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第6章 誰ガ為ニ
65 難しい理屈
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「もう少しわかりやすく説明してくれないかな? 前とは別のカルマちゃんって言われても、いまいちピンとこないよ」
「もぅ~仕方ないなぁ。お姫様がそこまで言うのなら、もう少し噛み砕いて説明してあげるのもやぶさかではないカルマちゃんなのだ!」
不遜な態度に若干の苛立ちを覚えつつも、私は穏やかに尋ねることにした。
けれどそれは裏目に出たようで、カルマちゃんの増長を煽る結果になってしまった。
ドヤ顔で胸を張るカルマちゃんは、あまりにもバカっぽくて余計にイラっとする。
そんなバカっぽいドヤ顔で仕方ないなぁとマウントを取ってくるものだから、私はともかくカノンさんの苛立ちは目に見えて高まっていた。
「いいから、ちゃっちゃと話せ」
それでも理性で感情を押し殺して、何とか怒声にならない声色で催促するカノンさん。
辛うじて叫んではいないけれど、それでもその語気には苛立ちを含む濁ったものがあった。
「カルマちゃんは確かにあの時、お姫様の力で完全に消滅しちゃったの。でもね、あの時消されたのはカルマちゃんを作り出している魔法で、カルマちゃんを消したわけじゃなかったんだよ」
「…………? どういうこと?」
「……恐らく、『真理の剣』で破壊したのは術式だけで、その魔法によって作り出した彼女そのものを消滅させたわけではなかった、ということ、かと。彼女の存在は魔法そのものではなく、あくまで魔法による結果だから」
首を捻った私に氷室さんが補足した。
『真理の剣』の能力は魔法を打ち消すこと。
カルマちゃんを形成しているはまくらちゃんの魔法だけど、それによって生まれたカルマちゃんという存在は、魔法ではなく一つの心。
魔法を消したことで彼女を象るものが失われて消滅したけれど、彼女の存在そのものが消えて無くなってしまったわけじゃない。そういうこと……?
「そーそーそーゆーこと! 魔法を消されちゃったからカルマちゃんは解けて消えちゃった。その時前のカルマちゃんは確かに消えちゃったの。今のカルマちゃんは新しくまくらちゃんに願われて生まれた新しいカルマちゃん! だから前とは別物なんだよーん」
「そ、そうなんだ…………?」
とりあえず頷いてはみたけれど、なかなかうまく納得できない。
つまり、私たちはカルマちゃんという存在を消し去ったわけではなかったから、新しく彼女を象る魔法をまくらちゃんが使えば復活させることができるって、そういうこと……?
でもそれって、どういうこと……?
「つまりお前は、『カルマ』っつー雛形に沿って造られた、前とは違うお前ってことか。姿形、性格は同じでも、根本の部分では違う。そういうことか」
「まぁそんな感じかなぁ~。あんまり難しいことはわからないけどねん」
難しい顔をしながら言ったカノンさんの言葉に、カルマちゃんはへの字口で答えた。
色々とペラペラ喋っていたカルマちゃんだけれど、具体的なことまでは理解していないのかもしれない。
でも、今のカノンさんの言い方で何となくわかってきた気がした。
前のカルマちゃんは魔法の消滅と共に完全に消えてしまった。
けれどカルマちゃんという存在の設計図────カノンさんは雛形と言っていたけれど────は残っていて、それを使って同じように瓜二つなものを作った。そんな感じなんだ。
同じ設計図を使って同じものを作ったとして、規格やスペックが同じでも、それは同一個体とは言えない。
全く同じ外見、性能を持つだけで別物だ。
元々カルマちゃんはまくらちゃんの夢の中で生まれた友達だから、その存在が消滅した後もまくらちゃんの心の中には形が残っていたんだ。
どうしてまた作り出したのかはひとまず置いておくとして、それを元に作り出されたからこそ、また『カルマちゃん』という形で生み出されたってことかもしれない。
「……まぁ、なんとなく、なんとなーくわかったよ。とりあえずカルマちゃんはあの時の、前のカルマちゃんとは別人なんだね?」
「そうですそうです! 存在も心も全く新しく生まれ変わったカルマちゃんバージョンツーってとこだね! いやぁ~人気者は困っちゃうねぇ~」
にこやかにピースするカルマちゃん。
以前消されたことに対する恨み辛みが特になさそうなのは、前のカルマちゃんが飽くまで別人だからなのかな。
それともカルマちゃんも納得していて、それで良かったと思っているのか。
あるいは、何にも考えてないだけなのか。
どれが正解なのかは……考えないようにしよう。
でも前のカルマちゃんとは全くの別人ということだと、当然の疑問が浮かんでくる。
「あれ、でもそうするとさ。どうしてカルマちゃんは以前のこと覚えている感じなの? 存在も心も一新された別人なら、記憶もないんじゃないの?」
「流石お姫様! おっしゃるとーりなのです! 今のカルマちゃん的には前のことはさっぱり知らないんだけどね。ただ、この頭、この身体には前のカルマちゃんの時の記憶が残ってたからね、今のカルマちゃんがカルマちゃんとしてババンと登場した時に引き継いだって寸法なのさ!」
「そ、そうなんだ……」
聞いておいてなんだけれど、その理屈について私には深く理解できなくて、なんとなくの頷きになってしまった。
「記憶ってのは心と身体、両方に残るものだからねーん。一新されたニューカルマちゃんでも、この身体に残ってる記憶を見れば自分のことのように思い出しちゃうってわけ!」
「べ、便利なんだね……」
難しい。理屈が難しくて頭から煙が出そうだよ。
心が何も知らないまっさらな状態でも、記憶を持ってる身体に宿ることで、その記憶を自分のもののように思い返すことができる、ってことかな。
ゲーム機に入っているソフトを別の同じ物に変えても、セーブデータが同じならそのまま同じ様に遊べる。
イメージとしてはそんな感じなのかな。
頭を悩ませている私に、カノンさんが苦笑いを向けてきた。
わけわかんないだろ? と視線が語りかけてきて、私は口を曲げて頷いた。
カルマちゃんが復活した理屈について、あんまり深く理解しようとすると熱が出そうだ。
とにかく前と違って、敵ではないカルマちゃんになったってことだけ納得しておこう。
敵ではなくなった新しい彼女だけど、記憶はあるから初めましてではない、都合のいい存在なんだと。
あぁ、頭が痛くなってきたよ。
「もぅ~仕方ないなぁ。お姫様がそこまで言うのなら、もう少し噛み砕いて説明してあげるのもやぶさかではないカルマちゃんなのだ!」
不遜な態度に若干の苛立ちを覚えつつも、私は穏やかに尋ねることにした。
けれどそれは裏目に出たようで、カルマちゃんの増長を煽る結果になってしまった。
ドヤ顔で胸を張るカルマちゃんは、あまりにもバカっぽくて余計にイラっとする。
そんなバカっぽいドヤ顔で仕方ないなぁとマウントを取ってくるものだから、私はともかくカノンさんの苛立ちは目に見えて高まっていた。
「いいから、ちゃっちゃと話せ」
それでも理性で感情を押し殺して、何とか怒声にならない声色で催促するカノンさん。
辛うじて叫んではいないけれど、それでもその語気には苛立ちを含む濁ったものがあった。
「カルマちゃんは確かにあの時、お姫様の力で完全に消滅しちゃったの。でもね、あの時消されたのはカルマちゃんを作り出している魔法で、カルマちゃんを消したわけじゃなかったんだよ」
「…………? どういうこと?」
「……恐らく、『真理の剣』で破壊したのは術式だけで、その魔法によって作り出した彼女そのものを消滅させたわけではなかった、ということ、かと。彼女の存在は魔法そのものではなく、あくまで魔法による結果だから」
首を捻った私に氷室さんが補足した。
『真理の剣』の能力は魔法を打ち消すこと。
カルマちゃんを形成しているはまくらちゃんの魔法だけど、それによって生まれたカルマちゃんという存在は、魔法ではなく一つの心。
魔法を消したことで彼女を象るものが失われて消滅したけれど、彼女の存在そのものが消えて無くなってしまったわけじゃない。そういうこと……?
「そーそーそーゆーこと! 魔法を消されちゃったからカルマちゃんは解けて消えちゃった。その時前のカルマちゃんは確かに消えちゃったの。今のカルマちゃんは新しくまくらちゃんに願われて生まれた新しいカルマちゃん! だから前とは別物なんだよーん」
「そ、そうなんだ…………?」
とりあえず頷いてはみたけれど、なかなかうまく納得できない。
つまり、私たちはカルマちゃんという存在を消し去ったわけではなかったから、新しく彼女を象る魔法をまくらちゃんが使えば復活させることができるって、そういうこと……?
でもそれって、どういうこと……?
「つまりお前は、『カルマ』っつー雛形に沿って造られた、前とは違うお前ってことか。姿形、性格は同じでも、根本の部分では違う。そういうことか」
「まぁそんな感じかなぁ~。あんまり難しいことはわからないけどねん」
難しい顔をしながら言ったカノンさんの言葉に、カルマちゃんはへの字口で答えた。
色々とペラペラ喋っていたカルマちゃんだけれど、具体的なことまでは理解していないのかもしれない。
でも、今のカノンさんの言い方で何となくわかってきた気がした。
前のカルマちゃんは魔法の消滅と共に完全に消えてしまった。
けれどカルマちゃんという存在の設計図────カノンさんは雛形と言っていたけれど────は残っていて、それを使って同じように瓜二つなものを作った。そんな感じなんだ。
同じ設計図を使って同じものを作ったとして、規格やスペックが同じでも、それは同一個体とは言えない。
全く同じ外見、性能を持つだけで別物だ。
元々カルマちゃんはまくらちゃんの夢の中で生まれた友達だから、その存在が消滅した後もまくらちゃんの心の中には形が残っていたんだ。
どうしてまた作り出したのかはひとまず置いておくとして、それを元に作り出されたからこそ、また『カルマちゃん』という形で生み出されたってことかもしれない。
「……まぁ、なんとなく、なんとなーくわかったよ。とりあえずカルマちゃんはあの時の、前のカルマちゃんとは別人なんだね?」
「そうですそうです! 存在も心も全く新しく生まれ変わったカルマちゃんバージョンツーってとこだね! いやぁ~人気者は困っちゃうねぇ~」
にこやかにピースするカルマちゃん。
以前消されたことに対する恨み辛みが特になさそうなのは、前のカルマちゃんが飽くまで別人だからなのかな。
それともカルマちゃんも納得していて、それで良かったと思っているのか。
あるいは、何にも考えてないだけなのか。
どれが正解なのかは……考えないようにしよう。
でも前のカルマちゃんとは全くの別人ということだと、当然の疑問が浮かんでくる。
「あれ、でもそうするとさ。どうしてカルマちゃんは以前のこと覚えている感じなの? 存在も心も一新された別人なら、記憶もないんじゃないの?」
「流石お姫様! おっしゃるとーりなのです! 今のカルマちゃん的には前のことはさっぱり知らないんだけどね。ただ、この頭、この身体には前のカルマちゃんの時の記憶が残ってたからね、今のカルマちゃんがカルマちゃんとしてババンと登場した時に引き継いだって寸法なのさ!」
「そ、そうなんだ……」
聞いておいてなんだけれど、その理屈について私には深く理解できなくて、なんとなくの頷きになってしまった。
「記憶ってのは心と身体、両方に残るものだからねーん。一新されたニューカルマちゃんでも、この身体に残ってる記憶を見れば自分のことのように思い出しちゃうってわけ!」
「べ、便利なんだね……」
難しい。理屈が難しくて頭から煙が出そうだよ。
心が何も知らないまっさらな状態でも、記憶を持ってる身体に宿ることで、その記憶を自分のもののように思い返すことができる、ってことかな。
ゲーム機に入っているソフトを別の同じ物に変えても、セーブデータが同じならそのまま同じ様に遊べる。
イメージとしてはそんな感じなのかな。
頭を悩ませている私に、カノンさんが苦笑いを向けてきた。
わけわかんないだろ? と視線が語りかけてきて、私は口を曲げて頷いた。
カルマちゃんが復活した理屈について、あんまり深く理解しようとすると熱が出そうだ。
とにかく前と違って、敵ではないカルマちゃんになったってことだけ納得しておこう。
敵ではなくなった新しい彼女だけど、記憶はあるから初めましてではない、都合のいい存在なんだと。
あぁ、頭が痛くなってきたよ。
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