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一章 死んだ俺と死神と

二話

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 俺の名前は雪柳七斗という。大学四年生。もうすぐ卒業して、就職して、そして愛する女と結婚という、人生の一番いい時期を向える前に死んでしまった。

 死因は事故死だ。田舎に帰って婚姻届を出して戻る途中の事故だった。俺は居眠り運転をして対向車を避けたばっかりに、ガードレールを突き破って深い谷間に落ちたんだ。


 俺の体はこっぱ微塵になった筈だが、自分の目で見る限りは手も足もちゃんと付いてきれいだ。魂はこっぱ微塵にならなかったんだろうか?

 しかし体がぐちゃぐちゃになってないといっても、俺自身は中肉中背のさえない普通の男だった。
 何でこの美しい死神は、その俺を押し倒そうという気になったんだろう。よっぽど物好きな奴なのか。それとも他に、何か訳でもあるんだろうか?


 俺の体の準備が整ったと思ったのか、美形の連獅子人形は俺の上に背後から覆いかぶさった。死神の屹立したものが、俺の太ももに当たって逃げ出したくなる。

 何で死神なのにそんなものがあるんだ!?
 何で俺みたいなさえない奴にそうなるんだ!?

 麻里子に会う為にはこれしきの事は我慢しなければいけない。俺は魂だけだから大丈夫だ。

 しかし、俺の根拠の無い思い込みは見事に裏切られた。グイッと死神が自分のモノを押し込むたびに、メリメリと俺の体が軋んで悲鳴を上げる。

 何で痛いんだ!? 何で痛いんだ!? 何で痛いんだ!?

 こんなところを人に見られたら生きてゆけない。いや、死んでいるのか……。ベランダの向こうをカラスが鳴きながら飛んでゆくのが、まるで俺のことを笑っているようで涙が出る。

 こ、これでエクスタシーが得られるのか??
 はなはだ疑問だった。美形の死神がグイグイと侵入してくるたびに、俺はどこかにエクスタシーの欠片でも落ちていないかと必死になって探したが、感じるのは痛みだけだった。

 もうダメだと思ったときに、ようやく銀の連獅子人形は侵入を止めてくれた。そして、俺の縮こまったものに手を添えて扱き始める。すると、どういう訳か俺のものはすぐに力を取り戻した。
 死神が扱きながらゆっくりと動きはじめると、俺の体は今度は快感の欠片を拾い集める事が出来るようになった。少しは感じるようになったんだ。

 死神が手と腰で俺の体を追い上げて行く。
 ああ…、どうやらイケそうだ……。
 俺は欲望を吐き出した。その途端──。


 俺の体はベッドから落ち、床をすり抜けて、麻里子の部屋の中にズッデーンと転げ落ちたんだ。
「イタタ…、あの野郎……」

 俺が転げ落ちて打った所をさすっていると、麻里子が部屋を覗いた。
「きゃあぁぁ───!!」
 麻里子は大きな悲鳴を上げて逃げようとする。そりゃあそうだよな、死んだ人間が突然降ってきたら、誰だって驚くだろう。

 しかし──。
「麻里子、驚かないで……」
 麻里子を宥めて訳を説明しようとすると、彼女は俺に向かって、
「あんた、誰!?」と喚いたんだ。

「何よ! あんた、誰? 人の部屋にそんな格好で!!」
 麻里子は喚きながら、俺に向かってそこらにあった物をぼんぼんと投げた。
 そんな格好って……? うわっ!!

 俺は何も服を着ていないままで人に戻ってしまったんだ。麻里子が投げつける物を手で避けながら、
「麻里子!! 俺だよ、七斗だ!」と必死で語りかける。
 麻里子は一瞬その手を止めて俺を見たが、より一層激しくそこらにあったものを投げ出した。
「何よ! あんたなんか全然違うじゃない!! あたしの七斗の名を騙って──!!」

 どういうことなんだ……?

 俺は疑問に思ったがそんな余裕は無かったんだ。もう一度麻里子に話しかけようとした俺の体が不意に浮かび上がった。
 麻里子が投げつける物を持ったまま「きゃ──!!」と悲鳴を上げる。俺の体はそのまま天井を突き抜けて、アパートの上の階の死神が待っている部屋まで浮かび上がってしまったんだ。


「早かったな。あまりエクスタシーを感じなかったのか?」
 美しい死神はその人形のような顔を俺に向けてしゃあしゃあと言う。
「もう終わりか!? 待ってくれ!! 全然話も出来なかったぞ! それに変なことを……」
「エクスタシーの度合いによって、人に戻れる時間は違う」
 死神はそう言って懐から鏡を取り出した。

「魂の映る鏡だ」
 恐る恐る鏡を受け取って覗き込むと、鏡の中には生前の俺とは似ても似つかぬ綺麗な男の顔があった。
「こ、これはどういう……」
「お前の魂は外形とは違っていたようだな」

 死神が言う。この顔ならホモに襲われるのも頷ける。いや、そうじゃあなくって、俺は麻里子に会って訳を説明しなければならないのに、何でこんなにややこしい事になるんだ。

「た、頼む! さっきは時間もなくて、それにこんな顔になっているとも知らなくて麻里子に何も言えなかったんだ。もう一度…! 頼む!」
 俺は死神の足元に手をついて頼み込んだ。

 死神は何を考えているのかその表情の無い美しい顔を少し傾けて俺を見ていたが、首を元に戻すと俺に言った。
「一週間の猶予をやろう。私は仕事があるが、暇な時にはお前の相手をしてやろう」
 それを聞いて俺は愕然とした。

 つまり、人に戻るにはこいつと寝なければならない。そしてこいつと寝て沢山のエクスタシーを得られなければ、人に戻る時間も少ないと言う事なのか……?

 しかしそれ以外に方法がなければ仕方が無かった。俺は麻里子とちゃんと話さなくては…。


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