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第0章 Dormire
24 孤独な旅の始まり
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『にんげんの国』と呼ばれるこの国は、とある大陸の内部にある。
世界には他に六つの国があり、この大陸には他に『どうぶつの国』と『ようせいの国』が存在する。
海を越えた先にある別の大陸には『おかしの国』と『おもちゃの国』があり、『りゅうの国』は海の果ての孤島にあるという。
そして、『にんぎょの国』があるのは深い海の底。
それが、私の頭の中に自然と存在したこの世界の情報。
他にも陸地はあるようだけれど、そこで独自に文明を築いているヒトはいないようだった。
広い大陸の中でもどの国にも属さない土地は多く、ヒトの手は世界全土に届いてはいない。
それでも、『にんげんの国』を含む七ヶ国はある程度の交流を持ち、取り立てた争い事はないようだった。
ヒトとはつまらないことで揉めるものだと思うけれど、国ごとの距離が遠いことや、未開拓の地が多いこと、また種族ごとの違いが大きいことで、目立った争いに発展しないのかもしれない。
存在のあり様が違えば求めるものは違い、過ごす環境も異なる。
取り合うものがなければ、わざわざ争うこともないのかもしれない。
ただ、それがいつまで持つのかはわからないけれど。
私が住んでいた森は『にんげんの国』の国外れにある。
だから南下して森を出れば、そのまま国外へと出ることができた。
何か仕切りがるわけでもなく、ただそうと決められているだけだから、特に実感はなかったけれど。
国外の土地に広がっていたのは、森の北側と同じ様な草原だった。
少し先にはいくつかの山が見て取れ、そこへ向けてはいつくかの勾配があり、道のりは直線ではわからない。
私の知識によれば、山を越えた先に『ようせいの国』があるらしい。
恐らくここから一番近いであろうその国を、私は第一の目的地とした。
人間以外の種族は、それぞれ独自の神秘を世界からもたらされ、それを持って繁栄を築いている。
私が持つ謎の神秘の力について知るためには、他の種族の元を巡るのが一番効率的に思えたからだ。
それに、神秘を持つ他の種族たちは、恐らく人間よりも世界と深い繋がりを持っている。
そう考えれば、私という存在について知ることに対しても、やはり他種属の知識や価値観を知っておいた方がいい。
人間ではないとはいえ、ヒトと接することには並々ならぬ抵抗があるけれど。
それも、自身の探究に必要なことなら最低限の我慢は仕方ない。
それに、深く関わろうとしなければ、暗部に目を向ける必要もないだろうし。
元々これといった所有物がなかった私の旅は、身一つの身軽なものだった。
生活に必要なものは、力を使えばその都度問題なく工面できる。
何かを持つ必要のない私は、いつものワンピース姿の上から黒い外套を羽織り、手ぶらの旅を始めた。
『にんげんの国』の外は動物がとても多く、ヒトは見かけないのに賑やかな道のりだった。
森の中にも色々な動物がいたけれど、深い森のせいか静寂の方が勝っていた。
けれど開けたこの草原では、空を飛ぶ鳥の鳴き声が遠くまで響き渡ったり、小動物が縦横無尽に駆け回っていたりなど、生き生きした様子がよく目立つ。
途中で通りかかった大きな河は、水浴びをしている動物たちで賑わっていた。
静かに水を飲んでいたり、河に入り込んで暴れていたり、川縁で日向ぼっこに興じていたり。
そんな動物たちを尻目に、力で体を浮かせて河を飛び越えようとしたら、沈んでいたカバたちが浮かび上がって連なり橋を作ってくれた。
遠慮なくその背に乗って河を渡りきると、カバたちは何事もなく散り散りになった。
森に住んでいた時もそうだったけれど、基本的に動物たちは世話焼きだと思う。
私が求めていなくても、勝手にやってきて手助けをしてくれることがよくある。
旅の最中も、木陰で休んでいると猿が木の実を分けてくれたり、寝ていたら鹿や兎たちがいつの間にか身を寄せていたり。
『どうぶつの国』に住む動物たちは言葉を介すヒトの様だけれど、そこらにいる動物たちはそうではなく、意思疎通ができるわけではない。
けれど、ヒトよりもよっぽど温かみがある様に思えた。
いや、意志の疎通が図れないからこそ、そう思えるだけかもしれないけれど。
動物たちのお節介がなくても、私の旅に支障はない。
けれどあまりにも自然に与えられる手助けを邪険にする理由もなくて。
私は基本的に、それらを拒むことなく南下の歩みを続けた。
ただ、山を越えようとしていた時に、私の身の丈の三倍もありそうな巨大な鷲に掴まれた時は流石に驚いた。
その鷲の巣がある山の中腹辺りまで運んでくれたのだけれど、危うく襲われたと勘違いして反撃をするところだった。
木々が鬱蒼と下がった緑の山を越え、無骨な岩山を越え、寒々しい雪山を越え。
環境と様相の異なる三つ山を越えたその先には、広大な湖が広がっていた。
対岸が窺えないほどの広く大きな湖は、一瞬海と見間違えるほど。
この湖をどう越えたものか。はたまた大きく迂回した方がいいのか。
どうするべきかと思案しながら湖に近付くと、水面の上に浮かぶ人影が目に止まる。
人間では到底あり得ない芸当に思わず目を凝らして見てみれば、それは全く異なる風体をしたヒトだった。
