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一章 婚約破棄と断罪

01 転落の人生

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 私は走っていた。ローヒールのパンプスを履いて肩に大きなトートバッグを担ぎ、両手に建材や内装の見本帳の入った重い紙袋を抱え、顧客の許に急いでいた。

 このリフォーム会社に入ってうん年、後輩が入社せずいつまで経っても下っ端の社員だった私は便利屋扱いされた。電車に乗って指定された駅の近くの顧客の許に資料カタログを早いとこ届けないといけない。

「契約出来るかどうかはこれに懸かっている。早く持って行け愚図が!」
 と社員に怒鳴られて、いつものように責任を押し付けられる。

 本当はこの社員が、顧客が他にも改装を頼みたそうにしていたのだが親身になって話を聞かず流して、客がへそを曲げた所為だ。他にも顧客は高い商品を望んでいたのに、それは予算が許さないと取り付く島もなく突っぱねたり、顧客の要望を無視したりする社員もいる。

 そうして顧客に逃げられて、下っ端に八つ当たりして鬱憤を晴らす。

 しんどい、いつまでこんな仕事といえない仕事を続けなければいけないのか。
 私は肩にめり込む重いトートバッグを持ち直して、駅の階段に走った。
 持ち直し方が悪かったのか、それとも最近ずっと続く不眠の所為か、階段に着いた時、持っていた建材資料カタログがズレて斜めになって、身体も前のめりになって、気が付いたら駅の階段を踏み外して頭から転がり落ちていた。

 打ち所が悪かったのか、私はそのまま死んでしまったらしい。

 思えば転落の人生だった。受験校を落ち、四大を落ちて短大を出て、就職試験も落ちまくり、やっと入った大手のひ孫の工務店だった。
 顎で使われ尻ぬぐいをさせられ虚仮にされ、悔しいだけ辛いだけの日々だった。

 もし次の人生があるのなら、自由に気ままに生きたい。今度は絶対転落の人生ではなく階段を上りたい。
 そう思った二十数年の人生だったのだが、どうしてこうなった──。

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