上 下
900 / 984
第8章 私の一番大切なもの

72 国が敵に

しおりを挟む
 D7の言葉に、私たちは口をあんぐりと開けてしまった。
 城が乗っ取られているだなんて。ましてロード・ケインに。
 状況が突拍子もなさすぎて、うまく飲み込むことができなかった。

「ロード・ケインは、アンタよりも先に城に入って、王族特務に嘘の報告をしたんだろ。つまりは、アンタが国を裏切って、魔女と手を組んでよからぬことを企んでる、みたいなことをさ」
「で、でも、そんなことで国の方針が簡単に変わっちゃうものなの? 自分で言うのもなんだけど、私はこの国の姫なのに。ロード・ケインの言葉だけで狙われちゃうだなんて……」

 ロード・ケインから敵視されるならまだしも、国の魔法使い全体から狙われるのは、どうも納得いかなかった。
 この国の人たちは、私がいなくなってからもお姫様として扱ってくれていたわけだし、そんな私を簡単に敵とみなすとは思えなくて。

「俺もその場にいたわけじゃねぇから、どうしてそうなったかまではわかんねぇけど。まぁ大方、ロード・ケインが都合のいいこと、ある事ない事言ったんだろうぜ。あの人、口はうまいからなぁ」

 思わず強めに尋ねてしまった私に、D7は困ったように眉を寄せた。
 確かに、一介の魔女狩りである彼に詳細を尋ねても、王城の内情なんてわかるわけがなかった。

「……ロード・ケインがどういう手段を使ったのかはわからなけれど。でもそういう話なら、確かに王族特務を納得させるやり方はあるかも。だって、アリスが魔女を擁護していることはみんな知ってるから」

 アリアは眉間にシワを寄せながら、言いにくそうに口を開いた。
 私の方に、控えめな視線を向けてくる。

「昔から、アリスは魔女狩りという行為そのものに否定的だったし、魔女を助けたいってことも言ってた。それに加えて、昨日ワルプルギスの襲撃を止めた時、魔女の味方をしているように、見ようとすれば見えなくも……」
「つまりロード・ケインは、アリスの魔女も守りたいって思想を利用して、レジスタンスの魔女に加担したっていう話を信じさせたってことか? 汚ねぇやり方しやがって」

 アリアの予測にレオは歯を剥いて唸った。
 私が今まで主張してきたことが、彼の嘘を補強して、私への疑いを生ませてしまっていたんだ。
 私には国を救った実績があるから、今まではその考え方そのものを危険視されたりはしなかったけれど。
 魔女に味方し魔法使いに敵対したという事実を捏造されたことで、今まで流されていたことも疑いの材料になってしまった、ということ……。

「それに多分、すぐにアリスが城に行けない状況だったってことも大きいと思う。ロード・ケインの言葉を否定できる人がいなくて、アリス自身の所在が不明ってなると、王族特務としては君主ロードである彼の言葉を信じるしかないし」
「私がまずお城に登ってれば、こんなことにはなってなかったのかな……」

 私情を優先して氷室さんをまず探そうとしたから、ロード・ケインに先を越されてしまったのかもしれない。
 この様子だと、クリアちゃんのやろうとしていうことに私が加担してるとか、ロード・デュークスを倒したのは私だとか、色々と罪を擦りつけられてる可能性もある。
 今更後悔しても仕方がないけれど、もう少し冷静に状況を判断するべきだったかもしれない。

「まぁ詳しいところは想像するしかねぇが、ロード・スクルドも似たようなことを言ってたぜ。まぁそういう感じで、少し前に王族特務が声明を出して、反逆者たる魔女の討伐と、それを幇助ほうじょしてる姫様を捕らえろってことになったんだ。その陣頭指揮をとってるのがロード・ケインで、魔法使いは役職問わず従事しろってのがお達しってわけだ」