森から旅立って数日が経った頃のこと。
私は、『ようせいの国』に辿り着いたようだった。
世界には他に六つの国があり、この大陸には他に『どうぶつの国』と『ようせいの国』が存在する。
海を越えた先にある別の大陸には『おかしの国』と『おもちゃの国』があり、『りゅうの国』は海の果ての孤島にあるという。
そして、『にんぎょの国』があるのは深い海の底。
それが、私の頭の中に自然と存在したこの世界の情報。
他にも陸地はあるようだけれど、そこで独自に文明を築いているヒトはいないようだった。
広い大陸の中でもどの国にも属さない土地は多く、ヒトの手は世界全土に届いてはいない。
それでも、『にんげんの国』を含む七ヶ国はある程度の交流を持ち、取り立てた争い事はないようだった。
ヒトとはつまらないことで揉めるものだと思うけれど、国ごとの距離が遠いことや、未開拓の地が多いこと、また種族ごとの違いが大きいことで、目立った争いに発展しないのかもしれない。
存在のあり様が違えば求めるものは違い、過ごす環境も異なる。
取り合うものがなければ、わざわざ争うこともないのかもしれない。
ただ、それがいつまで持つのかはわからないけれど。
私が住んでいた森は『にんげんの国』の国外れにある。
だから南下して森を出れば、そのまま国外へと出ることができた。
何か仕切りがるわけでもなく、ただそうと決められているだけだから、特に実感はなかったけれど。
国外の土地に広がっていたのは、森の北側と同じ様な草原だった。
少し先にはいくつかの山が見て取れ、そこへ向けてはいつくかの勾配があり、道のりは直線ではわからない。
私の知識によれば、山を越えた先に『ようせいの国』があるらしい。
恐らくここから一番近いであろうその国を、私は第一の目的地とした。
人間以外の種族は、それぞれ独自の神秘を世界からもたらされ、それを持って繁栄を築いている。
私が持つ謎の神秘の力について知るためには、他の種族の元を巡るのが一番効率的に思えたからだ。
それに、神秘を持つ他の種族たちは、恐らく人間よりも世界と深い繋がりを持っている。
そう考えれば、私という存在について知ることに対しても、やはり他種属の知識や価値観を知っておいた方がいい。
人間ではないとはいえ、ヒトと接することには並々ならぬ抵抗があるけれど。
それも、自身の探究に必要なことなら最低限の我慢は仕方ない。
それに、深く関わろうとしなければ、暗部に目を向ける必要もないだろうし。
元々これといった所有物がなかった私の旅は、身一つの身軽なものだった。
生活に必要なものは、力を使えばその都度問題なく工面できる。
何かを持つ必要のない私は、いつものワンピース姿の上から黒い外套を羽織り、手ぶらの旅を始めた。
『にんげんの国』の外は動物がとても多く、ヒトは見かけないのに賑やかな道のりだった。
森の中にも色々な動物がいたけれど、深い森のせいか静寂の方が勝っていた。
けれど開けたこの草原では、空を飛ぶ鳥の鳴き声が遠くまで響き渡ったり、小動物が縦横無尽に駆け回っていたりなど、生き生きした様子がよく目立つ。
途中で通りかかった大きな河は、水浴びをしている動物たちで賑わっていた。
静かに水を飲んでいたり、河に入り込んで暴れていたり、川縁で日向ぼっこに興じていたり。
そんな動物たちを尻目に、力で体を浮かせて河を飛び越えようとしたら、沈んでいたカバたちが浮かび上がって連なり橋を作ってくれた。
遠慮なくその背に乗って河を渡りきると、カバたちは何事もなく散り散りになった。
森に住んでいた時もそうだったけれど、基本的に動物たちは世話焼きだと思う。
私が求めていなくても、勝手にやってきて手助けをしてくれることがよくある。
旅の最中も、木陰で休んでいると猿が木の実を分けてくれたり、寝ていたら鹿や兎たちがいつの間にか身を寄せていたり。
『どうぶつの国』に住む動物たちは言葉を介すヒトの様だけれど、そこらにいる動物たちはそうではなく、意思疎通ができるわけではない。
けれど、ヒトよりもよっぽど温かみがある様に思えた。
いや、意志の疎通が図れないからこそ、そう思えるだけかもしれないけれど。
動物たちのお節介がなくても、私の旅に支障はない。
けれどあまりにも自然に与えられる手助けを邪険にする理由もなくて。
私は基本的に、それらを拒むことなく南下の歩みを続けた。
ただ、山を越えようとしていた時に、私の身の丈の三倍もありそうな巨大な鷲に掴まれた時は流石に驚いた。
その鷲の巣がある山の中腹辺りまで運んでくれたのだけれど、危うく襲われたと勘違いして反撃をするところだった。
木々が鬱蒼と下がった緑の山を越え、無骨な岩山を越え、寒々しい雪山を越え。
環境と様相の異なる三つ山を越えたその先には、広大な湖が広がっていた。
対岸が窺えないほどの広く大きな湖は、一瞬海と見間違えるほど。
この湖をどう越えたものか。はたまた大きく迂回した方がいいのか。
どうするべきかと思案しながら湖に近付くと、水面の上に浮かぶ人影が目に止まる。
人間では到底あり得ない芸当に思わず目を凝らして見てみれば、それは全く異なる風体をしたヒトだった。
森から旅立って数日が経った頃のこと。
私は、『ようせいの国』に辿り着いたようだった。
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