上 下
103 / 125
第三部 斜陽の王国

 6

しおりを挟む


 塔を持つ城壁に守られているのは、大きな主塔しゅとうだ。
 敷地内には離れや教会のようなものがあり、小さな家もあって、小さな村みたいになっている。この王宮の周りに町が広がり、城塞都市を築いている。
 主塔の薄暗い廊下を通り抜け、迷いそうだなと思った頃に、謁見の間にたどり着いた。

(綺麗な大広間!)

 謁見の間は、絢爛豪華で光輝いている。
 奥には玉座があり、背後の壁には金糸と銀糸で縫われた大きなタペストリーがかけられていた。周りにも同じように小さなタペストリーが飾られ、白い漆喰壁には銀細工が飾られている。

 高い天井は女神像が彫り込まれ、金細工のドレスやアクセサリーをまとっていた。
 それが壁のあちこちに吊り下げられた色ガラス製のランプに照らされ、幻想的な光景を作り出している。

 そして、宝石が埋め込まれた玉座がまた立派だ。
 惜しみない財力を示し、年老いた王は威厳とともに座していた。その隣には、真珠飾りをつけたふっくらした王妃がいる。二人はすっと椅子を立つ。王があいさつをした。

「ようこそおいでくださった、闇の神子様。お会いできて光栄です。私はアークライトの王、マルスと申す。長旅でお疲れでしょう。今日のところは、離れにてごゆるりとおくつろぎくだされ」

 使者の一切合切を無視して、闇の神子と切り出したマルスの言葉に、有紗は笑みを浮かべた顔を引きつらせそうになった。

(こっちもそう来たか! 私が代表みたいになってるんですけど!)

 すごく迷惑だが、ここで名指しされた手前、有紗が訂正する他ない。

「お初にお目にかかります、闇の神子アリサです。我が・・ルチリア王国への救援を受け、ルチリア国王たっての・・・・・・・・・願いのため、家族でもある王家の皆様と足を運んだ次第です」

 国同士のやりとりであって、有紗はおまけだと釘を刺しておく。
 マルスの眉がわずかに寄った。周囲にいる官人達も不愉快そうである。

「そうそう。こちらは私の夫であるレグルス王子です。それから義妹のミシェーラ王女と、義弟のエドガー王子。責任者のブレット・ガーエンもあわせてよろしくお願いいたします」

 ここですかさずブレットが前に出て、書状を広げる。

「我が王より、書状をたまわってございます」

 なぐさめの言葉とともに、支援物資の内容について読み上げる。

「レジナルド王の慈悲深さに、感謝申し上げる」

 マルスは礼を返す。

「今日はゆっくり休まれるがよい。明日は歓迎の宴を用意している。神子様のお力を借りる件については、そちらの大神官ベルザリウスに一任している。ベルザリウスよ、ねんごろに頼んだぞ」
「は。かしこまりました」

 ベルザリウスは恭しくお辞儀をした。
 それからマルスはマールに視線を向ける。

「マールよ、久しいな」
「はい。お会いできてうれしゅうございます、陛下」

 マールの声は震えている。緊張しているようだ。
 マールの体調の悪さは伝わっているだろうに、マルスの眼差しは冷たい。

「一度嫁いだ身でありながら、再び戻ってくるとは恥ずかしい。レジナルド王にはお詫びの手紙を送らねばな」

 深いため息をつくと、マルスは王妃とともに謁見の間を出ていった。

「それでは、離れにご案内いたします」

 ベルザリウスに促されて振り返った有紗は、顔面蒼白になったマールを見つけて気の毒になった。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

そんな事も分からないから婚約破棄になるんです。仕方無いですよね?

ノ木瀬 優
恋愛
事あるごとに人前で私を追及するリチャード殿下。 「私は何もしておりません! 信じてください!」 婚約者を信じられなかった者の末路は……

処理中です...