4 / 27
連載 / 第二部 塔群編
一章 塔群 01
しおりを挟む塔群に入ると、あちこちから視線を感じた。
気のせいではなく、建物の影で、黒のローブを纏った陰気な魔法使い達が、りあを見て何かささやいている。
『気にしないで下さい、ユーノリア様』
『そうです、あんな風に陰口叩かれるのは、いつものことですから』
宝石精霊のハナとエディが、口々にりあを励ました。
(ええっ、あれがいつものことなの? 嫌な感じ)
能天気なりあでも、流石に勝手に眉間に皺が寄ってしまう。
ふと視界に入り込んだ、店先のショーウィンドウのガラスに映ったりあの顔は、不機嫌そうで冷たく見えた。
ユーノリアの外見は、神々しさすら感じる程の美人だ。陶器のようになめらかな白い肌を持った彼女は、爪の先まで整っている。灰色の髪は緩やかに波を打って背中に流れ、菫色の目はどこか神秘的だ。
宝玉のはまった白木の杖を持ち、青と白のワンピースに、黒のサブリナパンツという服装は、物語に出てくるならば、善き魔女といった雰囲気である。
ただ、顔が整っているので、口を閉じて無表情になるだけで、機嫌が悪く見えた。
『良い調子です、ユーノリアしゃま。ユーノリアしゃまっぽいですよ。冷たい感じがそっくりです!』
エディがはやしたてると、レクスが隣でぼやいた。
「お前の元主人は、難儀なもんだな」
「こんな場所であんな視線にさらされたんじゃあ、そりゃあ冷たい人間にもなるってもんだね。やだやだ」
アネッサは正直な感想を零して、不愉快そうに首を横に振る。
「そうね……」
ユーノリアを思って、りあは悲しい気持ちになった。
白の番人の持つ使命の重荷に耐えきれず、りあに助けを求めたユーノリアの境遇を知るうちに、りあは彼女を責められなくなっていく。
この世界、アズルガイアでのりあの立場は、地界の民であるユーノリアと同じ魂を持つために、中身を入れ替えられた、天界人だ。
りあは地球では、オンラインゲーム『4spells』に夢中になっていた、司書として働く普通の女性だった。
そこでは、ユーノリアは、りあがゲームをプレイする時に作ったアバターでしかなかったが、ゲームとそっくりなこの世界で、白の番人として暮らしていた彼女が重荷に耐えきれず、禁じ手の魔法を使い、こうしてりあはここにいる。
「そもそも創世の神が、中途半端な宝玉なんかを入れるから、こうなったんだよ。最初からゴミの無い宝玉を入れておけば、魔王のことなんざ誰も心配しなくて済んだってのに」
レクスが腹立たしげに言うと、彼の従者であるラピスが呆れた顔になる。
「またですか、レクス殿。創世神話にケチを付けるの、本当にお好きですよね」
「うるせえな」
レクスににらまれたラピスは、肩をすくめた。
レクスはSランク冒険者として活躍しているが、実際はロザリア王国の第五王子だという。神官職のラピスは、レクスが生まれた時から傍についており、今でも護衛としてレクスと共にいるらしい。
そんな関係であるので、主従のわりに、とても気安い間柄のようだ。
(アズルガイアは、何も無かった所に、神様が青く美しい宝玉を入れたことで出来た世界なんだったっけ)
りあはゲームのオープニングで流れる映像を思い出した。
この世界では、人間や妖精族達は平和に暮らしていたのだが、その宝玉のわずかな不純物が魔王となり魔物を生み出した。そして魔王の力は徐々に大きくなって、今では人々の生存を脅かすまでになっている。
そして千年前、魔王により世界が滅ぼされる危機に陥った時、とある大魔法使いが戦い、広大な北の荒地に魔王を封じたのだ。魔王はまだ生きていて、北の荒地は枯れたままであるらしい。
その後、大魔法使いは封印を解く呪文を四つに分けて、本に記した。そして魔法使いの中でも優秀な四人を選びだし、彼らに本を守るようにと託したのだ。
(ゲームでは、プレイヤーは、各地に散らばる番人と出会いながら成長して、物語を進めていくっていうシナリオだったけど、私のアバターだったはずのユーノリアは、何故か白の番人なのよね)
そもそもプレイヤーは、NPCである封印の書の番人にはなれない。
ゲームとの違いが気になるのだが、ゲームとそっくりな世界なだけで、ゲームそのものの世界ではないようだというのが、りあの出した結論だ。
とはいえ、りあがプレイヤーだったせいなのか、りあ自身はゲームのシステムと同じものが使える。ステータス画面に、アイテムを出し入れするインベントリ画面。それからゲームで設定していた通り、ショートカットキーを利用した魔法も使える。
(ゲームに出てきた悪役キャラも、実在してるのが厄介よね……)
そんなことを思ったりあは、ふと、塔群での物語を思い出した。
「塔群といえば……、ゲームでは赤の番人との出会いの物語があったけど、ここでも会えるのかしら?」
りあの呟きに、仲間達は顔を見合わせる。アネッサが軽く手を挙げて問う。
「ここには、元々、君の義父が白の番人としていたんだろう? そんなに番人がごろごろしてるの?」
「ですが、ここは魔法使い達の町ですにゃ。番人が立ち寄っても違和感はないですよね」
ラピスの言葉に、りあは頷く。
「そうそう、立ち寄るという感じで現われた赤の番人が、事件を引き起こすんですよ。確かそう……ドカーンと爆発が」
りあがそう言った時、遠くでドォンと爆発音がした。
皆そろってそちらを見る。雨の中にも関わらず、もうもうと煙が立ち上っていた。レクスがりあを疑いの目で見る。
「……あんたじゃないよな?」
「違いますよ! 私、ここにいたでしょ!」
りあはすかさず言い返した。
「行ってみよう! 怪我人がいるなら助けないと!」
正義の騎士であるアネッサは、騒ぎの方へと走り出す。
「ええっ、アネッサ!?」
「こういう時は近付かない方がいいですぞ、アネッサ殿。巻き込まれますから!」
りあとラピスが止める暇もなく、アネッサは素晴らしい速度で駆けていった。あっという間に、赤い服を着た背中が小さくなる。
ラピスはふかふかした白い毛に覆われた右手をひさしにして、感心したように呟く。
「流石はSランク冒険者です。あっという間にいなくなりました」
「はあ、面倒くせえが、仕方がない。行くぞ」
レクスは溜息を吐いた後、渋々走り出す。
「はいっ」
「リアさん、はぐれないで下さいね!」
「ちょっとラピスさん、子ども扱いしないで下さいっ」
ラピスに文句を言ってから、リアもラピスとともにレクスの後を追いかけた。
0
お気に入りに追加
155
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
無関係だった私があなたの子どもを生んだ訳
キムラましゅろう
恋愛
わたし、ハノン=ルーセル(22)は術式を基に魔法で薬を
精製する魔法薬剤師。
地方都市ハイレンで西方騎士団の専属薬剤師として勤めている。
そんなわたしには命よりも大切な一人息子のルシアン(3)がいた。
そしてわたしはシングルマザーだ。
ルシアンの父親はたった一夜の思い出にと抱かれた相手、
フェリックス=ワイズ(23)。
彼は何を隠そうわたしの命の恩人だった。侯爵家の次男であり、
栄誉ある近衛騎士でもある彼には2人の婚約者候補がいた。
わたし?わたしはもちろん全くの無関係な部外者。
そんなわたしがなぜ彼の子を密かに生んだのか……それは絶対に
知られてはいけないわたしだけの秘密なのだ。
向こうはわたしの事なんて知らないし、あの夜の事だって覚えているのかもわからない。だからこのまま息子と二人、
穏やかに暮らしていけると思ったのに……!?
いつもながらの完全ご都合主義、
完全ノーリアリティーのお話です。
性描写はありませんがそれを匂わすワードは出てきます。
苦手な方はご注意ください。
小説家になろうさんの方でも同時に投稿します。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
異世界複利! 【1000万PV突破感謝致します】 ~日利1%で始める追放生活~
蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。
中世レベルの文明度しかない異世界ナーロッパ人からはこのスキルの価値が理解されず、また県内屈指の低偏差値校からの転移であることも幸いして級友にもスキルの正体がバレずに済んでしまう。
役立たずとして追放された厘は、この最強スキルを駆使して異世界無双を開始する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる