24 / 30
それでも僕は魔道具を作る 二章
七話 ウツボカズラ掃討戦
しおりを挟む学校が半日の日にニ限目からサボって、ニコラとジュールと一緒に帝都の南にあるリッベン湿地帯に行った。手前に大草原があって、小高い丘がある。そこまで乗り合い馬車が走っている。
殿下には手紙を飛ばしたから大丈夫だ。うん、きっと。
丘の下からずっと湿地が広がっている。
「広いな」
どういう訳かカール君も一緒だ。大丈夫なんだろうか。
「執事とか侍従とか護衛とかいないの?」
「いるけど、引き留められるだろう」
おや、なかなかのやんちゃ坊主だね。人のこと言えないけど。
「どうせボクなんか、居ても居なくても同じだ。成人したらさっさと臣下に下って出て行くんだ」
ここにも拗らせた奴がいた。
コホン。取り敢えず、黄色の防御玉を踏もう。グシャ。
「わっ!」
約一名、びっくりした奴がいるけど最初はこんな反応だよね、みんな。
「これ、『回避』と『疾風』のタリスマン作ったんだ」
小さい銅貨くらいの大きさのミスリル銀に魔石を二つ付けて、風の模様を巻き付けたペンダントトップをそこに居る三人に配る。
「ありがと、エリク」早速首のチェーンに付けるニコラ。
「綺麗だな」じっと見てから腕のブレスレットに付けるジュール。
「すごいな君は」カール君は両手でじっくり見ている。
えへへ、そう言われるの、ものすごく嬉しいんだ。
広くてどこまでも続く湿地帯。うねった川が湿地を縫うように流れ、浮島の様な足場の間には、足を踏み外せばどこまでも沈み込んでいく沼地がある。
所々に木の生えた大きな浮き島があって、水際には葦のような背の高い草が生え、細い足の鳥が木の陰から不意にバサバサと羽音を立てて飛び上がる。長い棒を持って足場を確認しながら歩くけれど、注意がそれると危ない。
どこにウツボカズラはいるのか。こんなんで見つけられるのか。
ズルッ。おっと危ない。焦っている。
いけない、心を落ち着けないと。
「向こうに何かいるぞ」
ジュールの言葉に顔を上げたが攻撃が来たのは足元だった。
ひゅんという音と共に蔓が伸びて足に巻き付いた。引っ張られる。
「わああーー!」
持っていた棒で突っ張るが、向こうの方が力が強い。
「エリク―!」
「くそう、『風の刃』」
しかし慌てて飛ばした僕の『風の刃』は蔓に当たりもせずに、ひゅんひゅんと空の向こうに飛んで行った。
「焦っていると当たらないや」
「エリク!」
ニコラが手を伸ばして僕の手を掴んだ。それでもズリズリと引っ張られて行く。
「くらえ! 『雷撃』」
カール君が雷の魔法を放つ。
「え、ちょっと待って、僕も焦げちゃう」
「止めろ! こっちまで黒焦げにする気か!」
ジュールが叫ぶ。同時に結界を張った。
「狙ったんだよ」
ドシャーン!! バチバチバチ。
確かに僕の足を捕まえている株に雷撃が飛んで行って直撃した。僕は自由になった。でも株は焼け焦げた。そして、こっちにバチバチと水を伝って雷撃が来る。
湿地だし水場だし。結界に跳ね返されてバチバチとどこかへ行ったけど。
起き上がって濡れた上着を手早く風魔法で乾かした。
「ウツボカズラが真っ黒だ」
「はあ……」
「ここら一帯にいるみたいだね」
見渡せば、ウツボカズラの群落があった。襲われたと認識したウツボカズラが、一斉にこちらに向けて蔓を伸ばす。
コツコツと結界に蔓が当たる。これ、ちょっとやばいんじゃないか。
臨戦態勢を整えようとしたところで、不意に恐ろしい声が降りて来た。
「きさまは、また黙って出て来て!」
うへ、不味い。
「動きを止めるから切っていけ!『パライズ』」
『雷撃』によく似た魔法がバチバチと辺り一面に落ちた。ヴァンサン殿下の魔法でウツボカズラは痺れた。
「はいっ!」
ニコラが真っ先に、結界を解除したジュールも後を追って、僕も追いかける。カール君が一番後からやってくる。
びりびりと麻痺しているウツボカズラの袋をナイフで切って取り、蔓を切るとウツボカズラはへたりと大人しくなった。袋の中に入っているモノを畳んで絞り出してから、沼の水ですすいでもう一度ぎっちり畳む。よし、回収。
ついでに蔓も頂いておこう。素材になる模様。
ヴァンサン殿下が来ると早いなあ。途端になくなる緊張感。ズリッ!
