上 下
534 / 984
第0.5章 まほうつかいの国のアリス

64 妖精の喧嘩と始まりの力15

しおりを挟む
 壁のようにわたしたちの前にそびえ立った氷の盾。
 キレイな花びらのようにこおって、お花の形のような氷が咲いた。

 そして、それと同じようにわたしの胸元にも氷の華が咲いた。
 まるでブローチみたいに、キラキラ透き通った氷でできたお花が胸の真ん中に現れた。

 胸元のお花も、そしてわたしたちを守ってくれたお花の盾も、両方ともわたしの心の奥底から飛び出したものだってわかる。
 わたしの心につながっている、あられちゃんの気持ちが力を貸してくれてるんだって、そう思えた。

 いつもと同じ心の熱さと、あられちゃんとつながっているあったかさ。
 その二つの力がわたしの心と体をいっぱいにして、今ならなんでだってできるって思った。

「オレの炎を氷で防ぎやがった、だと!?」

『やくめ』をおえた氷の盾がホロホロとくずれて、『どうよう』しているチャッカさんが見えた。
 元々赤い顔をさらに真っ赤にして、歯をガリッと噛みながらわたしたちをにらむ。

 わたしはそんなチャッカさんを見上げてから、すぐにレオとアリアに目を戻して駆け寄った。
 今もう何もこわくないって思えたから、まずはレオのことが心配でたまらなかったんだ。

「レオ、大丈夫!?」
「大、丈夫だ……それよりもお前、今のは……」
「そんなのいいから……!」

 肩を押さえているレオの手は真っ赤で、その顔は青白くなっていた。
 だっていうのにわたしのことを心配するような顔をするもんだから、わたしピシャッと言葉をさえぎった。

 アリアはまだレオのケガにあたふたしていて、涙でぐちゃぐちゃの顔ですがりついたまま。
 ちょっとした傷はよく魔法で治してくれてたけど、血がいっぱい流れてる傷はむずかしいのかな。

 そう思いながらわたしがレオの肩にさわると、傷口がポワッと温かく光り出して、血の流れがゆっくりになった。
 傷が治っていく。それが目に見えてわかった。わたしの力が、レオの傷を治してく。
 レオの顔色もそれに合わせてすーっと良くなっていった。

「アリス、お前、これ……」
「言いたいことは、わかるけど……こんな時くらい自分のこと考えてよ」

 わたしが力を使っていることに、レオは『ふくざつ』な顔をする。
 でもそんなことよりもわたしはレオのことが心配で、何か言いたそうなその顔をムシした。
 そんなわたしにレオもそれ以上は何も言わなくて、だまって光を受け入れた。

「チャッカさん、もうケンカなんてやめようよ!」

 血が止まって、傷口がふさがったことを確認してから、わたしはもう一度空に浮かんでるチャッカさんを見上げた。
 チャッカさんはわたしたちのことを『けいかい』した目でにらみながら、イライラした顔をしている。

「わたし、もうだれにもケガしてほしくないよ。わたしの友達にも、もちろんチャッカさんにも」
「う、うるさい! そうやって油断させて、その力でオレたちを消すつもりなんだろ! オレの力を圧倒的に凌駕する、ドルミーレの魔法の力で……!」
「わたし、そんなことしないよ!」

 やっぱりチャッカさんは聞く耳を持ってくれない。
 わたしが力を使ったから、よけいにわたしのことを『けいかい』してる。

「他人なんて信じられねぇ。そのことはもうよくわかった。ずっと長い間この国を手伝ってきたのに、こんな追い出され方をしたんだ。オレたちは、オレたちをだけを信じる!」

 チャッカさんはブルブルと頭をふりながら、わめくように叫んだ。
 女王様に一方的に追い出されて、とっても傷付いてこまってる。
 その気持ちでいっぱいで、人のことを考えてる『よゆう』なんてないのかもしれない。

 チャッカさんが大きく腕をふり上げると、燃えている山から炎が集まってきて、チャッカさんの周りをグルグルと回った。
 まるで炎のたつまきみたいにうずまいて、チャッカさんを中心に熱い風を振りまく。

「オレたちは消えない。オレたちの炎は消させない。どんな手を使っても、オレたちは生き延びて、いつか国に帰るんだ……!」

 そして、炎のうずまきがバーっとほどけて、たくさんの炎が波のようにふりかかってきた。
 わたしたちのことなんて軽々飲み込んで、この氷の木の林もぜんぶとかしちゃおうとしてるみたいに。

 レオもアリアもソルベちゃんも、みんなハッと息をのんだ。
 目の前がぜんぶ炎でいっぱいで、とてもどうにかなるなんて思えなかったから。
 でもそんなの、わたしはぜったいにいやだ……!

「わたしの友達に、ひどいことしないで!」

 だからわたしは、そうつよく叫んで一歩前に出た。
 その瞬間、またわたしの胸から冷たく透き通った力が駆け抜けて、わたしからふぶきのような衝撃がぶわーっと広がった。

 冷たい風の波のような、透明な力が一瞬で広がってふってきた炎の波にぶつかる。
 すると炎はあっという間に消えちゃって、わたしのふぶきだけがぐんくんとのぼっていった。
 炎のその先、チャッカさんにむかって。

「なに!?」

 そしてふぶきがチャッカさんを飲み込んだ。
 チャッカさんはあわてて自分の体の炎を強くしたけど、ふぶきにつつまれたせいで炎はすぐにしぼんじゃう。
 空に浮かんでいるだけの力がなくなっちゃったのか、チャッカさんは弱々しい燃え方でゆらゆらとゆっくり下に落ちてきた。

「っ…………」

 ゆっくりと地面に落ちてきたチャッカさんは、体の炎はほんのちょっぴりで、ぷるぷるふるえている。
 今のふぶきをあびて弱ってしまったみたいで、ガクッとひざを地面についた。

 地面の雪がチャッカさんの炎でとけて水になって、それが体に当たったのかジュワッと音がした。
 でもチャッカさんはその水をさける力もないみたいで、足の方の炎がどんどん消えそうになっていく。

「あ! き、消えちゃうよ……!」

 自分の体でとかした雪の水が、チャッカさんの炎を消してしまいそうになってる。
 チャッカさんの近くに雪があったらあぶない。
 そう思ってあわてて手を伸ばすと、チャッカさんの周りの雪がザッとどいて、土の地面が見えるようになった。

「お前……」

 地面にひざと手をつきながら、チャッカさんが弱々しくわたしのことを見上げた。
 その真っ赤な顔は、信じられないものを見るようだった。

「今のは、お前か……? どうして、オレを助けたんだ。今のオレは、放っときゃ消えたってのに……」
「消えるなんて、そんなのダメだよ。わたし、チャッカさんにも傷付いてなんてほしくないもん」

 炎が弱くなったからか、さっきまでの強気な『たいど』はなくなっていた。
 わたしはそんなチャッカさんに近付いて、ニッコリ笑って言った。

「ケンカなんて、わたしはしたくないよ。だれにも傷付いてほしくない。みんなで仲良くしようよ」

 チャッカさんはわたしのことをポカンとした顔で見て、ぎゅっと唇を噛んだ。
 もうわたしたちのことを攻撃する気はなさそうで、その目にはじんわりと涙があふれていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

妹を見捨てた私 ~魅了の力を持っていた可愛い妹は愛されていたのでしょうか?~

紗綺
ファンタジー
何故妹ばかり愛されるの? その答えは私の10歳の誕生日に判明した。 誕生日パーティで私の婚約者候補の一人が妹に魅了されてしまったことでわかった妹の能力。 『魅了の力』 無自覚のその力で周囲の人間を魅了していた。 お父様お母様が妹を溺愛していたのも魅了の力に一因があったと。 魅了の力を制御できない妹は魔法省の管理下に置かれることが決まり、私は祖母の実家に引き取られることになった。 新しい家族はとても優しく、私は妹と比べられることのない穏やかな日々を得ていた。 ―――妹のことを忘れて。 私が嫁いだ頃、妹の噂が流れてきた。 魅了の力を制御できるようになり、制限つきだが自由を得た。 しかし実家は没落し、頼る者もなく娼婦になったと。 なぜこれまであの子へ連絡ひとつしなかったのかと、後悔と罪悪感が私を襲う。 それでもこの安寧を捨てられない私はただ祈るしかできない。 どうかあの子が救われますようにと。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

究極妹属性のぼっち少女が神さまから授かった胸キュンアニマルズが最強だった

盛平
ファンタジー
 パティは教会に捨てられた少女。パティは村では珍しい黒い髪と黒い瞳だったため、村人からは忌子といわれ、孤独な生活をおくっていた。この世界では十歳になると、神さまから一つだけ魔法を授かる事ができる。パティは神さまに願った。ずっと側にいてくれる友達をくださいと。  神さまが与えてくれた友達は、犬、猫、インコ、カメだった。友達は魔法でパティのお願いを何でも叶えてくれた。  パティは友達と一緒に冒険の旅に出た。パティの生活環境は激変した。パティは究極の妹属性だったのだ。冒険者協会の美人受付嬢と美女の女剣士が、どっちがパティの姉にふさわしいかケンカするし、永遠の美少女にも気に入られてしまう。  ぼっち少女の愛されまくりな旅が始まる。    

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...