 それが現状だと、D7は淡々と言った。
 話し方は相変わらず軽々しいけれど、でもこの切迫した状況に面持ちは暗めだ。

「もちろん、姫様に加担してる奴は魔法使いでも敵だってことで、お陰で俺たちももう反逆者扱いだ。まぁロード・スクルドはこっちに義があるってんで、姫様に協力するのはやめないつってるし、魔女狩りは基本そのスタンスだ」
「迷惑をかけてごめんなさい。でも、魔女狩りの人たちがそのまま味方でいてくれてよかった。もしみんなも敵側に回っちゃてたら、国を丸ごと敵に回すみたいなものだったし」
「まぁでも、現状はほぼそんな感じだぜ? 魔女狩り以外の魔法使いは全員あっち側だしな。民意も今は姫様に否定的だろうし、敵の方が圧倒的に多い状況だ。一応聞いとくけどよ、それでもアンタは戦い続けるか?」

 軽やかな調子で、けれど鋭い瞳でD7は尋ねてきた。
 本来味方である人たち、守るべき人たちまでも敵に回った状況でも、まだ立ち上がれるのかと。
 戦う必要のない人たちとぶつからざるを得なく、あらゆる人たちから非難を受ける状況。
 世界を守ろうとしているのに、みんなを守ろうとしているのに、国と世界に仇を為そうとしていると思われても尚、戦えるのか。

 そんなこと、聞かれるまでもない。

「もちろん。これくらいで挫けたりしないよ。味方をしてくれる人たちはいるし、私は一人じゃない。沢山の人に誤解されていたって、私は自分の気持ちと、私を信じてくれる人たちを信じてるから」

 寄り添ってくれるレオとアリア、それにこうして助けてくれたD7とクリスティーン。
 ロード・ケインの奸計に惑わされず、私の意思を汲んで貫き続けてくれているロード・スクルドと魔女狩りの人たち。
 そして想定外の危険な状況の中でも奮闘してくれている、レイくんと魔女たち。
 みんなのことを思えば、立ち止まる理由なんて一つも浮かばなかった。

 みんなを見渡して答えると、D7は薄く笑った。

「アンタならそう言うと思ってたぜ。って、俺が言うなよって思うかもだけど」
「そんなこと別に思わないよ」
「相変わらずお優しいねぇ────とにかく、まぁそういう状況だ。俺たち魔女狩りは、ロード・スクルドの指揮下で、アンタを守りながらクリアランス・デフェリアを捜索するって方針になってる。他の魔法使いとのいざこざも承知の上だ」

 D7は眉を上げて苦笑すると、少し周りを気にしながらそう言った。
 そろそろ身を隠しているのも限界かもしれない。

「俺はアンタらを発見次第、こうして状況を説明するように言われてたんだ。他の奴より、アンタと面識があった方がスムーズだろうってことでさ。まぁ、それもどうかと思ったんだけどよ」
「ううん、そんなことないよ。助けてもらえてありがたかったし。それで、私たちはロード・スクルドと一旦合流しようと思ってたんだけど、どこに行けばいいかな?」
「あぁ……それなんだけどよ。ロード・スクルドから伝言だ。姫様は自分のやることを優先しろってさ」
「え、でも……」

 私が城に行けなかったからこそこうなっちゃっているのに、本当にそれでいいのかな。
 私が戸惑っていると、D7も首を捻った。

「ロードいわく、こうなった以上城の意向を変えるよりも、クリアランス・デフェリアを見つける方が優先だそうだ」
「お城の人たちとかみんなを説得してる時間があるなら、問題のクリアちゃんに対処した方がいいってこと?」
「あぁ。ロード・ケインが乗っ取ってる以上、それを覆すのは、今更姫様が出向いても簡単じゃねぇだろうからな。そこら辺の判断は、まぁロードに任せていいんじゃねぇの?」

 D7もあまり深く考えていない感じで、そこは少し気になったけれど。
 でも確かに、ロード・スクルドが考えた上でそう言っているのなら、その方がいいかもしれない。

 魔法使いに気を取られているうちに、クリアちゃんがジャバウォックを呼び寄せてしまうかもしれないし、むしろロード・ケインはそれを狙っているのかもしれない。
 それを思えばやっぱりクリアちゃんの捜索こそが優先で、そしてそれをしながら氷室さんを探すのが優先だ。
 それにロード・スクルド自身、氷室さんの身を案じているというのもあるかもしれない。

 敵が多い状況は決して好ましくないけれど、でもクリアちゃんを押さえられれば全てひっくり返せる。
 そのためにもまずは、私は当初の予定通りまず氷室さんを探すことに専念するべきだ。