「わっ」
沼に落ちそうな所を引き上げられた。
「お前は」
「違うんだ―、これは」
睨む瑠璃色の瞳が怖い。
「ウツボカズラはもういいか?」
ニコラもジュールもカール君もたくさん回収している。やっぱりマジックバッグ欲しいよね。僕も十個余りは回収したな。
「うん」
「ついでにこれからアプト山に行こう」
何か予定があっただろうに申し訳ないが、そう言ってくれるのなら行くしかないな。ニコラとジュールを見ると頷いた。
「はい」
後ろから来たカール君を見てヴァンサン殿下が問う。
「君は?」
「カール君。マドレーヌ嬢の従兄弟だって」
カール君は軽く目礼をする。
「君が──。夜会の庭園にいた子だな」
「知っているの?」
「ああ、皇帝の、今は長男だな」
「今?」
「十四歳?」と聞く殿下に「十五歳になった」とむすけて答えるカール君。
「今はって、お兄さんは?」
殿下の言葉から考えたら兄弟がいたんだよね。何気なく聞いてしまったけれど、
「亡くなった」返事は惨いものだった。
「うわあ」
「二人、毒殺と謀殺。姉も──」
「ごめんー、止めてー、うかつに聞いて悪かったー」
血塗られた帝国とか勘弁して欲しい。頭を押さえて蹲りそう。陰謀とか、心の闇とかもういや、マドレーヌ嬢の死はかなりショックだった。でも縋るっていったら殿下しかいない訳で。
殿下が脇から手を回して持ち上げて、湿地をそのまま渡ってくれた。
うう、弱くてごめんよ。
乗合馬車が止まった辺りに、クレマンさんが馬車で迎えに来ていた。
「お弁当はアプト山に景色の良い所がございます」
「ではそこで」
使い物にならない僕を馬車に乗せて、「乗って」と皆を乗せて出発する。
アプト山に連なる小さな小山に開けた場所があった。見晴らしがよくて向こうに広大な王都の街並みが広がっている。その真ん中あたりにそびえる宮殿がその栄光と威容を誇っている。縦横に流れる運河にかかる橋を渡ってここまで馬車で来た。湿原はすっかり遠くになって見えない。
「これって何?」
カール君が黒い三角のものを両手に持ってじっと見つめている。
「おにぎりだよ。学食にもあるけど」
三角のおにぎりに黒い海苔を巻いたものを食べている。
テーブルに広げられた、たくさんのおにぎりに唐揚げなどの揚げ物、鳥と根菜の煮物、卵焼きなどのおかずと漬物。ミソスープとお茶。
僕のおにぎりの中に入っているのは鮭だ。当りだ。
帝国は沢山の国を併合してきた国だし、帝都の学校には各地から学生が集まってくるから、食堂には各国の郷土料理が並んでいるんだ。
「ボク食べたことない。この前のも初めて食べた」
「何処で食べてるんだよ」
ニコラが遠慮なしに聞く。
「え、この前までサロンで」
帝国の学校にも皇族用のサロンがあるんだな。
「もしかしてお毒見付きのヤツ?」
「ああ」
「カール君て皇子様なんだな」というジュールに、
「あまり馴れ馴れしくしたらいけないの?」と聞く僕。
「俺たち殿下って言った方がいいか?」とニコラ。
カール君は顔を顰めて、さっき湿地の丘で言ったことを繰り返す。
「いや、呼び捨てでいいんだ。ボクは十六歳になったら臣下に下るんだ」
だがそれに殿下のダメ出しが入る。
「それはなかなか簡単にはいかぬぞ」
子供が十人以上いても難しいのか。いや既に何人か減って……。
ヴァンサン殿下は帝国に来る前に臣下に下ると言っていて、すでに国王陛下にも了承されたと言っていたけど、まだ第一王子のままなんだよな。
「殿下も難しいの?」
「まあな」
殿下は一番上の子供だし、出来はいいし、正妃の子供は殿下しかいない。
でも、ルイ王子がいるしなあ。それに、魔界では魔王様の跡継ぎみたいに言われているけど、どうするのかな。
