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第2話 仲良しの証 1/3
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高校生の頃、私たちはいつも一緒にいた。
朝は学校の最寄駅で待ち合わせをして登校したり、休み時間のたびにマコが私の席に来ておしゃべりしたり、お昼のお弁当を食べたり。
二人とも部活には入っていなかったから、下校の時だっていつも一緒だった。
帰り道はいつも決まって寄り道をした。
たまに足を伸ばして電車に乗って大きな駅に出ることもあったけれど、大抵は最寄駅に併設されたちょっとした商業施設が私たちの溜まり場。
中を適当にぶらぶらしながらお店を冷やかして、飽きたらフードコートに居座って日が暮れるまで取り留めもないお喋りをした。
そんななんでもない日々を、私たちは三年間繰り返していた。
飽きたことはなかった。一生続けばいいとすら思っていた。
今から思えばあれは、私にとって確実に青春と呼べる日々だった。
「何かアリサとお揃いのものがホシイ~!」
高校一年の、入学して一ヶ月くらい経った時のことだった。
その時にはすっかり私たちの『一緒』は始まっていて、並んで歩く下校もすっかり定番になっていた。
いつものように私の腕にしがみ付いていたマコが、不意にそんなことを言い出した。
「お揃いって、なにを?」
「えーなんでもいいけどぉ。でもなんかこう、私たち仲良し!みたいな証が欲しくない?」
「なにそれ~」
なんだかふわっとしたことを全力で訴えてくるマコに、私は思わず笑ってしまった。
この一ヶ月ほどでマコの語彙の足りなさというか、こういう漠然とした話し方にはすっかり慣れてしまっていたけれど。
でも気持ちを表す術を知らない子供のような表現は、とても可愛らしかった。
「ちょっとバカにしてんのぉ? 私、アリサとの友情に真剣なんですけど~?」
「ごめんごめん。わかったから。じゃあなんか探しに行こうか、私たちの仲良しの証」
私の腕をぐいぐい引きながら唇を尖らせるマコに、私はまた笑いながらも頷いて。
すればマコはすっかりご機嫌になって、歩みは少し早くなった。
腕を抱き込まれている私はそれに引きずられるように足を早めなくちゃいけなくて、でもそれがなんだか楽しかった。
探す場所なんていうのは当然限られていて、その後三年間通い詰めることになる駅の商業施設。
この時点でもすでに何回も二人で訪れていて、大抵のお店はバッチリ把握していた。
マコは既に探すアテをつけていたようで、私を何度か買い物をしたことがある雑貨屋さんに連れ込んだ。
ちょっとファンシーめなものが多いそのお店は、いかにも中高生が好みそうな可愛らしいものにあふれていた。
頻繁に訪れていたせいで大抵の商品は見慣れていたけれど、マコと二人であーだこーだと言いながら物色するだけで楽しかった。
「ねぇアリサ! これ見て、これ! かわいくなーい?」
真剣な眼差しでアイテムを見回していたマコは、唐突にお店の隅へと駆け寄った。
もちろん私の腕はしっかりと絡め取られているから、私もまた引きずられて駆け足にならざるを得ない。
そんな風にして彼女が見つけたのは、なんとも絶妙にブサイクなウサギのマスコットストラップだった。
「これヤバ。キモいけどカワイイ! ねぇこれにしない?」
「えっと、何を?」
「私たちが仲良しの証に決まってんじゃん!」
何を探してたから忘れてたのかー!とむくれるマコ。
そんな彼女の手に握られているウサギのマスコットを見て、私はどうしても二つ返事で同意することができなかった。
この顔のパーツが全部とっ散らかって離れまくってるブサイクなウサギが、私たちの仲良しの証になるのかと疑問を覚えずにはいられなくて。
正直、私には可愛さが全く理解できなかった。
キモカワというジャンルはもちろんわかるけれど、この子に愛嬌を見出すことはできなくて。
でもマコはすっかり気に入ったみたいで、そのぬいぐるみマスコットの個体差を見比べ始めていた。
「ねぇねぇ良くない? いくつか色あるし、色違いのオソロにしよーよ~」
