上 下
2 / 57
第一章~ドワーフの村~

02話 初めての異世界交流

しおりを挟む
 その前に配信タイトルを変えておこう配信のタイトルは重要だ。『ドワーフの村へ』でいいか。

 
 いざドワーフの村の前に来たが、一体なんて説明すればいいんだろう。目が覚めたら森の中にいました? それとも異世界から来たって正直にいうべきか? 嘘をついて見破られるのも怖いし道に迷ったということにしよう。でもこの血塗れの兎は何て説明すればなんて考えていると門の前についてしまった。

「なんだお前、ここら辺では見ない顔だな。荷車も無いし行商人でもあるまい。高身長だが、立派な髭はしているな。だがドワーフではあるまい!」

 門番らしき男がこちらに大きな槍を向けて尋ねてくる。体格は小さいが物凄く眉間に皺が寄っていて怖い。

「実は道に迷ってしまって……それで遠くから見つかったこの村でなんとか助けてもらえないかなーと、ほらこの兎も差し上げますので」

 そう言ってさっき倒して兎を差し出す。

「おぉこりゃいい角兎ホーンラビットじゃないか。しかも角が綺麗に残ってる。この兎を持ってるってことは、お前もしかしてあの森に入ったのか?」

 今度は怪訝な顔をして尋ねてくる。

「はい、もしかして何かまずかったですか?」

「まずいというかなんというかだな。あの森は危険な生物が多く生息していて、生半可な冒険者じゃ歯が立たないんだ。よく生きて帰れたな。流石は立派な髭を持ってるだけはある」

 頭をポリポリと掻きながら今度は感心したと言った顔でようやく構えていた槍を下ろしてくれた。そんなに何度も言われるほど立派な髭を作った俺偉い!

 それにしてもそんなに危険な森だったのか。他に生き物らしきものは見当たらなかったが、足早にあの森を抜けたのは正解だったかも知れない。

 というかドワーフの村はそんな立地にありながら平気なのだろうか?

「お前の様な強い戦士なら本来は歓迎したいところなんだが、今村の長がそのー病を患っていてな。なかなか歓迎するというわけにも行かないんだ。村の宿に泊めるくらいならその角兎ホーンラビットで十分賄えるが」

 そういえばあの森について知っているこのドワーフならと思い俺はポケットにしまっていた果物を取り出す。危険な森の木の実ならば、何かいい効果があるのかも知れない。それを取り出した途端、門番の顔色が変わった。

「お前、もしかしてその木の実『アギリゴ』か!?」

 アギリゴ?そんなこと転生したばかりの俺が知るわけがなかったがとりあえず説明することにした。

「この辺には初めて来たので知らないですが、あの森で手に入れた木の実です。毒があるかもと思い食べはしなかったのですが、いざと言う時の非常食用に取っておきました」

「ともかく早く来てくれ! 長の呪いが治るかも知れない」

 説明途中だと言うのに、今度は真剣な顔で俺に村の中に連れて行こうとする。それにしてもコロコロ表情が変わるな。

 これそんなに貴重な木の実だったのか。危険な魔物に会わなかった事といい、この木の実といい何やら神様に愛されている気がする。っという風に思うのはまだ現実感が湧いてきてないせいか。

 俺の手を力強く引き、駆け足でドワーフの長の元へと向かう最中いろんなドワーフが何事だと俺たちを見てくる。

「そうだ自己紹介がまだだったな。俺は代々この村の門番をしているドバンだ。メインジョブが戦士でサブジョブは鍛冶師だ。お前さんは?」

「丁寧にどうも、あーっと私の名前はえーっと」

 走りながらだからなんて名前にしようか、上手く考えがまとまらない。えーっとドワーフとエルフのハーフだからんーっと、これ以上間を空けるのはまずい。

「私の名前はドワルフです。メインジョブ配信者でサブジョブはなしです。」

 考えが上手くまとまらず単純にドワーフとエルフを混ぜたものになってしまった。

「メインジョブ配信者でサブジョブなしだー!? まぁ細かいことは後で話そう。ほら着いたぞ」

 どうやら名前ではなくジョブに違和感を覚えられたようだ。俺自身もそう思ってる。

 着いた場所は遠くからでも目立っていた大きな鍛冶場だった。他の鍛冶場より二回りほど大きい。

 ドンドンドン

 ドバンが激しくドアをノックする。

「奥さん! 早く開けてくれ! 長の呪いが治るかもしれん。アギリゴの実が手に入ったんだ!」

 ドアが勢いよく開き

「本当かい!?ヒューマンが珍しく仕事を早くこなしたってのかい?」

 そう言いながら出てきたのは小柄な女性だと思う。なぜ確信が持てないかというと髭が生えているからだ。奥さんとよばれてるし、この世界のドワーフは女性でも髭が生えるタイプのものらしい。

 身振り手振りを交えながら、ドバンが説明する。

「違う違う、この立派な髭が生えた男が急に門の前に来てあの森からたまたま取ってきたってんだ」

「なんだってあの森に!? それにたまたまってそんなあらでも確かに立派な髭だね。じゃなくてそれより早く長に!」

 そう言って長の寝室へと案内してもらった。そこにはゼェハァゼェハァと息苦しそうな呼吸で今にも死んでしまいそうな小さな白い枯れ木のような老人がいた。

「長! 長! 見てくれアギリゴだ! これで長の呪いが治るんだ!今薬にするから……」

 そこまで言って何故か言い淀んだ。

「まぁとにかく良くなるから待っていてくれ」

 何かが引っかかる、そう言いながら奥の調理場に手招きされたので着いていく。

 ドバンはこの世の終わりだみたいな顔をしながら手で顔を覆いながら、

「どうすればいいんだ! 鍛冶のことならいくらでもわかるっていうのに薬に関してはさっぱり分からん! 奥さん知らないか?」

「確かポーションとアギリゴを調合してどうとかって聞いたことがあったねぇ……あーこんなことならギルドに頼んだ時にでも調合方法を聞いておけばよかったわ」

 奥さんも絶望の表情で嘆いている。

 どうやらすり下ろして飲ませるだけではいけないそうだ。調合かーもしかしたら俺のスキルの【エルフの知恵】が役立つ時かも知れない。エルフって薬作ってそうだしな。

 沈黙と重圧に耐えきれず言葉を発する。

「あのーすいません。もしかしたら私、調合できるかも」

 言い終わる前に2人が

「「本当か(い)」」

 一気に2人の視線が俺に集まる。

「いや本当に出来るかはやってみないと分からないですが、このまま待つよりかは幾分マシだと思います」

今度はまたドバンは落胆し、

「なんだ出来るか分からないのか。まぁ確かに何もしないよりはマシだな。奥さんポーションは?」

 奥さんはドバンの発言に驚きの表情を浮かべながら、

「あるけど本当にこの男に託すのかい?」

 んーポッとでの余所者に託すというのは怖いのだろう。

「奥さんにはこいつの立派な髭が見えていないのかい? それに貴重なアギリゴの実をスッとわたしてきた。こいつは信用のできる男だよ」

 そう言ってドバンが俺の背中をバシバシ叩く。

「それもそうだね。あんまりにも動揺して私としたことがうっかりしてしまったよ。よろしく頼むよアンタ!」

 バシッと背中を叩かれる。信頼されるのは嬉しいがそれにしても髭だけで信頼されるとは、ドワーフ社会恐るべし。後バシバシ叩くのはやめてほしい。

 任されたからにはやってみるしかない。【エルフの知】だって使ったことが無いし呪いとは言っていたが具体的にどういうものかもわからない。

 それでもなんとかしようとアギリゴをすり下ろしなんとなく頭に浮かんだ呪文のようなものをボソボソと唱えながらポーションとアギリゴを混ぜていく。ドッと体から力が抜けたと思った時、混ぜ合わせた物の色がポーションの赤から澄んだな無色に変わった。

 成功か失敗かもわからないから2人の顔を見ると複雑な顔をしていた。

「おいおいもしかしてこりゃエリクサーか!? なんでこんなけったいなもんが出来ちまうんだ。もしかしてお前……」

 エリクサーって言えばよくゲームで聞いたあの超レアアイテムのエリクサーか? だとしたらなんでこんな複雑な顔を2人はしているのだろう。それにドバンの顔はより一層険しい顔になっていく。

「まぁまぁそんなことより早く長の元に持っていくよ! あの人の辛い顔と痩せ細った体を見るだけでこっちは悲しくて仕方ないんだからねぇ」

「そりゃそうだ。おい行くぞドワルフ」

 バンと背中を叩かれて引っ張られていく。

 それにしてもどうにも引っかかる。エリクサーが出来た事もそうだが、『けったいなもん』と表現された事だ。

 エリクサーに驚く気持ちは分かるが、忌々しいものという感情がこもった言い方だった。そのことが引っかかったまま長の元へと向かう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隣人まねーじめんと

高田良真
恋愛
高校1年の村瀬真斗は隣人の騒音に悩んでいた。 隣のアパートから聞こえてくる、女性のうるさい話し声。流石に辛抱堪らず注意しに行ってみれば── 隣人は学校1の美女と称される、二階堂愛莉だった。そして驚愕の事実はこれで終わらない。 なんと彼女はVtuberと呼ばれる配信者だったのだ。 学校でその事実を知っているのは俺だけ。 そんな事情を知ってか知らずか、彼女は俺にマネージャーになって欲しいと頼んできたのだった。

傷貰いの魔女は王子様に嘘をつく

柴咲もも
恋愛
フィオラント王国の国王には代々契約の魔女がいる。ココラッテは魔女としての才は並以下で、生まれ持った傷貰いのちからを癒しの魔法と偽って、大好きな幼馴染みの王子様と将来契約を結ぶ約束をした。けれど、子供の頃に交わした約束なんて覚えている人のほうが稀というもので、16歳になったココは、煌びやかな夜会で美しいご令嬢と戯れる彼のことを王宮の片隅で想い続けるだけの日々を送っていた。

生意気な妹がVTuber活動をやってるなんて、冗談だと言ってほしい!

あすぴりん
恋愛
俺の双子の妹、赤坂すみれは優秀で非の打ちどころのない高校2年生。かなりの美人で人当たりも良い。しかし兄の俺に対しては冷たいんだよな。だから口を開けば、つんけんしてしまうのだが――。 しかし俺が最近推しているVTuber『星野宮きらり』のLiveを視聴している時だ。ふと、すみれの部屋が最近うるさくて、その日俺は注意をしてやろうと入ったら、隠していた秘密に関わる特大な地雷を踏んでしまう。 まさかこの妹が俺の推しのVTuber『星野宮きらり』だったとは!? そうして様々な事をすみれから頼まれたり、それが切っかけで女の子達との様々な騒動が、普通の高校生の俺の周囲で動き出してしまう。 これはそんな、どたばた日常とVTuberで頑張る女の子たちのコメディー。 「小説家になろう」様にもこの作品は投稿しています。 ※注意 この作品はフィクションです。実在の人物や団体、会社、Vtuberなどとは関係ありません。

俺で妄想するのはやめてくれ!-Another-

元森
BL
季節は11月下旬。恋人同士になった増栄州将(ますえ くにます)と栗須 公宏(くりす きみひろ)は奇妙なすれ違いが続いていた。 不安になる増栄に、人の能力をコレクションする趣味を持つクラスメイトの男、角川 真(つのかわ まこと)が段々と二人に近づいてきて…? 仏頂面な妄想高校生×妄想が見える高校生 俺で妄想するのはやめてくれ!の続編です。 *似合わない女装、寝取られ要素?、攻めが別の男に攻められるシーン、性描写マニアック表現アリです。 *この作品はサイト、ムーンライトノベルズさんにものせております。

どうしようもない貴方が好きだった

饕餮
恋愛
私が知っている彼は、名前とは正反対の人だった。 長めの髪はボサボサで無精髭を生やし、スウェットの上下を着て仕事も碌に行かないような、酒好きで私にお金の無心をするようなクズで不埒でだらしない格好の紐男。不思議とタバコは吸わなかったけど、常にパソコンとタブレットみたなのを弄っていて、ゲームかなにかをしていた。 でも、私が出張から帰ってきたら、彼は消えていた――彼が持ってきた荷物の全てを持って。 そして一年半後、買い物に出た先で彼を見かけた。 その視線の先にいる彼は短く切りそろえた髪をジェルか何かでなでつけ、高級そうなスーツとネクタイを着こなし、眼鏡をかけた素敵な男性だった。そんな優しそうな、幸せそうな笑顔すら私に向けられたことはない。 胸が締め付けられて、つらかった。だから私は――。 どうしようもない男とそんな男が好きな彼女の話。

不倫系人妻Vtuberです。配信機材は不倫相手から借りました。

椎名 富比路
大衆娯楽
旦那とのレスに耐えかねて、人妻は、 「不倫系人妻VTuber アン・ミッツー」 としてデビューした! カクヨム「夫にナイショ」シリーズ漫画原作コンテスト 応募作

人気アイドルvtuber、彼氏バレを回避すべく人を殺したと口走る

mogurano
ミステリー
自称vtuber、高枝恵子容疑者(30)は2023年12月20日、動画投稿サイトで生配信し「人を殺した」と発言。視聴者からの通報を受けて警視庁は22日、高枝容疑者を殺人の疑いで逮捕したと発表した。

我が家の妹が人気Vtuberなんだがてぇてぇ過ぎてつらい

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
――"えちえち"で"てぇてぇ"な妹がVtuberに!? 俺には血の繋がっていない妹が居る。 寡黙で感情が薄い妹を兄としてどうにかしたいと思った俺は、彼女をVtuberとしてデビューさせることに……!? 表紙イラスト/イトノコ(@misokooekaki)様より

処理中です...