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四章 転生者七斗
一話
しおりを挟む窓辺のカーテンの隙間から朝の光が差し込む。手の中の銀色の髪が零れ落ちた朝日を浴びてキラと光った。ピンクの花柄でフリルがたくさんのシーツ。広いベッドなのに、たくさんあるクッションの半分は床に落ちている。
こんな可愛いクッションを、どんな顔をして揃えたのかな。
床に落ちたクッションを拾おうとしたら引き寄せられた。どんな顔も、こんな顔も、あまり表情は変わらない、人形のように整って無表情な顔が俺を見ている。瞳の色は紫で光を浴びると水晶のようだ。乱れて額に一筋二筋落ちる髪は透き通るような銀色でしなやかにシーツの上に流れ落ちた。
そのまま腕の中に抱き込まれて形のよい薄い唇が降ってきた。
「アロウ……」
その身体に腕を回してキスを味わう。何度か俺の唇を啄ばんで舌が口腔に入ってきた。舌を絡めた濃厚なキス。昨夜、散々焦らされた名残が俺の身体に容易に火をつける。貪欲になった下半身を押し付けると、フッと笑われた。
俺の所為じゃない。あんたのおかげでこんな身体になってしまったのに。少しむくれてその腕から逃れようとしたら、もう一度引き寄せられた。その手が伸びて俺のモノに絡みつく。
俺の息子はすぐに反応して、アロウの手の中で元気よく勃ち上がった。もう一方の手が俺の蕾を弄る。俺のモノはいよいよいきり立って、もうイキたいと蜜を零している。
耳に唇を寄せて低い美声でアロウが囁いた。
「朝から元気がいいな」
だって、これはアロウの所為なのに。昨夜、散々燃え立たせて一回しかイカせて貰えなかったんだぞ。
拗ねた俺の背中を抱き締め、俺の蕾をこじ開けてアロウのモノが入ってくる。そしてやっと解放された。その質量で俺はあっという間にイッてしまった。
でも、アロウに揺さぶられていると、すぐにまた勃ち上がってしまう。銀の髪を掴んだ。顔が見たくて首を後ろに捻じ曲げると綺麗な紫の瞳が目に入った。すぐに唇を塞がれて、身体中に手を這わされて、激しく突き上げられる。狂おしい熱に支配されて訳が分からなくなった。
この頃のアロウは優しい。鬼にならない。それはそれでいいんだけれど、たまには鬼を見てみたいと思うのは、俺の我が儘、──だろうな。
* * *
ここ、アロウと俺が勤務している香港の地区管理局は今日も賑やかだった。
「まったく、あのような何処の馬の骨とも知れない死人の何処がいいんでしょう」
「あのようなぽっと出の死人の風下に居ては、鬼族出の私の血筋が泣くわ」
「私だって天界から来ましたのに。見てこの美貌。あんな凡人には負けないはずよ」
(はいはい)
事務所の中には年配の上役連中もいるけれど、この給湯室に集まっている連中は若くて綺麗だ。
お茶を入れる時間になると、コイツらわざとここに集まってお茶を挽くんだよな。そして俺がアロウにお茶を入れて持っていくのを睨みつけるんだ。手や足が出ないだけましかと思っているんだが。
どうも彼らはいいところの出らしい。鬼とか、天使みたいに羽のある奴とか、やたらと神々しい奴とかさ。
死神の世界にも縁故採用とかがあって、この地区管理局には実地に死神の仕事をしない、自分をエリートだと思っている連中がウジャウジャいるわけなんだ。
だからぽっと出の死人である俺が、最上級のエリートらしいアロウの側にいるのは気に入らないらしい。大昔の古典で習った小説にもそういうのがあったかな。
これで妻妾同居だったら怖いよな。
呑気にそんな事を考えていた午後、アロウに来客があった。
アロウの執務室にお茶を運ぶと、その客は俺のことをジロジロと見た。長い黒い髪と妖艶な切れ長の瞳。お客は何処となく九朗に似ている。
「お前、こういうのが趣味だったのか?」
と、偉そうに顎を杓って俺を見た。アロウはそれには返事をしないで、何の用だと低い声で聞いた。
「暫らくあんたの所に置いてくれ」
言葉付きこそ頼んでいる風だが、もう決めたという横柄な態度だった。
ちょっと待て。あんたの所って何処だ?
アロウは溜め息を吐いて額に手をやっている。あまり表情も態度も変わらないからそういうのは珍しいが。
「この事務所かホテルにでも泊まったらどうだ」
ああ、やっぱりそうなのか? 俺たちのあの可愛い家になのか?
「俺とお前の仲だろう」
……。コイツ、どういう仲なんだよ?
俺は来客用のソファにふんぞり返ってお茶を飲んでいる九朗に似た男とアロウを代わる代わる見た。
アロウは俺に会う前はかなり遊んでいたらしい。大体アロウは鬼で、鬼というのは淫乱で多情だと聞いた。ここの事務所の奴らは殆んどお手付きだというし、他所にもそれらしき人物がいる。こいつもその一人だろうか。
お茶を持って行ったものの話が気がかりで立ち去りかねてぐずぐずしていると、九朗が出先から帰って来た。ソファにふんぞり返っている男を見て言った。
「兄貴、何事だ」
やっぱり……、兄弟だったのか。
九朗と兄弟だ聞いて俺の心は不安に染まった。その俺の気持ちを見透かすかのように、九朗の兄はその切れ長の目で俺を見て、ニンヤリと妖艶に笑った。
* * *
結局、男に押し切られて俺とアロウは九朗の兄を伴って俺たちの家に帰ったんだ。男は家を見るなり口笛を吹いた。
可愛い二階建ての家。窓辺に揺れる花とレースのカーテン。ギンガムチェックのテーブルクロス。
「随分少女趣味な家だな。誰の趣味なんだ」
馴れ馴れしくアロウにびったり寄り添って俺を見る。
あんたのアロウの趣味だよ。
俺は本気でアロウと別れようかと思ったね。
「あのね、俺たち大事な話があるんだ。お前ちょっと席を外して」
家に着いて散々ケチをつけた九朗の兄は、俺に向かってニッと笑ってそう言った。
「七斗、先に寝ていろ」
アロウにもそう言われて、俺はしぶしぶ二階の寝室に上がった。大事な話って何だろう。
先にと言われても寝られもせずにベッドで悶々としていると、夜半を過ぎた頃になってやっとアロウが上がって来た。何だか疲れた感じで俺を見て溜め息を一つ、俺の横に潜り込むといつもの体勢でさっさと寝てしまった。
アイツは一体何なんだよ。あんたとどういう関係なんだ!? って聞けたらどんなにいいだろうな。一緒のベッドに横になった鬼の白々とした顔を見ながら考えた。
アロウはあんまり説明をしない。九朗の兄貴のことも
「九朗の兄で私の兄の補佐でもあるウキンだ」と、紹介しただけだ。俺が聞いたら答えるけれど、聞けないこともある訳だ。
ことにあんな奴が来て、一つ屋根の下、こんな時間まで二人で過ごして、俺が焼きもちで満杯のときはなおさら聞けない。
俺にだってプライドとかあるんだぞ。オイ、分っているのか。
涼しい顔をして眠っている鬼が憎い。
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