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それでも僕は魔道具を作る 二章

二話 ウツボカズラ

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 殿下たちを見送って、ニコラとジュールは顔を見合わせるが何も言わない。
 食堂もしばらくざわざわと五月蠅いし。どういう顔をすればいいんだ。もうちょっと場所を考えて欲しい。そうだ、手紙を飛ばしてもらえばいいじゃないか。

 ニコラとジュールに作った紙を連絡用に渡した。
「こっちが相手で、こっちが出すときに自分の魔力を流してね」
「なるほど、便利だな」
「どこまで届くんだ?」
「一応、帝都リッベン内を想定しているんだ。つまり、どこでもそれぐらいの距離なら届くはずだ」
「そっかー、バルテル王国の家までは無理なんだな」
 そうなんだよな。あくまで緊急連絡用だな。紙一枚だし、読んだら魔力が無くなって、紙も一緒に消えちゃうし。
 うーん、ニコラとジュール用にもう少し飛距離を伸ばせないかな。

「そういや、頭に乗せてたインコのアイツは?」
 ジュールが聞く。今日は卵とハムとポテトサラダのサンドイッチ定食だ。帝国の食事は少しボリュームがあり過ぎて僕も一緒に軽めのサンドイッチ定食、ニコラはハンバーグ定食にしている。
「ピコ? 今も頭に乗ってるよ」
「ぴ」
「ああ、いるのか」
 ニコラが僕の頭にチラリと目を向ける。

「魔道具科の女の子に苦情を出されてさ」
 ピコは大人しく僕の頭に乗っかっていたんだけど、それを咎めた魔道具科のレーヌに、教室内にそんなものを連れて来るのは問題だと文句を言われたんだ。
「帝国は自由過ぎると思ったけど、変な所で五月蠅いんだな」
 でもピコは僕から離れないし、僕は何となく一緒に居るものだと認識しているのでちょっと反則をしている。

「足に『エアシールド』と『コノハガクレ』を付与した輪っかをしているんだ。ピコは自分で姿を消せるらしいけど、面白いからこれでいいってさ」
「へえ、そいつ喋れるの?」
 ジュールが聞く。
「何となく感じるんだ」
「ふうん」
 じっと僕の頭の上を見るジュール。
「見えてるの?」と聞いたら「言われてみれば何となくぼんやりと」と目を細める。気にしなきゃあ大丈夫ってレベルかな。
 レーヌも文句を言わないから、しばらくこれで行こうと思っている。

「こっちの女の子ってうるさいのかな」
 さっきの殿下の後について来た女の人達とか自己主張が激しいというか。
 王国では三人でかなり好きにしていたような気がする。落ちこぼれ三人組と呼ばれていたけれど、今となっては愛称みたいに思えるな。
「向こうにいた時は俺らが居たし、俺ら落ちこぼれだったし」
 やっぱし二コラも言う。

「その点こっちの方が危険だね。誰であろうと平気で手を出して来るもんな」
「ジュールに?」
 そりゃあジュールは優し気でシュッとして軽くみられるんだけど。
「私だけじゃない、ニコラもだ。こちらの男はゴツイからニコラみたいなのが丁度いいとほざきやがって」
「落ち着けジュール」
 ニコラが宥めている。びっくりだ。
 濃い赤毛のニコラはガタイは良いけれど、細マッチョというか筋肉もりもりではない。丁度いいか、なるほど。
 僕は迎えの馬車が来るので、放課後真っ直ぐ屋敷に帰っているけど、ちょっと見てみたいと思ってしまった。

 二人の修羅場をボケらと見ていたら、いきなり見知らぬ少年に話しかけられた。
「やあ君、魔道具科にいるんだって?」
「え、あ、はい」
 人がかなり少なくなった食堂のうららかな春の日差しを斜めに受けて、黒い髪、蒼い瞳の年下っぽい少年がいる。ちょっと整ってどこか印象的な奴だ。
「ボクは飛び級でここに入学して来たんだ。魔道具科に入るからよろしくね」
 そう言って口の端をちょっとまげてから返事も聞かずに行ってしまった。
「ダレ?」
「知らん」
 肩をすくめる。魔道具科の誰かの知り合いなのかな。
 それよりもだ。

「ねえねえ、それでシルフの羽とウツボカズラの袋が欲しいんだ」
 鉛丹はすでに手に入れている。学校から見学に行った工房にあったんだ。
「エリク、そんなもの何にするんだ?」
 ニコラがテーブルに腕を置いて聞く。
「この前言ってたアレ」
「アレは私も欲しいな」
 ジュールが即座に頷いた。食堂では大きな声で言えないのだ。

 僕はマジックバックが欲しくて、この帝都の学園にならあるかと思ったのだ。確かにあった、しかしものすごい金額だった。百万ゴールドとか誰が買うんだ。作れるものなら作った方が絶対いいと、平民出身の僕は強く思ったのだった。
「分かった、調べてみよう」
 ニコラとジュールが頷いてくれた。
「ありがと、ニコラ、ジュール」
 よし、お礼に今度採集に行くとき二人に『回避』と『疾風』の付与魔法の付いた魔道具をプレゼントしよう。自分にも付けとこうかな。
 これでレーヌの個人攻撃が躱せるならいいけど。ちょっとうざいし。僕はすぐ手が出る方だけど、女の子には出来ないしな。


  ***

「次の週、夜会があるからな」
 夜遅く帰って来たヴァンサン殿下は寝ている僕を撫で回して突っついて起こして、散々に好きにした後でそう言うのだった。このヤロウ。
「夜会?」
 怠いので、てれんとベッドに沈み込んだまま、水色の髪の間から目だけを向ける。
「ああ、皇太子がお前を見たいとうるさくてな」
 殿下が僕の髪をかきあげてぐしゃぐしゃにかき混ぜた。何すんだよこのヤロウ。プラチナブロンドの髪を引っ張ると瑠璃色の目が近付いてキスされる。

「またドレスを着るの?」
 この前のドレスは走り回ってドロドロにしてしまった。もったいない。あれはどうしただろう、洗って再利用されているといいな。
「そうだな、今度は私の瞳の色にしよう。きっとお前に似合う」
 この前作ったデコルテを又使うかな。綺麗に整備して保存してあるし。
「首にはプラチナとパールのチェーンを幾重にも巻いて、今度は腰の辺りはラフにしようか、長いドレスで﨟たけた感じにして、手袋は短くてもよいか。今度も服は揃いにしような」

 夢見るような殿下の言葉はまるで僕には子守唄のよう。
 殿下の声を聴きながらうつらうつらしていたら夢を見た。
 夢の中にウツボカズラが出て来て、蔓がびょーんと伸びて足にぐるぐる巻き付いてきて、袋の中に捕らわれそうになってうんうん唸っていたら殿下に起こされた。

「どうしたんだエリク、うなされて」
「はうっ……、怖かったー。ウツボカズラって蔓を伸ばしてくるんだな。ねえ、殿下にも『回避』と『疾風』を付けようか」
「ん? ウツボカズラが何で出て来るんだ?」
「えっ、ええと」
「また何を作りたいんだ」
 僕の考える事なんてお見通しだった。

 それで、ヴァンサン殿下にマジックバッグを作る材料を採集しに行くという事を白状してしまった。
「マジックバッグなら買ってやろう」
「ダメだよ、あんな高いの。自分で作る!」
 そうだ、断固反対だ。絶対作ってやる。
「じゃあクレマンを連れて行け」
「ニコラとジュールがいるから大丈夫だよ。ピコもいるし」
「エリク。買うか、クレマンに護衛してもらうかどちらかだ」
「う……」
 もちろんクレマンさんはきっちり仕事をする人なんだけど。


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