「つーわけで、頼んだぜ姫様。肝心要はアンタだからな。クリアランス・デフェリアには、俺も因縁があるんだ。勝手だけどよ、アンタがケジメをつけてくれることを期待してんのさ」
「……? D7も、クリアちゃんと……?」

 私が頷くと、D7はヘラッと笑ってそう言った。
 調子が軽いものだから思わず突っ込んで聞いてしまったけれど、ちょっと不躾だったかもしれない。
 すぐに取り消そうとしたけれど、D7は特に気にした様子もなく、でも少しだけ寂しそうに頷いた。

「ああ。コイツ……クリスティーンを殺したのは、クリアランス・デフェリアだからな」

 そう言ってD7は、クリスティーンを優しく抱きしめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美少女だらけの姫騎士学園に、俺だけ男。~神騎士LV99から始める強くてニューゲーム~

マナシロカナタ✨ラノベ作家✨子犬を助けた
ファンタジー
異世界💞推し活💞ファンタジー、開幕! 人気ソーシャルゲーム『ゴッド・オブ・ブレイビア』。 古参プレイヤー・加賀谷裕太(かがや・ゆうた)は、学校の階段を踏み外したと思ったら、なぜか大浴場にドボンし、ゲームに出てくるツンデレ美少女アリエッタ(俺の推し)の胸を鷲掴みしていた。 ふにょんっ♪ 「ひあんっ!」 ふにょん♪ ふにょふにょん♪ 「あんっ、んっ、ひゃん! って、いつまで胸を揉んでるのよこの変態!」 「ご、ごめん!」 「このっ、男子禁制の大浴場に忍び込むだけでなく、この私のむ、む、胸を! 胸を揉むだなんて!」 「ちょっと待って、俺も何が何だか分からなくて――」 「問答無用! もはやその行い、許し難し! かくなる上は、あなたに決闘を申し込むわ!」 ビシィッ! どうやら俺はゲームの中に入り込んでしまったようで、ラッキースケベのせいでアリエッタと決闘することになってしまったのだが。 なんと俺は最高位職のLv99神騎士だったのだ! この世界で俺は最強だ。 現実世界には未練もないし、俺はこの世界で推しの子アリエッタにリアル推し活をする!

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 よろしくお願いいたします。 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが集団お漏らしする話

赤髪命
大衆娯楽
※この作品は「校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話」のifバージョンとして、もっと渋滞がひどくトイレ休憩云々の前に高速道路上でバスが立ち往生していた場合を描く公式2次創作です。 前作との文体、文章量の違いはありますがその分キャラクターを濃く描いていくのでお楽しみ下さい。(評判が良ければ彼女たちの日常編もいずれ連載するかもです)

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

私たち、博麗学園おしがまクラブ(非公認)です! 〜特大膀胱JKたちのおしがま記録〜

赤髪命
青春
街のはずれ、最寄り駅からも少し離れたところにある私立高校、博麗学園。そのある新入生のクラスのお嬢様・高橋玲菜、清楚で真面目・内海栞、人懐っこいギャル・宮内愛海の3人には、膀胱が同年代の女子に比べて非常に大きいという特徴があった。 これは、そんな学校で普段はトイレにほとんど行かない彼女たちの爆尿おしがまの記録。 友情あり、恋愛あり、おしがまあり、そしておもらしもあり!? そんなおしがまクラブのドタバタ青春小説!

【R18】異世界魔剣士のハーレム冒険譚~病弱青年は転生し、極上の冒険と性活を目指す~

泰雅
ファンタジー
病弱ひ弱な青年「青峰レオ」は、その悲惨な人生を女神に同情され、異世界に転生することに。 女神曰く、異世界で人生をしっかり楽しめということらしいが、何か裏がある予感も。 そんなことはお構いなしに才覚溢れる冒険者となり、女の子とお近づきになりまくる状況に。 冒険もエロも楽しみたい人向け、大人の異世界転生冒険活劇始まります。 ・【♡(お相手の名前)】はとりあえずエロイことしています。悪しからず。 ・【☆】は挿絵があります。AI生成なので細部などの再現は甘いですが、キャラクターのイメージをお楽しみください。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・思想・名称などとは一切関係ありません。 ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません ※この物語のえちちなシーンがある登場人物は全員18歳以上の設定です。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...