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24 父の形見

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「ええと、お前ってもしかしてアイテムボックスとか持ってるのか?」
「マジックボックスです。このベルトに付いています」
 ああ、ユベールのベルトにずっと付いているポーチだ。そんなものを持っているから、オレの【収納庫】にもすぐ気が付くのか。
「容量は様々ありますが、私のは馬車1台分です。どうも父親の物だったようで、母から絶対に無くすなときつく言われていました」
「そうか、父親の形見か」
「この前、祖父に指摘されて思い出しました」

 ユベールの父親が病気で亡くなったとかちょっとショックだ。血管が詰まるって動脈硬化みたいなもんか。今はまだ大丈夫なのかな。
 うーん。ユベールの身体をペタペタ触ってみるが、オレに分かる訳がない。
『ヒール』じゃないな。そういや、風邪気味の時も『キュア』で治ったっけ。
 ユベールの身体に触って『キュア』を唱える。暖かい気配がユベールを包んだ。目を瞬いてオレの方を見る。
「少しは効いた?」
 首を捻ってから、身体を少し動かしてコクコクと頷いた。

「マジックバッグって、この世界にたくさんある物なのか?」
「いえ、冒険者がダンジョン奥でたまに見つけるそうですが、非常に稀で殺し合いになる事もあるようです。私は小さい頃は身体に直に付けて隠していました」
「そうだよな」
 オレ、レスリーたちの前でやらかしてないだろうか。うーん、お祝いの鏡は後ろのディバッグから出したような気がするが。
「そういえば式とか言っていたな」
「その内知らせが来ると思いますが、公都に行く事になるかもしれません」
「ふうん」
 まあ公都には行ってみたいが、その前に温泉だよな。

「温泉いこー」
「温泉ですか?」

 エデッサの街の近くにダンジョンが出現した。
 ダンジョンは、エデッサの街の北東にそびえるエルバアイト山の麓に、5年前に出現した地上60階のダンジョンだが、まだすべて攻略されてはいなかった。
 このダンジョンに挑む冒険者の町リシアは、エデッサから馬車で2日の距離にあり、定期便が走っている。リシアには古くからの鄙びた温泉があったが、ダンジョンが出来て有名になった。

「おんせん―ーー!」

 行くのだ温泉に。


  ***

 レスリーとローランも誘ったが、彼らはダンジョンには行かないし、温泉もいいという。ここで生きることに必死なんだ。ほわほわとしている自分を恥じた。

「オレ達、しばらくエルバアイト山のダンジョンに行くつもりなんだ。リシアにいるから何かあったら連絡して、こっちも連絡するよ。時々こっちに帰ってくるし」
 エルバアイト山のダンジョンはここエデッサから馬車で2日の距離にある。
「そうなんだ。何かあったら知らせるよ」
 レスリーとローランは少しホッとした様子だった。見も知らぬ国だし、知り合いも居ないし不安だよな。

 何か彼らに防御とか加護になるようなものを渡しておきたい。気休めかもしれないけれど無いよりましだろう。
 細工ギルドでハンマーと七輪のようなコンロと銀の丸棒を買って、指輪を作ることにした。超初心者コースだ。

 銀を切って伸ばして型に合わせて丸くして、ハンマーで好きな形に叩く。とにかく叩く。キンキンキン。コンコンコン。
 隣でユベールとハナコもエプロンをして叩き出した。
「私も何か付けられないかと思いまして」
『料理スキルガ欲シイデス』
 まあ、指に入らなくてもチェーンでぶら下げてもいいよな。と、自分に妥協しながら叩く。
 出来上がったいびつな形の輪っかをコンロの上で熱してもう一度成形する。出来たら研磨ブラシでゴシゴシゴシ。

「さあエルヴェ様、これを」
 ユベールが渡してくれた銀の指輪には魔石が付いていた。
「匂いでも分かりますが、位置情報をきっちり教えてくれますので」
 手を取って指輪をはめてくれる。薬指にぴったりだ。
『竜の契り』
 ユベールが呪文を唱えると、ボウと光って魔石に収まる。
「祖父に教えてもらいました」と嬉しそうに笑う。
 オレちょっと恥ずかしいなあ。もっと頑張って、ユベールにも、レスリーとローランにも妥協しないものを──。

 ハナコが指輪を見せて『祈ッテ下サイ』という。
 よし祈ってやろう。
「ハナコの料理スキルが上がりますように。美味しいものをみんなで食べような」
『祈り』
『願い』
『加護』
『神子の願い』を覚えました。

 指輪にチェーンを付けてハナコに渡すと、ボタンにチェーンを絡めて執事らしく胸ポケットに仕舞った。おお、かっこいいよハナコ。ハナコがどんどん執事になっていく。

 オレは頑張った。銀の丸棒ほとんど使って指輪を作りまくった。作った中から見場が良くてユベールの気に入ったリングを仕上げて魔石を付けた。
「ユベールが病気になりませんように、ユベールに加護を」
『祈り』
『願い』
『加護』
「ありがとうございます、エルヴェ様」
 ユベールの薬指にはめるとピタリと収まった。おお、まぐれだ。

 レスリーとローランには指輪は諦めてプレートにした。
「二人の仕事が上手く行きますように」
『祈り』
『願い』
『加護』


 出来上がったものをレスリーとローランに持って行く。
「気休めくらいにしかならないけど」
「ありがとう、エルヴェ」
 ローランは嬉しそうに首にかけたが、レスリーはひっくり返してじっくり見ている。恥ずかしいだろ。
「これ、僕もこんなの作りたい」
「作るか?」
 オレは出来損ないのリングと残った銀と、ハンマーとコンロを出して渡した。
「いいのが出来たら見せて。そういや、小さなお店を買ってこういうのを売ってもいいな。レスリーが仕入れと販売して、ローランが経理と帳簿をみて、オレ達が色んな素材を集めて来るの」
 レスリーとローランは驚いてちょっと考える風だ。
「まあ、ダンジョンから帰ってからだな」

 それでもオレはやっぱり旅行気分になった。奴隷として売られようとしたヴィラーニ王国からの逃避行と違って、温泉とダンジョンに行くのだ。
「テントはいるのか? 途中の食事は?」
 そうして思ったのは服屋が欲しいという事だ。繊維なんかは工場があるようなので、既製の服を作って売りゃあいい。
 市場には古着の他に手作りの服が並んでいるので、あれを店で売ればいいのか。
 うーん、帰って考えよう。

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