「もぅ、しょーがないなぁ。じゃあ私のはなるべくブサイクじゃないの選んでよ?」
「やったね! アリサのはちょー絶妙にキモくてカワイイのにする!」
私が諦めて頷くと、マコはそう言って意気揚々と選別を始めた。
結果として私の手に押し込まれたのは、どう控えめに見てもブサイクで、一際作りが荒いように思われる子だった。
ただマコが手にするそれも同じくらいの悲惨さだったので、これが彼女の可愛いなのだと理解するしかなかった。
「私がピンクでアリサがブルー! これで揃い決まりだね!」
「そうだね」
後に分かったのは、マコが結構こういったゲテモノに弱いらしいということ。
その後の高校生活の中で、似たようなことは何度もあった。
私の趣味には全く合わない。でもそれらに目を輝かせるマコのことは可愛いと思った。
だからこの時も、そしてそれからも、私はそんなマコに付き合って。
ご機嫌絶好調なその笑顔に倣ってニッコリ頷くのだった。
幸いこのマスコットストラップはさほど大きくない。
どこにつけてもそう悪目立ちはしなかった。
それからマコの決めた通りに、私たちはスクールバッグの同じ所にストラップを括り付けた。
マスコットは趣味に合わないし、そもそもこれはお店の量産品だ。
でもそれでも、マコと同じものを同じように身につける、それだけで心が躍った。
これが仲良しの証を持つことかって、その時やっとあのぼやっとした力説を理解した。
それからはいつものように施設の中をぷらぷらして、適当なウィンドウショッピング。
いつもと同じなのに、でもいつもとちょっと違うようななんだかヘンテコな気分で。
それはどうやらマコも同じだったようで、珍しいことを言い出した。
「ねぇ、プリ撮ろうよ、プリ!」
申し訳程度のゲームコーナーの前にやってきたところで、マコはぴょんと飛び跳ねた。
「そういえば私たち、まだ一回も一緒に撮ったことないじゃん! 撮ろうよ、てか撮らなきゃ! ねぇ?」
「わ、わかったわかった」
子犬のようにキャンキャンと声をあげるマコに、私はもう頷くしかなかった。
私は実のところプリクラ、というか写真自体があんまり得意じゃないから、マコにそう言い出されないようにいつもはなんとなくゲームコーナーを避けていた。
でもこの日それを怠ってしまったのは、きっと初めてのお揃いでかなり浮かれていたからだ。
「私たちの友情の証記念に、ね!」
「あれ、仲良しの証じゃなかったけ?」
「どっちも同じ! とにかく私たちが親友ってことなんだから!」
「親友。そうだね」
二人で半分ずつお金を機械に入れて、マコに連れ込まれるようにプリクラの機械へと足を踏み入れる。
いつも二人一緒でしょっちゅう引っ付いているのに、仕切られた空間に入った途端、なんだかとても気恥ずかしい気がした。
ちょっぴりソワソワした私をよそに、なんだか手慣れた風なマコはフレームなんかの写真の種類をどんどん選んでいく。
初めてとは言わないまでも不慣れな私は、そんな彼女に全部任せっきりだった。
その後の撮影タイムも終始ぎこちなかった私は、もうマコに言われるがままのポーズを決めることしかできなかった。
目まぐるしい撮影が終わって訪れた落書きタイム。
昔にちょっとやったことがあるけれど、その頃に比べればかなり進化していて私はあんまりついていけなかった。
けれどマコはといえば、慣れた手つきで写真にいろんな落書きやスタンプを加えていっていた。
じゃあそのままマコに任せちゃえばいいかななんて思っていたら、時間ないから分担しないとと半分任されてしまって。
仕方なく、お互いの名前とか、友達とか仲良しとか、そんなこと書いてみたけれど。
プリントされた写真シールを見たら、キラッキラにデコレーションされたマコ作のものとは出来栄えが雲泥の差だった。
それでも、たくさんのハートやマコの丸文字に囲まれた私たち二人の写真を見て、なんだかとっても満たされた気持ちになって。
ぎこちなく味気ない私作のものでさえ、なんだが輝いているように思えた。
私たちは仲良しなんだって、親友なんだって、特別な存在なんだって、実感できたから。
それから幾度となく繰り返すありふれた日常の思い出。
