晴らしいドレスを仕立ててやろう」
あー、また女装するのか! 僕だってテールコートを着たいのにー!
いや、そういう問題じゃなくて、僕はずっと女装をしなきゃいけないのかな。
そういう訳で僕たちはバルテル王国で盛大な結婚式を挙げた。僕はマドレーヌじゃなくてエイリークとして女装して式を挙げたんだ。
そして帝国に戻った。卒業までは帝国に居ていいんだそうだ。殿下も一緒だし。
カール君からも、しばらく支えて欲しいと要請があって。
そんなある日、
「それは何だ」
殿下が低い声で咎める。
「え、皇太子モドキだよ。レオちゃんって言うんだ。胸とか頑張ったんだよ」
僕の後からついて来る帝国のレオニー皇太子に少し似たレオちゃん。ちょっと不敬かなとは思ったんだけど、そっくりじゃないし、彼女ももう皇太子じゃないし。
殿下モドキはぐずぐずの粘土状態だったけど核は無事回収したので、約束通り作り替えたんだ。
ヴァンサン殿下のモドキはちょっと怒りそうだしなあ。
という訳で、僕の傑作だ。
「きさまというやつは、すぐに作り替えろ!」
「えー、傑作なのに。この胸とか触って?」
あ、殿下が真顔で怒っている。怖い。何で。
***
ヴァンサン殿下が嫌がるのでレオちゃんを作り替えることにした。
でも人型だとどれも不味いかなと思って、どうするかなかなか決まらなかったんだけど、ホムンクルスが猫型を所望したんだ。潰れた粘土みたいな恰好で僕の机の上に居たんだけど。このホムンクルスは頭がいいんだ。
動物の図鑑が欲しいと言うので渡したら、毎日図鑑を見ていたんだけど、雪山に棲む雪猫という種族で今はもう絶滅したヤツなんだ。図鑑を見たが耳と尻尾の先に黒い斑紋があってほかは真っ白ですごく綺麗なのでこれにした。
それを目ざとく見つけたノイラート商会のヘルミク・ルーマンさんが「それは?」と聞いて来る。
「この前作ったホムンクルスを作り替えたんだ。食事が要らないし毛も落ちないしいいでしょ」
名前はリンクスにした。「リーン」と呼ぶと嬉しそうに駆けて来る。
猫なので殿下は文句を言わないし、頭がいいので殿下が居る時は膝の上に乗って来ないで暖炉やテラスの敷物にゴロゴロしている。
ニコラとジュール、そしてカール君にも見せたいんだけど、学校に連れて行けないのが残念だ。その分ピコに頑張ってもらおう。
そういえば魔道具科の先生が変わっていたんだ。レーヌを見ると肩を竦めた。
「グライツは捕まって刑務所に入ったわ。うちのパパは兄さんに後を譲って引退したの。これからは一介の魔道具士として働くそうよ」
「そうか、大変だったね」
「私はうんと頑張ってあんたのライバルになるんだからね」
ピシッと指を突きつける。
「頑張れよ」
「いつの間にそんなに仲良くなったんだ?」
カール君が首を傾げた。
「助けてもらった恩人だからな」
カール君とレーヌの取り持ちなんてどうだろうと思うんだけど、ニコラとジュールに相談したら「止めとけ」って言われたしなあ。
ヘルミク・ルーマンさんは商売熱心な人だ。
「きっと売りだしたら売れる」という。
「でも作るのに時間が掛かるよ、それにあんまり賢く出来ないけど」
「その子は賢いのかい」
「うん、殿下が手伝ってくれたからね」
「もう手伝わんぞ」
ヴァンサン殿下にくぎを刺されて僕たちは首を竦める。
「賢さは犬猫並みでいいですよ。ペットとして売り出せないかな」
「この子は特別性だから、普通の犬とか猫だったら作ってもいいけど」
「そう言えばその子の核も特別製でしたね。普通の核で犬と猫を一体ずつ作ってみてくれませんかね。今度お伺いする時に核を持って来ますので」
「うん、作ってみるよ」
核の方も注文して段々頭が良くなるようにしたんだ。といっても名前とか飼い主とその家族くらいを認識する程度だけど。簡単な言葉くらいなら分かるかな。
そういう訳で僕は相変わらず色々な物を作っているんだ。
終
これで完結です。読んで下さってありがとうございました!
既に皇帝陛下には知らせてあって、魔王様がその子供たちと共に安全な場所に避難させた。しかし、アラクネを倒されたと悟ったルーチェ・ガルシア妃殿下はレオニー皇太子を人質にして大広間に逃げた。何故かそこには殿下モドキのホムンクルスも一緒にいた。
ルーチェ蜘蛛は糸を吐いて皇太子をぐるぐる巻きにして、タペストリーに括りつけたんだ。殿下モドキも一緒にぐるぐる巻きにした。諸悪の根源のアラクネのタペストリーを燃やしたい。しかし、レオニー殿下まで巻き込んでしまう。
「ほほほーー、おーほほほーーー!」
蜘蛛がタペストリーの上で嘲笑っている。
その時、ホムンクルスの殿下モドキがぐずぐずに解けだしたんだ。そして粘土とスライムの塊のようになった。殿下モドキの崩れた塊はレオニー殿下に覆い被さった。
『焼け、早く!』
大広間に殿下モドキの声が響く。レオニー殿下を庇うつもりなんだ。
「くそっ!」
僕はタペストリーを見上げて愛用のヘラを取り出した。
「ピコ!」
ピコが僕を掴まえてレオニー殿下と殿下モドキの側に落とす。二人に掴まって絡まった蜘蛛の糸をするする巻き取った。
「小癪な!」
ルーチェ蜘蛛が蜘蛛の糸を投げつけて巻き込もうと攻撃する。殿下モドキが僕の前に広がって蜘蛛の糸を遮る。
『ヒールレイン』
ジュールが回復魔法をかけて、ついでに僕達に結界を張ってくれた。
「剣よ、我が力を纏え」
ニコラが火炎剣にして蜘蛛の糸を切りつける。炎がゴウと長く伸びて蜘蛛の糸を切って行く。
タペストリーに絡まった蜘蛛の糸が切られて大分薄くなった。
しっかりとレオニー殿下と殿下モドキを抱え「脱出!」を起動するとシュタタタと僕達の身体はタペストリーの下まで落下する。が、そこで止まってしまった。
「えい!」
まだ絡まった蜘蛛の糸をニコラが切ると、ヴァンサン殿下の許まで避難した。
ニコラとジュールも避難する。
殿下は蜘蛛とタペストリーに結界を張って「地獄の火炎」で燃やし尽くした。
「ぎゃあああああぁぁぁーーー!!!!」
蜘蛛とタペストリーが燃え上がった。紡いだ物語が焼けて消えて行った。
「ちゃんと燃えるんだね」
「アラクネを倒したからな」
その後、帝国のお城は蜘蛛の巣だらけで掃除が大変だった。僕達も駆り出されて掃除したけどさ。
ウツボカズラ……、もといレオニー皇太子は今回の騒動で廃嫡された。
何と、カール君が皇太子になるという。
僕らの不敬の数々、許してくれるだろうか。
本人は「ボクは嫌なんだ。逃げるんだ」って喚いているけど、どうなるのかな。
「何だか可哀そうだね」ってヴァンサン殿下に言ったら、
「お前も可哀そうだぞ」とシレっと返された。
「何で?」
「私は王国に帰って跡を継がねばならん」
魔族は寿命が長いのでヴァンサン殿下が魔王になるまで、まだだいぶ時間があるそうなんだ。で、魔王様とバルテル国王とが話し合って、まだ小さい王子殿下が成人するまで中継ぎみたいな感じで治めて欲しいそうなんだ。
国王様は早く引退して、魔王様と第二の人生を送りたいというのは内緒らしい。
「えええ。何で、ルイは?」
「ルイはシャトレンヌ公爵を口説き落とすらしい」
「えええ、僕どうなるの?」
「もちろん卒業したら一緒に連れて帰る」
「えええ」
「その前に結婚式だな」
「もしかして……」
「任せろ、素晴らしいドレスを仕立ててやろう」
あー、また女装するのか! 僕だってテールコートを着たいのにー!
いや、そういう問題じゃなくて、僕はずっと女装をしなきゃいけないのかな。
そういう訳で僕たちはバルテル王国で盛大な結婚式を挙げた。僕はマドレーヌじゃなくてエイリークとして女装して式を挙げたんだ。
そして帝国に戻った。卒業までは帝国に居ていいんだそうだ。殿下も一緒だし。
カール君からも、しばらく支えて欲しいと要請があって。
そんなある日、
「それは何だ」
殿下が低い声で咎める。
「え、皇太子モドキだよ。レオちゃんって言うんだ。胸とか頑張ったんだよ」
僕の後からついて来る帝国のレオニー皇太子に少し似たレオちゃん。ちょっと不敬かなとは思ったんだけど、そっくりじゃないし、彼女ももう皇太子じゃないし。
殿下モドキはぐずぐずの粘土状態だったけど核は無事回収したので、約束通り作り替えたんだ。
ヴァンサン殿下のモドキはちょっと怒りそうだしなあ。
という訳で、僕の傑作だ。
「きさまというやつは、すぐに作り替えろ!」
「えー、傑作なのに。この胸とか触って?」
あ、殿下が真顔で怒っている。怖い。何で。
***
ヴァンサン殿下が嫌がるのでレオちゃんを作り替えることにした。
でも人型だとどれも不味いかなと思って、どうするかなかなか決まらなかったんだけど、ホムンクルスが猫型を所望したんだ。潰れた粘土みたいな恰好で僕の机の上に居たんだけど。このホムンクルスは頭がいいんだ。
動物の図鑑が欲しいと言うので渡したら、毎日図鑑を見ていたんだけど、雪山に棲む雪猫という種族で今はもう絶滅したヤツなんだ。図鑑を見たが耳と尻尾の先に黒い斑紋があってほかは真っ白ですごく綺麗なのでこれにした。
それを目ざとく見つけたノイラート商会のヘルミク・ルーマンさんが「それは?」と聞いて来る。
「この前作ったホムンクルスを作り替えたんだ。食事が要らないし毛も落ちないしいいでしょ」
名前はリンクスにした。「リーン」と呼ぶと嬉しそうに駆けて来る。
猫なので殿下は文句を言わないし、頭がいいので殿下が居る時は膝の上に乗って来ないで暖炉やテラスの敷物にゴロゴロしている。
ニコラとジュール、そしてカール君にも見せたいんだけど、学校に連れて行けないのが残念だ。その分ピコに頑張ってもらおう。
そういえば魔道具科の先生が変わっていたんだ。レーヌを見ると肩を竦めた。
「グライツは捕まって刑務所に入ったわ。うちのパパは兄さんに後を譲って引退したの。これからは一介の魔道具士として働くそうよ」
「そうか、大変だったね」
「私はうんと頑張ってあんたのライバルになるんだからね」
ピシッと指を突きつける。
「頑張れよ」
「いつの間にそんなに仲良くなったんだ?」
カール君が首を傾げた。
「助けてもらった恩人だからな」
カール君とレーヌの取り持ちなんてどうだろうと思うんだけど、ニコラとジュールに相談したら「止めとけ」って言われたしなあ。
ヘルミク・ルーマンさんは商売熱心な人だ。
「きっと売りだしたら売れる」という。
「でも作るのに時間が掛かるよ、それにあんまり賢く出来ないけど」
「その子は賢いのかい」
「うん、殿下が手伝ってくれたからね」
「もう手伝わんぞ」
ヴァンサン殿下にくぎを刺されて僕たちは首を竦める。
「賢さは犬猫並みでいいですよ。ペットとして売り出せないかな」
「この子は特別性だから、普通の犬とか猫だったら作ってもいいけど」
「そう言えばその子の核も特別製でしたね。普通の核で犬と猫を一体ずつ作ってみてくれませんかね。今度お伺いする時に核を持って来ますので」
「うん、作ってみるよ」
核の方も注文して段々頭が良くなるようにしたんだ。といっても名前とか飼い主とその家族くらいを認識する程度だけど。簡単な言葉くらいなら分かるかな。
そういう訳で僕は相変わらず色々な物を作っているんだ。
終
これで完結です。読んで下さってありがとうございました!
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