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第三部 斜陽の王国
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しおりを挟む塔を持つ城壁に守られているのは、大きな主塔だ。
敷地内には離れや教会のようなものがあり、小さな家もあって、小さな村みたいになっている。この王宮の周りに町が広がり、城塞都市を築いている。
主塔の薄暗い廊下を通り抜け、迷いそうだなと思った頃に、謁見の間にたどり着いた。
(綺麗な大広間!)
謁見の間は、絢爛豪華で光輝いている。
奥には玉座があり、背後の壁には金糸と銀糸で縫われた大きなタペストリーがかけられていた。周りにも同じように小さなタペストリーが飾られ、白い漆喰壁には銀細工が飾られている。
高い天井は女神像が彫り込まれ、金細工のドレスやアクセサリーをまとっていた。
それが壁のあちこちに吊り下げられた色ガラス製のランプに照らされ、幻想的な光景を作り出している。
そして、宝石が埋め込まれた玉座がまた立派だ。
惜しみない財力を示し、年老いた王は威厳とともに座していた。その隣には、真珠飾りをつけたふっくらした王妃がいる。二人はすっと椅子を立つ。王があいさつをした。
「ようこそおいでくださった、闇の神子様。お会いできて光栄です。私はアークライトの王、マルスと申す。長旅でお疲れでしょう。今日のところは、離れにてごゆるりとおくつろぎくだされ」
使者の一切合切を無視して、闇の神子と切り出したマルスの言葉に、有紗は笑みを浮かべた顔を引きつらせそうになった。
(こっちもそう来たか! 私が代表みたいになってるんですけど!)
すごく迷惑だが、ここで名指しされた手前、有紗が訂正する他ない。
「お初にお目にかかります、闇の神子アリサです。我がルチリア王国への救援を受け、ルチリア国王たっての願いのため、家族でもある王家の皆様と足を運んだ次第です」
国同士のやりとりであって、有紗はおまけだと釘を刺しておく。
マルスの眉がわずかに寄った。周囲にいる官人達も不愉快そうである。
「そうそう。こちらは私の夫であるレグルス王子です。それから義妹のミシェーラ王女と、義弟のエドガー王子。責任者のブレット・ガーエンもあわせてよろしくお願いいたします」
ここですかさずブレットが前に出て、書状を広げる。
「我が王より、書状をたまわってございます」
なぐさめの言葉とともに、支援物資の内容について読み上げる。
「レジナルド王の慈悲深さに、感謝申し上げる」
マルスは礼を返す。
「今日はゆっくり休まれるがよい。明日は歓迎の宴を用意している。神子様のお力を借りる件については、そちらの大神官ベルザリウスに一任している。ベルザリウスよ、ねんごろに頼んだぞ」
「は。かしこまりました」
ベルザリウスは恭しくお辞儀をした。
それからマルスはマールに視線を向ける。
「マールよ、久しいな」
「はい。お会いできてうれしゅうございます、陛下」
マールの声は震えている。緊張しているようだ。
マールの体調の悪さは伝わっているだろうに、マルスの眼差しは冷たい。
「一度嫁いだ身でありながら、再び戻ってくるとは恥ずかしい。レジナルド王にはお詫びの手紙を送らねばな」
深いため息をつくと、マルスは王妃とともに謁見の間を出ていった。
「それでは、離れにご案内いたします」
ベルザリウスに促されて振り返った有紗は、顔面蒼白になったマールを見つけて気の毒になった。
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