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三章 行き倒れの水の精霊王
19 お友達になろう
しおりを挟むウォルターは庭に出て、長いこと祈るような仕草をしていた。
それが彫像のように美しいため、屋敷の住人達は働く合間に眺めて、目のうるおいにした。メイド達なんて、窓辺に群がっている。
ウォルターは淡い青の燐光に包まれており、神秘的だ。お祭りで神事を眺めるような気持ちになって、信心深い彼らは熱心にお祈りしていた。
気候の調整というのは時間がかかるようで、朝に始まり、夕方に終わった。ウォルターは瞬きを繰り返し、「おや、もう暗くなっている」とつぶやいた。
「お疲れ様、水の精霊王様。中に入って。ごちそうをたくさん用意しておいたわ」
「おや、お嬢さん。何日経ちました?」
「半日よ」
「ガーネストも調整してくれたのかな。やっぱり彼がいるほうが楽ですね」
仕事を終えたウォルターは、のほほんと微笑む。
迎えに来た私に、左手を差し出した。兄と妹みたいに、手をつないで暗い庭を歩いていく。一応、ランプを持ったリニーが傍にいるが、ウォルターは私を小さな子ども扱いしているようだ。
「ねえ、お嬢さん。友達が欲しいんだそうですね。僕もお友達に立候補していいかな?」
「えっ」
「それから、君のおばあ様とも。君のおばあ様のことが好きなんだけど、どう思う?」
「はい? えっと、お友達になれるかって意味?」
「きっと恋だよ。彼女の魂は美しい」
うっとりとつぶやくウォルター。
おばあ様は優しくて、今でも綺麗だ。領民に憧れの目を向けられているエレガントな女性だから、ウォルターの気持ちは分かる。
「おばあ様は魅力的だもの、水の精霊王様はとっても見る目があると思うわ」
ませたことを言う私に、ウォルターは微笑む。
「そうでしょう? それで、どうかな」
「お友達になるのはうれしいわ。でも、契約はなしね。ガネスが怒りそうだもの」
「僕も契約するつもりはないよ。特別に、ウォルターと名前で呼んでいいよ」
「私もアイリスって呼んでちょうだい」
できれば人間の友人がほしいのだが、ウォルターを気に入っている私は、友達として扱ってくれることがうれしい。
「でも、おばあ様のことは応援できないわよ。困らせてしまいそうだもの」
「子どもにそんなことは頼まないさ」
ウォルターは私の頭を軽くなでて、くすりと微笑んだ。
それからすぐに、ウォルターはおばあ様に告白したが、おばあ様は死んだおじい様を今でも想っているからと断り、茶飲み友達で落ち着いた。
夕食の後で、私はウォルターに話しかける。
「ウォルターって行動が早いわね」
「人間はすぐに年をとっていなくなるから、急がないとね」
ウォルターはまた笑ったが、その横顔は少し寂しそうだ。
長く生きている分、出会いと別れを繰り返してきたのかしらと、私は想像する。周りが老いていなくなるのに、自分だけ変わらず残されるってどんな気分なんだろう。
よく分からないけれど、なんだか寂しくて悲しくなって、夢の中で泣いてしまった。
(もしガネスと結婚したら、ウォルターみたいに悲しい気分になるのかしら)
翌朝、そんなことを考えながら、朝食の席でガーネストの顔をまじまじと眺める。
「僕に見とれてるのか。良い傾向だぞ、アイリス」
「そんなんじゃありません」
ぴしゃりと返し、私はため息をつく。
「なんで元気がないんだ?」
「夢見が悪かったの」
「そういう時は呼べばいい。添い寝して、子守歌を歌ってやるぞ」
「遠慮します」
ガーネストの歌がどのレベルか知らないが、レディーは夜中に異性を部屋には入れないものだ。
「しっかし、ウォルターは相変わらず手が早いな。ミセスをくどくとはね」
「聞き捨てならないわね、どういうこと?」
「奴は女を気に入ったらすぐに告白するが、タイミングが早すぎるから振られるんだ」
私は首を傾げる。
「ガネスもだいぶ早かったと思うけど」
「あいさつ直後に告白はしなかっただろ」
「それは確かに早すぎるわね……」
私はまだ子どもだが、そんなふうに告白されたら、誰もが冗談と片付けるだろうことは予想がついた。私だって笑い飛ばす。
でも、おしゃべりしながら食堂に入ってきたおばあ様とウォルターは楽しそうだから、とりあえず問題ないと思う。
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