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43 会議の最中に復活する者
しおりを挟む皆が唖然とした模様の中、ヴィリ様が仕切り直した。
「兄上、私と聖女エマは結婚いたしました。すでに教会に受理されております」
先程の余韻の所為か、あまり反応はない。
「ヴィルヘルム、私はお前の結婚を許してない。その結婚は無効だ」
「私は成人男子であります。結婚の許しを得る必要はないかと思っております」
「家長は私だ」
「では地位も名誉も何かも返上し野に下ります。もちろんエマは同道いたします」
「バカな、許せることか」
「別に許しなどいりません」
「困る、それでは困るのだ」
ヴァリャーグ国王が割って入る。
「あなたが欲しいのは武器で、私ではないでしょう」
武器……?
「我が隊を先鋒にと死地に追いやってくれたお方がいて、その作戦に乗りました。我々が作った武器と精鋭が勝利に導いてくれました」
そういや、ゲームの話をしたんだった。閃光弾も榴弾もこの世界にはあるのよね。ヴィリ様が私を見て、そして皇帝陛下を真っ直ぐ見返す。
「兵士だっていつまでもそのままじゃない。教えれば伸びる。今回の戦勝による褒賞は、一緒に戦ってくれた兵士たちにこそ」
ヴィリ様を睨みつけた皇帝陛下が私に迫る。
「君、聖女エマ。何とか言いたまえ。ヴィルヘルムは皇家の一員としての全てを捨てるというのだぞ。莫大な財産も、皇帝一家としての地位も、身分も捨てるというのだ。平民になって惨めになって何の援助も受けられなくなって、全ての財産を失ってそれでも生きられるというのか? 身分の保証もない。そんな者に何を委ね任せるというのだ」
皇帝陛下の言う事は分かるのだ。今ここで身に着けている何もかもを剥ぎ取られて足蹴にされ追い出されても文句は言えない。でも私の返事は決まっている。
「私は元々一般人の出でございますので皇族がどういうものか知りません。どのような特典があって、どのような責任を果たせばいいのか存じません、でも──」
「そうだろう。だから、皇族の婚姻相手は王族と決まっているのだ」
私の言葉は途中で遮られてしまう。
この会場に集まる人々は興味本位に、あるいは嘲笑を湛えて私達を見るのだ。まるで観劇を楽しんでいるように。確かに私は異世界からピンクの髪で来た。小説の中のヒロインそのままの姿。神気も魔力も感じないで、光あふれる魔法も回復魔法も何も持たなくて、皇族の義務も責任も生活も知らない。
知らないけれど私は前の世界で普通に生きていた。だから、どこに行っても彼さえ、ヴィリ様さえ側に居てくれれば生きてゆけると思うのだ。
それは安易で安直な考えなのだろうか。
「例外は聖女だと伺っております」
ヴィリ様は組んだ腕の私の手に手を重ねて言う。
「私はただ彼女と生きて行きたい。それを認めて頂きたい」
皇帝とヴィリ様が睨み合うなか、何とかならないかと思う私の頭に、疑問に思っていた事が浮かび、言葉となってポロリと転がり落ちる。
「帝国皇帝は選帝侯が選ぶのではないのですか? それでこそ王の中の王。血筋に拘らず相応しい方を選ぶと、歴史で習いましたが違いますの?」
当たり前の言葉なのに皆が黙る。すでに形骸化されて久しい言葉。
代々積み重ねた努力は子を儲けるだけ、血縁に頼るだけ、政略結婚によって得る濡れ手で粟の莫大な資産を湯水のように使うだけ。
傘下の国々だって似たようなものだ。何かあれば帝国に任せ、自分はぬくぬくと安逸をむさぼり危険な遊びに現を抜かす。
もしかしてこのシステムはもう機能していないのかしら。ぬるま湯のような帝国の中にいて、突然火の玉のような隣国が、いきなり革命だ戦争だと苛烈に押し寄せて来たら百年の夢も醒めるだろう。
私余計な事を言って皇帝とヴィリ様、二人の仲を修復できないまでに引き裂いたのでは。どうしよう。会場がシンと静まる中、冷たい怒りをその目に宿した皇帝が最後通牒を突き付ける。
「ヴィルヘルム、そなたとはもう──―」
そこに皇宮から火急の使者が馳せ参じてきた。
「大変でございます、皇帝陛下。ガリアの統領が魔物化し魔王になると」
「ガリア国首都は魔素が渦を巻き吹き荒れて、みな首都より逃げ出しております」
「何と」
これは、もしかしてご都合主義の仕業だろうか。
◇◇
ガリアの国の統領は不死身であった。故国に帰って弾劾され刑罰を言い渡されると本性を現したのだ。
『ふははは……、貴様ら全て滅してやろうぞ。
集え、我が眷属ども、出でよ魑魅魍魎、地に満ち覆い尽くせ。
すべてを喰らい尽くしてやろうぞ』
彼を捕らえ裁判所に集って、断罪しようとする人々を相手に業を煮やしたのか、いきなり変身したのだ。
『許せん、何もかもが許せんぞ』
怒りと憎悪が満ち満ちる。
『我こそが王の中の王だ。例え幾千万の兵が来ようとも我は屈せぬ。我が身の恐ろしさを骨の髄まで味わわせてやろう』
彼の中に残っていた人らしい想いは全て霧散して果てた。残ったのは悪鬼としての凄まじい憎悪だけであった。
会議はお開きになった。会議に出席していた各国の王族貴族宰相外務大臣等のお歴々は散り散りに、我先にと国へ帰った。
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