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六話
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身体に沿うように作られた赤のドレスは地模様に濃い赤の刺繍が流れるように斜めに入っている。襟元にふんわりと幾重にも飾られた繊細なボビンレース、裾はゆったりと広がって、歩くのを邪魔しない。
黒い髪はハーフアップにして真珠を使った髪留めが殿下の髪の色と同じで、首には三連に巻いたパールと濃い青のサファイアが下がっている。
こんなドレスを着るのは一度だけでよい。
切れ長の目尻に赤いシャドウは似合うかしら? 研究好きのクレアが薦めてくれたのだけれど。
「とてもお似合いでございますわ、お嬢様。まるで天女のようです」
「天女って?」
「東洋の女神でございますね」
「そうなの」
そんな大したものじゃないと思うのだけど。
「殿下がお見えでございますよ、さあ」
クレアに傅かれて部屋の外に向かう。
「とても素敵だローズマリー」
殿下の方が素敵だわ。豪華な刺繍が施された黒いコートと白いウェストコート。ブリーチも黒で、豪華レースのシャツにカフスとピンはローズマリーの瞳の色アンバーで揃えている。
「殿下もとても素敵ですわ」
レイモンド殿下は派手な顔立ちだったが、ジョゼフ殿下は優し気な顔立ちで、それが黒い色を纏うことで、きりっと引き締まって見える。
二人で夜会の大広間に出るとザワリと揺れる貴族たち。この夜会は私達の婚約のお披露目のようなもの。両親に連れられて国王陛下に挨拶をすると、陛下が立ち上がって皆に紹介してくれた。そして待ちかねたように会場に音楽が流れる。
「さあ踊ろうか」
「はい、よろしくお願いします」
ジョゼフ殿下にエスコートされて、ホールの中央へと歩む。
「君が一番美しく見えるように、君が一番輝いて見えるように、踊ろう」
軽く挨拶をして流れるように踊り出す。
「殿下、随分お上手ですね」
「君と踊りたかったんだ。練習した甲斐があった」
なんて嬉しい言葉を紡ぐ方なんだろう。
「君がこんなに素敵な令嬢であることをみんなに教えてやろう」
驚いてばかりじゃいけないわ。私も見習わなくては。
「殿下とファーストダンスを踊れて光栄ですわ。私は幸せ者です」
心を込めて言うと、驚いたような顔をしたジョゼフ殿下は、その後、弾けるような笑顔になった。
『今ここで君を抱きしめてキスをしたい』
猫の声で囁いた。
◇◇
学校の長期休暇は領地に帰る予定だと言うと、殿下も後からおいでになるという。卒業と同時に結婚だし、とても忙しい。
『グルニャー』
「あら、猫ちゃんも一緒なのね」
「やあ、今日は君の父君と領地を見に行くんだ。その前に君の顔を見に来た」
「ジョゼフ殿下」
「まさか婚約者が変わって、こんなに世界が変わるなんて思いもしませんでしたわ」
結局レイモンド殿下は私にとって何だったのかしらと思う。
「彼のお陰で、少しくらい私の出来が悪くても大目に見て貰える」
すると後ろから現れた父がジョゼフ殿下を引っ張って行く。
「そんな事はございませんぞ殿下、ローズマリーの為にもビシビシ行きますぞ」
殿下は肩を竦めて父と出かける。仲が良いようで何よりだ。
『グルニャー』
「ローズは私とお留守番ね」
足元に来てスリスリする大きな猫を抱き上げる。
(くっ、重たい……)
猫が大丈夫かというか、不安そうというか、そういう顔で私を見る。やせ我慢をしてニカリと猫に笑いかけた。
私にも分かったことがある。彼と出会えてよかった。本当に。
「ちゃんとジョゼフ殿下に言わないとね」
猫は賛成という風に『グルル』と答えた。
終
読んで下さってありがとうございました!
拍手、感想もありがとうございました!
黒い髪はハーフアップにして真珠を使った髪留めが殿下の髪の色と同じで、首には三連に巻いたパールと濃い青のサファイアが下がっている。
こんなドレスを着るのは一度だけでよい。
切れ長の目尻に赤いシャドウは似合うかしら? 研究好きのクレアが薦めてくれたのだけれど。
「とてもお似合いでございますわ、お嬢様。まるで天女のようです」
「天女って?」
「東洋の女神でございますね」
「そうなの」
そんな大したものじゃないと思うのだけど。
「殿下がお見えでございますよ、さあ」
クレアに傅かれて部屋の外に向かう。
「とても素敵だローズマリー」
殿下の方が素敵だわ。豪華な刺繍が施された黒いコートと白いウェストコート。ブリーチも黒で、豪華レースのシャツにカフスとピンはローズマリーの瞳の色アンバーで揃えている。
「殿下もとても素敵ですわ」
レイモンド殿下は派手な顔立ちだったが、ジョゼフ殿下は優し気な顔立ちで、それが黒い色を纏うことで、きりっと引き締まって見える。
二人で夜会の大広間に出るとザワリと揺れる貴族たち。この夜会は私達の婚約のお披露目のようなもの。両親に連れられて国王陛下に挨拶をすると、陛下が立ち上がって皆に紹介してくれた。そして待ちかねたように会場に音楽が流れる。
「さあ踊ろうか」
「はい、よろしくお願いします」
ジョゼフ殿下にエスコートされて、ホールの中央へと歩む。
「君が一番美しく見えるように、君が一番輝いて見えるように、踊ろう」
軽く挨拶をして流れるように踊り出す。
「殿下、随分お上手ですね」
「君と踊りたかったんだ。練習した甲斐があった」
なんて嬉しい言葉を紡ぐ方なんだろう。
「君がこんなに素敵な令嬢であることをみんなに教えてやろう」
驚いてばかりじゃいけないわ。私も見習わなくては。
「殿下とファーストダンスを踊れて光栄ですわ。私は幸せ者です」
心を込めて言うと、驚いたような顔をしたジョゼフ殿下は、その後、弾けるような笑顔になった。
『今ここで君を抱きしめてキスをしたい』
猫の声で囁いた。
◇◇
学校の長期休暇は領地に帰る予定だと言うと、殿下も後からおいでになるという。卒業と同時に結婚だし、とても忙しい。
『グルニャー』
「あら、猫ちゃんも一緒なのね」
「やあ、今日は君の父君と領地を見に行くんだ。その前に君の顔を見に来た」
「ジョゼフ殿下」
「まさか婚約者が変わって、こんなに世界が変わるなんて思いもしませんでしたわ」
結局レイモンド殿下は私にとって何だったのかしらと思う。
「彼のお陰で、少しくらい私の出来が悪くても大目に見て貰える」
すると後ろから現れた父がジョゼフ殿下を引っ張って行く。
「そんな事はございませんぞ殿下、ローズマリーの為にもビシビシ行きますぞ」
殿下は肩を竦めて父と出かける。仲が良いようで何よりだ。
『グルニャー』
「ローズは私とお留守番ね」
足元に来てスリスリする大きな猫を抱き上げる。
(くっ、重たい……)
猫が大丈夫かというか、不安そうというか、そういう顔で私を見る。やせ我慢をしてニカリと猫に笑いかけた。
私にも分かったことがある。彼と出会えてよかった。本当に。
「ちゃんとジョゼフ殿下に言わないとね」
猫は賛成という風に『グルル』と答えた。
終
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