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第一章~ドワーフの村~

01話 ネット配信で炎上した

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「炎上しちゃったーーーーーーーーーーー」

 あんなことするんじゃなかった……

 スマ生という配信で結構な人気配信者になった前々から視聴者から〔プレゼント送りたいので欲しいものリスト公開してください〕と何回もコメントが来ていて調子に乗った俺はついに禁断の欲しいものリストを公開してしまった。

 初めての設定で戸惑いながらもなんとか設定して公開したらそこから住所が割り出されてしまった。
 そこからはあれよあれよの内に名前 職業 顔 ほぼ全ての情報がネットに流れてしまった。

 元々配信スタイルがバレないことをいいことに年収1000万とかモテまくるとか持ち家に住んでるなど嘘をつきマウントをとっていたのに、実際は年収300万 ブサメン 実家住まいとメッキが剥がれに剥がれ、自業自得といえばそうなのだがきっとこのことを不快に思っていた視聴者にハメられたんだろう。

 顔バレもしたせいで営業職だった俺は何処へ営業に行っても炎上のせいで評判が悪く成績も落ち、ついには会社を自主退職と言う形で辞めることになった。

 こうして落ちるとこまで落ちたわけだがまだ生き残る方法が一つだけある。

 そうvtuberに転生することだ!



★   ★   ★



 まず重要なのは設定だ。自分の要素を出すと身バレする恐れがあるから極力分からず尚且つ斬新なものがいい。
 手先が少し器用な物作り系vtuberになろうか、だがドワーフというだけでは外見的要素で大ウケとは行かないだろう。
 そうだ! ドワーフとエルフのハーフ! これだったら営業のために勉強した英語もエルフ的要素で使える!

 方向性は決まった。あとはアバター作り。絵を描くよりかはソフトを使って3Dアバターを作る方が楽だろう。

 無職ということもあり藁にもすがる思いで寝る間も惜しみながらアバターを作り続けた。ドワーフの髭、エルフの長耳、頭身は中間のサイズにしておいた。衣装はエルフっぽさを重要視しつつドワーフっぽいゴーグル付きの帽子も被せよう。

 あんまりが髭生えたvtuberなんて聞かないが物珍しさで人が増えればいいかな。そして最後にドワーフが持っていそうなハンマーに宝石をつけてエルフらしさもある持ち物。
 結構なごちゃ混ぜ感がするがまぁ自分で作ったものはなんだかんだで可愛らしいものだ。そうしてさらにディテールを詰めていき……

 やったーやっっと完せ……い……   バタッ



★   ★   ★



 目が覚めると見知らぬ森だった。今まで植物図鑑なんて見てこなかったが、ここに生息している植物たちが地球のものではないことを直感が伝える。

 夢か? 頬を思い切りつねる。

「痛い!」

 夢ではなさそうだ。今つねった時にフサッとした感覚が、んっ!? 顎を触ろうとするフサフサッ。念のため帽子の中から耳も確認する。……シュッと尖っている……。
 
 水溜りが近くにあったのでダッシュで覗き込む。

 考えすぎではなかった。その水溜りに映る自分の姿はさっきまで作っていたアバターそのものだったのだ。

 確かに俺はvtuberへの転生を願って努力したが、異世界に転生は願ってません!!!!

「あーどうしてこんなことになったんだ。ただvtuberに転生したかっただけなのに! 俺はトラックに轢かれてなんかないぞ」

 ブツブツと愚痴を口に出しながら辺りを散策してみる。ついつい口に出るのは配信者の癖というものだ。

 どこを見ても何か知っているようで知らない草や木ばかりだった。何か木に果物のようなものがなっているので、食べてみようかと思ったが見知らぬ食べ物を食べて毒でもあったら大変なので食べずにポケットにしまっておく事にした。飢え死にするとなったらこれをかじってから死のう。

 そういえば転生モノお決まりのフレーズを試してなかった。胸の鼓動が高まる。
「ステータス!」
 ……シーーン
 お決まりじゃないのか? それともキーワードが違う? じゃあこれでどうだ!
「データ!」
 これも違うらしい。うーん他に思いつくものなんてなぁ。こんな時、配信だったらマイページを開けば一発で分かるのに……

 そう考えた時だった、目の前に情報が表示された。

--------------------------------------------------

名前 なし

レベル  1
視聴者数 0
フォロワー 0

メインジョブ 配信者
サブジョブ なし

スキル なし

ユニークスキル 【エルフの知恵】 【ドワーフの知恵】 【ヒューマンの良心】

--------------------------------------------------

「なんだ声に出さなくても、念じるだけでいいのか」

 だがちょっと待て色々と変だぞ。まず名前がない。あっそういえば名前を考えずに倒れてしまったんだった。今からつけて間に合うものなのか? 