結婚してよかったのかしら。帝国は自由だけど、バルテル王国は同性婚なんて認められていないし、もし帰国したらどうなるのかな。
0
お気に入りに追加
79
あなたにおすすめの小説
転生したら乙女ゲームの攻略対象者!?攻略されるのが嫌なので女装をしたら、ヒロインそっちのけで口説かれてるんですけど…
リンゴリラ
BL
病弱だった男子高校生。
乙女ゲームあと一歩でクリアというところで寿命が尽きた。
(あぁ、死ぬんだ、自分。……せめて…ハッピーエンドを迎えたかった…)
次に目を開けたとき、そこにあるのは自分のではない体があり…
前世やっていた乙女ゲームの攻略対象者、『ジュン・テイジャー』に転生していた…
そうして…攻略対象者=女の子口説く側という、前世入院ばかりしていた自分があの甘い言葉を吐けるわけもなく。
それならば、ただのモブになるために!!この顔面を隠すために女装をしちゃいましょう。
じゃあ、ヒロインは王子や暗殺者やらまぁ他の攻略対象者にお任せしちゃいましょう。
ん…?いや待って!!ヒロインは自分じゃないからね!?
※ただいま修正につき、全てを非公開にしてから1話ずつ投稿をしております
真冬の痛悔
白鳩 唯斗
BL
闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。
ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。
主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。
むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。
それはきっと、気の迷い。
葉津緒
BL
王道転入生に親友扱いされている、気弱な平凡脇役くんが主人公。嫌われ後、総狙われ?
主人公→睦実(ムツミ)
王道転入生→珠紀(タマキ)
全寮制王道学園/美形×平凡/コメディ?
絶滅危惧種の俺様王子に婚約を突きつけられた小物ですが
古森きり
BL
前世、腐男子サラリーマンである俺、ホノカ・ルトソーは”女は王族だけ”という特殊な異世界『ゼブンス・デェ・フェ』に転生した。
女と結婚し、女と子どもを残せるのは伯爵家以上の男だけ。
平民と伯爵家以下の男は、同家格の男と結婚してうなじを噛まれた側が子宮を体内で生成して子どもを産むように進化する。
そんな常識を聞いた時は「は?」と宇宙猫になった。
いや、だって、そんなことある?
あぶれたモブの運命が過酷すぎん?
――言いたいことはたくさんあるが、どうせモブなので流れに身を任せようと思っていたところ王女殿下の誕生日お披露目パーティーで第二王子エルン殿下にキスされてしまい――!
BLoveさん、カクヨム、アルファポリス、小説家になろうに掲載。
オレに触らないでくれ
mahiro
BL
見た目は可愛くて綺麗なのに動作が男っぽい、宮永煌成(みやなが こうせい)という男に一目惚れした。
見た目に反して声は低いし、細い手足なのかと思いきや筋肉がしっかりとついていた。
宮永の側には幼なじみだという宗方大雅(むなかた たいが)という男が常におり、第三者が近寄りがたい雰囲気が漂っていた。
高校に入学して環境が変わってもそれは変わらなくて。
『漫画みたいな恋がしたい!』という執筆中の作品の登場人物目線のお話です。所々リンクするところが出てくると思います。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる