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それでも僕は魔道具を作る 二章
一話 付与魔法
しおりを挟むヴァンサン殿下はブルグント帝国の帝都リッベンの大学に入学した。帝王学とか領地経営学、農地改革、会社経営学、政治学、統計学エトセトラ……。
何か知らんけどたくさん学ぶつもりのようだ。そして女性が放っておかない。
ヴァンサン殿下の周りはいつも人だかり。その内女性の中でも優秀な人が数人、殿下の取り巻きと化している。美人で頭が良くてスタイルもよくて、殿下の隣に胸を張って立っている。
優秀な女性は話す言葉も態度も何もかも自信に満ち溢れている。
ヴァンサン殿下は容姿端麗、頭脳明晰で隣国バルテル王国の王族で。
僕と結婚したけれど来年の春にお式を挙げるまでは公にはしないようで、ヴァンサン殿下はバルテル王国の第一王子のままだ。婚約者はマドレーヌからエイリークにスライドしたけれど。
このブルグント帝国では結婚は自由なんだ。身分なんか関係なく、性別も関係なく誰とでも結婚出来るし、別れて別の人と結婚するのも自由。そして同性同士で結婚した場合、子作り制度というものがある。基本は一夫一婦制なのだが、もう一人異性と結婚できるのだ。三角関係推奨。いや四角関係もありか。
そういうのって関係が破綻したらどうなるのかな、と思ったら、皆案外サバサバしているのだという。
じゃあ、帝国のシュヴァルツ将軍はどうなんだって思うけど、あの人マドレーヌの父親なんだよな。人の嫁を追いかけ回して、自分は子供を作ってってどうよ。
どっちにしても僕にはついて行けない。
***
僕は帝都のリッベン魔法学園に入って、魔道具科に籍を置いた。バルテル魔術学院からの転入という事で、エリク・ルーセルとして学園に通っている。
ニコラは騎士科に入り、ジュールは支援魔法科に入った。といっても専攻以外の一般授業は一緒に勉強している。
魔道具科で新たに習ったのは付与魔法だった。誰にでも出来るものではないらしいし、何でも付けられるものでもないようだ。だけど、僕は防御ボールで下地が出来ていたのか、風の魔法のいくつかは付けられるようだ。
それで、手紙を飛ばせる付与魔法を用紙に付けてみた。飛ばす相手と自分を魔法陣で繋いで風に乗せて飛ばす感じ。
魔法陣に手を置けば認識して、その人に届くようにしたらどうかな。人は誰にも微細な魔力があるんだ。それはみな違っているから、ギルドで個人を識別できるようになっている。それを応用してと。
「グライツ先生、こんな手紙を作ってみたんですが」
「何々、ふむ」
グライツ先生は中年の温厚な眼鏡をかけた先生だ。魔道具科には僕を入れて七人の生徒がいる。基本授業の時は三十人程いるので少ない。普通は商工ギルドや、魔道具を作る工房で親方から学ぶという。僕がお父さんから習ったのと同じかな。
この学校にも奨学生制度があるから、お金持ちや貴族の子弟のほかに平民の子もいる。バルテル王国と違って、教室も食堂もサロンも、みんな平等だけど。
「手紙? 手紙なんか簡単に飛ばせるよ」
馬鹿にしたように突っかかる子は何処にもいるんだ。
「レーヌさん、誰でも魔力が沢山あるとは限りません。それに手紙の魔法も誰にでも使える訳ではありません」
そうなんだよね。僕もたくさんある風魔法の全部を使える訳じゃないし。
レーヌという女の子はちょっと可愛い顔をした茶色の髪の大きな商家のお嬢様らしいけど、最初から僕に突っかかってくるんだ。
「受け取る側と出す側の魔法陣を作って、魔法陣にお互いに魔力を流すと、相手に出せるんです」
先生に魔力を通してもらって教室の端から飛ばす。ちゃんと飛んで他の皆も試している。和やかな空気は好きだけど、ふくれっ面の奴はどうすればいいんだろう。
「では今日はこの手紙の付与魔法を魔法陣にしてみましょう」
グライツ先生の課題が出てみんなが一斉に取り組んだ。
実はもうひとつ、風魔法で作るエアポケットを付与したいと考えている。これでマジックバックが作れるはずなんだが、紙だったらどれでもいい手紙の付与魔法と違って、マジックバッグは素材が必要だった。
シルフの羽とウツボカズラの袋と鉛丹と。これをぎっちり捏ねて、マジックバッグにする物の内側に塗布して内部にエアポットの魔法を付与する。
あとは出し入れの方法とか所有者の認識とか細かい調整をすればいいのだ。
東方の書物で読んだ魔人が持っているマジックバックにはとても及ばなくて、出来たとしてもボストンバッグ一個くらいの容量だけど是非とも欲しい。
***
昼食は友人のニコラとジュールと一緒だ。
二人は、一緒に住むなら部屋を提供するという殿下の申し出を辞退して、学校の寮の二人部屋に住んでいる。なかなか広くて綺麗で、僕も寮の方がいいと言ったら殿下に即座に却下された。
侍従とか侍女とか付けられて、毎日綺麗に磨き上げられたり着せ替え人形にされるのは勘弁して欲しいんだけど。
学生食堂で三人で昼食を食べていると、食堂にいた生徒たちがざわざわと騒ぎだした。顔を上げて見ると人々の間にプラチナブロンドの髪が見えた。一人じゃない、お綺麗な女性を何人か侍らせている。
リッベン魔法学園は大学の付属施設として作られた。その前に大学自体が帝国の研究施設内の広大な敷地内に作られたのだ。そして大学内の余剰施設を利用して学園が作られた。バルテル学院の貴族棟と平民棟みたいなもんかな。
だからこんな風に殿下がこの食堂に来てもおかしくはないんだが。
「エリク」
ヴァンサン殿下に呼びかけられて注目されるのは恥ずかしい。
「はい、何ですか」
「今日は遅くなるから一人で食事してくれ」
「分かりました」
「じゃあな」
僕の頭に手を置いてさっさと立ち去る。女性たちはチラリと僕を見るが行ってしまう。優越感でもあるのか、憐れみでもかけてくれるのか。でも、いらないよ。
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