でも私にとっては、かけがえのない輝かしい日々の記憶。
私たちがさりげなく、でも確実に、初めて親友と口にした日のこと。
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朝は学校の最寄駅で待ち合わせをして登校したり、休み時間のたびにマコが私の席に来ておしゃべりしたり、お昼のお弁当を食べたり。
二人とも部活には入っていなかったから、下校の時だっていつも一緒だった。
帰り道はいつも決まって寄り道をした。
たまに足を伸ばして電車に乗って大きな駅に出ることもあったけれど、大抵は最寄駅に併設されたちょっとした商業施設が私たちの溜まり場。
中を適当にぶらぶらしながらお店を冷やかして、飽きたらフードコートに居座って日が暮れるまで取り留めもないお喋りをした。
そんななんでもない日々を、私たちは三年間繰り返していた。
飽きたことはなかった。一生続けばいいとすら思っていた。
今から思えばあれは、私にとって確実に青春と呼べる日々だった。
「何かアリサとお揃いのものがホシイ~!」
高校一年の、入学して一ヶ月くらい経った時のことだった。
その時にはすっかり私たちの『一緒』は始まっていて、並んで歩く下校もすっかり定番になっていた。
いつものように私の腕にしがみ付いていたマコが、不意にそんなことを言い出した。
「お揃いって、なにを?」
「えーなんでもいいけどぉ。でもなんかこう、私たち仲良し!みたいな証が欲しくない?」
「なにそれ~」
なんだかふわっとしたことを全力で訴えてくるマコに、私は思わず笑ってしまった。
この一ヶ月ほどでマコの語彙の足りなさというか、こういう漠然とした話し方にはすっかり慣れてしまっていたけれど。
でも気持ちを表す術を知らない子供のような表現は、とても可愛らしかった。
「ちょっとバカにしてんのぉ? 私、アリサとの友情に真剣なんですけど~?」
「ごめんごめん。わかったから。じゃあなんか探しに行こうか、私たちの仲良しの証」
私の腕をぐいぐい引きながら唇を尖らせるマコに、私はまた笑いながらも頷いて。
すればマコはすっかりご機嫌になって、歩みは少し早くなった。
腕を抱き込まれている私はそれに引きずられるように足を早めなくちゃいけなくて、でもそれがなんだか楽しかった。
探す場所なんていうのは当然限られていて、その後三年間通い詰めることになる駅の商業施設。
この時点でもすでに何回も二人で訪れていて、大抵のお店はバッチリ把握していた。
マコは既に探すアテをつけていたようで、私を何度か買い物をしたことがある雑貨屋さんに連れ込んだ。
ちょっとファンシーめなものが多いそのお店は、いかにも中高生が好みそうな可愛らしいものにあふれていた。
頻繁に訪れていたせいで大抵の商品は見慣れていたけれど、マコと二人であーだこーだと言いながら物色するだけで楽しかった。
「ねぇアリサ! これ見て、これ! かわいくなーい?」
真剣な眼差しでアイテムを見回していたマコは、唐突にお店の隅へと駆け寄った。
もちろん私の腕はしっかりと絡め取られているから、私もまた引きずられて駆け足にならざるを得ない。
そんな風にして彼女が見つけたのは、なんとも絶妙にブサイクなウサギのマスコットストラップだった。
「これヤバ。キモいけどカワイイ! ねぇこれにしない?」
「えっと、何を?」
「私たちが仲良しの証に決まってんじゃん!」
何を探してたから忘れてたのかー!とむくれるマコ。
そんな彼女の手に握られているウサギのマスコットを見て、私はどうしても二つ返事で同意することができなかった。
この顔のパーツが全部とっ散らかって離れまくってるブサイクなウサギが、私たちの仲良しの証になるのかと疑問を覚えずにはいられなくて。
正直、私には可愛さが全く理解できなかった。
キモカワというジャンルはもちろんわかるけれど、この子に愛嬌を見出すことはできなくて。
でもマコはすっかり気に入ったみたいで、そのぬいぐるみマスコットの個体差を見比べ始めていた。
「ねぇねぇ良くない? いくつか色あるし、色違いのオソロにしよーよ~」
「もぅ、しょーがないなぁ。じゃあ私のはなるべくブサイクじゃないの選んでよ?」
