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10 お祭り騒ぎの村を過ぎて
しおりを挟む渡り人が放流されてこの村に来た。他国のイケメン三人がわざわざ迎えに来たってんで、見世物になっている。間に一般人が物見遊山で眺めている。見物人が大勢押しかけて屋台が出て、お祭り騒ぎだ。こんな事、滅多にないらしい。そりゃあ、何年かおきだし、どこに放流されるか分からないとくれば、祭りになるんだろうか。
「やっぱりオバサンだな」
「魔力ないのか」
「神気も無いらしい」
「外れもいいとこだな」
ぞろぞろと集まった連中が噂する。きさまら女性に対して失礼であるぞ。
「あいつら、あんなオバサン、何で引き取るんだ」
「後から魔力が発現するケースがあるってよ」
私もその部類か、ロンダリングされた人が他にもいるんだろう。
「見かけも何とかなんねえの」
「後で発現するかもよ」
「ゲラゲラゲラ……」
くそっ。何か腹立つな。
「抑えろ」傍でルパートが囁く。
私は元々オバサン、……だから、ちょっとカチンときたけれど、率先してぶーたれる程じゃないわ。我慢くらいできるのよ。知らぬが仏ってあるし、後でざまぁしてもいいかも。でもね、年を取ると気が短くもなるんだわ。
「ねえ、ここで渡り人の降臨しちゃいけないの?」
「イケナイ。君の身が危険になる」
「見ると聞くとは大違いっていうだろう」
「みんな国に帰って報告する為に来ているから」
三人のイケメンに宥めすかされてしまう。そうなのね。テレビも写真もなきゃ、見に来るしかないのか。
「私なんかこんなオバサンだし、渡り人と言っても……」
「君は戻り人なんだろう?」ブルネットのキリルが言う。
「え」
彼の肩に乗った小鳥が『ピチュピチュ』鳴いている。
「戻って来たんだろう、こちらの世界に」
「「「お帰り、エマ!」」」
イケメン三人がにっこりと笑う。そう言われると照れるというか恥ずかしいというか。何かオバサンは思考が乙女寄りになりそうやん。
そういう訳で少し雰囲気良くなって村を通っていると、前を歩く人がいなくなって両側に人垣ができた。
「ようお疲れさん」
人垣の前方にひときわ目立つ大きな男が立っていた。厳つい顔に頬に傷痕、組んだ腕は太く、肩も胴体も筋肉もりもりである。そしてルパートと似たような軍服を着ているが、着る者が違うと服も違う服に見えるのか。
「ああ、後は頼んだ」銀髪のルパートが言う。
「任せとけ」
男は腕を組んでいた手を解いて、ルパートの肩に軽く触れた。
ああ、男同士のナンチャラみたいな尊い姿を間近で見てしまった。その手の読み物も嗜んでいた私の胸がキュンキュンする。
いや美形同士より、こういうのが好みよ。私としては。
後ろにたくさん騎士服を着た男を引き連れて、強面という感じか、某アタタの漫画に出てきそうな感じ。彼の前を遮る者は誰もいない。
男の傍らにフードを被った魔術師らしき者がいて、話しかけている。軽く頷いて私をチラリと見てなるほどとまたニヤリとする。
「片付いたら遊びに行ってやろう」
「わざわざ来んでもいい」
「じゃあな」
くっ、別れ際に肩越しに振り返って斜めに見るとか、悶え死ねる。
拳骨を握ってのた打ち回りそうな私を不審げに見る三人。
「行くぞ」という言葉に我に帰れば、すでに小さな村の中を通り抜け、出口に立派な馬車が待っていた。
ひとり馬車に乗せられて三人は騎乗し、すぐに出発した。
イケメン三人は馬で移動するようで、少しホッとした。あんまりキラキラしいのも目の毒なのだ。
◇◇
村から小一時間くらい走っただろうか、馬車から降りると神殿のような立派な建物がある。立派な門には警備兵がいて、まず手前の建物で利用目的などの書類を書く。書類手続きが済むと、ゲートのある神殿の部屋に行く。
ゲートは広い部屋の中央に五本の柱に囲まれて、一段低く作られた魔法陣だった。何となくこの世界に来た時の場所を思い出させた。警備兵が四人部屋の中にいる。
「転移ゲートだ」ルパートが簡単に説明して、魔法陣の手前にある水晶が乗った台に手をかざす。次々に四人が手をかざして魔法陣に乗り込んだ。
目の前の景色が消えて一刻の浮遊感。そして地に足が着く。
魔法陣から降りて部屋を出ると、三人が並んで胸に手を当てて言った。
「「「ようこそエマ。我が国、アルンシュタット王国に!」」」
私、そう言えばこの世界の地名とか何も聞いてない。
最初に着いたあの国も、転移ゲートで行ったあの屋敷も、町も、名前を知らない。地図にも何も書いていなかった。川の名前も、森の名前も。
そうなのか。私はこの世界に来て、初めて迎え入れられたのだ。
ここは素直に喜ぶべき所だろうか。しかし、前の世界でボッチとはいえ当たり前に暮らしていたオバサンとしては、漠然とした納得がいかない気持ちがある。
しかし目の前のイケメンたちには申し訳ないのでにっこり笑っておこう。
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