6 / 44
06 王都の奉仕活動中に魔獣
しおりを挟む
こちらに来て20日目、ベルタン神官長に呼ばれて、月に1度の王都で医療奉仕活動する神官見習いのひとりに組み込まれた。
王都の街道にテントを幾つか張って、病人やけが人を癒していくのだ。テントを張る場所は神官長によって場所が決まっている。ベルタン神官長は王都北東側にある王都北門近くにテントを張っている。
「ベルタン様は中立の立場なので、良い場所は他の人に回されているんだ」
「こんな場末に、私達も割を食って辛い事だ」
「あーあ、かといって、行くとこもないしな」
神官たちが噂をしている。やはり生き辛かったのか。
来る人々は貧しい人々が多く、警備の神殿騎士たちが人々を振り分けて各テントに送る。
ユベールもこの活動に護衛として参加していた。目立つ奴だし、威圧感もあるから、来た人は暴れる事も無く整然と並んでいる。
オレはヒールとキュアしか出来ないし、隅っこで補助をするくらいだ。
もうそろそろ終わろうかという時になって、テントの外がざわざわと騒がしくなった。テントを張った場所は王都の北東の外れで、王都の北門に近い。
「おい、どうしたんだ!」
「冒険者が大型の魔獣に襲われて、逃げ帰って来た」
「大型の魔獣だと!?」
魔物は普段は王都に近付かないが、傷を付けられ激高して追いかけて来たらしい。
テントの前は大騒ぎになった。
「こっちに来るぞ!」
護衛の騎士たちの切羽詰まった声が聞こえる。
「護衛の者たちは、魔獣を鎮めるように」
ベルタン神官長が声を上げた。
「し、しかし、神官長様をお守りしなければ」
「私たちは大丈夫です。早く行くように」
「「「はっ!」」」
神殿騎士たちが加勢に走った。ユベールも一緒だ。王都の門の兵士たちと一緒になって大型の魔獣に対処する。
オレはテントの外に出た。割と近くで戦っているのが見える。
騎士や兵士の怒号に魔獣の唸り声が上がる。魔獣なんて初めて見た。
ヒヒのような四つん這いで、腕の力が凄くて、その長い腕を振り回すと「ぎゃっ」と、兵士のひとりが吹っ飛ぶ。
オレンジっぽい茶色の毛皮を血に染めて「ぐおおおーーー!!」と咆哮を上げる。
大きな口から赤黒い液体を吐いて、幾つも生えた牙をむき出しにして──。
オレは魔獣というのはもっとどす黒く、汚れたものだと思っていた。
だがどうだ、この魔獣は──。
フサフサしたオレンジに輝く毛並みは美しくもあって、力強い腕は勇猛で猛々しくて、その圧倒的な強さを畏れるというか、ただ見惚れてしまう。
どう言えばいいだろう、動けないのだ。呆然と突っ立ったまま見ている。誰も皆。確かに怖いが。
やがて騎士たちがとどめを刺して魔物は倒れた。
魔獣からは肉と魔石と素材になるものがとれる。
やっと、王都の騎士たちが駆け付けて来て、魔獣を片付けて行く。
お前らもう少し早く来いよ。獲物だけ横取りかよ。
ユベールが戻って来た。彼は魔獣の足元に居たような気がする。足止めみたいな目立たない事をしていた。少し怪我をしているのか、頬に赤い筋が付いている。
「ユベール、大丈夫か?」
ようやっと動いた身体でユベールめがけて駆けだした。近付くとオレのポケットから何かが飛び出して、ユベールの怪我にべたりと張り付いた。
「ハナコ!」
ユベールは驚いて立ち止まった。頬に張り付いて赤くなったハナコが戻って来る。何をしたんだコイツは。怪我の血が止まっている。
『ヒール』
ユベールの傷を癒した。
血を浄化しようとしたのか? それともユベールの血を食ったのか。ハナコは赤いままだ。
分からない。分からないことだらけだ。
夜の祈りを終えて、オレが机の上でくねくねしている赤いハナコを見ていると、ドアをノックしてユベールが入って来た。
「ベルタン神官長は今回の事件の責任をとって、サン=シモン神殿から辺境の神殿に更迭される事になりました」
「そうか」
神殿と王都の騎士が騙らって責任をベルタン神官長に押し付けた。オレにはそう思えた。あの魔獣も怪しい。
「ユベールはあの魔獣の名前を知っているか?」
「はい、赤ゲダラですね。とても強い魔獣ですが滅多に見ません」
「きれいな魔獣だな」
「はあ、毛皮は貴族が欲しがりますが」
ユベールが珍しい生き物でも見るような目付でオレを見ている。オレは珍種のサルか? もしかして【収納庫】にあいつの素材があるだろうか。
『赤ゲダラ』で一発で出て来た。
《絶滅危惧種。毛皮、牙、心臓、肝臓、魔石。在庫有》
うわ、こんなもん出したら一発で捕まるんじゃないか。
朝早く、オレは馬車で出発する神官長をこそっと見送った。彼は案外さばさばした顔をしていた。オレには彼の為に祈る事しか出来ない。どうか生き辛い彼をお守りください。
神官長に『加護』がありますように。
『加護』を覚えました。
ハナコは次の日には薄ピンクになってやがて透明に戻った。
どうしたんだハナコ、少し大きくなっている、……ような気がする。
王都の街道にテントを幾つか張って、病人やけが人を癒していくのだ。テントを張る場所は神官長によって場所が決まっている。ベルタン神官長は王都北東側にある王都北門近くにテントを張っている。