「やったね! アリサのはちょー絶妙にキモくてカワイイのにする!」
私が諦めて頷くと、マコはそう言って意気揚々と選別を始めた。
結果として私の手に押し込まれたのは、どう控えめに見てもブサイクで、一際作りが荒いように思われる子だった。
ただマコが手にするそれも同じくらいの悲惨さだったので、これが彼女の可愛いなのだと理解するしかなかった。
「私がピンクでアリサがブルー! これで揃い決まりだね!」
「そうだね」
後に分かったのは、マコが結構こういったゲテモノに弱いらしいということ。
その後の高校生活の中で、似たようなことは何度もあった。
私の趣味には全く合わない。でもそれらに目を輝かせるマコのことは可愛いと思った。
だからこの時も、そしてそれからも、私はそんなマコに付き合って。
ご機嫌絶好調なその笑顔に倣ってニッコリ頷くのだった。
幸いこのマスコットストラップはさほど大きくない。
どこにつけてもそう悪目立ちはしなかった。
それからマコの決めた通りに、私たちはスクールバッグの同じ所にストラップを括り付けた。
マスコットは趣味に合わないし、そもそもこれはお店の量産品だ。
でもそれでも、マコと同じものを同じように身につける、それだけで心が躍った。
これが仲良しの証を持つことかって、その時やっとあのぼやっとした力説を理解した。
それからはいつものように施設の中をぷらぷらして、適当なウィンドウショッピング。
いつもと同じなのに、でもいつもとちょっと違うようななんだかヘンテコな気分で。
それはどうやらマコも同じだったようで、珍しいことを言い出した。
「ねぇ、プリ撮ろうよ、プリ!」
申し訳程度のゲームコーナーの前にやってきたところで、マコはぴょんと飛び跳ねた。
「そういえば私たち、まだ一回も一緒に撮ったことないじゃん! 撮ろうよ、てか撮らなきゃ! ねぇ?」
「わ、わかったわかった」
子犬のようにキャンキャンと声をあげるマコに、私はもう頷くしかなかった。
私は実のところプリクラ、というか写真自体があんまり得意じゃないから、マコにそう言い出されないようにいつもはなんとなくゲームコーナーを避けていた。
でもこの日それを怠ってしまったのは、きっと初めてのお揃いでかなり浮かれていたからだ。
「私たちの友情の証記念に、ね!」
「あれ、仲良しの証じゃなかったけ?」
「どっちも同じ! とにかく私たちが親友ってことなんだから!」
「親友。そうだね」
二人で半分ずつお金を機械に入れて、マコに連れ込まれるようにプリクラの機械へと足を踏み入れる。
いつも二人一緒でしょっちゅう引っ付いているのに、仕切られた空間に入った途端、なんだかとても気恥ずかしい気がした。
ちょっぴりソワソワした私をよそに、なんだか手慣れた風なマコはフレームなんかの写真の種類をどんどん選んでいく。
初めてとは言わないまでも不慣れな私は、そんな彼女に全部任せっきりだった。
その後の撮影タイムも終始ぎこちなかった私は、もうマコに言われるがままのポーズを決めることしかできなかった。
目まぐるしい撮影が終わって訪れた落書きタイム。
昔にちょっとやったことがあるけれど、その頃に比べればかなり進化していて私はあんまりついていけなかった。
けれどマコはといえば、慣れた手つきで写真にいろんな落書きやスタンプを加えていっていた。
じゃあそのままマコに任せちゃえばいいかななんて思っていたら、時間ないから分担しないとと半分任されてしまって。
仕方なく、お互いの名前とか、友達とか仲良しとか、そんなこと書いてみたけれど。
プリントされた写真シールを見たら、キラッキラにデコレーションされたマコ作のものとは出来栄えが雲泥の差だった。
それでも、たくさんのハートやマコの丸文字に囲まれた私たち二人の写真を見て、なんだかとっても満たされた気持ちになって。
ぎこちなく味気ない私作のものでさえ、なんだが輝いているように思えた。
私たちは仲良しなんだって、親友なんだって、特別な存在なんだって、実感できたから。
それから幾度となく繰り返すありふれた日常の思い出。
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