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三章 地区管理局でお仕事
十二話
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「きゃああ───!!」
麻里子の派手な悲鳴が上がる。麻里子に話しかけようとして服を着ていないことに気が付いた。俺、今まで服を着ていたのに、何でだ!?
「ま、麻里子!! 俺だ、七斗だ」
麻里子はバスタオルやらシーツやらを俺に投げつけた。
「ほ、本当に七斗なの!?」
「本当だ!!」
俺はバスタオルやらシーツやらで身体を包んで叫んだ。
「その顔は覚えているわ」
「え……」
「あなた、三村さんの名前を騙ったでしょ。だから、私は確かめる為に会いに行ったの」
俺の思い出せない記憶の中にそういう出来事があったらしい。じゃあ、俺が麻里子と三村を結び付けたのか!?
「俺が縁結びをしたわけか?」
「ええ、それで時々会うようになったの。でも、今度三村さんが転勤になって……」
「どうして三村と一緒に行かないんだ? あいつはとってもいい奴だぞ」
麻里子はぽろぽろと泣いた。
「バカね。私は本当に七斗が好きだった。愛していたの。生きていて欲しかった。もう一度生き返って欲しいの」
麻里子の泣き顔が切なかった。愛していたけれど、幸せにしたいと思っていたけれど、俺は死んでしまった。もう人間界には戻れない。
いや、多分生き返れたとしても、俺の心はもう銀の髪の鬼に──。
「俺はもう死んじゃったんだ。もう生き返れない。麻里子には幸せになって欲しい。三村はきっと麻里子を幸せにしてくれる」
「七斗……」
「心から愛していたよ。サヨナラ、麻里子」
麻里子の頬にキスを送って、もう一度幸せにと囁いた。麻里子は涙を零しながら頷いた。そしてハッとしたように手を伸ばした。
「七斗!!」
俺の身体は麻里子の前から段々と消えていったようだ。麻里子の嗚咽が耳に残った。
「もういいか」
アロウの声が聞こえた。
「うん、ありがとう……」
そのままアパートの上に浮かび上がった。着ていた服はちゃんと身に着けている。どうしてだろう。
アロウがアパートの外で待っている。
長い銀色の髪。美しく整っているけれど表情のない人形のような顔。駆けて行って、その身体にしがみ付いた。
見上げると表情のない綺麗な顔の中、水晶の瞳が俺を見下ろしていた。
ああ俺は、多分こんな風にして、あんたを好きになったんだね。
アパートに向かって三村が引き返して来るのが見えた。もう一度、幸せにと呟いた。
* * *
支局に戻るというアロウに聞きたいことがあった。
「アロウ、一つ聞いていい?」
「何だ」
「中国支局でエン支局長と何をしてたんだ」
聞きたくて、でも、どうしても聞けないことだった。今だったら聞ける。俺は勇気を振り絞って聞いたんだが。
「仕事に決まっている。早く終わらせてお前を連れて帰りたかったからな」
アロウは別に何でもないことのように答えた。人形のような表情は変わりもしない。眉一つ動きもしない。俺、今まで散々悩んだのに、バカみたいじゃないか?
「も、もしかして、ユーシェンに会わせたくなかったのか?」
もう自棄で、重ねて聞いた。
「彼らは一緒になったのか」
アロウは俺をチラッと見て逆に聞いてきた。
「うん、学校にいる時からいい感じだったんだ」
俺がそう答えると「そうか」と、軽く頷いた。その綺麗な顔には何の表情も浮かんでいない。相変わらず人形のように整った顔を支局の方に向けて一言。
「帰るぞ」
そう言い置いて、さっさと行ってしまった。
「きっと照れているのよ」と、ロクがこそっと囁いた。
三章 終
麻里子の派手な悲鳴が上がる。麻里子に話しかけようとして服を着ていないことに気が付いた。俺、今まで服を着ていたのに、何でだ!?
「ま、麻里子!! 俺だ、七斗だ」
麻里子はバスタオルやらシーツやらを俺に投げつけた。
「ほ、本当に七斗なの!?」
「本当だ!!」
俺はバスタオルやらシーツやらで身体を包んで叫んだ。
「その顔は覚えているわ」
「え……」
「あなた、三村さんの名前を騙ったでしょ。だから、私は確かめる為に会いに行ったの」
俺の思い出せない記憶の中にそういう出来事があったらしい。じゃあ、俺が麻里子と三村を結び付けたのか!?
「俺が縁結びをしたわけか?」
「ええ、それで時々会うようになったの。でも、今度三村さんが転勤になって……」
「どうして三村と一緒に行かないんだ? あいつはとってもいい奴だぞ」
麻里子はぽろぽろと泣いた。
「バカね。私は本当に七斗が好きだった。愛していたの。生きていて欲しかった。もう一度生き返って欲しいの」
麻里子の泣き顔が切なかった。愛していたけれど、幸せにしたいと思っていたけれど、俺は死んでしまった。もう人間界には戻れない。
いや、多分生き返れたとしても、俺の心はもう銀の髪の鬼に──。
「俺はもう死んじゃったんだ。もう生き返れない。麻里子には幸せになって欲しい。三村はきっと麻里子を幸せにしてくれる」
「七斗……」
「心から愛していたよ。サヨナラ、麻里子」
麻里子の頬にキスを送って、もう一度幸せにと囁いた。麻里子は涙を零しながら頷いた。そしてハッとしたように手を伸ばした。
「七斗!!」
俺の身体は麻里子の前から段々と消えていったようだ。麻里子の嗚咽が耳に残った。
「もういいか」
アロウの声が聞こえた。
「うん、ありがとう……」
そのままアパートの上に浮かび上がった。着ていた服はちゃんと身に着けている。どうしてだろう。
アロウがアパートの外で待っている。
長い銀色の髪。美しく整っているけれど表情のない人形のような顔。駆けて行って、その身体にしがみ付いた。
見上げると表情のない綺麗な顔の中、水晶の瞳が俺を見下ろしていた。
ああ俺は、多分こんな風にして、あんたを好きになったんだね。
アパートに向かって三村が引き返して来るのが見えた。もう一度、幸せにと呟いた。
* * *
支局に戻るというアロウに聞きたいことがあった。
「アロウ、一つ聞いていい?」
「何だ」
「中国支局でエン支局長と何をしてたんだ」
聞きたくて、でも、どうしても聞けないことだった。今だったら聞ける。俺は勇気を振り絞って聞いたんだが。
「仕事に決まっている。早く終わらせてお前を連れて帰りたかったからな」
アロウは別に何でもないことのように答えた。人形のような表情は変わりもしない。眉一つ動きもしない。俺、今まで散々悩んだのに、バカみたいじゃないか?
「も、もしかして、ユーシェンに会わせたくなかったのか?」
もう自棄で、重ねて聞いた。
「彼らは一緒になったのか」
アロウは俺をチラッと見て逆に聞いてきた。
「うん、学校にいる時からいい感じだったんだ」
俺がそう答えると「そうか」と、軽く頷いた。その綺麗な顔には何の表情も浮かんでいない。相変わらず人形のように整った顔を支局の方に向けて一言。
「帰るぞ」
そう言い置いて、さっさと行ってしまった。
「きっと照れているのよ」と、ロクがこそっと囁いた。
三章 終
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