「ベルタン様は中立の立場なので、良い場所は他の人に回されているんだ」
「こんな場末に、私達も割を食って辛い事だ」
「あーあ、かといって、行くとこもないしな」
神官たちが噂をしている。やはり生き辛かったのか。
来る人々は貧しい人々が多く、警備の神殿騎士たちが人々を振り分けて各テントに送る。
ユベールもこの活動に護衛として参加していた。目立つ奴だし、威圧感もあるから、来た人は暴れる事も無く整然と並んでいる。
オレはヒールとキュアしか出来ないし、隅っこで補助をするくらいだ。
もうそろそろ終わろうかという時になって、テントの外がざわざわと騒がしくなった。テントを張った場所は王都の北東の外れで、王都の北門に近い。
「おい、どうしたんだ!」
「冒険者が大型の魔獣に襲われて、逃げ帰って来た」
「大型の魔獣だと!?」
魔物は普段は王都に近付かないが、傷を付けられ激高して追いかけて来たらしい。
テントの前は大騒ぎになった。
「こっちに来るぞ!」
護衛の騎士たちの切羽詰まった声が聞こえる。
「護衛の者たちは、魔獣を鎮めるように」
ベルタン神官長が声を上げた。
「し、しかし、神官長様をお守りしなければ」
「私たちは大丈夫です。早く行くように」
「「「はっ!」」」
神殿騎士たちが加勢に走った。ユベールも一緒だ。王都の門の兵士たちと一緒になって大型の魔獣に対処する。
オレはテントの外に出た。割と近くで戦っているのが見える。
騎士や兵士の怒号に魔獣の唸り声が上がる。魔獣なんて初めて見た。
ヒヒのような四つん這いで、腕の力が凄くて、その長い腕を振り回すと「ぎゃっ」と、兵士のひとりが吹っ飛ぶ。
オレンジっぽい茶色の毛皮を血に染めて「ぐおおおーーー!!」と咆哮を上げる。
大きな口から赤黒い液体を吐いて、幾つも生えた牙をむき出しにして──。
オレは魔獣というのはもっとどす黒く、汚れたものだと思っていた。
だがどうだ、この魔獣は──。
フサフサしたオレンジに輝く毛並みは美しくもあって、力強い腕は勇猛で猛々しくて、その圧倒的な強さを畏れるというか、ただ見惚れてしまう。
どう言えばいいだろう、動けないのだ。呆然と突っ立ったまま見ている。誰も皆。確かに怖いが。
やがて騎士たちがとどめを刺して魔物は倒れた。
魔獣からは肉と魔石と素材になるものがとれる。
やっと、王都の騎士たちが駆け付けて来て、魔獣を片付けて行く。
お前らもう少し早く来いよ。獲物だけ横取りかよ。
ユベールが戻って来た。彼は魔獣の足元に居たような気がする。足止めみたいな目立たない事をしていた。少し怪我をしているのか、頬に赤い筋が付いている。
「ユベール、大丈夫か?」
ようやっと動いた身体でユベールめがけて駆けだした。近付くとオレのポケットから何かが飛び出して、ユベールの怪我にべたりと張り付いた。
「ハナコ!」
ユベールは驚いて立ち止まった。頬に張り付いて赤くなったハナコが戻って来る。何をしたんだコイツは。怪我の血が止まっている。
『ヒール』
ユベールの傷を癒した。
血を浄化しようとしたのか? それともユベールの血を食ったのか。ハナコは赤いままだ。
分からない。分からないことだらけだ。
夜の祈りを終えて、オレが机の上でくねくねしている赤いハナコを見ていると、ドアをノックしてユベールが入って来た。
「ベルタン神官長は今回の事件の責任をとって、サン=シモン神殿から辺境の神殿に更迭される事になりました」
「そうか」
神殿と王都の騎士が騙らって責任をベルタン神官長に押し付けた。オレにはそう思えた。あの魔獣も怪しい。
「ユベールはあの魔獣の名前を知っているか?」
「はい、赤ゲダラですね。とても強い魔獣ですが滅多に見ません」
「きれいな魔獣だな」
「はあ、毛皮は貴族が欲しがりますが」
ユベールが珍しい生き物でも見るような目付でオレを見ている。オレは珍種のサルか? もしかして【収納庫】にあいつの素材があるだろうか。
『赤ゲダラ』で一発で出て来た。
《絶滅危惧種。毛皮、牙、心臓、肝臓、魔石。在庫有》
うわ、こんなもん出したら一発で捕まるんじゃないか。
朝早く、オレは馬車で出発する神官長をこそっと見送った。彼は案外さばさばした顔をしていた。オレには彼の為に祈る事しか出来ない。どうか生き辛い彼をお守りください。
神官長に『加護』がありますように。
『加護』を覚えました。
ハナコは次の日には薄ピンクになってやがて透明に戻った。
どうしたんだハナコ、少し大きくなっている、……ような気がする。
34
お気に入りに追加
509
あなたにおすすめの小説
攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました
白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。
攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。
なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!?
ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。
王太子の愛人である傾国の美男子が正体隠して騎士団の事務方始めたところ色々追い詰められています
岩永みやび
BL
【完結】
傾国の美男子といわれるリアは、その美貌を活かして王太子殿下エドワードの愛人をやっていた。
しかし将来のためにこっそりリアムという偽名で王宮事務官として働いていたリアは、ひょんなことから近衛騎士団の事務方として働くことに。
実はまったく仕事ができないリアは、エドワードの寵愛もあいまって遅刻やらかしを重ねる日々。ついには騎士団にも悪い意味で目をつけられてしまいーー?
王太子からの溺愛に気が付かないリアが徐々に追い詰められていくお話です。
※R18はおまけ程度です。期待しないでください。不定期更新。
主人公がマジでクズです。複数人と関係持ってる描写あり。苦手な方はご注意下さい。
悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!
売れ残りの神子と悪魔の子
のらねことすていぬ
BL
神子として異世界トリップしてきた元サラリーマン呉木(くれき)。この世界では神子は毎年召喚され、必ず騎士に「貰われて」その庇護下に入る、まるで結婚のような契約制度のある世界だった。だけど呉木は何年経っても彼を欲しいという騎士が現れなかった。そんな中、偶然美しい少年と出会い彼に惹かれてしまうが、彼はとても自分には釣り合わない相手で……。
※年下王子×おじさん神子
それはきっと、気の迷い。
葉津緒
BL
王道転入生に親友扱いされている、気弱な平凡脇役くんが主人公。嫌われ後、総狙われ?
主人公→睦実(ムツミ)
王道転入生→珠紀(タマキ)
全寮制王道学園/美形×平凡/コメディ?
転生したらいつの間にかフェンリルになってた〜しかも美醜逆転だったみたいだけど俺には全く関係ない〜
春色悠
BL
俺、人間だった筈だけなんだけどなぁ………。ルイスは自分の腹に顔を埋めて眠る主を見ながら考える。ルイスの種族は今、フェンリルであった。
人間として転生したはずが、いつの間にかフェンリルになってしまったルイス。
その後なんやかんやで、ラインハルトと呼ばれる人間に拾われ、暮らしていくうちにフェンリルも悪くないなと思い始めた。
そんな時、この世界の価値観と自分の価値観がズレている事に気づく。
最終的に人間に戻ります。同性婚や男性妊娠も出来る世界ですが、基本的にR展開は無い予定です。
美醜逆転+髪の毛と瞳の色で美醜が決まる世界です。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
召喚先は腕の中〜異世界の花嫁〜【完結】
クリム
BL
僕は毒を飲まされ死の淵にいた。思い出すのは優雅なのに野性味のある獣人の血を引くジーンとの出会い。
「私は君を召喚したことを後悔していない。君はどうだい、アキラ?」
実年齢二十歳、製薬会社勤務している僕は、特殊な体質を持つが故発育不全で、十歳程度の姿形のままだ。
ある日僕は、製薬会社に侵入した男ジーンに異世界へ連れて行かれてしまう。僕はジーンに魅了され、ジーンの為にそばにいることに決めた。
天然主人公視点一人称と、それ以外の神視点三人称が、部分的にあります。スパダリ要素です。全体に甘々ですが、主人公への気の毒な程の残酷シーンあります。
このお話は、拙著
『巨人族の花嫁』
『婚約破棄王子は魔獣の子を孕む』
の続作になります。
主人公の一人ジーンは『巨人族の花嫁』主人公タークの高齢出産の果ての子供になります。
重要な世界観として男女共に平等に子を成すため、宿り木に赤ん坊の実がなります。しかし、一部の王国のみ腹実として、男女平等に出産することも可能です。そんなこんなをご理解いただいた上、お楽しみください。
★なろう完結後、指摘を受けた部分を変更しました。変更に伴い、若干の内容変化が伴います。こちらではpc作品を削除し、新たにこちらで再構成したものをアップしていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる