14 / 16
最終話 『マコ』 2/4
しおりを挟む
高校三年間何のわだかまりもなく、順風満帆な親友関係を築いていきた私たちが決裂したのは、進学してすぐのことだった。
私は大学進学を選択し、マコは専門学校へと進んだ。
進路が違う時点で今まで通りにいかないことはわかりきっていたけれど。
でも私は二人の絆を信じていたし、毎日一緒にいることができなくても、それでも私たちは変わらないと思っていた。
実際私たちは卒業式の際、毎日連絡とろう、小まめに会おう、ずっと友達だと、そう約束したんだから。
その後の春休みは実際にほぼ毎日顔を合わせて、その青春の終わりを一緒に惜しんだものだった。
でも、四月になるとその約束はあっけなく破られた。
よくあるような、どちらからでもなく自然に、といった具合ではなく。
明らかに、明確に、マコの方からだった。
はじめはメッセージの返信ペースが遅くなるところから始まって、二週間も経つと何の返事もない日ができていた。
やがて会話の内容も素朴になっていって、会う予定を取ろうにもなかなか合わなくて。
その時点で私は何だか嫌な予感がしていたけれど、でも自分の新生活の慌ただしさもあって、そこに強く注意を向けることができなかった。
なんだかんだで信じていたから。私たちは大丈夫だって。
ようやく会えたのはもう五月に入ったゴールデンウィークの頃で。
そこにやって来たマコは、もう私の知っているマコとはガラリと変わってしまっていた。
見た目の問題じゃない。内面の問題だった。
一見は高校生の頃とは変わらない、金髪が目立つ派手めの女の子で印象は変わらない。
でもなんていうか、私を見る目が変わっていると、私はそれを肌で感じ取った。
マコには恋人ができていた。年上の、しかも女性の。
入学した専門学校のOGで、最近はその人の家に入り浸って半同棲状態だとか。
その恋人はどんな人で、何が好きで、一緒に何をしたとか、そんな話をぺちゃくちゃと楽しげにされて。
私はその日、自分がどうやって家に帰ったのかを全く覚えていなかった。
それからもメッセージのやり取りは一応続いていたけれど、昔は一日に何通も交わしていたそれが、数日に一通くらいのペースになって。
内容も、その恋人のことや、私が知りもせず興味もないような新しい趣味のことなんかで。
マコと会話をすればするほど、私たちが噛み合っていない現実をまざまざと突きつけられた。
「アリサ。私たちもう高校生じゃないんだよ」
その次に会った六月の終わり頃、マコはそんなことを言った。
「生活も変わったし、景色も変わった。私もいろんなことを覚えたし、いつまでも昔みたいにいられないでしょ? 子供じゃないもん、もう」
「で、でも、大人になったって、別に変えなくていいことだって……」
「そんなことないよ。昔は昔、今は今。成長しなきゃ」
「何、それ」
どうしてそういう会話になったのかは、正直よく覚えていない。
でもマコは新しい生活の中で新しい何かを見つけて、もうそれに夢中になっていて。
私は置いてけぼりにされて、もう昔のことだと放っておかれている。
そういう意味だと思って、頭が真っ白になった。
そして私たちは初めて喧嘩をした。大喧嘩をした。
今まで多少の言い合いをしたことはあっても、喧嘩と呼べるものまで発展したことはなかったのに。
大声を張り上げて、感情的になって、ひどいことをたくさん言い合って、お互いを傷つけた。
大好きだったはずなのに、今も大好きなのに、憎たらしくてたまらなかったから。
「ダメだ。私たち、終わりだね。多分、私たちわかり合えないよ」
お互い言いたいことをぶちまけ合って、やがてマコが呟くように言った。
「アリサとは親友だと思ってたけど、もうそれも昔の話なんだね。今のアリサとは、もう無理だよ」
「なに、それ……。そっちが勝手なことばっかりしてるくせに! 私は、今まで通りマコと────」
「アリサ」
私がまた声を荒げかけたのを、マコは静かに制した。
「何度も言ってるでしょ? 変わったの、いろんなことが。今まで通りにはいかないんだよ」
「っ…………」
その冷め切った声に、私は全てが終わったことを悟った。
もう私たちは戻れない。あの頃には戻れないんだって。
「私は、マコが好きなのに。大好きなのに、どうして……」
「……うん。でもそれは昔の私でしょ? 今の私のことは、好きになれないくせに」
その言葉が、何よりも私の心を深く抉って。
「そんなに今の私が嫌いなら、別にそれでもいいよ。でも私は今更昔には戻れないし。だから、私のことは死んだとでも思ってくれていいから。アリサが大好きな私は、もうこの世にいないって」
そんな言葉を最後に、マコは私の前から姿を消してしまった。
もちろん連絡はそれ以降全く来なくって、会うことだって当然なくて。
私はその後のマコのことを一切知ることはなかった。
でも、それでいいと思った。
変わってしまった、私の知らないマコを見続けるくらいなら。
彼女が言った通り、マコは死んでしまったとでも思って、この気持ちに蓋をするのが一番いいんだろうって。
マコとの思い出も、親友として友情も、この恋心も。
全てもういなくなった人への想い。
どんなに募らせても、何の発展性もない過去のもの。
そうして私の高校時代の親友は、私の恋は、消えてなくなったんだ。
────────────
私は大学進学を選択し、マコは専門学校へと進んだ。
進路が違う時点で今まで通りにいかないことはわかりきっていたけれど。
でも私は二人の絆を信じていたし、毎日一緒にいることができなくても、それでも私たちは変わらないと思っていた。
実際私たちは卒業式の際、毎日連絡とろう、小まめに会おう、ずっと友達だと、そう約束したんだから。
その後の春休みは実際にほぼ毎日顔を合わせて、その青春の終わりを一緒に惜しんだものだった。
でも、四月になるとその約束はあっけなく破られた。
よくあるような、どちらからでもなく自然に、といった具合ではなく。
明らかに、明確に、マコの方からだった。
はじめはメッセージの返信ペースが遅くなるところから始まって、二週間も経つと何の返事もない日ができていた。
やがて会話の内容も素朴になっていって、会う予定を取ろうにもなかなか合わなくて。
その時点で私は何だか嫌な予感がしていたけれど、でも自分の新生活の慌ただしさもあって、そこに強く注意を向けることができなかった。
なんだかんだで信じていたから。私たちは大丈夫だって。
ようやく会えたのはもう五月に入ったゴールデンウィークの頃で。
そこにやって来たマコは、もう私の知っているマコとはガラリと変わってしまっていた。
見た目の問題じゃない。内面の問題だった。
一見は高校生の頃とは変わらない、金髪が目立つ派手めの女の子で印象は変わらない。
でもなんていうか、私を見る目が変わっていると、私はそれを肌で感じ取った。
マコには恋人ができていた。年上の、しかも女性の。
入学した専門学校のOGで、最近はその人の家に入り浸って半同棲状態だとか。
その恋人はどんな人で、何が好きで、一緒に何をしたとか、そんな話をぺちゃくちゃと楽しげにされて。
私はその日、自分がどうやって家に帰ったのかを全く覚えていなかった。
それからもメッセージのやり取りは一応続いていたけれど、昔は一日に何通も交わしていたそれが、数日に一通くらいのペースになって。
内容も、その恋人のことや、私が知りもせず興味もないような新しい趣味のことなんかで。
マコと会話をすればするほど、私たちが噛み合っていない現実をまざまざと突きつけられた。
「アリサ。私たちもう高校生じゃないんだよ」
その次に会った六月の終わり頃、マコはそんなことを言った。
「生活も変わったし、景色も変わった。私もいろんなことを覚えたし、いつまでも昔みたいにいられないでしょ? 子供じゃないもん、もう」
「で、でも、大人になったって、別に変えなくていいことだって……」
「そんなことないよ。昔は昔、今は今。成長しなきゃ」
「何、それ」
どうしてそういう会話になったのかは、正直よく覚えていない。
でもマコは新しい生活の中で新しい何かを見つけて、もうそれに夢中になっていて。
私は置いてけぼりにされて、もう昔のことだと放っておかれている。
そういう意味だと思って、頭が真っ白になった。
そして私たちは初めて喧嘩をした。大喧嘩をした。
今まで多少の言い合いをしたことはあっても、喧嘩と呼べるものまで発展したことはなかったのに。
大声を張り上げて、感情的になって、ひどいことをたくさん言い合って、お互いを傷つけた。
大好きだったはずなのに、今も大好きなのに、憎たらしくてたまらなかったから。
「ダメだ。私たち、終わりだね。多分、私たちわかり合えないよ」
お互い言いたいことをぶちまけ合って、やがてマコが呟くように言った。
「アリサとは親友だと思ってたけど、もうそれも昔の話なんだね。今のアリサとは、もう無理だよ」
「なに、それ……。そっちが勝手なことばっかりしてるくせに! 私は、今まで通りマコと────」
「アリサ」
私がまた声を荒げかけたのを、マコは静かに制した。
「何度も言ってるでしょ? 変わったの、いろんなことが。今まで通りにはいかないんだよ」
「っ…………」
その冷め切った声に、私は全てが終わったことを悟った。
もう私たちは戻れない。あの頃には戻れないんだって。
「私は、マコが好きなのに。大好きなのに、どうして……」
「……うん。でもそれは昔の私でしょ? 今の私のことは、好きになれないくせに」
その言葉が、何よりも私の心を深く抉って。
「そんなに今の私が嫌いなら、別にそれでもいいよ。でも私は今更昔には戻れないし。だから、私のことは死んだとでも思ってくれていいから。アリサが大好きな私は、もうこの世にいないって」
そんな言葉を最後に、マコは私の前から姿を消してしまった。
もちろん連絡はそれ以降全く来なくって、会うことだって当然なくて。
私はその後のマコのことを一切知ることはなかった。
でも、それでいいと思った。
変わってしまった、私の知らないマコを見続けるくらいなら。
彼女が言った通り、マコは死んでしまったとでも思って、この気持ちに蓋をするのが一番いいんだろうって。
マコとの思い出も、親友として友情も、この恋心も。
全てもういなくなった人への想い。
どんなに募らせても、何の発展性もない過去のもの。
そうして私の高校時代の親友は、私の恋は、消えてなくなったんだ。
────────────
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~
雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。
元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。
※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。
ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました
中七七三
恋愛
わたしっておかしいの?
小さいころからエッチなことが大好きだった。
そして、小学校のときに起こしてしまった事件。
「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」
その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。
エッチじゃいけないの?
でも、エッチは大好きなのに。
それでも……
わたしは、男の人と付き合えない――
だって、男の人がドン引きするぐらい
エッチだったから。
嫌われるのが怖いから。
【短編】睨んでいませんし何も企んでいません。顔が怖いのは生まれつきです。
cyan
BL
男爵家の次男として産まれたテオドールの悩みは、父親譲りの強面の顔。
睨んでいないのに睨んでいると言われ、何もしていないのに怯えられる日々。
男で孕み腹のテオドールにお見合いの話はたくさん来るが、いつも相手に逃げられてしまう。
ある日、父がベルガー辺境伯との婚姻の話を持ってきた。見合いをすっ飛ばして会ったこともない人との結婚に不安を抱きながら、テオドールは辺境へと向かった。
そこでは、いきなり騎士に囲まれ、夫のフィリップ様を殺そうと企んでいると疑われて監視される日々が待っていた。
睨んでないのに、嫁いだだけで何も企んでいないのに……
いつその誤解は解けるのか。
3万字ほどの作品です。サクサクあげていきます。
※男性妊娠の表現が出てくるので苦手な方はご注意ください
【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!
Bu-cha
恋愛
ずっと好きだった初恋の相手、社長の弱みを握る為に頑張ります!!にゃんっ♥
財閥の分家の家に代々遣える“秘書”という立場の“家”に生まれた加藤望。
”秘書“としての適正がない”ダメ秘書“の望が12月25日の朝、愛している人から連れてこられた場所は初恋の男の人の家だった。
財閥の本家の長男からの指示、”星野青(じょう)の弱みを握ってくる“という仕事。
財閥が青さんの会社を吸収する為に私を任命した・・・!!
青さんの弱みを握る為、“ダメ秘書”は今日から頑張ります!!
関連物語
『お嬢様は“いけないコト”がしたい』
『“純”の純愛ではない“愛”の鍵』連載中
『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位
『好き好き大好きの嘘』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位
『約束したでしょ?忘れちゃった?』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位
※表紙イラスト Bu-cha作
(タイトル変更予定あり)前世悪役令嬢だった私が前世の婚約者に溺愛されています
荷居人(にいと)
恋愛
名前真面目版とネタ名前原作版と同じ話がありますが、来世編より話の流れは一緒でも名前変更により話内容が修正されていたりしますのでお好みの方もしくはどちらもお読みいただけたらと思います!
「君と婚約の解消をしたい」
「はい、承知いたしました」
私の初恋の人で最後の恋となる人、その相手は私の婚約者。今その立場がなくなろうとしている。
理由はわかっているし、私がそう仕向けたこと。本当は叫びたい。まだ貴方が好きで仕方ないと。貴方しか私にはいないのだと。
それでも私は貴方を幸せにはできないから、この恋は諦めるの。
「最後にひとつ聞きたい。何故あんなことを?」
「私、貴方がずっと大嫌いでしたから嫌がらせですわ」
私、貴方がずっとこれからも大好きです。
心と言葉に矛盾を持って泣き叫ぶ心の悲鳴は見てみぬふり。どうか、あの子とお幸せに。
それから婚約の解消をされた3日後に私はようやく死を迎えた。
令和元年7月8日21時50分
恋愛ランキング3位
人気ランキング3位
HOTランキング1位
令和元年7月9日18時36分
恋愛ランキング2位
人気ランキング2位
HOTランキング1位
ありがとうございます!
7/8、婚約破棄→婚約の解消としてほぼ全てのページ訂正いたしました。知識足らずすみません。
総務部長大河原敏行のモフモフ異世界転生日記〜苦労性のおっさんは、世界を渡っても苦労する〜
清水柚木
ファンタジー
総務部長大河原敏行が、神様に殺されて転生する話です!
※異世界転生するおっさんが書きたかっただけです。
※設定は後付け。
※書きたいように書いてるので、予測不明。
そんなやりたい放題の話です。
「君が好きだ」というために~憧れだった天使に彼氏ができたのでその親友と付き合います(偽装)〜
凜
恋愛
好きだったクラスの絶世の美少女、黒田雅に彼氏がいると知った僕―松原伊織はものすごいショックを受け、屋上で双眼鏡を掲げ、自分を慰めていた。
でも、その直後に黒田さんに近づくためにと友達の星月あかりに偽装恋愛(?)を持ち掛けられ、それを承認して星月さんとともに黒田さんに近づくために努力することになった!
星月さんとはもともと仲が良かったし大丈夫だね!
多分しばらく毎日更新します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる