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50 帰ってきた鳥さん
しおりを挟む『ゴオオオオオオンーーー!』
鳥さんが雄叫びを上げると魔獣がどんどん集まって来る。
「だ、大丈夫?」
「魔王をやっつけてくるらしい」
キリルがその場に居る人々に簡単に説明する。
鬼将軍が連れていた魔物軍とどう違うのか、彼らは私達の周りに群れ集うが襲い掛かっては来ない。すると、鳥さんが飛び上がる。あんなにどっしりとしていたのに、ふわりと重さを感じさせない。
そしてガリア国の首都、魔王がいる方角を目指して飛んで行く。他の魔物たちが後に続く。一匹残らず彼らは行ってしまった。あっという間だ。
「何が起こっているの?」
「分からん」
アルゲントラテを守っていた隊長がヴィリ様に聞く。
「取り敢えず、ガリア首都まで時間がかかると思いますが、ここでの戦闘は終了したと見てよろしいですか」
「そうだな、捜索の小隊を出そう」
鳥さんに気を取られていたヴィリ様が頷くと、グイードが小隊二隊を下士官に預けて出発させた。この辺りに敵兵がいないか捜索するという。
「では我らは片付けをいたします。殿下はしばし休息をお取りになってください。何かあればすぐにご報告いたします」
「分かった」
兵士たちはいっせいに清掃に取り掛かった。街から片付けを手伝う人々が出て兵士たちと一緒にテキパキと片付けて行く。
敵将軍の遺体は棺に入れられ街の教会に運ばれた。人か魔物か分からないような遺体もある。全て持ち物を剥がれて大きな穴に入れられる。教会の司教が司祭と共に来て弔いの言葉を述べる。近くで摘んできた白や黄色の小花が穴の中に入れられ清めの水が巻かれ、土が被せられた。街の教会の鐘が鳴る。
戦死者はどちらの兵士もいて、やりきれない気持ちになる。
私のテントに様子を見に来たヨハンナ様が、運ばれてきた食事に手を伸ばさない私に気を遣う。
「エマ様、少し食べてお休みください」
「はい、ありがとう」
魔力は減っているのだろうか。身体は元気だが食欲がない。休んで魔力を回復した方がいいのだろうけれど、ちょっと疲れたのだろうか。
そんな私にヨハンナ様が独り言のようにぽつりぽつりと話す。
「兵士同士の大規模戦闘ですと、死傷者も増えますが、今回は敵兵も多くなく、殆んど敵将軍のひとり舞台でした」
「そうね」
とても強い将軍だけど兵士たちに命令したりする様子はなかった。
「あの将軍の前に死体の山を築くと思うとぞっとします。あの攻撃、今でも恐ろしさに身震いしますわ」
そうなんだ。蒸気機関車って怖いよね。鉄の圧倒的な強さ。真っ黒な塊。おまけに金棒だもんね。すっごい勢いで追いかけて来るし、木をなぎ倒し岩だろうが壁だろうが破壊して線路もなく自由に走る、黒い悪鬼──。逃げて逃げて逃げて。
よく生きていたな。私もヴィリ様も。
結局、私達が囮になったようなものなのかしら。まっしぐらに追いかけて来るから、ヴィリ様が森に入ったり、岩山に登ったり、川の浅瀬を走ったり、あの馬もよく走ったな。私達二人を乗せて、頑張って……、…………。
何だってこうロマンチックじゃないの? ヴィリ様と二人で馬に乗って走っているのに、何であんなもんが追いかけて来るの? いや、しっかり抱き合って、くっ付いていたけれど、違うでしょ──!!
「はあ……」
溜め息が出てしまった。助けてくれた鳥さんに申し訳ないわ。
そういえば魔王って、もっと強いのかしら。鳥さん大丈夫かしら。
先のことを考え始めると少し食欲が出て、ヨハンナ様がホッとした顔をする。
そうだよね、まだ魔王がいるんだった。ここで脱落してなるものか。
食事の後、暫らく横になって寝ていたがやがて何かの気配で目が覚めた。何だか外が騒がしい。起きてテントの部屋から外に出るとヴィリ様がいた。
「エマ、キリルの鳥が帰ってきたようだ」
二人で広場に出ると外は夜で広場には明々と松明が燃やされている。夜空にはレモンみたいな月が出て真っ暗ではない。月に転々とした影のようなものが見えた。
『ガォォォォン…………!!』
鳥さんの咆哮が聞こえた。と、見る間に大きくなってバサリと羽音がすると思ったら頭上に居る。
『ピゴガゴオンー!』
鳥さんが何か言っている。
皆が固唾を飲んで見守るなか、キリルが説明をする。
「魔王の悪気に当てられて負けた」
「何と」
「ボロボロじゃね」
「まあ、可哀そうに」
手を差し出すとよたよたと舞い降りる。さすがに大きくて手に乗りません。手の届く下の羽毛の辺りを撫でる。むっ、ほわほわして気持ちがいい。もふもふ……。
そういえば鳥さんの餌はまだあったっけ。【アイテムボックス】から鳥さんの餌の残りを出した。
「食べる?」
鳥さんは嬉しそうにガツガツと食べた。
『ピョオオオオオーーー!!』
元気になったっぽい。翼を広げて叫ぶ。
「それで何があったんだ」
キリルが鳥さんに事情を聞くと『魔王の悪気が凄くて、神気が吹き飛ばされるのだ』という。魔王自体はそれほど強くないそうだ。
「私、鳥さんと一緒に行く」
神気が足りないのなら一緒に行って絶えず補給すればいいよね。
「エマ、君ひとりでは行かせられない。私も行く」
「でも、ヴィル様」
「そうだな、ヴィルヘルムひとりじゃ何かあった時にどうしようもない。私も行こう」
グイード。
「仕方がないな、私は見届けねばならん」
ルパート。
「俺、行きまっせ」
レオン。
「決まったな、みんなで行こう」
キリル。
『ガオオオーーン!』
鳥さん。
こ、これは聖女と五人の勇者の逆ハーレム物語なのかっ!
そういう訳でみんなで鳥さんに乗って再度出発。
いや、そういう訳でとかであっさり終わられると、拗ねようか泣こうかってなるんだけど。ロマンチックは!? 逆ハーレムの所、もっと詳しく!
「ダメよ、私も行くわ!」
ヨハンナ様。そうか、ラスボスはヨハンナ様なのね。
そういう訳で私の逆ハーレム物語はあっさり潰えたのだった。
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