 まぁレベルは1だよね。だって転生初日だもの。それより視聴者とフォロワー0っていうのが心に突き刺さる。レベルはまだどのくらい上がるものか分からないから仕方ないけど、視聴者数とフォロワー0は今まで体験したことがあることだけに響く。

 メインジョブ『配信者』って異世界で一から配信しろってことか!? でも『配信者』ってジョブがあるってことは他にもこの世界には配信者がいるのか? それでサブジョブって何? そしてなし! 先行きが不安過ぎる。どうせなら勇者とか賢者とか異世界らしいジョブが欲しかった。

 スキルはないが、ユニークスキルだけは3つもあるな。でもあれだな、いまいちチート感を感じるものが無いな、例えばそうだなー創造神とか? まぁでもキャラ設定の時にちょっと手先が器用としか考えてなかったし妥当なのか。

 とりあえず配信者魂が疼いて視聴者を増やしたいので、配信開始と念じてみる。

「どうもーこんにちは」

 ……

 反応がない。

「うがー! もうちょっと優しい世界に転生したかったよ。いやそもそも異世界への転生は望んでない! vtuberになりたかっただけなのに!」

 そんなことを考えている時、見慣れた生物が視界に映った。兎だ。だがただの兎ではない、角と牙の生えた愛玩動物とはかけ離れた禍々しさを放っている兎だ。どうやら俺の独り言のせいで様子を探りにきたのかも知れない。

 俺が手に持っているのは宝石の付いたハンマーのみ。気付かれていない内に逃げようかと思ったが、目線が合ってしまった。こうなってはもう引けない。

 ちょっと待てもしかしたら『配信者』の力で話せるかも知れない。というかそれぐらいの能力が欲しい。

「あのーもしもし、言葉通じますか?」

 フシュー

 どうやらこの魔物には言葉が通じないらしい。

 目線を合わせながらジリジリと互いの距離を詰めていく。しばらく睨み合いが続いたあと、兎が先に痺れを切らし飛び掛かってきた。今の軽装備では角が当たれば一溜りもないだろう。勇気を振り絞り、

「でやっ!」

 ハンマーで頭を力一杯ブン殴る。ドワーフの力強さのおかげか兎の頭を砕き、なんとか異世界初勝利を収めた。気付けば汗をびっしょりかいていた。今まで生きてきて魔物と戦った経験などないのだ、無理もない。

「異世界に来て初戦闘が兎、しかも苦戦ってこんなの俺の配信予定にない! こんな命のやり取りはもうごめんだ。俺は最強装備を作って安全に配信者ライフを営んでやるー!」


 ついついまた声に出して叫んでしまったので、新しい魔物が来る前に森を抜けようと倒した兎を非常食用に持って早足に歩みを進めるのであった。
 
 意外と森は大きくなく少し進めば村らしきものが見えてきた。転生して早々飢え死にと言うことはなさそうだ。ここら辺は転生ボーナスというものだろうか。どうせだったら村から始めたかったよ。

 安全が確保出来そうだし、自己紹介をしっかりする為にもう一度頭の中でマイページと念じる。

--------------------------------------------------

名前 なし

LV 8
視聴者数 0
フォロワー 0

メインジョブ 配信者
サブジョブ なし

スキルなし

ユニークスキル 【エルフの知恵】 【ドワーフの知恵】 【ヒューマンの良心】

--------------------------------------------------

「やったーレベルアップだ!」 

 いきなりレベルが7も上がって正直嬉しかった。もしかしたらこの兎は強い魔物なのかも知れない。非常食用だったがこれだったら村に入る交渉用の手土産になるだろう。

 でも相変わらず視聴者は0のままだ。配信一覧と念じて見てみるとマイページの時と同じく目の前に画面が広がり、大きく二つのカテゴリがあることがわかった。冒険と作業だ。ちゃんと他にも配信者がいることがわかり安心する。

 冒険の方はかなり人気があるらしく、かっこいい見た目の人や、可愛い見た目の女の子が戦っている配信がいくつも見られた。しかも視聴者が1万人を超えている。作業の方はポツポツとしかない感じだ。これは誰かこの世界の配信に詳しい人物に聞いてみる必要がありそうだ。何よりも今は情報を集めたい。
 
 村の方を詳しく観察してみるとどうにも鍛冶場が多い印象だ。煙が至るところで上がっているからだ。

 もしかしてと思いさらに見ているとどうやらここはドワーフの村らしい。筋骨隆々で小柄な髭を生やした人しかいない。

 ドワーフとエルフのハーフ設定の俺なら同胞として歓迎してくれるかも知れない。さっきの兎では通用しなかったが、今度こそ営業と配信で高めたトーク力を今こそ発揮する時だ!

「よしじゃあ行こうか」

 意を決して村の門に向かうのであった。
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