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第一部

 04

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 結局、鉱龍はいくつか倒したが、ユリアスに呪いをかけたナーガに出会う前に、時間切れとなった。
 三日目の夕方には、ハルとユリアスは盾の山脈まで戻ってきた。
 行きにも使った洞窟で野宿することにして、焚火をして暖をとる。標高が高いせいで真冬のような寒さだが、洞窟は小さいし、入り口の周囲に岩を出してバリケードにしているので、これでも充分に暖かい。
 ハルの膝の上では、猫の姿になったユヅルが丸くなっていた。その毛並みを撫でながら、ハルは今回の成果に笑いが止まらない。

「宝石がたくさんだね!」

 アメジスト、エメラルド、ルビー、オパール、オニキス、クリスタルなど。六体の鉱龍を仕留めた。
 鉱龍は広い縄張りを持つようで、それぞれの巣を渡り歩いた形だ。
 巣の中には他の魔物が出ないので、一体を倒すと休憩しやすいという利点があった。

「一度に売ると市場が混乱するから、今回はクリスタル辺りにとどめておけ。まだ値が低いほうだ」

 クリスタルは水晶のことだ。色とりどりの綺麗な鉱龍は、ジンスタグラムでも大好評である。どの鉱龍もイイネが百を越えたが、オパール・ナーガが特に人気だ。なんとイイネが百二十!
 うれしい結果に、ハルはほくほくしている。

「簡易式結界維持機とお城を買えるくらい?」
「十分だ。それに市場の問題だけではない。一度に売ってしまうと、お前が目をつけられる。王や貴族に囲い込まれるかもしれない。誰だって身の安全を得たいから、強い戦士を傍に置きたがるんだ」
「ユリユリの専属って言おうかな。私を雇いたいなら、ユリユリも保護することって条件をつけるのよ」
「それはいい。俺を人質にしたがる貴族はいないだろう。魔物を呼ぶからな」

 面白そうに、ユリアスはにやりと笑った。

「エルドア王国に戻ったら、王都に行こうよ。ヨハネスさんの所でクリスタル・ナーガを売って、どっちも買って、住み心地を良くしたら冬も楽になるでしょ」
「そうしよう。お前だとぼったくられるだろうから、俺が商人と交渉しよう。俺は安全な場所でふかふかのベッドで眠れるなら、どんな場所の城だろうと文句は言わない」

「冬はのんびりしたいから、本を買い漁ろうかなあ」
「ここの文字を読めるのか?」
「うん。女神ちゃんの加護紋かごもんのおかげ」

 何げなくこぼした言葉に、ユリアスが反応した。

「加護紋? お前、加護紋持ちなのか」
「そうだよ。背中にあるの。さすがにユリユリでも見せられないからね」

 裸になるのは真っ平ごめんだ。

「異世界人の私には、ここの人みたいに魔力を出し入れする器官がないし、異世界の病気がこちらに影響しないように防ぐ意味もあるのよ。もちろん、ここの病気も私には効かないわ。色々と強化してくれたんだよ。ここにいる間は不老だしね」
「不老! だから髪が伸びないのか、お前」
「そういえばユリユリは何度か切ってたね」

 朝にひげそりをしていたのも見ている。ユリアスは清潔好きなのでこまめにそっているが、たまに無精ひげが生えていることがあった。兄で見慣れているせいか、美形にひげが生えてもかっこいいだけなんだなと感心したハルである。

「ねえ、これってハゲになったら戻らないのかな……?」

 声をひそめて問う。女子としては一大事だ。

「試してみたら分かるぞ」
「他人事と思ってひどい!」

 ハルが言い返すと、ユリアスは笑い出した。最初の頃は、ユリアスはむすっとしていたが、しゃべる相手がいるのがいいのか、だんだん表情が豊かになってきた。

「向こう側に着いたら、影庫シャドウ・ボックスに入るくらいのサイズにクリスタル・ナーガを解体しよう。お前の夢幻鞄のことは他人に知られないほうがいい」
「うん、そうしよう。今日はもう休もうよ」
「俺が先に番をするよ。東側では戦い通しだったんだ、疲れただろう」

 女神による魔改造のおかげか、肉体はあまり疲れていないが、ずっと警戒していたので気力が削られている。

「体力は大丈夫なんだけどね。ユリユリの言う通り、気力の限界は三日くらいなんだね」
「俺は部下と一緒に、赤の騎士団として遠征することもあった。どれくらいが限界か把握しておくようにと、最初に叩き込まれたんだよ。気力ってのは大事だ。疲労していても、士気が高ければ動けるからな」

「ありがとう。めちゃくちゃ助かってるよ。私は引き際みたいなの、まだよく分からないのよね」
「強いから余計にだろうな。今まではどうしていた?」
「メロちゃんに合わせてたよ」
「それが良かったんだろうな」

 ユリアスは頷いて、ハルに寝るように促す。ハルはベンチと布団を出すと、ユリアスに毛布を渡してから寝床に入った。

「ミャーウ」
「お、なんだ、ユヅル。俺の所に来るのか? 珍しいな」

 ハルが寝たので、ユヅルはユリアスの膝に移動した。ちゃっかり暖房代わりにしているが、ユリアスがうれしそうにしているので、ハルはこっそり笑ってから目を閉じた。
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