上 下
10 / 57
第一章~ドワーフの村~

10話 ドワーフの美意識

しおりを挟む
 今日は朝早く起きたこともあり、日も暮れていない。MPが切れかけただけだし鍛冶仕事でもしようかな?

「なぁドーコ。今って何時だ?今日はもう休もうと思ったんだが、鍛冶の練習してもいいか?」

 ドーコはポケットを探り、簡素な作りの懐中時計を取り出す。

「3時14分だね。別に練習するのは良いけど、全部の素材を使えるのに何をするつもりなの?」

「一つ気になった事があるんだよ。ほらここにある装備って全部細工がないだろ?だから細工の練習をしようかなーっと」

「細工ー? ヒューマンがよくやってるけど、そんなの付けたって装備の強さに関係ないじゃない! それにほらこの大斧みたいに鋭い刃の映り込みが最も美しい細工みたいなものだよ!」

 うーん。どうやらドワーフは機能美にしか興味が無さそうだ。だけどこれから先ヒューマンの国に行ってお金を稼ぐにはそう言った細工が出来る様になった方が装飾品を作る時にも便利なはずだ。

 そういえばドーコの家の家具も作りが簡素だったが、それは鍛冶場に力を入れているだけと思っていたのだが、そもそも細工に興味がなかったのか。となってくるとどうやって細工の良さをドーコに伝えようか。

「そうだなー細工ができる様になると、冒険者だけじゃなく、貴族が物を買ってくれる様になるぞ。そうすれば沢山のお金が俺たちの手に入る。お金が沢山あればそれだけ大量の素材が買えるし、大きな鍛冶場だって作れるぞ!」

「うーん……お金持ちになるのはいいけど、イマイチ魅力を感じないよ……」

「百聞は一見にしかずだ。ドーコさっきの懐中時計借りてもいいか?」

「うん、まぁ良いけど……」

 あまり気乗りしていない様だが、完成品を見せれば納得してくれるだろう。

 あっ1つ問題が思い浮かんだ。ドワーフは細工をしないということは俺の【ドワーフの神】は対応しているのだろうか?

 まぁ大見え切ってしまったしやるしかない。

 幸い小さなノミも一応置いてあったみたいで道具は揃っていた。蓋を取り外し一生懸命【ドワーフの神】に祈りを込めて掘り進めていく。

 ドワーフのイメージである鍛冶のハンマーと剣の紋章を刻んでいく。そして最後にドーコの物という事で花も刻む。どうやら【ドワーフの神】というだけあって鍛冶仕事なら万能らしい。一作目ながらほぼ完璧と言って良いものができた。

 ふと顔を上げるとドーコが興味津々と言った感じに覗き込んでいた。集中していて全く気が付かなかった。

「凄いねー! ヒューマンの細工を見たことはあったけどここまで細かいのは初めて見たよ! デザインも良いし、でもこの花はどうして入れたの?」

「ドーコの事を考えながら作ったからな。ドワーフの技術と可愛らしさっていうイメージだ」

「それって……」

 ドーコが顔を赤らめる。ついつい気が緩んで可愛いと言ってしまった。あんまり言って気持ち悪いと思われては最悪だ。だが、毎回怒るわけでもなく顔を紅潮させるだけだしひょっとして脈ありなのか? だがもう一歩を踏み出す勇気が俺にはない!!! 意気地なしとでも何でも言うがいい。今の心地よい関係を崩す事はしたくないのだ。

「それでどうだ。ちょっとは細工に興味は湧いたか? 今は材料がないがそこの溝とかに黒入れすればもっと映えるものになるぞ?」

「うっうん。確かに興味出てきたかも! 私にもコツとか教えてよ!」

「そうだなー。それは【ドワーフの神】があったから出来たけど、ドーコにそれが出来るかというと分からんな」

「えーー!? そんな無責任なぁ。 【ドワーフの神】っていうならその教えを伝えるのもスキルに含まれてるんじゃないの?」

 ふむ、確かに一理ある。神とまで名前についているんだ。導く力があってもおかしくはない。

「とりあえずドーコ作業を始めてみてくれないか? 教えられそうなら教えてみるよ。それにしても何に細工を入れようかな」

「この大斧が良い! 初めて出来たマジックアイテムなんだもん! それにあんな風にかっこいい細工がついたら更に価値が上がりそう!」

 お気に入りのマジックアイテムにするなんて、すっかり細工の虜だな。それにしてもこれではどちらが師匠かもう分からないな。

「よーし。ドワルフに負けないくらいすっごい細工するんだからね!」



★   ★   ★



「ふーっ出来たーーー!!!」

 ドーコの作った細工は機能美を損なわない様気を使いつつも全体的に斬撃のイメージを取り入れた物になった。

「念のため使い心地が悪くなってないか試してみるね」

「そうだな。まぁ俺もしっかり見てたしおかしなことにはなってないと思うが」

 そう言ってさっき試し切りした場所へと向かう。

「それじゃあ早速っと、オリャ!」

 ザザザシュッ

 物凄い音と共に木が薙ぎ倒されていく。どう見ても昼とは威力が段違いだ。

「え!? どうして? ドワルフもしかして私が細工している間に魔術を込めたりしたの?」

「そんなことできるわけないだろ。方時も目を離さなかったし、何より俺のMPはもう尽きかけなんだぞ」

「じゃじゃあこれはどういうこと?」

「生憎俺はマジックアイテムは専門外だ。明日エマにでも聞いてみよう。もしかしたら何か知ってるかもしれない。あいつ暇そうだったし、きっとまた見にくるだろう」

「うーん、今からでも解明したいのにー! 仕方ないかぁ。私1人で今は考えておくよ」

 とりあえず俺たちは切った木を運んで明日に備える。細工作業に思ったより時間が掛かりまた日暮れになってしまった。

 明日はまた宝石魔術の作業だ。そういえばエマにMPについて聞き忘れていた、寝て起きたら回復するものだったら良いが。念のため今日は早く寝よう。

「なぁドーコ。今日は宴会を無しにして早く寝ないか?」

「えーーー!? 今日はマジックアイテムが出来た記念すべき日なんだよ!? それを祝わないなんてあり得ないよ!!!」

「俺はこの世界に来てからずっと宴会続きなんだぞ。1日くらい休肝日があったって」

「ドワーフに休肝日はないよ!」

「明日MP不足で宝石魔術出来なくても知らないからな!」

「うっ……でもそんなに急ぐ必要も無いしゆっくり作っていこうよ。エマさんも急がなくて良いって言ってたし」

 そうは言ってもあまり人を待たせるのは気が引けるのだが、まぁドーコの長年の夢が叶ったんだ。仕方ない俺が折れるか。

「わかったわかった。じゃあ今日も飲もう! どうなっても知らないからな!!!」

 あぁ今日の夜も長そうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

没落貴族に転生したけどチート能力『無限魔力』で金をザックザック稼いで貧しい我が家の食卓を彩ろうと思います~

街風
ファンタジー
出産直後に、バク転からの仁王立ちで立ち上がった赤子のルークは、すでに己が生物の頂点に君臨していると自覚していた。だがそれとは対極に、生まれた生家は最低最弱の貧乏貴族。食卓に並ぶのは痩せた魚と硬いパンだけ。愛する家族のためにルークは奔走する。 「これは大変だっ、父上、母上、ルークにお任せ下さい。お金を稼ぎに冒険へでかけてきますゆえ」※0歳です。 時に現れる敵をバッサバッサと薙ぎ倒し、月下の光に隠れて、最強の赤子が悪を切り裂く! これは全てを破壊する力を持った0歳児が、家族の幸せを望む物語。 ヒロインも多数登場していきます。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

ターン制魔法使い

Nara
ファンタジー
長年プレイしてきたお気に入りのファンタジーゲーム。その世界に突然転移してしまった青年。しかし、ゲーム内で支配していた強大な英雄ではなく、彼が転生したのは「奴隷魔法使い」としての姿だった。迷宮主によって統治されるこの世界は、危険なモンスターが潜む迷宮を攻略することが中心となっている。 彼は到着直後、恐ろしい事実を知る。同じように地球から転移してきた者たちは、迷宮に入らなければ悲惨な運命が待っているということだ。転移者は、迷宮から出てから20日以内に再び迷宮に入らなければ、内部のモンスターが彼らを追い求め、命を奪いにくるのだ。そのため、転移者の多くは指名手配犯となり、モンスターや当局に追われる存在になっている。 生き延びるため、主人公は自分が転移者であることを隠し、この過酷な世界の謎を解き明かそうとする。なぜ自分は奴隷魔法使いとしてこの世界に送られたのか? 迷宮を支配する迷宮主の正体とは? そして、迷宮と人命を結びつける邪悪な力の背後に何があるのか? 新たな仲間やかつての敵と共に、主人公は政治的な陰謀や当局の追跡をかわしながら、迷宮を攻略し、帰還の鍵を見つけるために奔走する。しかし、それ以上の運命が彼を待っているかもしれない…。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...