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三章 行き倒れの水の精霊王

20 水遊びの誘い

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「アイリス、水遊びに行こうよ」

 朝食を終えた頃、ウォルターが前触れもなく言った。

「水遊びって何をするの?」
「川に素足をつけてみたり、釣りをしたり、小舟に乗るんだよ」
「足ですって?」

 私は耳を疑って、どういうことかとウォルターを凝視する。

「足はみだりに見せるものじゃないわよ、ウォルター」
「君達の祖先は、よく泉で身を清めていたけど」
「そうなの。ごめんなさい、時代遅れで」

 私の皮肉まじりのジョークに、ウォルターは微笑む。

「ふふ。ませていてかわいらしいお嬢さんだね。そうだね、時代は変わる。でも、新しいことにチャレンジするのも良いことだよ。ご先祖様を見習って」

 貴族だけでなく、庶民でも、足を見せるのははしたないこととされている。くるぶしまで覆うスカートか、必要ならズボンと長靴下がセオリーだ。
 だが、ウォルターにそこまで言われると、楽しいことかもしれないと気になった。

「ガネスはどうする?」
「僕に死ねと?」

「何も水に入れなんて言ってないわ。一緒に来ればいいのにと思って」
「嫌だよ。水辺は水の気が強いし、今はウォルターがいるから、僕は圧倒されて弱る」

 せっかくここまで回復したのにと、ガーネストは唇をとがらせた。

「それじゃあ、お土産を持ってくるわ」

 私の答えは、ガーネストのお気に召さなかったようだ。じろりとにらまれる。

「そこは誘いを断るところだよ」
「お友達作りのためには、話題が必要なの」

 私が返事をすると、ガーネストはぷいっとそっぽを向いて、食堂を出て行った。

「あらあら。ガーネスト様には紅茶を運んでおくわ、アイリス。でも、水辺は危ないから気を付けなさい」

 おばあ様は私を止めない。

「いいの? おばあ様」
「ウォルター様と一緒ならば安心です。それに、子どもは冒険するものよ。隠れてどこかに行かれるより、大人がいるほうがいいわ。ただし、リニーも一緒よ?」

 確かに、おばあ様の言うことは一理ある。
 止められたら、私はこそこそと出かけていただろうから。

「分かりました。ウォルター、何を持っていけばいいかしら」
「タオルと、念のために着替え。あとは飲み物とお弁当と日傘だよ」
「ガネスへのお土産を入れる籠も必要ね!」

 実は川に近づいたことがない私は、何があるのかまったく想像がつかない。わくわくしながら、準備するために部屋に向かった。
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